4 / 100
大鳥家の人々、その2、赤い眼
しおりを挟む
使用人達によって運ばれてきたのは和食の御膳だったが、大根おろしの乗った一口ハンバーグなどもあるので純粋な和食と呼ぶには微妙だった。
「では、いただこう」
との颯太の言葉で全員が食事を始めた。
いただきます、と手を合わせた大也の他は子供の紀伊路と奏子だけだった。
「よろしくね、手塚の御曹司?」
「よろしくお願いします、美鳥さん。手塚です」
大也がそう挨拶しながらハンバーグを箸でつまんで口に含んで食べた10秒後、
「ゴフッ」
と咳き込んだ。
大也の視界が暗くなる。
毒だ。
大也がそう悟った時には意識が飛んだ。
大也が体重を背凭れに預けて顔だけを伏せる中、颯太が、
「大也君?」
異変に気付いて、声を掛けると、
「グオオオ・・・」
大也が大袈裟に苦しみ始めた。
声を出した大也が顔を上げて苦悶の表情を作るが、その左眼は光の反射の加減で赤く見える時があった。
その眼を見た瞬間に颯太が、
「っ! 誰だ、こんな馬鹿な事をしおったのは・・・ってか、違うっ! ワシじゃないぞ、本当だからな、大也君っ!」
露骨に慌てる中、端を右手で持った大也が、
「グオオオ」
苦しみながら左の手の平を上に向けてテーブルの上に置くと、黒い靄が手の中に現れて、それが小さな矢を形作ると、ヒュンッと矢が飛んだ。
飛んだ矢が刺さったのは美鳥である。それも命中箇所は心臓部分だった。
直後に、
「ギャアアアアアアア」
悲鳴を上げて美鳥は椅子から転げ落ちて苦しみ始めた。
猛毒で矢が刺さった左胸を中心に全身が紫色に染まる。ただ紫色に肌が変色するのではなく、紫色の呪紋が蔦のように全身に広がっていた。
食堂に居た使用人が床で転がる美鳥に駆け寄り、
「そんな――これは呪詛毒・紫百合、それも橘です」
診断した。
食堂内は大騒ぎで、席から大鳥颯太と大鳳宗次が立つ中、先程まで苦しんでいた大也はと言えば、先程の苦しみが嘘かのように涼しい顔をして、
「あぁ~、苦しかった」
そう呟いていた。
だが、まだ左眼は赤く見える時があった。
そして食事を再開し、
「今度はこのエビフライを」
立派なエビフライを箸で摘まみ、颯太が、
「待った、大也君。すぐに新しいのをーー」
止めようとしたが、大也はその声を無視して一口食べ、
「グオオオオオオオ・・・」
また苦しみ始めた。
その3秒後には、また左の手の平に黒い靄が出て来て、小さな矢となってヒュンッと発射される。
次にその矢が命中したのは自己紹介もまだの颯太の次男の大鳥武流雨だった。
武流雨は黒髪で健康な大学生で、容姿も美麗で優れていた。
実は凄腕の忍者でもあったので腕時計で受けようとしたが、矢の速度が速く受け損ねて左手の甲で受けてしまい、
「グギャアアアアアアアア」
今度は武流雨が椅子から転げ落ちて苦しんだ。
矢を受けた箇所に黒色の呪紋が広がり、全身に広がり始める。
食堂に居た他の使用人が武流雨に駆け寄る。
「こちらは呪詛毒・黒三日月、葵です」
対照的に大也はまた苦しんでたのが嘘のように涼しい顔となり、
「あぁ~、苦しかった。今度はこの味噌汁を・・・」
手を伸ばそうとした時、ようやく使用人が、
「不手際があったようです。新しいのとお取り替えしますね」
大地のテーブルの前に並んだ総ての料理を3人掛かりで回収したのだった。
「何だ、つまらないの。後2人くらい黒幕が居たっぽいのに」
大也がそう言って右手で持つ箸で紀伊路と奏子を差す中、
「二度とこのような馬鹿な真似はさせんから許してくれ」
「まあ、いいけど」
「時にこの2人の呪紋だが・・・」
「7年」
大也が厳格に言い放ち、颯太が、
「そこをーーいや、甘受しよう。大也君に毒を盛った罰だ」
「そっちの無傷の2人の処罰は?」
先程、箸で差した2人を見ながら大也が問うと、
「本邸に7年間、足を踏み入れさせぬ事をワシの名において誓おう」
「つまり、その約束を違えたら『こちらで好きにしてもいい』と?」
「無論だ。冠婚葬祭、総ての本邸の行事に顔は出させん」
こうして大鳥家の顔見世は順調に進んだのだった。
「では、いただこう」
との颯太の言葉で全員が食事を始めた。
いただきます、と手を合わせた大也の他は子供の紀伊路と奏子だけだった。
「よろしくね、手塚の御曹司?」
「よろしくお願いします、美鳥さん。手塚です」
大也がそう挨拶しながらハンバーグを箸でつまんで口に含んで食べた10秒後、
「ゴフッ」
と咳き込んだ。
大也の視界が暗くなる。
毒だ。
大也がそう悟った時には意識が飛んだ。
大也が体重を背凭れに預けて顔だけを伏せる中、颯太が、
「大也君?」
異変に気付いて、声を掛けると、
「グオオオ・・・」
大也が大袈裟に苦しみ始めた。
声を出した大也が顔を上げて苦悶の表情を作るが、その左眼は光の反射の加減で赤く見える時があった。
その眼を見た瞬間に颯太が、
「っ! 誰だ、こんな馬鹿な事をしおったのは・・・ってか、違うっ! ワシじゃないぞ、本当だからな、大也君っ!」
露骨に慌てる中、端を右手で持った大也が、
「グオオオ」
苦しみながら左の手の平を上に向けてテーブルの上に置くと、黒い靄が手の中に現れて、それが小さな矢を形作ると、ヒュンッと矢が飛んだ。
飛んだ矢が刺さったのは美鳥である。それも命中箇所は心臓部分だった。
直後に、
「ギャアアアアアアア」
悲鳴を上げて美鳥は椅子から転げ落ちて苦しみ始めた。
猛毒で矢が刺さった左胸を中心に全身が紫色に染まる。ただ紫色に肌が変色するのではなく、紫色の呪紋が蔦のように全身に広がっていた。
食堂に居た使用人が床で転がる美鳥に駆け寄り、
「そんな――これは呪詛毒・紫百合、それも橘です」
診断した。
食堂内は大騒ぎで、席から大鳥颯太と大鳳宗次が立つ中、先程まで苦しんでいた大也はと言えば、先程の苦しみが嘘かのように涼しい顔をして、
「あぁ~、苦しかった」
そう呟いていた。
だが、まだ左眼は赤く見える時があった。
そして食事を再開し、
「今度はこのエビフライを」
立派なエビフライを箸で摘まみ、颯太が、
「待った、大也君。すぐに新しいのをーー」
止めようとしたが、大也はその声を無視して一口食べ、
「グオオオオオオオ・・・」
また苦しみ始めた。
その3秒後には、また左の手の平に黒い靄が出て来て、小さな矢となってヒュンッと発射される。
次にその矢が命中したのは自己紹介もまだの颯太の次男の大鳥武流雨だった。
武流雨は黒髪で健康な大学生で、容姿も美麗で優れていた。
実は凄腕の忍者でもあったので腕時計で受けようとしたが、矢の速度が速く受け損ねて左手の甲で受けてしまい、
「グギャアアアアアアアア」
今度は武流雨が椅子から転げ落ちて苦しんだ。
矢を受けた箇所に黒色の呪紋が広がり、全身に広がり始める。
食堂に居た他の使用人が武流雨に駆け寄る。
「こちらは呪詛毒・黒三日月、葵です」
対照的に大也はまた苦しんでたのが嘘のように涼しい顔となり、
「あぁ~、苦しかった。今度はこの味噌汁を・・・」
手を伸ばそうとした時、ようやく使用人が、
「不手際があったようです。新しいのとお取り替えしますね」
大地のテーブルの前に並んだ総ての料理を3人掛かりで回収したのだった。
「何だ、つまらないの。後2人くらい黒幕が居たっぽいのに」
大也がそう言って右手で持つ箸で紀伊路と奏子を差す中、
「二度とこのような馬鹿な真似はさせんから許してくれ」
「まあ、いいけど」
「時にこの2人の呪紋だが・・・」
「7年」
大也が厳格に言い放ち、颯太が、
「そこをーーいや、甘受しよう。大也君に毒を盛った罰だ」
「そっちの無傷の2人の処罰は?」
先程、箸で差した2人を見ながら大也が問うと、
「本邸に7年間、足を踏み入れさせぬ事をワシの名において誓おう」
「つまり、その約束を違えたら『こちらで好きにしてもいい』と?」
「無論だ。冠婚葬祭、総ての本邸の行事に顔は出させん」
こうして大鳥家の顔見世は順調に進んだのだった。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。


公主の嫁入り
マチバリ
キャラ文芸
宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。
17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。
中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。

あやかし坂のお届けものやさん
石河 翠
キャラ文芸
会社の人事異動により、実家のある地元へ転勤が決まった主人公。
実家から通えば家賃補助は必要ないだろうと言われたが、今さら実家暮らしは無理。仕方なく、かつて祖母が住んでいた空き家に住むことに。
ところがその空き家に住むには、「お届けものやさん」をすることに同意しなくてはならないらしい。
坂の町だからこその助け合いかと思った主人公は、何も考えずに承諾するが、お願いされるお届けものとやらはどうにも変わったものばかり。
時々道ですれ違う、宅配便のお兄さんもちょっと変わっていて……。
坂の上の町で繰り広げられる少し不思議な恋物語。
表紙画像は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID28425604)をお借りしています。
エリア51戦線~リカバリー~
島田つき
キャラ文芸
今時のギャル(?)佐藤と、奇妙な特撮オタク鈴木。彼らの日常に迫る異変。本当にあった都市伝説――被害にあう友達――その正体は。
漫画で投稿している「エリア51戦線」の小説版です。
自サイトのものを改稿し、漫画準拠の設定にしてあります。
漫画でまだ投稿していない部分のストーリーが出てくるので、ネタバレ注意です。
また、微妙に漫画版とは流れや台詞が違ったり、心理が掘り下げられていたりするので、これはこれで楽しめる内容となっているかと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる