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大鳥家の人々、その2、赤い眼

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 使用人達によって運ばれてきたのは和食の御膳だったが、大根おろしの乗った一口ハンバーグなどもあるので純粋な和食と呼ぶには微妙だった。

「では、いただこう」

 との颯太の言葉で全員が食事を始めた。

 いただきます、と手を合わせた大也の他は子供の紀伊路と奏子だけだった。

「よろしくね、手塚の御曹司?」

「よろしくお願いします、美鳥さん。手塚です」

 大也がそう挨拶しながらハンバーグを箸でつまんで口に含んで食べた10秒後、

「ゴフッ」

 と咳き込んだ。

 大也の視界が暗くなる。

 毒だ。

 大也がそう悟った時には意識が飛んだ。





 大也が体重を背凭れに預けて顔だけを伏せる中、颯太が、

「大也君?」

 異変に気付いて、声を掛けると、

「グオオオ・・・」

 大也が大袈裟に苦しみ始めた。

 声を出した大也が顔を上げて苦悶の表情を作るが、その左眼は光の反射の加減で赤く見える時があった。

 その眼を見た瞬間に颯太が、

「っ! 誰だ、こんな馬鹿な事をしおったのは・・・ってか、違うっ! ワシじゃないぞ、本当だからな、大也君っ!」

 露骨に慌てる中、端を右手で持った大也が、

「グオオオ」

 苦しみながら左の手の平を上に向けてテーブルの上に置くと、黒い靄が手の中に現れて、それが小さな矢を形作ると、ヒュンッと矢が飛んだ。

 飛んだ矢が刺さったのは美鳥である。それも命中箇所は心臓部分だった。

 直後に、

「ギャアアアアアアア」

 悲鳴を上げて美鳥は椅子から転げ落ちて苦しみ始めた。

 猛毒で矢が刺さった左胸を中心に全身が紫色に染まる。ただ紫色に肌が変色するのではなく、紫色の呪紋が蔦のように全身に広がっていた。

 食堂に居た使用人が床で転がる美鳥に駆け寄り、

「そんな――これは呪詛毒・紫百合、それも橘です」

 診断した。

 食堂内は大騒ぎで、席から大鳥颯太と大鳳宗次が立つ中、先程まで苦しんでいた大也はと言えば、先程の苦しみが嘘かのように涼しい顔をして、

「あぁ~、苦しかった」

 そう呟いていた。

 だが、まだ左眼は赤く見える時があった。

 そして食事を再開し、

「今度はこのエビフライを」

 立派なエビフライを箸で摘まみ、颯太が、

「待った、大也君。すぐに新しいのをーー」

 止めようとしたが、大也はその声を無視して一口食べ、

「グオオオオオオオ・・・」

 また苦しみ始めた。

 その3秒後には、また左の手の平に黒い靄が出て来て、小さな矢となってヒュンッと発射される。

 次にその矢が命中したのは自己紹介もまだの颯太の次男の大鳥武流雨ぶるうだった。

 武流雨は黒髪で健康な大学生で、容姿も美麗で優れていた。

 実は凄腕の忍者でもあったので腕時計で受けようとしたが、矢の速度が速く受け損ねて左手の甲で受けてしまい、

「グギャアアアアアアアア」

 今度は武流雨が椅子から転げ落ちて苦しんだ。

 矢を受けた箇所に黒色の呪紋が広がり、全身に広がり始める。

 食堂に居た他の使用人が武流雨に駆け寄る。

「こちらは呪詛毒・黒三日月、葵です」

 対照的に大也はまた苦しんでたのが嘘のように涼しい顔となり、

「あぁ~、苦しかった。今度はこの味噌汁を・・・」

 手を伸ばそうとした時、ようやく使用人が、

「不手際があったようです。新しいのとお取り替えしますね」

 大地のテーブルの前に並んだ総ての料理を3人掛かりで回収したのだった。

「何だ、つまらないの。後2人くらい黒幕が居たっぽいのに」

 大也がそう言って右手で持つ箸で紀伊路と奏子を差す中、

「二度とこのような馬鹿な真似はさせんから許してくれ」

「まあ、いいけど」

「時にこの2人の呪紋だが・・・」

「7年」

 大也が厳格に言い放ち、颯太が、

「そこをーーいや、甘受しよう。大也君に毒を盛った罰だ」

「そっちの無傷の2人の処罰は?」

 先程、箸で差した2人を見ながら大也が問うと、

「本邸に7年間、足を踏み入れさせぬ事をワシの名において誓おう」

「つまり、その約束をたがえたら『こちらで好きにしてもいい』と?」

「無論だ。冠婚葬祭、総ての本邸の行事に顔は出させん」

 こうして大鳥家の顔見世は順調に進んだのだった。
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