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マリンピーチの小間使い

事の始まり【アテニナside】

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 昼休みの食堂で、私はお姉さまがマリンピーチに『あーん』してるのを、お姉さまの席だけが空席のいつものテーブルから眺めながら、

「イザベラ、アナタ、生徒会長でしょ? 何とかしなさいよ、あれっ!」

「出来ないよ。パリナさまが決めた事なんだから」

「ああ、もうっ! 潔癖過ぎよ、あのパリナさまは。まあ、そりゃ、確かに、私があのマリンピーチの立場なら、絶対に浮気相手は許さないけど」

 私はそう言いながらランチのサラダにフォークを突き差したのだった。





 ◇





 事の始まりは前日の週末の休日だったわ。

 その日もお姉さまと休日訓練で(本当は貴族のお茶会の予定があったけど、身の程知らずのソラーサがお姉さまの訓練に新たに加わってて、牽制の意味も込めて私も参加してて)・・・

 ランチ前に、お姉さまのお姉さまのパリナ(心の中でまで「さま」付けは無料よ。だって最大のライバルなんだから)がやってきた。

 都内校交流戦で優勝したお姉さまを祝う為に。

 そして、実はこの日が私がパリナと出会った初めての日だった。

 5月中旬で初対面なのは、ミリアリリー女学園を卒業したパリナがお姉さまの周りをウロチョロしてなかったという証明だけど、私も緊張したわ。

 だって、4月に騎士団長宅に乗り込んで、私がお姉さまに『妹にして』と頼んだ時、お姉さまが了承した後、お父様とお兄様が同席してる場でお姉さまに言われた事が1つだけあったから。





「そうだ。アテニナ、アナタを妹にするけどお姉さまがダメだって言ったら妹にしないからね」





 (あの時はまだ言葉遣いがなってなくて)私が、

「何、それ?」

「アテニナが私の事を好きなように私もお姉さまの事が好きだから」

「私、別にアナタの事なんか好きじゃないけど」

 と訂正したら、お姉さまが、

「アナタじゃなくてお姉さまでしょ? ほら、言ってみなさい」

 強要されて、照れながら、

「お姉さま」

 と言ったら、心地良かったわ、その言葉の響きは。

 心が満たされて。

「後、お姉さまに何かしたら私、何をするか分からないからね。【魔眼】も当然なしよ、全員ね」

 お姉さまが私やお父様達に釘を刺す中、

「好きなの?」

「そりゃね」

「私とどっちが?」

「妹と姉は比べる物じゃないでしょ」

 とかお姉さまは誤魔化してたけど・・・・・・





 あの時点ではパリナの方が好きよね、やっぱり。

 こっちはあの日が、お姉さまと初めて喋った日なんだから。





 なんて会話があったから、私も柄にもなく初対面のパリナに緊張して・・・

 ちゃんとパリナに2人目の妹と認めて貰って・・・・・・

 そっちの話はいいのよ。

 上手くやったから。

 問題はランチの時の会話よ。

 もうすぐリリーデーのお返しデーなのでその話題になって、パリナのその日のスケジュールを質問した後にお姉さまが、





「そう言えばムーンローズさまもお返しデーの日にはご自宅にいらっしゃるんですか?」





 そう質問してからおかしくなったわ。

 パリナが、

「どうしてムーンローズさんの名前が出てくるの?」

「だって、貰いましたから、リリーデーで白百合のお菓子」

「まさか。ああ、誰かの悪戯ね、きっと。ムーンローズさんの名前でアナタにお菓子を届けたんでしょ」

「いえ、ご本人から直接手渡されましたので」

 と言った時にはパリナさまの表情が真剣その物になって、ランチ後にパリナが帰っていって『ようやく邪魔者がいなくなったわ』と思ったら、30分後には怒った様子でパリナが戻ってきて、

「エニス、すぐに来なさい。話したい事があるからっ!」

 それで連れて行かれて、お姉さまとの訓練は、

「ああ、それと今日はもう解散、いいわねっ!」

 とパリナの一言で無くなったわ。

 凄い、お姉さまに言う事を聞かせるなんて、このパリナって。

 と正直思ったけど。





 翌朝の今日の登校時間前にクワナリス侯爵家の方からお断りの連絡が来て・・・

 私がミリアリリー女学園に登校したら、お姉さまがマリンピーチと腕を組んで一緒に登校してて大騒ぎ。

 情報はミリアリリー女学園に既に飛び交って、その原因は・・・・・・





 あのマリンピーチの姉が浮気してお姉さまにリリーデーに白百合を模したお菓子をプレゼントしたから。





 だった。





 ◇





 そして昼休みの食堂では現在「あれ」が繰り広げられてる訳よ。

「何とかしてよ、イザベラ。お姉さま、取られちゃうわよ、あのマリンピーチに。『あ~ん』なんてイザベラもされた事ないでしょ?」

「ええっと・・・」

「えっ、あるの? 『あ~ん』された事?」

「・・・妹だからね」

 イザベラが照れてて、私はムカッとしたけど、その追及は今度よ。

「私はまだよ。なのに、他人が、友達ってだけで。ともかくあれを何とかして」

「でも、パリナさまがお決めになった事だから・・・」

 イザベラはダメだわ。お姉さまのお姉さまのパリナに逆らえないから。

 私は卑猥な眼鏡女に視線を向けて、

「ラライア、何とかして」

「ミリアリリー女学園内では言葉遣いをちゃんとしなさい、アテニナ。姉のエニスさまが恥を掻くんだから」

 分かってるわよ、一々指摘されなくても。

「分かったから、ラライアさま。何か手を・・・」

「ええ。エニスさまがマリンピーチさまに許される為にやってる事は分かってるけど、あれは少し問題ね。リリーデーの取り決めを生徒会からミリアリリー女学園側に提出する必要はあるかも。今回のこれもパリナさまが気付いて動かなかったらエニスさまとマリンピーチさまが揉めて大変な事になっていたから。そういう訳でマルチールさま、コリーユさま、協力して下さい」

「もちろん」

「いいわよ」

 こうして卑猥な眼鏡女主導で生徒会が動いてくれたわ。
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