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マリンピーチの小間使い

あ〜ん【マリンピーチside】

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 休日明けの登校日、私はミリアリリー女学園に登校した。

 レコリーズ伯爵家の狼車でエニスさんと一緒に。

 そんな訳で狼車から私とエニスさんが出てくれば、キャア、と黄色い悲鳴が上がり、エニスさんが調子に乗って私に腕を組んだので、更に、キャア、と悲鳴が上がった。

 私が腕を組むエニスさんに視線を向けながら、

「ちょっと、エニスさん?」

「どうせ、バレるんだからいいじゃないの。嫌なら許してよ、それで万事解決なんだから」

「簡単にエニスさんを許したら、許した私がパリナさまに怒られるじゃないの」

「・・・言えてる。お姉さまは変なところで潔癖だから。意外と大変かもね。今回のこれって」

 エニスさんはどこか楽しそうだった。

 まあ、私もだけど・・・・・・

 私はエニスさんと腕を組みながら歩こうと視線をミリアリリー女学園側に向けたら、視界に新聞部の部長のシノーラさんと部員数名が眼を輝かせて、こっちを見ていた。

 前言撤回。こりゃ、大変だわ。

 と私が背筋を正す中、当然、シノーラさん達が私達に寄ってきて、

「エニスさん、これも都内校交流戦で優勝した代表選手への御褒美なの?」

「いいえ、違うわ、シノーラさん。記事にしないと約束するなら全部話すけど」

「記事にしちゃダメなの?」

「ええ、意外にデリケートな問題でね。私は全然そうは思わないんだけど。こればかりは性格によるわね」

 確かに。

「約束するわ、記事にしないって。だから何があったのか教えて」

 とシノーラさんが約束して、エニスさんが私に、

「いいわよね」

「ええ」

 確認された私も了承して、私達は新聞部に事情を話した。





 エニスさんと3年生の自分のクラスまで腕を組んで通学して別れた後・・・

 クラスメイトから質問攻めに合い・・・・・・

 話を聞き付けたのだろう。遂には私の妹で次期風紀委員長のヨリーシア・タルムが朝のホームルーム前に3年生の私のクラスにまでやってきて、

「お姉さま、妙な話を耳にしたのですが・・・」

 ヨリーシアは長い赤毛の巻き毛で、赤眼の凛々しい系の2年生だ。

 来年には立派な風紀委員長になってる事でしょう。

 ああ、風紀委員なのだから当然、ズボンよ。

「エニスさんと腕を組んで通学したという話なら本当よ」

「どうしてですか?」

「私のお姉さまの名誉に関わる事なので言えないんだけど、例え話で説明すると、リリーデーでアナタが姉の私にお菓子を贈ったのに、姉の私はアナタには贈らず、それなのに陰でこっそりと私がシュガーナにお菓子を贈ってたのが妹のアナタにバレてシュガーナがアナタに許して貰おうと頑張ってる、みたいなものかしらね?」

 例え話にしたのはお姉さまの不義を吹聴しない為だけど。

「・・・つまり、ご卒業されたお姉さまのお姉さまのムーンローズさまがエニスさまにリリーデーにお菓子を贈ったと? まさか、ありえません。ムーンローズさまはエニスさまの事を嫌って・・・えっ、好きの裏返しだったんですか、あれって?」

 バレバレだった。

「助けられたからと言ってたけど、どうだかね」

「ですが、リリーデーに贈ったという事は・・・」

「ええ。パリナさまが誰よりも早く気付いて手を打たれてこうなったわ」

「・・・こうとは?」

「我がレコリーズ伯爵家で許してメイド奉公」

「誰がですか?」

「エニスさん」

 私がニヤけてしまったのか、ヨリーシアが、

「何かいい事があったんですか、もう?」

「起床をエニスさんに起こされたからね」

「・・・ええっと、妹の私も大切にして下さいね」

「してるじゃないの。大切に」

 心配するヨリーシアの頬を私は撫でたのだった。





 昼休み。

 普段、エニスさんは食堂の奥で友人達と陣取ってるのだけど、

「はい、マリンピーチさん、あ~ん」

 今日は私の隣の席に座ってて、フォークで刺した一口サイズのステーキ肉を私の口元に勧めてきたわ。

 食堂の全員が私達を見てるのに。

「食べないわよ、さすがにっ!」

「・・・・・・仲いいんですね?」

 普段は友達とお昼を食べてる癖に、今日は何故か正面に陣取ってる妹のヨリーシアがジト眼で私とエニスさんを見る中、

「当然でしょ。私はマリンピーチさんの事を隅々まで全部を知ってるんだから」

「こら、エニスさん。変な事を言って私の妹を心配させないでちょうだい」

 私はそう気を使う破目になった。
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