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1564年、犬山城落城
堺へ
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【斎藤龍興死亡の講談を広められた説、採用】
【稲葉良通、龍興死亡の講談を聞いて謹慎命令を無視して稲葉山城の城下にやってきた説、採用】
【進士藤延、織田の京工作の煽りで斎藤龍興の確認の為に美濃に派遣説、採用】
【池田恒興、信長から100挺の鉄砲受け取りの為に堺に向かわされた説、採用】
【菅屋長頼、恒興のお目付け役で一緒に堺に同行した説、採用】
【池田恒興、注文した和泉屋に相手にされなかったので飯盛山城へ直訴に向かった説、採用】
【安宅冬康、三好軍の海軍奉行の他に堺支配も代行で兼務していた説、採用】
【松永久秀、安宅冬康排除の為に恒興を利用して三好長慶に遭わせた説、採用】
【池田恒興、鉄砲100挺の引渡の三好の朱印状を入手した説、採用】
それからすぐに各地にて、
「時は永禄七年、父殺しを始め悪逆を極めて成敗された斎藤義龍より美濃を受け継ぎし、若き斎藤龍興もまた悪逆の血を引く息子なのでありました。それを許せぬのが美濃に生まれし、ヤマトタケルノミコトの写し身、竹中重治。『まだ若輩者ゆえ改心するかと思ったが、やはり悪逆の血が受け継がれたか。仕方あるまい』と稲葉山城に乗り込んで『えいや』と正義の天誅を下したのである。これにより美農は悪逆の親子、義龍、龍興から解放されて民達も救われたのでありました~」
このような辻講釈が広がったのだった。
美濃稲葉山城の城下町の陣地では安藤守就と縁続きの関係で謹慎のはずだった稲葉良通が兵を連れて参上し、
「氏家殿、どういう事だ?」
「稲葉殿は謹慎中のはずでは・・・」
氏家直元が、拙い、と思ったが今更どうする事も出来ず、
「殿の命令ならば粛々と従うが、氏家殿の命令に従う謂われはないのでね」
そう言い放つ良通に、
「れっきとした殿の命令ですぞ」
横からそう失言を吐いたのは長井道利である。
「では連れて来て貰おうか、その殿を今すぐに」
「・・・と、殿は今、女のところで・・・」
しどろもどろになる道利を見て、
「本当に竹中に殺されたのか?」
良通が周囲の家老に凄む中、直元が隠すのを諦めて、
「安心せい、稲葉殿。殿はちゃんと生きておる」
「では、どこに――」
「但し、最悪な事になっておるがな」
直元は山頂の稲葉山城に向かって顎をしゃくって事実を通に教えた。
それだけで理解した良通が、
「はあ? まさか、まだ城の中なのか? 捕まった?」
「まあな」
「どうして竹中と交渉をせん」
「出来んのだよ」
「はあ?」
「稲葉殿は稲葉山城で捕縛された安藤がどうなっておったか知っておるか?」
「いいや。血縁関係だから変な疑いを向けられたら堪らんのでな。極力接触は避けておった」
「それが間違いの元よ。まあ、我々もだが」
と溜息をつく直元が、
「安藤の奴は今、拷問されて死に掛けておる」
「はあ? まさか。家督を息子に譲ったとはいえ、元宿老だぞ、安藤殿は?」
「ああ、だからワシも油断した訳だが。もう動かせんくらいの容態だ。それで竹中もすぐに脱出の予定が稲葉山城に立て籠もる破目となり・・・」
「殿は安全の確約の為に稲葉山城内で囚われておる訳か」
「馬鹿らしい限りであろう?」
氏家直元に尋ねられて良通は、まったくだ、と呆れ返りながら稲葉山城を見上げたのだった。
◇
だが、斎藤家中にとって、もっと最悪な事態が起こった。
京の将軍義輝の許から使者がやってきたからである。
使者は進士藤延であった。
何事か、と警戒して稲葉山城の麓屋敷で宿老一同が会見する中、藤延が、
「妙な講談が京でも流布されてな。そこに尾張に亡命中の斎藤利尭、斎藤利治と名乗る兄弟が将軍家に『美濃斎藤家の当主、龍興が竹中に殺されたので斎藤家継承の許可をいただきたい』と訴えてきて、本当に当主の斎藤龍興殿が死んでるのかの確認にやってきた訳だ」
それを聞いた瞬間、全員が、
(尾張の策謀だ)
(戦わずして美濃を乗っ取る気か?)
(影武者を思い付いてて助かった~)
と思いながら、
「無論、生きております」
「どちらに?」
と言われて、
「ここに」
遅ればせながら登場したのが、斎藤龍興の影武者役である氏家行継であった。
行継は氏家直元の三男だ。
年齢は13歳と三つも離れているがこの際、仕方がない。
龍興と同年の16歳の少年が用意出来なかったので。
その辺の16歳の子供では駄目なのだ。
京の使者の前で礼儀作法がなっていなければ問題となる。
それ以上の問題が「秘密を厳守出来るか」だ。
その辺の少年を使えば、後の災いを考えて殺さなければならない。
殺した後に、またその顔が必要となった場合、更に困る。
それで仕方なくこの人選となった。
「申し訳ない。酔い冷ましに風呂に入っておりましたので」
「十六にしては小柄ですな? 先代殿は大柄でしたが・・・」
似てない、と暗に匂わせるが、
「よく母似だと言われます」
「剣ダコですか。噂と違い、修練に励んでるようで」
目敏く藤延が手の剣ダコを指摘すると、
「まだまだ若輩の身でございます。日々、美濃を担える当主になれるようジイ達に鍛えられてるところです」
「噂と大分違うが・・・『将軍家の使者に影武者と会見させて、本人は今も女と遊んでる』なんて事はございませんよな?」
探るように藤延が問うが、この会見の場に居る宿老、氏家直元、稲葉良通、日根野弘就の三人は厳選された人選だったので顔色一つ変えず、
「無論です。私が暗愚との噂は尾張が流した嘘ですので」
行継も影武者に選ばれただけあり、さらりと答えた。
「それが聞ければ結構。では私はこれにて」
「もうお発ちに?」
「一刻も早く京に帰って伝えねばなりませんのでな」
それは嘘である。
現在、宿敵の三好長慶の容態がかなり深刻らしい。
そんな時に美濃の紛争に派遣されたのが進士藤延である。
京に一刻も早く帰りたかった藤延は興味が無かった事もあり、形だけの確認だけで帰っていき、
「ふう」
「危うく美濃を尾張に盗まれるところであったわ」
「使者が無能で助かったな。よく三歳差でバレなかったものだ」
使者との会見をやり過ごした宿老達は冷汗を拭いながら安堵したのだった。
◇
美濃の稲葉山城が竹中重治に乗っ取られて尾張にとっては好機なのだが、池田恒興はと言えば、小牧山城で信長に、
「昨年サルが堺で注文した鉄砲100挺がまだ尾張に届かん。受け取りに堺にまで行ってきてくれ」
「喜んで」
二つ返事で答えていた。
余りの溌剰な返事に信長が怪訝な視線を向けて、
「勝、遊びに堺へ向かわせるのではないぞ」
「無論です、鉄砲100挺を手に入れるまでは絶対に帰ってきません」
「待て。それだと何年も堺に出ずっぱりという可能性も。ふむ、勝だけでは不安だな。誰かを・・・そうだ、九右衛門を呼べ」
そんな訳で、菅屋長頼が呼ばれた。
「御用でしょうか、信長様?」
「昨年サルが堺で注文した鉄砲100挺がまだ尾張に届かん。勝を受け取りに出向かせようと思ったが、一人だとヤラカす可能性がある。九右衛門、おまえも同行せえ。後、余り勝を遊ばせるなよ」
「えっ、無理ですよ、信長様。勝さんの暴走を止めるのはオレでは」
長頼はそう言ったが、信長は鬼上司なので、
「出来んかったら権六への天誅の分も罰を下すからな」
「いえ、あれは本当に我々では・・・」
言い訳をしようとする長頼に、うきうき気分の恒興が、
「九右衛門、おまえはオレを何だと思ってるんだ? オレが堺で破目を外したりする訳がないだろうが」
「そんな遊ぶ気満々の満面の上機嫌で言われてもね~」
こりゃあ、大変だ、と思いながら長頼が、
「移動は舟でしょうか?」
「無論だ。陸路だと先々で勝が問題を起こすに決まってるからな」
そんな訳で、3人程の御供を付けて恒興と長頼は一路、尾張湾から堺の港へと向かったのだった。
通行税をちゃんと払ってたのか、別に海賊に遭う事もなく、
日本最大の商業都市、堺に初めて降り立った恒興の感想は、
「オレ、一生、ここに住む~」
だった。
まるで祭りの真っ最中のように賑やかな町並みで、美女も揃っている。
そして津島には居ない南蛮人。
「おお、噂の南蛮人、初めて見た~」
「勝さん、仕事仕事。まずは和泉屋でしょ」
「いやいや、まずはお土産を買わないと。母上のでしょ、妻のでしょ、妻のでしょ、妻のでしょ、娘のでしょ、妹のでしょーー」
「馬鹿な事言ってないで行くよ。ほら、勝さんを捕まえて」
捕まえ要員の為に連れてきた御供に恒興を捕まえさせて、長頼は堺にある和泉屋仁出向いたのだが、店内にて、
「尾張の織田様に鉄砲100挺ですか~? そんな注文は受けておりませんが?」
「そんなはずはあるまい。サル顔の男が来たはずだ。発注書の控えもこの通り」
恒興が店内をきょろきょろと観察する中、真面目な菅屋長頼が発注書を見せるが、番頭は一瞥しただけで、
「これはウチのではありませんね。騙されたのでは?」
「そんな~。サルの奴、何をやってるんだっ? 信長様から預かった大切な金を騙し取られるなんてっ!」
長頼が騙された秀吉に呆れ果てる中、恒興はその番頭に、
「この辺を統治してるのって三好様だよな? そこの殿様ってどこに住んでるの?」
「飯盛山城ですが」
「なら、そこに相談に行ってみようぜ、九右衛門」
恒興が気軽にそう言い、
「会える訳ないだろ、勝さん」
「なら、鉄砲100挺はどうするんだ? 再注文する金なんて持ってきてないんだから。ほら店にも迷惑だ。行くぞ、九右衛門」
恒興は長頼を店の外へと連れ出したのだった。
「勝さん、本当にその城まで行くのか?」
長頼が抜けた事を質問したので、恒興が気の毒そうに相手を見て、
「九右衛門、おまえ、津島に行った事がないのか?」
「あるけど、それが?」
「津島で田舎者がおまえみたいな目に遭ってたのを見た事がないのか?」
「?」
「あれは店が田舎者を騙して金を巻き上げてるんだよ」
「はあ? じゃあ、この発注書は本物っ? ふざけやがってっ! 織田家をコケにしたらどうなるか店を潰してでも分からせてやるっ!」
「待て、九右衛門っ! これは本物じゃねえんだよっ! 偽物の発注書なんだから。最初から偽物の発注書を渡して店で金を騙し取るそういうカラクリなんだよ」
「はあ? じゃ、じゃあ、泣き寝入りするのか、勝さん?」
「んな訳があるか。その為にここを仕切ってる飯盛山城の三好様に会いに行くんだからさ。後はオレに任せろ。こういうのにはやり方があるんだよ、津島でちゃんと教えて貰ったから大丈夫だって。そんな訳でまずは土産物を買いに行って『和泉屋で騙された』って噂をばら撒くぞっ!」
恒興はそう自信満々に言い放ち、
その後、恒興は堺の店で買い物をする度に、
「和泉屋で鉄砲100艇を注文したのに、注文が通ってないって言われてさ~」
「それは災難でしたね~」
「絶対におかしいって。代金も前払いして発注書もあるのに。誰かが横取りしたんだよ、鉄砲100挺~」
「まさか」
「だから、明日は三好のお殿様に直談判する為に飯盛山城に向かうんだ~」
「1日では無理ですよ。お武家様なら馬を買われた方が早いのでは」
などと吹聴しまくったのだった。
心配になった長頼が、
「勝さん、こんなんで大丈夫なのか?」
「ああ、仕込みは順調さ」
堺土産を買った恒興はそう御機嫌で答えたのだった。
◇
堺の料亭の奥座敷の茶室では、堺支配の安宅冬康が堺の豪商達と茶を楽しんでいた。
「安宅様、尾張の田舎者が和泉屋に鉄砲100艇をカモられて飯盛山城の三好のお殿様まで直訴に行くそうですよ」
「またか。和泉屋にも困ったものだな~」
賄賂を貰ってる冬康が呆れるも黙認し、
「城まで行っても兄に遭える訳もないのに。どうして堺支配の私に訴え出んのだ、その田舎者は? それだから田舎者と言われるのだ」
そう笑ったが、豪商達の方は、
(和泉屋が賄賂を堺支配に払ってる事くらいは分かる訳か)
(だが、三好のお殿様には会えますまい)
と思いつつも、
「まったくですな」
「違いない」
そう追従したのだった。
◇
数日後、飯盛山城の城下町でも似たような事をした池田恒興一行は飯成山城の門前に来ていた。
「堺の和泉屋に鉄砲100艇を注文しましたが、和泉屋に注文など受けていないと言われた件に付き、堺を支配してる三好のお殿様に裁定をしていただきたく」
恒興がそう神妙に訴え出ると、門番が、
「どうぞ、こちらへ」
と奥に案内した。
「さすがは三好家。しっかりしてるな~」
それが長頼の感想で、聞いた恒興は思わずズッコケそうになったが、すぐに気を取り直して別に意識を向けた。
(こりゃあ、面倒臭い事になってきたぞ。昨日のここの城下の旅籠の噂といい・・・まあ、いいや。100挺の鉄砲以外は今回は度外視で行くか)
そう覚悟を決めて訴えに集中する事とした。
奥の部屋に通されたのは代表者の恒興一人だけだった。
残りは控えの部屋で待機だ。
当然、将軍義輝から拝領した刀も玄関で預けてある。
丸腰の中、聞き取り調査が行われたのだが、恒興が語ったのは、
「明らかに店の雰囲気が変でした。あれは和泉屋から鉄砲100挺を横取りした者が居たのを知っていたのでしょう。問題はその件を三好のお殿様が知っているかどうかです。黒幕が三好様の配下の方ならまだいいのですが、もし三好様が知らないところで100挺もの鉄砲が消え、後日、本当に三好のお殿様に銃口が向く事となり、その時になって、その黒幕までが『100挺の鉄砲を取られた我々』などと言われた日には堪ったものではありませんので、本日こうして三好のお殿様に直訴しにやって来させていただきました」
「ふむ。確かに承った」
若い文官がそう答え、
「それで、このまま尾張に帰られるのか?」
そう水を向けられての雑談となったが、
「まさか。鉄砲100挺を都合しない事には主に顔向けが出来ず途方にくれております。今語ったこの情報が実は凄い情報とかで、褒美に三好様の命令で堺の豪商達から鉄砲100挺を集めてくれたら助かるのですが」
「さすがに鉄砲100挺は無理であろう」
「では和泉屋から鉄砲100挺分の代金を奪い返して貰えたりは?」
「出来んな。堺は自治権を持っているからな」
「もしかして、それでですか? 三好のお殿様の御曹司に毒を盛ったとの噂のある和泉屋が野放しなのって?」
「はあ? 今、何と?」
若い文官が凄い顔で驚く中、
「えっ、昨年死んだとかいう三好の若様に毒を盛ったのが和泉屋だという話ですか?」
さも常識のように恒興が言い、
「そう、昨晩泊まった旅籠の女中が話してましたよ。その話、結構有名らしいですが、もしかして知らなかったんですか?」
と言った瞬間、隣の部屋からガチャンッと音がして、
(この若い文官に聞かせる事ではなくて、本命はそちらだったか)
恒興が苦笑する中、隣の部屋へと通じる襖が開いた。
「今の話は本当か、尾張の客人?」
男が出てきた。
殿様風だが病人のように顔色が悪い。
そして、その後に続いて出てきた男が、
(おおっと、蝮が十としたら七の奴が登場か。コイツが黒幕な訳ね)
恒興は総てを理解しながら、素知らぬ顔で、
「どのでしょうか?」
「『三好の若様に毒を盛ったのが和泉屋』という奴だ」
「はい。この城下の旅籠で、さも当然のように女中達が話してました」
「久秀、堺支配の弟がやらせたと思うか?」
「それは・・・」
蝮の七掛けの男が言葉を噤む中、恒興が、
「火のないところに煙など立ちませんよ。そう言えば、堺であのような詐欺紛いな事をやっても店を続けていられるのは、もしかして、その堺支配も御一味という事でしょうか? でも自分の殿様に隠れて鉄砲を集めて何を・・・ま、まさか、謀反?」
下手くそな演技で口添えをすると、蝮の七掛け男が恒興の顔を見て更に悪そうに笑い、殿様風の病人も恒興を見て、
「久秀、鉄砲100挺をその男に褒美として取らせよ。支払いは我が三好で。どの店が持ってる?」
(・・・久秀って、うちの家老と同じ名前かよ)
「天王寺屋ならば確実かと」
「では朱印状の作成をすぐに、花押書くのでな」
そう言って奥に歩いて行くのを恒興は綺麗な土下座で、
「ありがとうございます、三好のお殿様」
礼を言って見送り、
「どうぞ、お待ちを」
「ええ」
蝮の七掛け男が嘘臭いくらいに礼儀正しく言ったので、恒興も愛想良く返事をしたが、
待たされた後、
「どうぞ、こちらを」
久秀と呼ばれた蝮の七掛け男がそう言って朱印状を渡してきたので、
「では、遠慮なく」
恒興は久秀の着物の懐に手を突っ込んで本物の朱印状を出した。
「これこれ。これさえあれば・・・」
一方の偽物の朱印状を掴まなかった恒興を見直した久秀が、
「どうして偽物の確認もせずに本物が懐の中だと?」
「オレでも同じ事をしてましたので~」
「名前をまだ伺っておりませんでしたが」
「ただの鉄砲詐欺にあった尾張の田舎者ですよ。名乗りは次に遭った時にでも」
「では、そのように」
久秀が嘘臭い礼儀正しさで頭を下げる中、恒興も嘘臭い礼儀正しさで返したのだった。
登場人物、1564年度
稲葉良通(48)・・・斎藤家の六宿老。斎藤義龍の母親、深芳野の弟。別名、彦四郎。蝮の八の牙。きかん坊。誠の仁者。謹慎してたが暗殺の噂を聞いて稲葉山城の城下へ。
能力値、蝮の八の牙の良通A、きかん坊A、斎藤家の家宰S、龍興への忠誠B、龍興からの信頼S、斎藤家臣団での待遇SS
進士藤延(32)・・・進士晴舎の息子。日向守は通称で、正式な官位ではない。将軍の使者として美濃に出向くが興味が別にあった所為で影武者に気付かなかった。
能力値、総ては義輝の為にSS、麒麟の如くC、三好憎しB、義輝への絶対忠誠SS、義輝からの信頼B、義輝家臣団での待遇C。
氏家行継(13)・・・氏家直元の三男。斎藤龍興の即席の影武者として将軍の使者と遭う。
能力値、何が何だかA、度胸ありB、直元の教え通りB、武芸を習い中A、大罪に加担C、龍興に似てもいないA
菅屋長頼(26)・・・織田家の家臣。通称、九右衛門。織田信房の次男。父親の信房の織田姓は褒美。兄は小瀬清長。柴田天誅に署名。恒興の監視役として堺へ。
能力値、父親の七光りB、武芸は下手の横好きA、若き奉行候補A、信長への忠誠A、信長からの信頼C、織田家臣団での待遇C
安宅冬康(36)・・・三好一門衆。三好長慶の実弟。通称、神太郎。官位は摂津守。淡路水軍の総帥。仁将なり。歌道の達人。 三好家の後継者の一人。
能力値、歌道の達人の冬康A、三好水軍総帥SS、仁将なりS、長慶への忠誠A、長慶からの信頼E、三好家臣団での待遇SS
三好長慶(42)・・・三好家の当主。将軍の相伴衆。通称、孫次郎。官位は修理大夫。病床により判断力が鈍る。
能力値、天下人の才気E、光明の長慶A、堺の銭で飛躍S、将軍の扱い困ってるS、麒麟も老いれば★、松永久秀の讒言A
松永久秀(56)・・・三好家の重臣。別名、弾正。三好政権の双璧の一人。城郭建築の第一人者。大欲深し。喰わせ者。三好義興を毒殺した黒幕。
能力値、大欲深しの久秀SS、悪の華☆、三好政権の執政A、長慶への忠誠A(E)、長慶からの信頼A、三好家臣団での待遇SS
【稲葉良通、龍興死亡の講談を聞いて謹慎命令を無視して稲葉山城の城下にやってきた説、採用】
【進士藤延、織田の京工作の煽りで斎藤龍興の確認の為に美濃に派遣説、採用】
【池田恒興、信長から100挺の鉄砲受け取りの為に堺に向かわされた説、採用】
【菅屋長頼、恒興のお目付け役で一緒に堺に同行した説、採用】
【池田恒興、注文した和泉屋に相手にされなかったので飯盛山城へ直訴に向かった説、採用】
【安宅冬康、三好軍の海軍奉行の他に堺支配も代行で兼務していた説、採用】
【松永久秀、安宅冬康排除の為に恒興を利用して三好長慶に遭わせた説、採用】
【池田恒興、鉄砲100挺の引渡の三好の朱印状を入手した説、採用】
それからすぐに各地にて、
「時は永禄七年、父殺しを始め悪逆を極めて成敗された斎藤義龍より美濃を受け継ぎし、若き斎藤龍興もまた悪逆の血を引く息子なのでありました。それを許せぬのが美濃に生まれし、ヤマトタケルノミコトの写し身、竹中重治。『まだ若輩者ゆえ改心するかと思ったが、やはり悪逆の血が受け継がれたか。仕方あるまい』と稲葉山城に乗り込んで『えいや』と正義の天誅を下したのである。これにより美農は悪逆の親子、義龍、龍興から解放されて民達も救われたのでありました~」
このような辻講釈が広がったのだった。
美濃稲葉山城の城下町の陣地では安藤守就と縁続きの関係で謹慎のはずだった稲葉良通が兵を連れて参上し、
「氏家殿、どういう事だ?」
「稲葉殿は謹慎中のはずでは・・・」
氏家直元が、拙い、と思ったが今更どうする事も出来ず、
「殿の命令ならば粛々と従うが、氏家殿の命令に従う謂われはないのでね」
そう言い放つ良通に、
「れっきとした殿の命令ですぞ」
横からそう失言を吐いたのは長井道利である。
「では連れて来て貰おうか、その殿を今すぐに」
「・・・と、殿は今、女のところで・・・」
しどろもどろになる道利を見て、
「本当に竹中に殺されたのか?」
良通が周囲の家老に凄む中、直元が隠すのを諦めて、
「安心せい、稲葉殿。殿はちゃんと生きておる」
「では、どこに――」
「但し、最悪な事になっておるがな」
直元は山頂の稲葉山城に向かって顎をしゃくって事実を通に教えた。
それだけで理解した良通が、
「はあ? まさか、まだ城の中なのか? 捕まった?」
「まあな」
「どうして竹中と交渉をせん」
「出来んのだよ」
「はあ?」
「稲葉殿は稲葉山城で捕縛された安藤がどうなっておったか知っておるか?」
「いいや。血縁関係だから変な疑いを向けられたら堪らんのでな。極力接触は避けておった」
「それが間違いの元よ。まあ、我々もだが」
と溜息をつく直元が、
「安藤の奴は今、拷問されて死に掛けておる」
「はあ? まさか。家督を息子に譲ったとはいえ、元宿老だぞ、安藤殿は?」
「ああ、だからワシも油断した訳だが。もう動かせんくらいの容態だ。それで竹中もすぐに脱出の予定が稲葉山城に立て籠もる破目となり・・・」
「殿は安全の確約の為に稲葉山城内で囚われておる訳か」
「馬鹿らしい限りであろう?」
氏家直元に尋ねられて良通は、まったくだ、と呆れ返りながら稲葉山城を見上げたのだった。
◇
だが、斎藤家中にとって、もっと最悪な事態が起こった。
京の将軍義輝の許から使者がやってきたからである。
使者は進士藤延であった。
何事か、と警戒して稲葉山城の麓屋敷で宿老一同が会見する中、藤延が、
「妙な講談が京でも流布されてな。そこに尾張に亡命中の斎藤利尭、斎藤利治と名乗る兄弟が将軍家に『美濃斎藤家の当主、龍興が竹中に殺されたので斎藤家継承の許可をいただきたい』と訴えてきて、本当に当主の斎藤龍興殿が死んでるのかの確認にやってきた訳だ」
それを聞いた瞬間、全員が、
(尾張の策謀だ)
(戦わずして美濃を乗っ取る気か?)
(影武者を思い付いてて助かった~)
と思いながら、
「無論、生きております」
「どちらに?」
と言われて、
「ここに」
遅ればせながら登場したのが、斎藤龍興の影武者役である氏家行継であった。
行継は氏家直元の三男だ。
年齢は13歳と三つも離れているがこの際、仕方がない。
龍興と同年の16歳の少年が用意出来なかったので。
その辺の16歳の子供では駄目なのだ。
京の使者の前で礼儀作法がなっていなければ問題となる。
それ以上の問題が「秘密を厳守出来るか」だ。
その辺の少年を使えば、後の災いを考えて殺さなければならない。
殺した後に、またその顔が必要となった場合、更に困る。
それで仕方なくこの人選となった。
「申し訳ない。酔い冷ましに風呂に入っておりましたので」
「十六にしては小柄ですな? 先代殿は大柄でしたが・・・」
似てない、と暗に匂わせるが、
「よく母似だと言われます」
「剣ダコですか。噂と違い、修練に励んでるようで」
目敏く藤延が手の剣ダコを指摘すると、
「まだまだ若輩の身でございます。日々、美濃を担える当主になれるようジイ達に鍛えられてるところです」
「噂と大分違うが・・・『将軍家の使者に影武者と会見させて、本人は今も女と遊んでる』なんて事はございませんよな?」
探るように藤延が問うが、この会見の場に居る宿老、氏家直元、稲葉良通、日根野弘就の三人は厳選された人選だったので顔色一つ変えず、
「無論です。私が暗愚との噂は尾張が流した嘘ですので」
行継も影武者に選ばれただけあり、さらりと答えた。
「それが聞ければ結構。では私はこれにて」
「もうお発ちに?」
「一刻も早く京に帰って伝えねばなりませんのでな」
それは嘘である。
現在、宿敵の三好長慶の容態がかなり深刻らしい。
そんな時に美濃の紛争に派遣されたのが進士藤延である。
京に一刻も早く帰りたかった藤延は興味が無かった事もあり、形だけの確認だけで帰っていき、
「ふう」
「危うく美濃を尾張に盗まれるところであったわ」
「使者が無能で助かったな。よく三歳差でバレなかったものだ」
使者との会見をやり過ごした宿老達は冷汗を拭いながら安堵したのだった。
◇
美濃の稲葉山城が竹中重治に乗っ取られて尾張にとっては好機なのだが、池田恒興はと言えば、小牧山城で信長に、
「昨年サルが堺で注文した鉄砲100挺がまだ尾張に届かん。受け取りに堺にまで行ってきてくれ」
「喜んで」
二つ返事で答えていた。
余りの溌剰な返事に信長が怪訝な視線を向けて、
「勝、遊びに堺へ向かわせるのではないぞ」
「無論です、鉄砲100挺を手に入れるまでは絶対に帰ってきません」
「待て。それだと何年も堺に出ずっぱりという可能性も。ふむ、勝だけでは不安だな。誰かを・・・そうだ、九右衛門を呼べ」
そんな訳で、菅屋長頼が呼ばれた。
「御用でしょうか、信長様?」
「昨年サルが堺で注文した鉄砲100挺がまだ尾張に届かん。勝を受け取りに出向かせようと思ったが、一人だとヤラカす可能性がある。九右衛門、おまえも同行せえ。後、余り勝を遊ばせるなよ」
「えっ、無理ですよ、信長様。勝さんの暴走を止めるのはオレでは」
長頼はそう言ったが、信長は鬼上司なので、
「出来んかったら権六への天誅の分も罰を下すからな」
「いえ、あれは本当に我々では・・・」
言い訳をしようとする長頼に、うきうき気分の恒興が、
「九右衛門、おまえはオレを何だと思ってるんだ? オレが堺で破目を外したりする訳がないだろうが」
「そんな遊ぶ気満々の満面の上機嫌で言われてもね~」
こりゃあ、大変だ、と思いながら長頼が、
「移動は舟でしょうか?」
「無論だ。陸路だと先々で勝が問題を起こすに決まってるからな」
そんな訳で、3人程の御供を付けて恒興と長頼は一路、尾張湾から堺の港へと向かったのだった。
通行税をちゃんと払ってたのか、別に海賊に遭う事もなく、
日本最大の商業都市、堺に初めて降り立った恒興の感想は、
「オレ、一生、ここに住む~」
だった。
まるで祭りの真っ最中のように賑やかな町並みで、美女も揃っている。
そして津島には居ない南蛮人。
「おお、噂の南蛮人、初めて見た~」
「勝さん、仕事仕事。まずは和泉屋でしょ」
「いやいや、まずはお土産を買わないと。母上のでしょ、妻のでしょ、妻のでしょ、妻のでしょ、娘のでしょ、妹のでしょーー」
「馬鹿な事言ってないで行くよ。ほら、勝さんを捕まえて」
捕まえ要員の為に連れてきた御供に恒興を捕まえさせて、長頼は堺にある和泉屋仁出向いたのだが、店内にて、
「尾張の織田様に鉄砲100挺ですか~? そんな注文は受けておりませんが?」
「そんなはずはあるまい。サル顔の男が来たはずだ。発注書の控えもこの通り」
恒興が店内をきょろきょろと観察する中、真面目な菅屋長頼が発注書を見せるが、番頭は一瞥しただけで、
「これはウチのではありませんね。騙されたのでは?」
「そんな~。サルの奴、何をやってるんだっ? 信長様から預かった大切な金を騙し取られるなんてっ!」
長頼が騙された秀吉に呆れ果てる中、恒興はその番頭に、
「この辺を統治してるのって三好様だよな? そこの殿様ってどこに住んでるの?」
「飯盛山城ですが」
「なら、そこに相談に行ってみようぜ、九右衛門」
恒興が気軽にそう言い、
「会える訳ないだろ、勝さん」
「なら、鉄砲100挺はどうするんだ? 再注文する金なんて持ってきてないんだから。ほら店にも迷惑だ。行くぞ、九右衛門」
恒興は長頼を店の外へと連れ出したのだった。
「勝さん、本当にその城まで行くのか?」
長頼が抜けた事を質問したので、恒興が気の毒そうに相手を見て、
「九右衛門、おまえ、津島に行った事がないのか?」
「あるけど、それが?」
「津島で田舎者がおまえみたいな目に遭ってたのを見た事がないのか?」
「?」
「あれは店が田舎者を騙して金を巻き上げてるんだよ」
「はあ? じゃあ、この発注書は本物っ? ふざけやがってっ! 織田家をコケにしたらどうなるか店を潰してでも分からせてやるっ!」
「待て、九右衛門っ! これは本物じゃねえんだよっ! 偽物の発注書なんだから。最初から偽物の発注書を渡して店で金を騙し取るそういうカラクリなんだよ」
「はあ? じゃ、じゃあ、泣き寝入りするのか、勝さん?」
「んな訳があるか。その為にここを仕切ってる飯盛山城の三好様に会いに行くんだからさ。後はオレに任せろ。こういうのにはやり方があるんだよ、津島でちゃんと教えて貰ったから大丈夫だって。そんな訳でまずは土産物を買いに行って『和泉屋で騙された』って噂をばら撒くぞっ!」
恒興はそう自信満々に言い放ち、
その後、恒興は堺の店で買い物をする度に、
「和泉屋で鉄砲100艇を注文したのに、注文が通ってないって言われてさ~」
「それは災難でしたね~」
「絶対におかしいって。代金も前払いして発注書もあるのに。誰かが横取りしたんだよ、鉄砲100挺~」
「まさか」
「だから、明日は三好のお殿様に直談判する為に飯盛山城に向かうんだ~」
「1日では無理ですよ。お武家様なら馬を買われた方が早いのでは」
などと吹聴しまくったのだった。
心配になった長頼が、
「勝さん、こんなんで大丈夫なのか?」
「ああ、仕込みは順調さ」
堺土産を買った恒興はそう御機嫌で答えたのだった。
◇
堺の料亭の奥座敷の茶室では、堺支配の安宅冬康が堺の豪商達と茶を楽しんでいた。
「安宅様、尾張の田舎者が和泉屋に鉄砲100艇をカモられて飯盛山城の三好のお殿様まで直訴に行くそうですよ」
「またか。和泉屋にも困ったものだな~」
賄賂を貰ってる冬康が呆れるも黙認し、
「城まで行っても兄に遭える訳もないのに。どうして堺支配の私に訴え出んのだ、その田舎者は? それだから田舎者と言われるのだ」
そう笑ったが、豪商達の方は、
(和泉屋が賄賂を堺支配に払ってる事くらいは分かる訳か)
(だが、三好のお殿様には会えますまい)
と思いつつも、
「まったくですな」
「違いない」
そう追従したのだった。
◇
数日後、飯盛山城の城下町でも似たような事をした池田恒興一行は飯成山城の門前に来ていた。
「堺の和泉屋に鉄砲100艇を注文しましたが、和泉屋に注文など受けていないと言われた件に付き、堺を支配してる三好のお殿様に裁定をしていただきたく」
恒興がそう神妙に訴え出ると、門番が、
「どうぞ、こちらへ」
と奥に案内した。
「さすがは三好家。しっかりしてるな~」
それが長頼の感想で、聞いた恒興は思わずズッコケそうになったが、すぐに気を取り直して別に意識を向けた。
(こりゃあ、面倒臭い事になってきたぞ。昨日のここの城下の旅籠の噂といい・・・まあ、いいや。100挺の鉄砲以外は今回は度外視で行くか)
そう覚悟を決めて訴えに集中する事とした。
奥の部屋に通されたのは代表者の恒興一人だけだった。
残りは控えの部屋で待機だ。
当然、将軍義輝から拝領した刀も玄関で預けてある。
丸腰の中、聞き取り調査が行われたのだが、恒興が語ったのは、
「明らかに店の雰囲気が変でした。あれは和泉屋から鉄砲100挺を横取りした者が居たのを知っていたのでしょう。問題はその件を三好のお殿様が知っているかどうかです。黒幕が三好様の配下の方ならまだいいのですが、もし三好様が知らないところで100挺もの鉄砲が消え、後日、本当に三好のお殿様に銃口が向く事となり、その時になって、その黒幕までが『100挺の鉄砲を取られた我々』などと言われた日には堪ったものではありませんので、本日こうして三好のお殿様に直訴しにやって来させていただきました」
「ふむ。確かに承った」
若い文官がそう答え、
「それで、このまま尾張に帰られるのか?」
そう水を向けられての雑談となったが、
「まさか。鉄砲100挺を都合しない事には主に顔向けが出来ず途方にくれております。今語ったこの情報が実は凄い情報とかで、褒美に三好様の命令で堺の豪商達から鉄砲100挺を集めてくれたら助かるのですが」
「さすがに鉄砲100挺は無理であろう」
「では和泉屋から鉄砲100挺分の代金を奪い返して貰えたりは?」
「出来んな。堺は自治権を持っているからな」
「もしかして、それでですか? 三好のお殿様の御曹司に毒を盛ったとの噂のある和泉屋が野放しなのって?」
「はあ? 今、何と?」
若い文官が凄い顔で驚く中、
「えっ、昨年死んだとかいう三好の若様に毒を盛ったのが和泉屋だという話ですか?」
さも常識のように恒興が言い、
「そう、昨晩泊まった旅籠の女中が話してましたよ。その話、結構有名らしいですが、もしかして知らなかったんですか?」
と言った瞬間、隣の部屋からガチャンッと音がして、
(この若い文官に聞かせる事ではなくて、本命はそちらだったか)
恒興が苦笑する中、隣の部屋へと通じる襖が開いた。
「今の話は本当か、尾張の客人?」
男が出てきた。
殿様風だが病人のように顔色が悪い。
そして、その後に続いて出てきた男が、
(おおっと、蝮が十としたら七の奴が登場か。コイツが黒幕な訳ね)
恒興は総てを理解しながら、素知らぬ顔で、
「どのでしょうか?」
「『三好の若様に毒を盛ったのが和泉屋』という奴だ」
「はい。この城下の旅籠で、さも当然のように女中達が話してました」
「久秀、堺支配の弟がやらせたと思うか?」
「それは・・・」
蝮の七掛けの男が言葉を噤む中、恒興が、
「火のないところに煙など立ちませんよ。そう言えば、堺であのような詐欺紛いな事をやっても店を続けていられるのは、もしかして、その堺支配も御一味という事でしょうか? でも自分の殿様に隠れて鉄砲を集めて何を・・・ま、まさか、謀反?」
下手くそな演技で口添えをすると、蝮の七掛け男が恒興の顔を見て更に悪そうに笑い、殿様風の病人も恒興を見て、
「久秀、鉄砲100挺をその男に褒美として取らせよ。支払いは我が三好で。どの店が持ってる?」
(・・・久秀って、うちの家老と同じ名前かよ)
「天王寺屋ならば確実かと」
「では朱印状の作成をすぐに、花押書くのでな」
そう言って奥に歩いて行くのを恒興は綺麗な土下座で、
「ありがとうございます、三好のお殿様」
礼を言って見送り、
「どうぞ、お待ちを」
「ええ」
蝮の七掛け男が嘘臭いくらいに礼儀正しく言ったので、恒興も愛想良く返事をしたが、
待たされた後、
「どうぞ、こちらを」
久秀と呼ばれた蝮の七掛け男がそう言って朱印状を渡してきたので、
「では、遠慮なく」
恒興は久秀の着物の懐に手を突っ込んで本物の朱印状を出した。
「これこれ。これさえあれば・・・」
一方の偽物の朱印状を掴まなかった恒興を見直した久秀が、
「どうして偽物の確認もせずに本物が懐の中だと?」
「オレでも同じ事をしてましたので~」
「名前をまだ伺っておりませんでしたが」
「ただの鉄砲詐欺にあった尾張の田舎者ですよ。名乗りは次に遭った時にでも」
「では、そのように」
久秀が嘘臭い礼儀正しさで頭を下げる中、恒興も嘘臭い礼儀正しさで返したのだった。
登場人物、1564年度
稲葉良通(48)・・・斎藤家の六宿老。斎藤義龍の母親、深芳野の弟。別名、彦四郎。蝮の八の牙。きかん坊。誠の仁者。謹慎してたが暗殺の噂を聞いて稲葉山城の城下へ。
能力値、蝮の八の牙の良通A、きかん坊A、斎藤家の家宰S、龍興への忠誠B、龍興からの信頼S、斎藤家臣団での待遇SS
進士藤延(32)・・・進士晴舎の息子。日向守は通称で、正式な官位ではない。将軍の使者として美濃に出向くが興味が別にあった所為で影武者に気付かなかった。
能力値、総ては義輝の為にSS、麒麟の如くC、三好憎しB、義輝への絶対忠誠SS、義輝からの信頼B、義輝家臣団での待遇C。
氏家行継(13)・・・氏家直元の三男。斎藤龍興の即席の影武者として将軍の使者と遭う。
能力値、何が何だかA、度胸ありB、直元の教え通りB、武芸を習い中A、大罪に加担C、龍興に似てもいないA
菅屋長頼(26)・・・織田家の家臣。通称、九右衛門。織田信房の次男。父親の信房の織田姓は褒美。兄は小瀬清長。柴田天誅に署名。恒興の監視役として堺へ。
能力値、父親の七光りB、武芸は下手の横好きA、若き奉行候補A、信長への忠誠A、信長からの信頼C、織田家臣団での待遇C
安宅冬康(36)・・・三好一門衆。三好長慶の実弟。通称、神太郎。官位は摂津守。淡路水軍の総帥。仁将なり。歌道の達人。 三好家の後継者の一人。
能力値、歌道の達人の冬康A、三好水軍総帥SS、仁将なりS、長慶への忠誠A、長慶からの信頼E、三好家臣団での待遇SS
三好長慶(42)・・・三好家の当主。将軍の相伴衆。通称、孫次郎。官位は修理大夫。病床により判断力が鈍る。
能力値、天下人の才気E、光明の長慶A、堺の銭で飛躍S、将軍の扱い困ってるS、麒麟も老いれば★、松永久秀の讒言A
松永久秀(56)・・・三好家の重臣。別名、弾正。三好政権の双璧の一人。城郭建築の第一人者。大欲深し。喰わせ者。三好義興を毒殺した黒幕。
能力値、大欲深しの久秀SS、悪の華☆、三好政権の執政A、長慶への忠誠A(E)、長慶からの信頼A、三好家臣団での待遇SS
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