池田恒興

竹井ゴールド

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1563年、嫌われ柴田の復権

新加納の戦い

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 【新加納の戦い、織田軍5800人説、採用】

 【織田軍の総大将、織田信長説、採用】

 【新加納の戦い、斎藤軍2500人説、採用】

 【斎藤軍の総大将、斎藤龍興説、採用】

 【新加納の戦い、安藤隊700人説、採用】

 【新加納の戦いが始まる前から柴田勝家寝返りの流言流布説、採用】

 【竹中重治、新加納の地に仕込みはバッチリ説、採用】

 【池田恒興、勝手に殿しんがりは柴田隊と決めた説、採用】

 【勝利後、斎藤龍興に叱責されたのは安藤守就説、採用】

 【安藤守就、捕縛説、採用】

 【柴田勝家、死ぬ気で殿をしたお陰で闇打ちされなかった説、採用】




 
 4月。

 犬山城の木曽川を挟んだ対岸にある美濃側の城は二つで、その二つの城を見下ろせるのが池田恒興の家臣の伊木忠次が信長から姓を貰った伊木山である。

 その伊木山に築いた砦は和議時に燃やされており、再築城を目論んだのだが、織田軍が美濃領に侵入しては斎藤側も黙ってはいない。

 迎え討ってきた。





 兵数は、

 織田軍が5800人。

 斎藤軍が2500人。

 倍の差がある。

 通常ならば織田軍が楽勝のいくさだ。





 だが、織田軍は戦う前から窮地に陥っていた。

 織田軍にまことしやかに広まった流言の所為だった。





「柴田勝家、斎藤龍興に内応」





 それだけなら戦国の世だ。

 どの家中にも一つくらいは流れている。

 だが、今回の流言は、





「織田軍5800人、斎藤軍3200人。美濃の新加納の地で激突。信長の首を取る為に寝返った柴田勝家が斎藤龍興の為に織田軍をその地に誘導。先鋒の森隊が斎藤軍に突撃して離れた隙に、柴田隊が寝返って油断した信長の本隊を強襲。本隊の危機に森隊は総崩れ。信長の首は新加納の地に落ちる」





 妙に事細かだった。

 そして、その通りに織田軍は新加納の地に誘き寄せられており、織田軍は誰もが柴田勝家の寝返りを、いや「何かが起こる」との予感をせずにはいられなかった。

(嘘だろ。一月前から流れた流言だというのに・・・織田軍の兵数まで言い当てるとは。これが今孔明か。拙いぞ。どうにかしないと)

 針のむしろの柴田勝家が絶句する中、もはや疑いの眼差しを向けてる与力の前田利家と佐々成政が、

「くれぐれも妙な事だけはされないで下さいね、権六殿」

「これ以上、流言通りにならない事を祈るのみです」

 そう監視していた。





 新加納に布陣した織田軍の本隊では信長が、

「勝、権六は寝返ると思うか?」

 近習の恒興に尋ねていた。

「当初はそう企てていたのでしょうけど、ここまで噂が広まればバレバレの寝返りはやらないと思いますよ。何せ、悪知恵だけは働きますから」

「今回勝てると思うか?」

「竹中って奴、失脚してるんですよね?」

「それは確かだ。流言だけで戦場いくさばにはいないだろう」

「なら蝮の三代目次第じゃないですか? 蝮の血を濃く引いてたらヤバイかも」

 恒興の方は適当に答えたのだが、

「なるほど、まだ斎藤龍興の事は何も知らなかったな。15歳で酒と女に溺れてるという話も出来過ぎてると言えば出来過ぎてる、か。もしかしたらもしやするかもな」

 と信長は妙に納得したのだった。





 一方の斎藤軍は織田軍がそんな状態とは知らず、倍の敵を前に、

「稲葉のジイ、勝てるのであろうな?」

 斎藤龍興が普通に怖がっていた。

 副将の稲葉良通が余裕綽々の顔で、

「斎藤の兵は織田の兵よりも強いですから」

「しかし、相手はこちらの倍だぞ」

「問題ございません」

 と答えながらも、

(最悪、若様だけでも逃がさねばな)

 良通が同じく青ざめてる飛騨守を見て、

(情けない奴め。だが、コヤツに若様を任せるしかないか)

 人材の無さに嘆きながら、

「飛騨守、分かっているな」

「はい、最悪の場合は殿だけでも」

「だが、一騎駆けはさせるなよ。どうも稲葉山城内も妙な雰囲気だからな。最低20騎で行動せよ。それと引き際はワシが指示する。勝手に動くな、良いな」

「はっ」

 と答える飛騨守を見て、

(もし命惜しさに逃げたら斬らねばならんな)

 そんな事を考えていた。





 ◇





 新加納の戦いと呼ばれるいくさが始まった。

稲葉安藤を追い落とすから、こんな惨めな兵数でいくさをする破目になるのだ――やれっ!」

 斎藤家の六宿老にして、蝮の五の牙と称された副将の氏家直元が斎藤軍を率いて突進し、

「かかれっ!」

 織田軍は先鋒の森隊を率いた森可成と、

「今日こそ決着を付けるぞっ!」

 同じく先鋒の河尻隊を率いる河尻秀隆が突進した。

 兵数は織田軍が有利だが、斎藤軍の方が兵の質は悲しいかな良い。

 それでも織田軍が優勢に戦った。





 織田軍の本隊の信長の許には、

「背後より美濃兵、接近。その数500っ!」

 そう報告された。

「ほう」

 信長が笑う中、恒興が、

「柴田隊の動きに注意しろっ! 本当に噂の通りになるかもしれんからなっ!」

 そう叫んで馬廻り(親衛隊)に警戒させたのだった。





 同時刻、織田軍の中軍に位置する柴田隊の柴田勝家が、

「全員、八方に目を光らせろっ! 斎藤軍の兵数が合っていないっ! 伏兵が居るはずだからなっ! 柴田隊はそれに突っ込んで手柄とするぞっ!」

 そう叫ぶ中、中村文荷斎が、

「殿、後方っ! 信長様の本隊の後ろに斎藤の迂回兵の姿ありっ!」

「はあ?」

 思わずそう驚いた勝家が、

「いかん、信長様が取られたらオレの所為にされるっ! 全軍左から後方の本隊を迂回してその敵に攻撃せよっ! オレに続けっ!」

 柴田隊を勝手に動かし、与力の前田利家と佐々成政も勝家を警戒しながら従った。





 織田軍の本隊では、

「前方の柴田隊が左側から迂回して後方の伏兵に突撃してますっ!」

 との報告を受けて、信長が、

「権六も必死よな~」

「あんな噂が立てば当然かと」

 そう答えたのは小姓の岩室勘右衛門だった。

 だが、恒興はまだ警戒を緩めてはおらず、

「全員、警戒しろっ! まだ何かが起きるぞっ!  敵が狙うとしたら今だっ! 絶対に来るぞっ!」

 と馬廻りを叱咤激励した。

「勝、考え過ぎだぞ」

「いえ、信長様。今回は何かがヤバイです。逃げる準備を」

 と言った瞬間だった。

「うわあ、敵だっ!」

「ひぃ、こいつら、どこからっ!」

「土塗れだ。まさか、こいつら土の中に昨日から?」

 本隊の右翼から悲鳴が上がった。

 実際に右翼からは斎藤軍200人が突っ込んでいた。

 見晴らしの良い場所に突如現れた斎藤軍200人は昨日の内から土の中に潜って隠れていたのだ。

「何だと?」

 それにはさすがの信長も真剣になり、

(これは・・・本隊の右翼が貫かれて信長様まで届く?)

 恒興はそう考え、

「全員、鬨の声を上げて本隊の異変を味方に伝えよっ!」

 その指図で、一斉に本隊の馬廻りが鬨の声を上げて異変を知らせた。

「信長様、オレが右翼に出向いて刻を稼ぎますのでーー」

「いいや、左翼だ。権六が通過した方向から尾張に逃げるぞ。勝、おまえが先駆けだ」

「捨てるんですか、このいくさ?」

「ああ。だからさっさと駆けろ、勝」

 信長の命令で、

「おまえら撤退するぞっ! 尾張まで一気に駆け抜けるからちゃんと付いてこいよっ!」

 そう言って恒興は馬を発進させたのだった。





 ◇





 丘の高みから新加納の地を見下ろしていた竹中重治が、

「無駄だよ、尾張殿。その逃げ筋にはちゃんと落とし穴の罠が敷かれているのだからね」

 と勝ち誇ったのだが、





 ◇





 本隊を先導する池田恒興が進んだ方向は、本隊の左翼を迂回して後方に現れた伏兵に迫る柴田隊の通過した進路だった。

 つまりは柴田隊の後を追い始めた。

 それには、

「違う、勝っ! そっちじゃないっ! 外をーーああ、もう、勝に続けっ!」

 信長も文句を言ったが、信長が逃げるよう指示した方向に駆けてしまった馬廻りの5騎程が落とし穴に嵌まり、

「うわあああ」

「ぎゃああ」

 と落ちるのを横目で見て、

「権六の部隊が迂回した更に奥側に落とし穴の罠だと? 常人の発想じゃない。そうか、竹中がこの戦場いくさばに居るのか」

 瞬時にその事を見抜いた信長が、

「それにしても勝め。どうせ、落とし穴の存在に気付いていた訳ではあるまい。本当に勝負強いわ」

 そうニヤリと笑って先頭を駆ける恒興の後ろ姿を見たのだった。





 柴田隊はと言えば、

「は? 本隊の馬廻りが背後から迫ってるだと? まさか、オレを攻撃する気か?」

「いえ、歩兵を押し退けて進んできているだけです」

 と文荷斎が答えた時には、馬廻りの先頭の池田恒興が追い付いて、

「よう、柴田」

「勝三郎、何だ、これは?」

「信長様はこのいくさを捨てるそうだ」

「はあ? そうなのか?」

「柴田は殿しんがりね。先鋒の森隊と河尻隊もちゃんと逃がせよ」

 恒興はそう告げると別の進路に向かって走り出し、本隊の馬廻りもその恒興の後ろに続いたのだった。





 尚、柴田の殿しんがりは信長の命令ではない。

 柴田にこの敗戦の責任を取らせる為に恒興が勝手に言った事で、それを伝える為だけにこの進行方向を選んで駆けて、織田軍本隊は落とし穴に落ちずに退却出来た、という顛末だった。





 ◇





 丘の高みから新加納の地を見下ろしていた竹中重治が、

「落とし穴の罠を回避した? 罠に気付いた知恵者が居たか。尾張殿の首を土産に斎藤家に帰参する予定が・・・あっ、拙い。このままでは義父上ちちうえが」

 そう焦ったのだった。





 ◇





 新加納の戦いは織田軍の本隊が斎藤軍の伏兵で急襲された事で、信長がいち早く危険を察知して退却。

 信長が退却した事で織田軍の敗北となった。

 先鋒の森隊と河尻隊は戦闘中に総大将の信長が退却した事で総崩れとなるところを、殿しんがりの柴田隊が助けて、織田軍はどうにか総崩れにならずに済んだのだった。





 さて、勝利した斎藤軍の本隊には、伏兵を率いて織田軍を追い払った安藤守就が鼻高々で斉藤龍興の前に現れた訳だが、

「この痴れ者がっ! 当主のオレを囮に使ったなっ!」

 褒められるどころか叱責されたのだった。

「家督を代替わりさせた事がそんなに不満だったのかっ!」

「なっ? 斎藤家の窮地に駆け付けた私にそのような言いがかりをおっしゃるとはーー」

「嘘をつけいっ! 出る頃合いを高みの見物していたのであろうがっ! あわよくば『オレの首が飛べばいい』とでも思っておったのであろうっ!」

 と激昂する龍興に姦言かんげんを囁いたのが飛騨守で、

「コヤツを囮にして逃亡した竹中を誘き出してみてはどうでしょう?」

「おお、さすがは飛騨守。良い事を思い付くな」

 絶賛した龍興が、

「ソヤツを捕らええ、罪状は父殺しの竹中の逃亡を手助けした罪だっ!」

 その裁定によって本当に安藤守就は捕縛され、

「なっ! 御冗談でしょう、若様っ!」

「いつまで若様扱いをしている、オレが当主だぞっ!」

「グアアア」

 守就が蹴られたのを見て、良通は、

(ダメだ、こりゃあ。だが、血の繋がった又甥だからな。見捨てられんのだよ。氏家殿は今回で見捨てるであろうな~。日根野や竹腰はまだ離れんだろうが)

 と頭痛を覚えたのだった。





 一方、負けた尾張では、柴田勝家が池田恒興に、

「勝三郎、よくも騙したなっ! オレに信長様から殿しんがりの命令は出ていなかったそうではないかっ!」

「信長様のお気持ちを代弁しただけだよ」

「貴様っ!」

「それにオレが信長のお気持ちを代弁して良かっただろ?」

「どういう意味だ?」

「逃げる織田軍の将兵を助けて感謝されて。あのまま尾張に帰ってたら闇討ちされてたぜ、柴田?」

「それは・・・」

 一瞬「一理ある」と口籠った勝家だったが、

「だが、 勝三郎の指図だったのが気に入らないっ!」

「気に入らないのはこっちだ。何だ、今回のあのいくさは?」

「はん?」

「絶対、美濃側に竹中って奴、居たよな? 柴田が失脚させたんじゃなかったのかよ? その功績で家老になった癖に話が違うじゃねえかっ!」

「確かに失脚したはずだ」

「本当に~? 信長様を嵌める為に、裏で竹中と柴田、つるんでんじゃないの~?」

「そんな訳あるかっ!」

「なら、何とかしろよ、アイツを。悪知恵の柴田の名が泣いてるぞ」

「そう呼んでるのはおまえだけだよ、勝三郎っ!」

 その後も、柴田勝家と池田恒興の言い合いは続き、何故か織田軍は敗戦した割には妙に明るい雰囲気を保ったのだった。





 登場人物、1563年度

 佐々成政(27)・・・信長の近習。近江源氏の佐々氏の庶流。織田信安の元部下。政務が有能。正室は村井貞勝の娘。比良城主の城主。柴田勝家の与力。

 能力値、まさかの文官肌A、不運の佐々A、豪傑への尊敬A、信長への忠誠B、信長からの信頼B、織田家臣団での待遇B

 氏家直元(51)・・・斎藤家の宿老。最盛期には美濃国の三分の一を領する。西美濃三人衆の中でも最大勢力。蝮の五の牙。領地喰らいの直元。

 能力値、美濃の家宰A、蝮の五の牙の直元A、西美濃の顔役B、美濃の強兵B、龍興への忠誠B、龍興からの信頼B、斎藤家臣団での待遇B

 森可成(41)・・・織田家の家老。古参の美濃衆。織田二代に仕える。信長のお気に入り。美濃攻めの織田軍先鋒。攻めの三左。正室は林秀貞の系譜ではない。

 能力値、攻めの三左S、豪傑が集うA、信長のお気に入りS、織田二代への忠誠S、信長からの信頼A、織田家臣団での待遇A

 河尻秀隆(36)・・・信長の最古参の家臣。信勝を殺害。

 能力値、猪武者A、政務の素養E、織田信勝(信行)殺害の知名度S、信長への忠誠A、信長からの信頼A、織田家臣団での待遇A

 岩室勘右衛門(16)・・・信長の小姓。重休の指名で岩室の家督を継ぐ。別名、加藤弥三郎。三河の竹千代が尾張人質時代に幽閉された熱田羽城の城主の次男。

 能力値、早込めの弥三郎A、狂犬の世話係C、薬は自前でD、信長への忠誠A、信長からの信頼C、織田家臣団での待遇D
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