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1563年、嫌われ柴田の復権
講談「ヤマトタケルノミコトの写し身伝説」
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【戦国時代、銭を払えば好きな講談を他国で流せた説、採用】
【岡部元信、1530年生まれ、採用】
【斎藤龍興、父の義龍の死を竹中重治の仕業と信じた説、採用】
【竹中重治、捕縛後に稲葉山城の隠し穴から脱走した説、採用】
【稲葉山城には無数の隠し穴が存在する説、採用】
【斎藤龍興、乱心して牢番を斬る説、採用】
【柴田勝家、この時期に家老を任命される説、採用】
【柴田勝家、与力という名の監視が付く説、採用】
1563年は新年となった目出度い時期に妙な講談が各国で流行した。
駿府の町中にて、
「時は永禄三年、駿河、遠江、三河を平らげた今川義元はその野心を遂には京に居る室町幕府の将軍へと向けて尾張に進軍した。それが許せなかったのがヤマトタケルノミコトの写し身である美濃の竹中重治。その時、齢十六。美濃と尾張とはこの時、敵同士の為、毛利新介と名乗り、悪逆の今川義元に天誅を下すべく桶狭間に乱入。神の御技か、雨を降らせ、雷鳴を轟かせて、今川の雑兵共をバッタバッタと切り倒して、遂には悪の権化、今川義元を倒したのでございました~」
との講談をお忍びで聞いていたのは今川義元の嫡子、今川氏真であった。
「こ、この話、本当に・・・」
桶狭間の戦い後も尾張で奮戦し、遂には交渉で今川義元の首を取り返した岡部元信が怒りで血管を浮かび上がらせながら、
「もう、今川領内中でされておりまする」
「今すぐ止めさせよ」
「はっ」
元信の視線の合図だけで手勢が辻講釈を引っ立てていく。
「それで何者なのだ。その竹中重治という奴は?」
「美濃の家臣らしいです」
「本当に父を討ったのか?」
「わかりません」
「すぐに美濃に問い合わせの書状を送れっ!」
「はっ」
元信はそう答えたのだった。
三河の岡崎城下にて、
「時は永禄三年、駿河、遠江、三河を平らげた悪の権化、今川義元はその野心を遂には京に居る室町幕府の将軍へと向けて尾張に進軍した。それが許せなかったのがヤマトタケルノミコトの写し身である美濃の竹中重治。その時、齢十六。美濃と尾張とはこの時、敵同士の為、毛利新介と名乗り、悪逆の今川義元に天誅を下すべく桶狭間に乱入。神の御技か、桶狭間の地に、雨を降らせ、雷鳴を轟かせて、今川の雑兵共をバッタバッタと斬り倒して、遂には悪の権化、今川義元へと迫る。悪逆を尽くした今川義元もさすがに肝を冷やし、ヤマトタケルノミコトの写し身である竹中重治、変名、毛利新介に土下座をして命乞いをするも、正義の竹中重治はそれを許さず、悪の権化、今川義元を討ち倒したのでございました~」
と辻でやってる講談に足を止めて聞き入ったのは石川数正だった。
(何だ、その与太話は? 意味が分からん)
そしてそのまま岡崎城に登城していったのだった。
尾張津島の繁華街にて、
「時は永禄三年、駿河、遠江、三河を平らげた、悪の権化、今川義元はその野心を遂には京に居る室町幕府の将軍へと向けて十万の兵を率いて尾張に進軍した。その悪の所業を許せなかったのがヤマトタケルノミコトの写し身である美濃の竹中重治。その時、齢十六。美濃と尾張とはこの時、敵同士の為、毛利新介と名乗り、悪逆の今川義元に天誅を下すべく桶狭間に乱入。神の御技か、桶狭間の地に、雨を降らせ、雷鳴を轟かせて、今川の雑兵共をバッタバッタと斬り倒して、遂には悪の権化、今川義元へと迫る。悪逆を尽くした今川義元もさすがに肝を冷やし、ヤマトタケルノミコトの写し身である竹中重治、変名、毛利新介に土下座をして『い、命ばかりは』と命乞いをするも、正義の竹中重治はそれを許さず『将軍家を亡き者としようとする悪党め、この竹中重治の正義の裁きを受けいっ!』と悪の権化、今川義元を倒したのでございました~」
「ふ、ふざけるなっ! オレの手柄を横取りするつもりかっ! ペテン師めっ!」
そう絶叫したのは毛利新介改め良勝である。
「おお、今川義元を討った英雄の」
「さすがは凛々しい」
「そもそも何だ、その竹中とかいう奴?」
「大方、毛利様の手柄を横取りしたかったのでしょうよ」
「ささ、まずは新年の祝い酒を一献」
民衆達も良勝の味方で尾張津島では誰もその講談を信じはしなかったのだった。
甲斐の躑躅ヶ崎の町中では、
「時は永禄四年、関東管領である山内上杉家を脅迫して関東管領職を奪った越後の長尾景虎が遂にその野心を甲斐武田へと向けて北信濃に侵攻した。悪辣な長尾の所業に怒ったのがヤマトタケルノミコトの写し身である美濃の竹中重治、御年十七。原大隅守と名乗り、霧の八幡原へと乱入して、悪の長尾景虎を狙うも、景虎は馬に跨り、大胆不敵にも武田の御館様のいる本陣めがけて一直線。遂には武田の御館様に刀を振るう始末。一振り、二振り、武田の御館様が軍配で受けていると、何とか駆け付けたヤマトタケルノミコトの写し身たる竹中重治、いやその時の名は原大隅守。槍を『えいや』と突き出すも上手く馬が避け、長尾景虎は『おお、怖い』と逃げ出し、武田の御館様は一命を取り留めたのでありました~」
そんな講談がせでされており、それを頭巾で顔を隠したお忍びの武田信玄が、
「あれか、源五郎?」
「はい、織田が事前に武田に通達した上で、金をばら撒いて辻講釈にやらせている事です」
同じく頭巾を被って傷を隠してる春日虎綱が答えた。
「こんなので竹中が潰れるのなら苦労しないのだが」
「どうしましょう?」
「しばらく好きにさせておけ」
そんな事を喋って信玄と虎綱は歩いていったのだった。
越後の春日山城の足元の城下町にて、
「時は永禄四年、関東公方に逆らった悪の北条に加担する悪坊主の武田信玄を成敗すべく北信濃へと降り立った関東管領を襲名した上杉政虎を襲ったのは邪法で霧を発生させた魔の八幡原であった。悪辣な武田の罠に上杉軍は絶対絶命。そこに駆け付けたのはヤマトタケルノミコトの写し身である美濃の竹中重治、御年十七。白頭巾を被って顔を隠し、白馬に跨り、荒川伊豆守と名乗り、武田の本陣めがけて一騎駆けして、遂には悪坊主の武田信玄に斬り掛かるも、邪魔が入り、遂には首が取れずじまい。それでも悪坊主はヤマトタケルノミコトの写し身、竹中重治に神威に肝を冷やし、以後、悪さをしなくなったのでございました~」
との講談が終わると同時に、激昂して、
「ふざけるなっ! 我が殿の手柄を横取りする気かっ!」
そう叫んだのは上杉政虎に心酔する甘粕景持である。
「こら、落ちつけ。いつものありがたい真言でも唱えていろ」
柿崎景家が止め、
「オン・ベイシラマンダヤ・ソワカ、オン・ベイシラマンダヤ・ソワカ・・・」
と景持は真言を唱えたが、
「いいや、やっぱりダメだ。こんなのは認められん。殿は気にせんだろうが美濃に詰問状を送ってやる」
そう怒りながら春日山城に上っていったのだった。
関係国だけではなく京や堺を始めとした畿内でもこの辻講釈は広くやられた為、ヤマトタケルノミコトの写し身として竹中重治は一躍時の人になったのだった。
◇
そんな訳で美濃には連日、各国からの書状が届いた。
もはや呆れ気味の稲葉良通が、
「で、ヤマトタケルノミコトの写し身の竹中、おまえ、こんな卑怯な真似をしてまで有名になりたいのか?」
馬鹿にしたように竹中重治を見た。
重治は馬鹿馬鹿しい限りの質問の辟易しながら、
「そんな訳がないではありませんか。私ではありません。尾張の策謀です」
「尾張の策謀? 意味が分からんな。おまえをヤマトタケルノミコトの写し身と宣伝して尾張の織田に何の得があると言うんだっ! 言ってみろっ?」
激昂した良通が大声を出し、
(そんな事も分からぬのか? 将軍家が間に入った美濃と尾張の和議を破る口実にする為だとも)
重治がゲンナリする中、弁護しようと安藤守就が、
「稲葉殿」
そう口を開くも、
「一応聞きますが安藤殿はこの問い合わせの書状の数々をどう思われます?」
「桶狭間の戦いにも、川中島の戦いにも、婿が噛んでいないのは断言出来ますが」
「関東管領上杉の家臣からは厳重な抗議文、首を取られた今川はもちろん、京の将軍家、三好、六角からも真偽の問い合わせ。そんなどうでも良い事の為に新年から西美濃より何度も稲葉山城に呼び出されるこっちの身にもなって下され」
「申し訳ない。婿の不徳でございます」
守就が大人の対応を見せて頭を下げる中、良通が上座を見て、
「それで飛騨守? 殿はどうした?」
「祝い酒を飲み過ぎたらしく『出ぬ』と。ああ、裁定の方は殿より聞いております」
「どのような?」
「『竹中は領地で謹慎』だそうです」
「なっ、それは――」
守就が弁護しようとしたが上手い弁明が思い付かず、良通が、
「当然だ。というか、甘過ぎないか、飛騨守?」
「『安藤の娘婿なので安藤の顔を立てるが今回だけだ』との事です」
「ふむ。まあ、そう言われれば」
良通が引き下がり、
「では、私はこれで」
飛騨守が席を立つ中、
「織田軍が美濃に攻めてきた時は謹慎は解除なのですよね?」
念の為に重治が尋ねれば、
「将軍が命じた和議中にそんな事が起こる訳が無かろうが。そんな事も分からんのか、智慧者が聞いて呆れるわっ!」
飛騨守はそう重治に吐き捨てて退室していったのだった。
(無能が。いや今のは言質を与えぬ為の小芝居か)
「待て、婿殿。攻めてくるのか、織田が?」
「はい、おそらくは秋にでも」
そう重治は断言したのだが、
事態は今孔明の竹中重治の読みよりも、悪く、そして早く動き、
◇
その美濃稲葉山城の城下では満を持して
「時は永禄四年、父、道三殺しを始めとして悪逆を極めた斎藤義龍も遂には年貢の納め時がやってきた。美濃に生まれし、ヤマトタケルノミコトの写し身、竹中重治が『改心せぬか。もう救えぬな、義龍は』と義龍に見切りを付け、稲葉山城に乗り込んで『えいや』と正義の天誅を下したのである。これにより美濃は悪逆の義龍から解放されて民達も救われたのでありました~」
このような話を辻講釈によって広められたのだから。
それに激怒したのが正月からずっと酔い続けていた斎藤龍興である。
謹慎を言い渡した直後に重治は呼び戻されて、
「父を、父を殺したのか、おまえ?」
龍興が直接尋ねた時の怒りに染まった顔を見て、重治は自分の運命を悟った。
(しまった。このような戯言に若殿が乗せられるとは。これは投獄は免れぬ、か。そして美濃は甲斐の餓虎に甲州金を握らされた佞臣の思いのまま。10年後に美濃斎藤家が室町幕府の副将軍として天下を号令する姿も夢と消えるか。今孔明との噂が立った時から嫌な予感を覚えたが。孔明と同じく暗愚の主を仰ぐ破目になるとは。無念)
読め過ぎる頭脳の為、抵抗は無意味だ、と諦めた重治が無言を貫く中、
「今思えば父の死は早過ぎた。死ぬ前年も高熱があったし。おまえが毒を盛ったのか?」
「お待ち下さい、殿。婿に稲葉山城の食事に毒を盛れる訳が・・・」
守就が弁護する中、
(舅殿、それは・・・墓穴です)
「コイツには出来なくても、宿老のおまえには出来たであろうが」
龍興が決め付けた。
「ーーなっ! 私を疑っておられるのですか?」
「父が死んだ直後に織田が攻めてきた時、おまえは稲葉山城から出陣しなかった。日比野のジイと稲葉のジイが織田を追い返す為に出陣し、日比野のジイに至っては討ち死にしたのにだっ! 何故あの時、出陣しなかったっ?」
「それは翌日には尾張の犬山城が信長から離反すると知っていてーー」
「父を殺し、織田に美濃を売り渡す約定を交わしたからであろう」
「そんな、あり得ませぬっ! 証拠もないのに一方的に。承服しかねまするっ!」
「黙れっ! 稲葉のジイ、どう裁くっ!」
と問われて、稲葉良通は、
「竹中は稲葉山城内の獄で幽閉が妥当かと」
(やはり。これで副将軍の許で天下を一統する我が夢は消えるか。まさか、この私がこんな下策にしてやられるとはな。殿様生まれの信長の仕業にしては人の心の機微を読み過ぎている。そうか、小牧山で城普請をしているとは聞いていたが柴田勝家が尾張で復権していたのか)
「犯罪者の舅の安藤は?」
「義龍様に毒を盛った証拠がない以上、これまでの斎藤家への忠誠を加味して、息子の定治殿への代替わりによる隠居が妥当かと」
「なっ、それはあんまりだ、稲葉殿っ! 我が母は貴殿の伯母に当たるのだぞ?」
(だから厳しく罰したのだ。巻き添えは御免だからな)
良通が黙る中、
「黙れ、安藤っ!」
その言葉と共に守就を殴ったのは斎藤飛騨守である。
通常は宿老相手に許されない行動だが、当主の龍興が、
「よくやったぞ、飛騨守」
「はっ」
「安藤の家の代替わりはすぐに行え。抵抗するような輩が居たら、分かってるな、稲葉のジイ?」
「はっ」
こうして竹中重治は投獄され、安藤守就は息子、定治に家督を譲っての隠居となり、斎藤家中は新体制となったのだった。
その裁定から僅か四半刻後。
酒を飲んでいた斎藤龍興、斎藤飛騨守が報告を聞いて、慌てた様子で稲葉山城内の竹中重治を投獄したはずの牢獄の前にきていた。
牢獄の格子は閉じていたが、内は蛻の殻で竹中重治の姿はどこにもない。
「どうなってる? 父を殺した極悪人だぞ。絶対に眼を離すな、と言い渡したではないかっ!」
酒気を帯びた龍興の絶叫に、
「それが我々にも皆目見当が。ちゃんとそこに立って牢を見張っていましたのに忽然と消えまして」
との言い訳をする牢番の言葉を無視して龍興は刀を抜き、そのまま振り抜いた。
「ギャアアア・・・何を」
15歳で剣術も素人なので斬られてもまだ牢番は生きていたが、
「黙れ。おまえらが逃がしたに決まってる。飛騨守、何をしてるっ! 斬れ斬れ、斬ってしまえっ!」
「ははっ!」
その後、その日牢番だった美濃の兵4人が飛騨守に斬り捨てられたのだった。
稲葉山城が望める新年の稲のない田畑が広がる中、稲葉山城の牢獄から脱出して馬に乗る竹中重治が、
「よろしかったのですか、義父上? 先代殺しの汚名を着せられた私を助けても?」
隣で馬に乗る安藤守就に尋ねた。
「もう、あの小僧は主とは思わん」
「ですが織田が春にも攻めてきて、我らが手助けをしないと美濃は滅びますよ」
「そうなのか?」
「はい」
「あんなのに力は貸したくないのう」
そう守就は溜息をついたのだった。
◇
尾張の清洲城。
美濃稲葉山城での竹中重治の失脚による幽閉、更には逃亡情報を聞いた信長が評定の席で、
「良くやったぞ、権六」
そう褒めたのだった。
小牧山の普請奉行ながら清州城の評議に呼ばれた柴田勝家が、
「はっ」
頭を下げた。
「これで邪魔者が居なくなったわ。やっと犬山城攻めが本格的に出来るな。犬山城は美濃方面からも攻めれば落とせんし。権六、将軍家の和議はどうする?」
「まずは逃げた竹中に暗殺者を放ち、完全に息の根を――」
「権六は好きよな、暗殺者。オレの時も放ってたし」
「その節は申し訳ございません」
「まあ、よいわ。竹中の方は好きにせい。それよりも犬山城だ」
「まずは普請をしている小牧山城に入っていただいてーー」
「分かっておるわ。その次の話だ」
「海道一の弓取りである今川義元を討ち取ったのは織田弾正忠家が興ってからの最大の武門の誉れ。それを汚されて黙っているようでは、それはもう武士ではござりませぬ。との将軍家への説得工作でしょうか。それとも手柄を穢された毛利良勝の悔しい男泣きにした方が利くやも」
「そう、それよ。それが聞きたかった」
と信長が手で着物の上から太股を打って、
「これでようやく犬山城に居る裏切り者の信清を始末出来るわ」
喜んだ信長が、
「権六、おまえに家老の地位を与えよう。但し、権六は切れ者で危険過ぎるのでな、犬と内蔵を与力として付けて見張らせるからそう思え」
「ははっ、ありがとうございまする」
こうして柴田勝家は織田家中で復権したのだが、
◇
池田恒興はまだ小牧山の城普請の警備として守備砦で、
「新年になっても清洲に帰れないなんて有り得なさ過ぎる~」
と祝い酒を飲んだのだった。
登場人物、1563年度
今川氏真(25)・・・今川の当主。麒麟児、公家被れの蹴鞠狂いの二つの顔を持つ。母、嶺松院は武田信虎の娘。正室、早川殿は北条氏康の娘。
能力値、麒麟児の氏真A、公家被れの今川A、その正体は富士信仰の申し子A、海道一の弓取りE、政略結婚の結果C、蹴鞠下手A
岡部元信(30)・・・今川家の家臣。通称、五郎兵衛。今川最後の武士。桶狭間の戦いで義元の首級を取り返す。岡部正綱は同年の従兄弟。
能力値、今川最後の武士SS、尾張戦では狂犬監視A、主君を救えずS、今川への忠誠A、今川からの信頼S、今川家臣団での待遇S
石川数正(30)・・・松平の家臣。元康の今川人質時代からの近侍。悪人面の謀臣。元康と信政の入れ替えを独断で実行。入れ替えを知る水野氏の抹殺の機会を窺う。
能力値、元康の懐刀S、総ては三河の為SS、悪人面の謀臣A、元康への忠誠C、元康からの信頼C、松平家臣団での待遇A
毛利良勝(24)・・・織田家の家臣。信長の近習。改名前は新介。織田家で知らぬ者なし。今川義元を討った男。
能力値、今川義元を討った男SS、織田家で知らぬ者なしSS、森可成の推薦A、信長への忠誠S、信長からの信頼B、信長家臣団での待遇A
武田信玄(42)・・・甲斐の虎。甲斐源氏の嫡流。法名は徳栄軒信玄。今川贔屓の義信に今川への裏切りを伝えず。川中島の戦いで多数の家臣を亡くす。
能力値、甲斐の虎SS、風林火山陰雷SS、家臣の層の厚さS、金山枯らしS、出身国の運の悪さS、義信との不仲B
春日虎綱(36)・・・武田家の家臣。武田二十四将の一人。別名、高坂昌信。通称、源五郎。第4次川中島の戦いで自慢の顔を負傷する。
能力値、風林火山陰A、信玄との阿吽の呼吸SS、自慢の顔に傷B、信玄への忠誠SS、信玄からの信頼SS、武田家臣団での待遇A
甘粕景持(41)・・・上杉家の家老。上杉四天王の一人。越後三条城主。弓の景持。政虎の影響で毘沙門天を信仰する。関東管領職を襲名した政虎に傾倒する。
能力値、弓の景A、毘沙門天信仰S、正義は上杉にありS、政虎への絶対忠誠SS、政虎からの信頼C、上杉家臣団での待遇S
柿崎景家(50)・・・上杉家の宿老。上杉四天王の一人。別名、弥次郎。上杉軍の副将。柿崎城主。政虎の尻ぬぐいをする苦労人。部下に突撃を強いる猪武者との誤解を受けてる。
能力値、馬集めの景家A、浮世離れした大将を補佐する苦労人A、主を追って猪武者の真似A、政虎への忠誠B、政虎からの信頼B、上杉家臣団での待遇SS
稲葉良通(48)・・・斎藤家の六宿老。斎藤義龍の母親、深芳野の弟。別名、彦四郎。蝮の八の牙。きかん坊。誠の仁者。
能力値、蝮の八の牙の良通A、きかん坊A、斎藤家の家宰S、龍興への忠誠A、龍興からの信頼S、斎藤家臣団での待遇SS
竹中重治(19)・・・斎藤家の家臣。大御堂城主の竹中重元の息子。美濃の今孔明。容貌婦人の如し。正室は安藤守就の娘。謀略で失脚、牢獄より逃亡する。
能力値、美濃の今孔明SS、容貌婦人の如しA、健康な肉体A、龍興への忠誠D、龍興からの信頼E、美濃のお尋ね者A
安藤守就(50)・・・斎藤家の六宿老の一人。西美濃三人衆の一人。娘婿が竹中重治。母が稲葉良通の伯母。竹中重治の連座で失脚。龍興から愛想を尽かす。
能力値、蝮の七の牙の守就A、玉を拾うSS、喰わせ者の守就A、斎藤家三代への忠誠E、龍興からの信頼E、斎藤家臣団での待遇E
斎藤飛騨守(18)・・・斎藤家の縁者。先代、義龍が付けた龍興の御側衆。佞臣よりも酷い美濃斎藤家の家督を企む者。
能力値、甲州金をドッサリA、龍興を暗愚に育てて美濃斎藤家を乗っ取るA、武田の支援A、竹中排除の密命A、龍興からの信頼A、斎藤家臣団での待遇D
斎藤龍興(15)・・・美濃斎藤家の当主。13歳で家督を継承。酒と女に溺れる。他国の策略で竹中重治を獄に繋ぎ、逃げられる。
能力値、武田の間諜の暗躍SS、戦国時代に飲酒規制なしS、戦国時代に淫行規制なしB、五月蠅い年寄り達A、佞臣を信じるA、今孔明を逃がすA
織田信長(29)・・・将来の天下人。織田家当主。天才肌。奇抜な事が好き。桶狭間の戦いで今川義元に勝利して武名が近隣に轟く。
能力値、天下人の才気SS、うつけの信長S、麒麟の如くS、奇抜な事好きS、新しい物好きSS、火縄銃SS
柴田勝家(33)・・・信勝の元家老。豪傑の容姿とは裏腹に策士。竹中重治を嵌めて家老に復職する。
能力値、悪知恵の柴田A、見た目通りの剛力S、信勝(信行)の家老A、織田家への忠誠D、信長からの信頼E、織田家臣団での待遇C
池田恒興(27)・・・主人公。信長の近習幹部。信長の乳兄弟。織田一門衆と同格扱い。養女の七条は信長の姪。小牧山の城普請の防衛責任者として勤務する。
能力値、信長と養徳院の教えS、大物に気に入られる何かS、ヤラカシ伝説A、信長への絶対忠誠SS、信長からの信頼SS、織田家臣団での待遇S
【岡部元信、1530年生まれ、採用】
【斎藤龍興、父の義龍の死を竹中重治の仕業と信じた説、採用】
【竹中重治、捕縛後に稲葉山城の隠し穴から脱走した説、採用】
【稲葉山城には無数の隠し穴が存在する説、採用】
【斎藤龍興、乱心して牢番を斬る説、採用】
【柴田勝家、この時期に家老を任命される説、採用】
【柴田勝家、与力という名の監視が付く説、採用】
1563年は新年となった目出度い時期に妙な講談が各国で流行した。
駿府の町中にて、
「時は永禄三年、駿河、遠江、三河を平らげた今川義元はその野心を遂には京に居る室町幕府の将軍へと向けて尾張に進軍した。それが許せなかったのがヤマトタケルノミコトの写し身である美濃の竹中重治。その時、齢十六。美濃と尾張とはこの時、敵同士の為、毛利新介と名乗り、悪逆の今川義元に天誅を下すべく桶狭間に乱入。神の御技か、雨を降らせ、雷鳴を轟かせて、今川の雑兵共をバッタバッタと切り倒して、遂には悪の権化、今川義元を倒したのでございました~」
との講談をお忍びで聞いていたのは今川義元の嫡子、今川氏真であった。
「こ、この話、本当に・・・」
桶狭間の戦い後も尾張で奮戦し、遂には交渉で今川義元の首を取り返した岡部元信が怒りで血管を浮かび上がらせながら、
「もう、今川領内中でされておりまする」
「今すぐ止めさせよ」
「はっ」
元信の視線の合図だけで手勢が辻講釈を引っ立てていく。
「それで何者なのだ。その竹中重治という奴は?」
「美濃の家臣らしいです」
「本当に父を討ったのか?」
「わかりません」
「すぐに美濃に問い合わせの書状を送れっ!」
「はっ」
元信はそう答えたのだった。
三河の岡崎城下にて、
「時は永禄三年、駿河、遠江、三河を平らげた悪の権化、今川義元はその野心を遂には京に居る室町幕府の将軍へと向けて尾張に進軍した。それが許せなかったのがヤマトタケルノミコトの写し身である美濃の竹中重治。その時、齢十六。美濃と尾張とはこの時、敵同士の為、毛利新介と名乗り、悪逆の今川義元に天誅を下すべく桶狭間に乱入。神の御技か、桶狭間の地に、雨を降らせ、雷鳴を轟かせて、今川の雑兵共をバッタバッタと斬り倒して、遂には悪の権化、今川義元へと迫る。悪逆を尽くした今川義元もさすがに肝を冷やし、ヤマトタケルノミコトの写し身である竹中重治、変名、毛利新介に土下座をして命乞いをするも、正義の竹中重治はそれを許さず、悪の権化、今川義元を討ち倒したのでございました~」
と辻でやってる講談に足を止めて聞き入ったのは石川数正だった。
(何だ、その与太話は? 意味が分からん)
そしてそのまま岡崎城に登城していったのだった。
尾張津島の繁華街にて、
「時は永禄三年、駿河、遠江、三河を平らげた、悪の権化、今川義元はその野心を遂には京に居る室町幕府の将軍へと向けて十万の兵を率いて尾張に進軍した。その悪の所業を許せなかったのがヤマトタケルノミコトの写し身である美濃の竹中重治。その時、齢十六。美濃と尾張とはこの時、敵同士の為、毛利新介と名乗り、悪逆の今川義元に天誅を下すべく桶狭間に乱入。神の御技か、桶狭間の地に、雨を降らせ、雷鳴を轟かせて、今川の雑兵共をバッタバッタと斬り倒して、遂には悪の権化、今川義元へと迫る。悪逆を尽くした今川義元もさすがに肝を冷やし、ヤマトタケルノミコトの写し身である竹中重治、変名、毛利新介に土下座をして『い、命ばかりは』と命乞いをするも、正義の竹中重治はそれを許さず『将軍家を亡き者としようとする悪党め、この竹中重治の正義の裁きを受けいっ!』と悪の権化、今川義元を倒したのでございました~」
「ふ、ふざけるなっ! オレの手柄を横取りするつもりかっ! ペテン師めっ!」
そう絶叫したのは毛利新介改め良勝である。
「おお、今川義元を討った英雄の」
「さすがは凛々しい」
「そもそも何だ、その竹中とかいう奴?」
「大方、毛利様の手柄を横取りしたかったのでしょうよ」
「ささ、まずは新年の祝い酒を一献」
民衆達も良勝の味方で尾張津島では誰もその講談を信じはしなかったのだった。
甲斐の躑躅ヶ崎の町中では、
「時は永禄四年、関東管領である山内上杉家を脅迫して関東管領職を奪った越後の長尾景虎が遂にその野心を甲斐武田へと向けて北信濃に侵攻した。悪辣な長尾の所業に怒ったのがヤマトタケルノミコトの写し身である美濃の竹中重治、御年十七。原大隅守と名乗り、霧の八幡原へと乱入して、悪の長尾景虎を狙うも、景虎は馬に跨り、大胆不敵にも武田の御館様のいる本陣めがけて一直線。遂には武田の御館様に刀を振るう始末。一振り、二振り、武田の御館様が軍配で受けていると、何とか駆け付けたヤマトタケルノミコトの写し身たる竹中重治、いやその時の名は原大隅守。槍を『えいや』と突き出すも上手く馬が避け、長尾景虎は『おお、怖い』と逃げ出し、武田の御館様は一命を取り留めたのでありました~」
そんな講談がせでされており、それを頭巾で顔を隠したお忍びの武田信玄が、
「あれか、源五郎?」
「はい、織田が事前に武田に通達した上で、金をばら撒いて辻講釈にやらせている事です」
同じく頭巾を被って傷を隠してる春日虎綱が答えた。
「こんなので竹中が潰れるのなら苦労しないのだが」
「どうしましょう?」
「しばらく好きにさせておけ」
そんな事を喋って信玄と虎綱は歩いていったのだった。
越後の春日山城の足元の城下町にて、
「時は永禄四年、関東公方に逆らった悪の北条に加担する悪坊主の武田信玄を成敗すべく北信濃へと降り立った関東管領を襲名した上杉政虎を襲ったのは邪法で霧を発生させた魔の八幡原であった。悪辣な武田の罠に上杉軍は絶対絶命。そこに駆け付けたのはヤマトタケルノミコトの写し身である美濃の竹中重治、御年十七。白頭巾を被って顔を隠し、白馬に跨り、荒川伊豆守と名乗り、武田の本陣めがけて一騎駆けして、遂には悪坊主の武田信玄に斬り掛かるも、邪魔が入り、遂には首が取れずじまい。それでも悪坊主はヤマトタケルノミコトの写し身、竹中重治に神威に肝を冷やし、以後、悪さをしなくなったのでございました~」
との講談が終わると同時に、激昂して、
「ふざけるなっ! 我が殿の手柄を横取りする気かっ!」
そう叫んだのは上杉政虎に心酔する甘粕景持である。
「こら、落ちつけ。いつものありがたい真言でも唱えていろ」
柿崎景家が止め、
「オン・ベイシラマンダヤ・ソワカ、オン・ベイシラマンダヤ・ソワカ・・・」
と景持は真言を唱えたが、
「いいや、やっぱりダメだ。こんなのは認められん。殿は気にせんだろうが美濃に詰問状を送ってやる」
そう怒りながら春日山城に上っていったのだった。
関係国だけではなく京や堺を始めとした畿内でもこの辻講釈は広くやられた為、ヤマトタケルノミコトの写し身として竹中重治は一躍時の人になったのだった。
◇
そんな訳で美濃には連日、各国からの書状が届いた。
もはや呆れ気味の稲葉良通が、
「で、ヤマトタケルノミコトの写し身の竹中、おまえ、こんな卑怯な真似をしてまで有名になりたいのか?」
馬鹿にしたように竹中重治を見た。
重治は馬鹿馬鹿しい限りの質問の辟易しながら、
「そんな訳がないではありませんか。私ではありません。尾張の策謀です」
「尾張の策謀? 意味が分からんな。おまえをヤマトタケルノミコトの写し身と宣伝して尾張の織田に何の得があると言うんだっ! 言ってみろっ?」
激昂した良通が大声を出し、
(そんな事も分からぬのか? 将軍家が間に入った美濃と尾張の和議を破る口実にする為だとも)
重治がゲンナリする中、弁護しようと安藤守就が、
「稲葉殿」
そう口を開くも、
「一応聞きますが安藤殿はこの問い合わせの書状の数々をどう思われます?」
「桶狭間の戦いにも、川中島の戦いにも、婿が噛んでいないのは断言出来ますが」
「関東管領上杉の家臣からは厳重な抗議文、首を取られた今川はもちろん、京の将軍家、三好、六角からも真偽の問い合わせ。そんなどうでも良い事の為に新年から西美濃より何度も稲葉山城に呼び出されるこっちの身にもなって下され」
「申し訳ない。婿の不徳でございます」
守就が大人の対応を見せて頭を下げる中、良通が上座を見て、
「それで飛騨守? 殿はどうした?」
「祝い酒を飲み過ぎたらしく『出ぬ』と。ああ、裁定の方は殿より聞いております」
「どのような?」
「『竹中は領地で謹慎』だそうです」
「なっ、それは――」
守就が弁護しようとしたが上手い弁明が思い付かず、良通が、
「当然だ。というか、甘過ぎないか、飛騨守?」
「『安藤の娘婿なので安藤の顔を立てるが今回だけだ』との事です」
「ふむ。まあ、そう言われれば」
良通が引き下がり、
「では、私はこれで」
飛騨守が席を立つ中、
「織田軍が美濃に攻めてきた時は謹慎は解除なのですよね?」
念の為に重治が尋ねれば、
「将軍が命じた和議中にそんな事が起こる訳が無かろうが。そんな事も分からんのか、智慧者が聞いて呆れるわっ!」
飛騨守はそう重治に吐き捨てて退室していったのだった。
(無能が。いや今のは言質を与えぬ為の小芝居か)
「待て、婿殿。攻めてくるのか、織田が?」
「はい、おそらくは秋にでも」
そう重治は断言したのだが、
事態は今孔明の竹中重治の読みよりも、悪く、そして早く動き、
◇
その美濃稲葉山城の城下では満を持して
「時は永禄四年、父、道三殺しを始めとして悪逆を極めた斎藤義龍も遂には年貢の納め時がやってきた。美濃に生まれし、ヤマトタケルノミコトの写し身、竹中重治が『改心せぬか。もう救えぬな、義龍は』と義龍に見切りを付け、稲葉山城に乗り込んで『えいや』と正義の天誅を下したのである。これにより美濃は悪逆の義龍から解放されて民達も救われたのでありました~」
このような話を辻講釈によって広められたのだから。
それに激怒したのが正月からずっと酔い続けていた斎藤龍興である。
謹慎を言い渡した直後に重治は呼び戻されて、
「父を、父を殺したのか、おまえ?」
龍興が直接尋ねた時の怒りに染まった顔を見て、重治は自分の運命を悟った。
(しまった。このような戯言に若殿が乗せられるとは。これは投獄は免れぬ、か。そして美濃は甲斐の餓虎に甲州金を握らされた佞臣の思いのまま。10年後に美濃斎藤家が室町幕府の副将軍として天下を号令する姿も夢と消えるか。今孔明との噂が立った時から嫌な予感を覚えたが。孔明と同じく暗愚の主を仰ぐ破目になるとは。無念)
読め過ぎる頭脳の為、抵抗は無意味だ、と諦めた重治が無言を貫く中、
「今思えば父の死は早過ぎた。死ぬ前年も高熱があったし。おまえが毒を盛ったのか?」
「お待ち下さい、殿。婿に稲葉山城の食事に毒を盛れる訳が・・・」
守就が弁護する中、
(舅殿、それは・・・墓穴です)
「コイツには出来なくても、宿老のおまえには出来たであろうが」
龍興が決め付けた。
「ーーなっ! 私を疑っておられるのですか?」
「父が死んだ直後に織田が攻めてきた時、おまえは稲葉山城から出陣しなかった。日比野のジイと稲葉のジイが織田を追い返す為に出陣し、日比野のジイに至っては討ち死にしたのにだっ! 何故あの時、出陣しなかったっ?」
「それは翌日には尾張の犬山城が信長から離反すると知っていてーー」
「父を殺し、織田に美濃を売り渡す約定を交わしたからであろう」
「そんな、あり得ませぬっ! 証拠もないのに一方的に。承服しかねまするっ!」
「黙れっ! 稲葉のジイ、どう裁くっ!」
と問われて、稲葉良通は、
「竹中は稲葉山城内の獄で幽閉が妥当かと」
(やはり。これで副将軍の許で天下を一統する我が夢は消えるか。まさか、この私がこんな下策にしてやられるとはな。殿様生まれの信長の仕業にしては人の心の機微を読み過ぎている。そうか、小牧山で城普請をしているとは聞いていたが柴田勝家が尾張で復権していたのか)
「犯罪者の舅の安藤は?」
「義龍様に毒を盛った証拠がない以上、これまでの斎藤家への忠誠を加味して、息子の定治殿への代替わりによる隠居が妥当かと」
「なっ、それはあんまりだ、稲葉殿っ! 我が母は貴殿の伯母に当たるのだぞ?」
(だから厳しく罰したのだ。巻き添えは御免だからな)
良通が黙る中、
「黙れ、安藤っ!」
その言葉と共に守就を殴ったのは斎藤飛騨守である。
通常は宿老相手に許されない行動だが、当主の龍興が、
「よくやったぞ、飛騨守」
「はっ」
「安藤の家の代替わりはすぐに行え。抵抗するような輩が居たら、分かってるな、稲葉のジイ?」
「はっ」
こうして竹中重治は投獄され、安藤守就は息子、定治に家督を譲っての隠居となり、斎藤家中は新体制となったのだった。
その裁定から僅か四半刻後。
酒を飲んでいた斎藤龍興、斎藤飛騨守が報告を聞いて、慌てた様子で稲葉山城内の竹中重治を投獄したはずの牢獄の前にきていた。
牢獄の格子は閉じていたが、内は蛻の殻で竹中重治の姿はどこにもない。
「どうなってる? 父を殺した極悪人だぞ。絶対に眼を離すな、と言い渡したではないかっ!」
酒気を帯びた龍興の絶叫に、
「それが我々にも皆目見当が。ちゃんとそこに立って牢を見張っていましたのに忽然と消えまして」
との言い訳をする牢番の言葉を無視して龍興は刀を抜き、そのまま振り抜いた。
「ギャアアア・・・何を」
15歳で剣術も素人なので斬られてもまだ牢番は生きていたが、
「黙れ。おまえらが逃がしたに決まってる。飛騨守、何をしてるっ! 斬れ斬れ、斬ってしまえっ!」
「ははっ!」
その後、その日牢番だった美濃の兵4人が飛騨守に斬り捨てられたのだった。
稲葉山城が望める新年の稲のない田畑が広がる中、稲葉山城の牢獄から脱出して馬に乗る竹中重治が、
「よろしかったのですか、義父上? 先代殺しの汚名を着せられた私を助けても?」
隣で馬に乗る安藤守就に尋ねた。
「もう、あの小僧は主とは思わん」
「ですが織田が春にも攻めてきて、我らが手助けをしないと美濃は滅びますよ」
「そうなのか?」
「はい」
「あんなのに力は貸したくないのう」
そう守就は溜息をついたのだった。
◇
尾張の清洲城。
美濃稲葉山城での竹中重治の失脚による幽閉、更には逃亡情報を聞いた信長が評定の席で、
「良くやったぞ、権六」
そう褒めたのだった。
小牧山の普請奉行ながら清州城の評議に呼ばれた柴田勝家が、
「はっ」
頭を下げた。
「これで邪魔者が居なくなったわ。やっと犬山城攻めが本格的に出来るな。犬山城は美濃方面からも攻めれば落とせんし。権六、将軍家の和議はどうする?」
「まずは逃げた竹中に暗殺者を放ち、完全に息の根を――」
「権六は好きよな、暗殺者。オレの時も放ってたし」
「その節は申し訳ございません」
「まあ、よいわ。竹中の方は好きにせい。それよりも犬山城だ」
「まずは普請をしている小牧山城に入っていただいてーー」
「分かっておるわ。その次の話だ」
「海道一の弓取りである今川義元を討ち取ったのは織田弾正忠家が興ってからの最大の武門の誉れ。それを汚されて黙っているようでは、それはもう武士ではござりませぬ。との将軍家への説得工作でしょうか。それとも手柄を穢された毛利良勝の悔しい男泣きにした方が利くやも」
「そう、それよ。それが聞きたかった」
と信長が手で着物の上から太股を打って、
「これでようやく犬山城に居る裏切り者の信清を始末出来るわ」
喜んだ信長が、
「権六、おまえに家老の地位を与えよう。但し、権六は切れ者で危険過ぎるのでな、犬と内蔵を与力として付けて見張らせるからそう思え」
「ははっ、ありがとうございまする」
こうして柴田勝家は織田家中で復権したのだが、
◇
池田恒興はまだ小牧山の城普請の警備として守備砦で、
「新年になっても清洲に帰れないなんて有り得なさ過ぎる~」
と祝い酒を飲んだのだった。
登場人物、1563年度
今川氏真(25)・・・今川の当主。麒麟児、公家被れの蹴鞠狂いの二つの顔を持つ。母、嶺松院は武田信虎の娘。正室、早川殿は北条氏康の娘。
能力値、麒麟児の氏真A、公家被れの今川A、その正体は富士信仰の申し子A、海道一の弓取りE、政略結婚の結果C、蹴鞠下手A
岡部元信(30)・・・今川家の家臣。通称、五郎兵衛。今川最後の武士。桶狭間の戦いで義元の首級を取り返す。岡部正綱は同年の従兄弟。
能力値、今川最後の武士SS、尾張戦では狂犬監視A、主君を救えずS、今川への忠誠A、今川からの信頼S、今川家臣団での待遇S
石川数正(30)・・・松平の家臣。元康の今川人質時代からの近侍。悪人面の謀臣。元康と信政の入れ替えを独断で実行。入れ替えを知る水野氏の抹殺の機会を窺う。
能力値、元康の懐刀S、総ては三河の為SS、悪人面の謀臣A、元康への忠誠C、元康からの信頼C、松平家臣団での待遇A
毛利良勝(24)・・・織田家の家臣。信長の近習。改名前は新介。織田家で知らぬ者なし。今川義元を討った男。
能力値、今川義元を討った男SS、織田家で知らぬ者なしSS、森可成の推薦A、信長への忠誠S、信長からの信頼B、信長家臣団での待遇A
武田信玄(42)・・・甲斐の虎。甲斐源氏の嫡流。法名は徳栄軒信玄。今川贔屓の義信に今川への裏切りを伝えず。川中島の戦いで多数の家臣を亡くす。
能力値、甲斐の虎SS、風林火山陰雷SS、家臣の層の厚さS、金山枯らしS、出身国の運の悪さS、義信との不仲B
春日虎綱(36)・・・武田家の家臣。武田二十四将の一人。別名、高坂昌信。通称、源五郎。第4次川中島の戦いで自慢の顔を負傷する。
能力値、風林火山陰A、信玄との阿吽の呼吸SS、自慢の顔に傷B、信玄への忠誠SS、信玄からの信頼SS、武田家臣団での待遇A
甘粕景持(41)・・・上杉家の家老。上杉四天王の一人。越後三条城主。弓の景持。政虎の影響で毘沙門天を信仰する。関東管領職を襲名した政虎に傾倒する。
能力値、弓の景A、毘沙門天信仰S、正義は上杉にありS、政虎への絶対忠誠SS、政虎からの信頼C、上杉家臣団での待遇S
柿崎景家(50)・・・上杉家の宿老。上杉四天王の一人。別名、弥次郎。上杉軍の副将。柿崎城主。政虎の尻ぬぐいをする苦労人。部下に突撃を強いる猪武者との誤解を受けてる。
能力値、馬集めの景家A、浮世離れした大将を補佐する苦労人A、主を追って猪武者の真似A、政虎への忠誠B、政虎からの信頼B、上杉家臣団での待遇SS
稲葉良通(48)・・・斎藤家の六宿老。斎藤義龍の母親、深芳野の弟。別名、彦四郎。蝮の八の牙。きかん坊。誠の仁者。
能力値、蝮の八の牙の良通A、きかん坊A、斎藤家の家宰S、龍興への忠誠A、龍興からの信頼S、斎藤家臣団での待遇SS
竹中重治(19)・・・斎藤家の家臣。大御堂城主の竹中重元の息子。美濃の今孔明。容貌婦人の如し。正室は安藤守就の娘。謀略で失脚、牢獄より逃亡する。
能力値、美濃の今孔明SS、容貌婦人の如しA、健康な肉体A、龍興への忠誠D、龍興からの信頼E、美濃のお尋ね者A
安藤守就(50)・・・斎藤家の六宿老の一人。西美濃三人衆の一人。娘婿が竹中重治。母が稲葉良通の伯母。竹中重治の連座で失脚。龍興から愛想を尽かす。
能力値、蝮の七の牙の守就A、玉を拾うSS、喰わせ者の守就A、斎藤家三代への忠誠E、龍興からの信頼E、斎藤家臣団での待遇E
斎藤飛騨守(18)・・・斎藤家の縁者。先代、義龍が付けた龍興の御側衆。佞臣よりも酷い美濃斎藤家の家督を企む者。
能力値、甲州金をドッサリA、龍興を暗愚に育てて美濃斎藤家を乗っ取るA、武田の支援A、竹中排除の密命A、龍興からの信頼A、斎藤家臣団での待遇D
斎藤龍興(15)・・・美濃斎藤家の当主。13歳で家督を継承。酒と女に溺れる。他国の策略で竹中重治を獄に繋ぎ、逃げられる。
能力値、武田の間諜の暗躍SS、戦国時代に飲酒規制なしS、戦国時代に淫行規制なしB、五月蠅い年寄り達A、佞臣を信じるA、今孔明を逃がすA
織田信長(29)・・・将来の天下人。織田家当主。天才肌。奇抜な事が好き。桶狭間の戦いで今川義元に勝利して武名が近隣に轟く。
能力値、天下人の才気SS、うつけの信長S、麒麟の如くS、奇抜な事好きS、新しい物好きSS、火縄銃SS
柴田勝家(33)・・・信勝の元家老。豪傑の容姿とは裏腹に策士。竹中重治を嵌めて家老に復職する。
能力値、悪知恵の柴田A、見た目通りの剛力S、信勝(信行)の家老A、織田家への忠誠D、信長からの信頼E、織田家臣団での待遇C
池田恒興(27)・・・主人公。信長の近習幹部。信長の乳兄弟。織田一門衆と同格扱い。養女の七条は信長の姪。小牧山の城普請の防衛責任者として勤務する。
能力値、信長と養徳院の教えS、大物に気に入られる何かS、ヤラカシ伝説A、信長への絶対忠誠SS、信長からの信頼SS、織田家臣団での待遇S
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