池田恒興

竹井ゴールド

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1562年、小牧山の城普請

蜂須賀党の義理

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 【蜂須賀又十郎、1532年生まれ説、採用】

 【蜂須賀又十郎、蜂須賀正勝の弟説、採用】

 【蜂須賀党、木曽川の川並衆説、採用】





 信長がきまぐれで言い出した風に見える小牧山の建築は実は計算され尽くしており、美濃斎藤家から見ても実に理に適っていた。

 犬山城だけではなく、美濃侵攻の前線基地としても、とても良い立地にあるのだから。

 正直、完成されると迷惑極まりない。

 信広が去った後の犬山城でも織田信清と安藤守就の間で議題になるほどである。

 信清の方は「美濃の兵を使って破壊してやれ」との思惑があり、

「援軍を送って貰えるのでしょうね?」

 と問い、美濃の方もそれくらいは出来るので、

「構いませんよ、美濃の兵を出し・・・」

 安藤守就が安請け合いをしそうになり、それに慌てて、待った、を掛けたのは竹中重治で、

「安藤の義父上ちちうえ、それはなりません。美濃側から京の将軍に和議を打診し、織田が美濃から兵を退いた同年に美濃の兵が尾張を侵攻ではさすがに京への聞こえが悪過ぎますので」

「いやいや、同盟相手であろう。我らは?」

 信清が援軍派遣の正当性を訴えるが、

「尾張領内に美濃の兵が入るのが拙いのです」

「では、美濃は犬山城を見捨てるのか?」

(どうしてそうなる。これだから馬鹿と喋るのは嫌なんだ)

 と重治は思いながらも、

「尾張内の野盗を使えばよろしいかと」

「はん?」

「確か木曽川周辺に巣食っていたと思いましたが」

「ああ、川並衆とかいう日銭稼ぎの連中か。なるほど、さすがは良いところに眼を付けられた」

 信清も納得して小牧山の件を、木曽川に巣食った野盗に丸投げした訳だが。





 木曽川を根城とする織田信清に味方する川並衆とは蜂須賀党の事である。

 その蜂須賀党はこの頃、信長側の調略をモロに受けており、犬山城並びに美濃対策の調略担当の丹羽長秀が蜂須賀正勝と面談していた。

「信長様に味方してはいただけませんか、蜂須賀殿」

「だから何度も言ってるであろうが。渡世には義理というものがあってだな」

「おお、私とした事が。信長様からの蜂須賀殿へのでございまする」

 紐で繋がれた銭の束を幾つも正勝に進呈した。

「ふむ。清州の殿様は相変わらず御仁よな」

 正勝は顔色一つ変えずにいつものように銭を受け取ったのだが、





 今度は信清側からの使いがやってきた。

 使いは名もなき青二才で蜂須賀党をまるで下僕かと勘違いしているかのような態度で、

「犬山の殿からの御命令だ。小牧山を焼き払え、よいな」

 犬山城の連中の蜂須賀正勝に対する態度が悪いのは今更だ。

 なので、別に気にもならない。

 命令とあらばお安い御用だったが、

「ではな」

 と立ち去ろうとしたので、

「あの、何か忘れておられませんかな?」

「はあ?」

「義理ですよ」

「義理とは何だ?」

 勘の悪い青二才が尋ね返したので、無粋な奴め、と正勝は思いながら、

報酬の事ですよ」

「ああ、それは成功した暁に殿からーー」

「冗談でしょ。この渡世、前渡しが基本ですのに。義理をいただくまではこの蜂須賀、動きませんぞ。そう城の殿にお伝え下さるように」

「分かった、伝えよう」

 青二才はそう言って帰っていき、その後、信清が渋々と金を出して蜂須賀正勝の許へと届けられたのだが、その額は信長が毎回出す義理の七分の一でしかなかった。

「話にならんな」

 それが正勝の感想で、弟の又十郎が、

「どうしやす、棟梁。犬山城から義理を貰った以上は動かないとなりませんぜ」

「この程度の義理なら、やりたい奴20人くらいでやらせればいいだろ」

 という事となり。





 数日後。

 小牧山では今日も城の普請が続いていた。

 城の普請なのだ。

 大工だけが集められている訳ではない。

 城に使う材木。

 石垣に使う大石。

 それらを山頂に運ぶ人夫達も多く雇った大規模工事だ。

 その現場監督の普請奉行が柴田勝家なのだが、その勝家の許に池田恒興は顔を出していた。

 敵が出ず、暇だからではない。

 勝家に呼ばれて出向いてきたのだ。

「何、柴田?」

「どうも木曽川の川並衆の連中が混ざってるっぽい。どうにかしてくれ」

「それが何? 日銭でも稼ぎに来てるんだろ?」

「犬山城方の川並衆って意味だよ」

「ああ、もしかして兵じゃなくて川並衆を使って築城の妨害工作をしてきてる?」

「そういう事だ。どうにかしてくれ」

「具体的には?」

「二、三人、怪しい奴の首を・・・」

「それね、了解」

 二つ返事で恒興は了解した。

 別に恒興が冷酷なのではない。

 恒興は武士なのだ。

 敵なら武士だろうと町人だろうと殺す。

 何せ、美濃の蝮なんて油売りから成り上がっている。

 やれる時にこっちがやらないと、後でこちらがやられるのだから。

 それが戦国のなのだ。

 そんな訳で、柴田の手下によって怪しい奴が数名捕まって、中村文荷斎によって恒興の前に連れて来られたのだが、その中に顔見知りの蜂須賀党が一人居た。

「おまえ、武者修行で放浪してる癖に刀も持たないでこんなところで何やってんの?」

 前に甲斐に出向く際に会った男だった。

 名前はとっくに恒興は忘れていたが、蜂須賀党に草鞋を脱いでいた島清興だった。

「えっ? もしかして前に甲斐に出向いた・・・」

「やっぱり、あの時のだよな? 確か名前は右近」

「・・・左近ですけど」

 恒興と清興の数奇な再会だった。

「もしかして出世したの? なら・・・」

「いや、オレは元々偉かったんだよ。でもその事は内緒だぜ」

「なら助けて下さいよ」

「無理無理、蜂須賀党って犬山城方だから」

「前に犬山城の使いじゃないって見破ったけど見逃してあげたでしょうが」

「その甘さが命取りになったな」

 さらりという恒興に、

「ちょ、ズルイでしょ、さすがにそれは」

「仕方ないな。何人で来た?」

 恒興が軽い乗りで尋ねた。

「へ? 20人チョイですけど、それが?」

「売れ、仲間全員を。それで許してやる」

 恒興が冷淡に言い、文荷斎は、

(池田にはがあるんだよな~。敵と平然と仲良くなれる、これが。それを信長が上手く利用して信勝様も嵌められたんだから)

「ちょ、それだとオレ、完全な裏切り者に・・・」

「それしか助かる道はないぞ」

「いやいや、でも裏切って死なれたんじゃあ寝覚めが悪いし」

「分かった。そいつらは殺さずに蜂須賀党に送り返してやる。だから全員の顔を指せ」

「嘘ですよね、正体が分かったら殺すんでしょ」

「いいや」

 と恒興は断言して、

「よそ者のおまえは知らないだろうがな。川並衆が持つ舟は木曽川を越えるのに必要で、美濃攻略をしたい信長様の方針は『どうにかして美濃方の川並衆も味方に抱き込め』なんだよ。だから川並衆には意外に寛容なんだぜ、尾張では。築城の妨害がされてない今ならお目こぼしの解放もありなんだから。いいよな、文荷斎もそれで?」

「ですが次、また見かけた時は・・・」

「ああ、構わん。その時は殺せ。それが信長様なんだから」

 と笑った後に恒興が清興を見て、

「そんな訳で顔を指せ。いいな」

 こうして清興は仕方なく、小牧山の普請の人夫に紛れ込んだ蜂須賀党の全員の顔を指差し、恒興は約束通り23人全員を逃がしたのだった。

「そうそう、蜂須賀党なら義理を渡して帰らさなければな」

 と言って軍用金から堂々と銭を握らせて。





 ◇





 蜂須賀党の屋敷で帰ってきた連中の話を聞いた正勝は、

「全員が殺されずに帰ってきたと思ったら、小牧山では義理までくれた訳か・・・こりゃあ、そろそろ仕える相手を選び直さないといけない時期に差し掛かってきてるのかもな」

 そう呟き、





 そして裏切り者になってしまった島清興は、

「裏切った以上、蜂須賀党にはさすがにもう草鞋を預けられないか。勘助様も死んじまったらしいし。伊勢に寄って一端大和に帰るかな」

 伊勢に出発したのだった。





 登場人物、1562年度

 蜂須賀正勝(36)・・・織田信清の家臣。木曽川の川並衆。野盗扱い。

 能力値、義理の蜂須賀A、野盗扱いB、木曽川の顔役A、信清への忠誠D、信清からの信頼E、信清家臣団での待遇E

 蜂須賀又十郎(30)・・・織田信清の家臣。木曽川の川並衆。野盗扱い。正勝の弟。

 能力値、義理の蜂須賀B、野盗扱いS、蜂須賀党の副棟梁B、信清への忠誠E、信清からの信頼E、信清家臣団での待遇E

 島清興(22)・・・大和の島氏。島豊前守の息子。柳生新介に師事。甲斐の稲富源四郎の客分。山本勘助から兵法を学ぶ。動向を探る為、蜂須賀党の潜入。川中島の戦いを逃す。

 能力値、柳生新陰流の左近B、風火D、武田贔屓B、親からの帰還命令D、川中島を逃すA、面白い物好きB
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