池田恒興

竹井ゴールド

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1561年、甲斐への使い

平手久秀の謹慎

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 【諏訪勝頼、川中島の戦いの時、諏訪に居た説、採用】

 【長谷川橋介、1537年生まれ説、採用】

 【竹中重治の策謀の標的は平手久秀説、採用】

 【信長、策謀に乗ったふりをして平手久秀を謹慎させた説、採用】





 北信濃の海津城から美濃方面に移動の際に信濃中部で必ず眼に付くのが諏訪湖である。

 その諏訪の城下町を移動中の時に、

「そこの武田の武者よ、北信濃から来たのか? 合戦はどうなった?」

 大人5人を引き連れた14、5歳の御曹司っぽいのに声を掛けられた。

 この地を治める豪族の御曹司ってところか、と判断した恒興が、

「役目中に付き、馬上より失礼」

 下馬をするのが面倒臭かったので、まずはそう断った。

「御味方、大勝利っ! 上杉軍など武田が誇る騎馬隊の前に蹴散らしてくれてやりましたわっ!」

 そして高々に宣言した。

 秀吉のような大ボラを恒興がついたのは「武田が織田と誼を通じる」と信玄が約束したからである。

 なのに、負けた、と吹聴したのでは領国の統治に差し障るだろうから。

 恒興の言葉を聞いた御曹司が眼を輝かせる中、

「では、御免」

「うむ、役目大義」

 恒興が騎馬で走り去り、その少年は満足そうに、

「武田の騎馬隊が敵を」

 と呟いたのだった。





 徒歩と騎馬の足では当然、移動距離が全然違う。

 僅か半日で北信濃の八幡原から南信濃の木曽までやってきた恒興は往路で泊まった宿舎に堂々とやってきて、

「泊めてくれ」

 と言った訳だが、恒興が武田の足軽鎧を纏っていたので、すぐに木曽義昌の耳にまでその情報が入り、その日の内に義昌自らが恒興に遭いに来た。

「貴殿は織田家中と名乗ってたはずだが・・・武田に仕えていたのか?」

「いいや、ひょんなことから北信濃での上杉とのいくさに参加してただけでよ。ああ、逃げてきたんじゃないぞ。武田の殿様の許可を貰って離脱したんだから」

「その武田だが上杉に負けたと聞いたが?」

 義昌が探りを入れる中、恒興の中では「もう武田は織田と誼を結んでいる」ので、

「美濃のこすい錯乱工作に踊らされませんように」

「美濃の?」

「ええ、何か小賢しいのがいるらしいですから。多分、喰らいますよ、木曽殿も。『武田に二心を抱いてる』とか流言を流されて窮地に」

「――その時の対処法などを聞けたりは?」

「躑躅ヶ崎館に出向いて直接、武田の殿様に会う事ですかね」

「ふむ。では、その時が来たらそうしよう」

 などと会話したのだった。





 ◇





 木曽から清州城まで馬で一日で移動出来たのは、武田信玄から貰った馬が凄かったからに他ならない。

 だが、織田の支配圏である尾張で武田の足軽鎧を着た騎馬が居たら、そりゃあ、すぐに検問に引っかかり、

「馬鹿、オレは信長様の近習の池田恒興だよっ! さっさと通せよっ! 清洲城に帰るんだからさっ!」

 その度にそう釈明しながら、どうにか清州城に辿り着いた。

 当然、武田の足軽鎧でだ。

 それでも清州城内には一族衆と同格扱いの恒興の顔を知らない者は居らず、

「これは池田殿。良く甲斐からお戻りに。ああ、今はなりません。信長様に『誰も大広間に通すな』と厳命されておりますので」

 そう信長の小姓の長谷川橋介に止められたが、

「オレは大丈夫だって」

 恒興は気軽に返し、更に、

「そもそも清州に戻って一番に帰参の報告をしなかったら信長様のあの御気性ならどうなるかおまえも知ってるだろ? 待てよ。それが分かってて止めるだなんて。橋介はしすけ(本当は『きょうすけ』、恒興だけがわざと『はしすけ』と呼んでる)、おまえ、オレに含むところでもあるのか? それとも兄の与次の方が・・・」

 そういぶかしんだ。

「いえいえ、違います。今、信長様は、その――」

「もしかして機嫌が悪い?」

「凄く」

「なら、尚の事、今すぐ帰参の報告をしないと拙いだろ」

 恒興は廊下を進み、清州城の評議の間に登場して、

「池田恒興、只今、甲斐より無事帰参致しました」

 そう得意げに報告したのだが、

 その大広間では重臣達が座る中、立ち上がった信長が刀を抜いて、平手久秀の前に立っており、平手久秀は正座したまま首筋に信長が握る刀を当てられてるのに、その信長を挑むように見上げて睨み返すという修羅場の真っ最中だった。

 秀吉は蹴られた後なのか、信長の近くで床に額を付けて土下座してる。

「帰参の報告なら後にせい、勝」

 激昂中の信長がそう冷たく言う中、恒興はそれを見た瞬間、総てを悟り、

「やっぱりな」

 ニヤリと笑いながら納得したのだった。

「何が『やっぱり』だ? 勝は何か知っておるのか?」

 聞き捨てならない言葉に信長が問う中、

「切腹した平手の爺様が織田家の軍資金を使い込んでて、その隠し資産があったのに久秀殿が報告せずに私物化して豪遊し、それが信長様にバレてそうなってるんでしょ? 前々からおかしいと思ってたんだ。信長様よりも凄い馬を手に入れる金を平手の爺様が持ってたなんて」

 恒興の余りの推理に、言いがかりを付けられた久秀が、

「全然違うわっ! 潔癖な我が父がそんな事をする訳がなかろうがっ! 前から言ってるがあの馬は本当に馬商をしてる者が『平手家とのお近付きの印に』と置いていったんだよっ!」

「あれ、違った?」

 そう言いながら武田の足軽姿のまま恒興は自分の定位置に移動しながら、

「なら、もしかして美濃の柴田にハメられちゃった?」

 そう第二案を口にすると、信長が鋭く、

「美濃の柴田とは何だ? 権六が噛んでおるのか?」

「いえ、武田曰く、尾張の柴田よりも酷いのが美濃にも居るそうですよ。若い癖に。ええっと確か、斎藤家の宿老の安藤の娘婿だったかな?」

 恒興が言った瞬間に土下座してた秀吉が、

「竹中重治という者の事です、信長様。今孔明と噂になる程の切れ者で平手様も罠に嵌められたと思われまする。お手打ちは平手様の罪が明るみになってからにーー」

 久秀の命乞いをして、信長が恒興に、

「勝、ソイツはどのくらい凄いんだ?」

「北信濃の戦場いくさばでは北条を攻めた関東の関東管領軍5万が後詰めとして北信濃にやってくる、との流言の所為で倍以上の兵数の武田が総崩れ寸前でしたかね」

「武田は上杉に勝ったのか?」

「生き残りはしましたが微妙です。何せ、濃い霧の中で同士討ちまでがありましたから。多分かなり武田に都合良く改竄されると思いますよ。それでもあの負けっぷりだと痛み分けかな?」

「ふむ」

 と考えた信長が恒興に、

「『この久秀が犬山城に内通してる』と聞いたら勝はどう思う?」

「えっ、信長様、信じちゃったんですか、そんなデマカセ?」

 そう即座に聞き返した恒興が笑ってから、すぐに何かに気付いて、

「あっ、今のナシ。ナシですからね、信長様。久秀殿は信長様に馬を譲らなかった件からも分かるように強情なところがありますからね。平手の爺様に怒られてから渋々と渡そうだなんて家臣の風上にも置けませんし。それだけでもお手打ちにされても文句を言えないので、どうぞお手打ちに」

 慌てて前言を撤回して久秀の過去の悪行を羅列し始めたが、全く聞いていない信長が足下に居た秀吉を一発蹴って、

「うぎゃああ、今のは勝様が悪いのに」

 大袈裟に倒れた秀吉が文句を言う中、信長は刀を持ったまま上座に戻って抜き身の刀を小姓の加藤弥三郎改め岩室勘右衛門に渡したのだった。

 上座に座り直した信長が、

「・・・その美濃の柴田、どうしてくれようか?」

 不機嫌そうに言い放った。

 その一言で久秀の内通疑惑は処分なしと決定したのだが。

「長門の仇なのですから当然、オレが殺しますよ」

 恒興が答え、

「どう倒す? おそらくは稲葉山城の中だぞ?」

「そんなの兵を進めて一気に」

 恒興としては本気で答えたつもりであったが、

「まだまだよな~、勝も」

 と信長が林秀貞を見た。

「林のジイ、ソヤツの情報を集めよ」

「はっ」

「信盛は他に犬山城に靡く者が居ないか調べよ」

「畏まりました」

 佐久間信盛が答える。

「久秀は謹慎とする」

 最後の平手久秀の処遇を聞いて、恒興以下全員が、えっ、となる中、秀吉が、

「上手い、さすがは信長様。平手様を謹慎にして美濃の竹中に信長様がまんまと騙されたと見せるのですね」

「そうだ。久秀の許に当然、美濃からの誘いがくる。久秀、どうすればいいか分かっているな?」

「はっ、見事寝返ったふりをして美濃の連中を欺いて御覧に入れます」

 そう久秀は答えて、その後も評定は続き、恒興も甲斐と誼を通じれた事を伝えたのだった。





 登場人物、1561年度

 諏訪勝頼(15)・・・武田信玄の四男。諏訪姓を名乗る。母親は諏訪御寮人。武田家の御曹司ではなく諏訪家の跡取りとして育つ。

 能力値、甲斐の虎の子C、諏訪の怨念A、騎馬隊最高C、信玄への忠誠D、信玄からの信頼E、武田家臣団での待遇D

 長谷川橋介(24)・・・信長の小姓。通称、右近。信長の矢銭徴収の折衝係。兄が与次。最近は茶道に夢中。

 能力値、矢銭狩りの橋介S、面良しA、茶道に夢中C、信長への忠誠B、信長からの信頼A、織田家臣団での待遇A

 平手久秀(35)・・・織田家の家老。信長の近習筆頭。平手政秀の長男。頑固者。父親に顔が似てる。

 能力値、死んだ父親の七光りSS、父親譲りの政務力A、信長への忠誠B、信長からの信頼A、信長家臣団での待遇S、信長に馬を譲らなかった逸話S

 林秀貞(48)・・・織田家の筆頭家老。織田の跡目相続では後見役ながら信長を裏切って信勝を支持する。

 能力値、織田家の家宰B、歳で槍働きはもう無理S、信勝への寝返りは信長の密命B、信長への忠誠B、信長からの信頼B、織田家臣団での待遇SS、

 佐久間信盛(33)・・・織田家の家老。別名、右衛門尉。織田家中随一の知将。しまり屋なのが玉に瑕。

 能力値、織田家の家宰A、しまり屋の信盛A、退き佐久間A、信長への忠誠A、信長からの信頼A、織田家臣団での待遇SS
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