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1561年、甲斐への使い
海津城の炊飯の煙
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【佐々成政、1人で無事に清州城に到着説、採用】
【池田恒興の監視役が原虎吉説、採用】
【原虎吉、1535年生まれ説、採用】
【第4次川中島の戦いに美濃の竹中重治介入説、採用】
【第4次川中島の戦い、武田軍2万8000人説、採用】
【第4次川中島の戦い、上杉軍9000人説、採用】
【第4次川中島の戦い、開戦前から武田軍総崩れ寸前説、採用】
【山本勘助の軍略、啄木鳥戦法で武田軍が2隊に分かれた説、採用】
【上杉政虎、炊飯の煙で武田軍が動くと看破した説、採用】
尾張の清州城に帰ってきた成政は気苦労と共に信長に謁見した。
「おお、御苦労だったな、内蔵。ん? 勝はどうした?」
「それが何と申しましょうか」
「死んだのか?」
澄ましているが一番怒っている時の顔で信長が問うたので、
「いえーー」
成政に嘘をつける度量はなく、清州城出発から躑躅ヶ崎館での会見までを詳しく説明したら、
「武田の重臣達の前で桶狭間で武田が織田に味方した事を暴露して武田の嫡子を怒らせた? それは上々」
信長は心底愉快そうに笑ったのだった。
「ですが、戦の手柄勝負をする事となり、オレだけが先に帰らされました。申し訳ございません」
「まあ、問題なかろう。勝は手柄を結構立ててるからな」
「ですがーー」
「よいよい、余り気にするな、内蔵。勝ならその内、ふらりと戻ってくるだろうさ」
そう笑い、信長は1人で帰ってきた成政を労ったのだった。
◇
一方の甲斐に残った池田恒興の方は、
甲斐の躑躅ヶ崎館から北信濃の茶臼山を経て海津城まで移動しており、
「城に入り切らないって味方だけで何人居るんだよ、これ?」
海津城に入り切らない武田軍を見て、普段は不敵な恒興もそう呟かずにはいられなかった。
因みに恒興の今の恰好は武田で借りた足軽鎧だ。
「御味方は1万8000人との事です」
そう答えるのは山本勘助が恒興の護衛番として付けた原大隅守だった。
名は虎吉らしいが、
「虎吉なんて弱そうですから。こちらを名乗ってまして」
「虎と吉が入ってるんだから縁起がいいと思うがな」
初対面の挨拶でそんな言葉を交わしている。
「えっ、1万8000人なの? もっと多いと思ったけど」
恒興はそう呟きながら、
(もしかして少数に吹聴して敵の油断を誘ってる? 色々と考えてるね~)
妻女山の山頂に布陣する越後上杉の軍勢を見た。
「さすがは甲斐と南信濃を完全に支配してる武田だな~。オレとしてはもっと少数の小競り合いを想像してたんだが。双方合わせて3万人を越える大戦だとは」
「何だ、もう負けた時の言い訳かな?」
と現れたのは片足が不自由な隻眼の老将、山本勘助と今回の勝負の相手の武藤喜兵衛だった。
「これは審判役の山本殿、それに勝負のお相手の武藤殿まで。この度の勝負の方、お手柔らかにお頼みしますね」
「やめい。今更そんな見え透いた小芝居は」
「では普段通りに。勝負は公平なんですよね? 武藤殿に必勝の策とか授けないで下さいよ、山本殿?」
「必勝の策?」
「ええ、『戦中、アヤツの傍にずっと貼り付け。そしてアヤツが手柄を上げそうになったら横取りしてやれ。これで完勝じゃ』です」
「する訳ないでしょ、そんな事をしなくても余裕で勝てますのに」
少年武者の喜兵衛が怒ってそう言い放つのに対して、
「ああ~、ダメだわ、それは。ねえ、山本殿?」
「・・・」
「何がダメなんですか?」
勘助は呆れ気味の苦笑で留めたが、まだまだ子供の喜兵衛はそう質問した。
「腹芸も身に付けろって事だよ。山本殿なら今の返事は『おお、そんないい方法が。これは良い事を聞いたわい』だぞ。大きな戦で手柄を立てたいのは分かるが。今のはオレがおまえさんの動きを言葉で誘導したんだぜ。これで貼り付かれる心配が無くなってオレも大助かりさ。正直それをされると負けてたからな、今回。もう勝負は始まってるって事さ」
恒興が笑いながら、そう長々と説明した。
恒興には過去に信長の小姓の教育係というクソ面倒臭い仕事をやらされた事があり、小姓が失敗すると信長に恒興が怒られるので子供相手にも手を抜かずに説明する癖が身に付いていたのだ。
勘助が、
「今日来たのはその勝負の事だ。織田の客人が武田軍のどこに布陣したいのかの確認なのだが、どこに布陣したい?」
「無論、本陣ですよ。それも出来れば武田の殿様のすぐ傍」
助が隻眼を光らせて警戒しながら、
「何故か聞いても?」
「敵の情報が逐一集まるからですよ」
「それは分かるが、それでは手柄が立てられんであろうが?」
「? どうしてです?」
「?」
「敵兵は本陣の武田の殿様を目指してやってくるのに? 本陣で待ってたら敵の情報が入ってきて、その上、敵が近付いてきてくれる。最高の場所でしょ、手柄が一番転がってて」
「なるほどのう。他に本陣に居たい下心は無かろうな?」
「まあ、武田の殿様が逃げるのも分かるから、ってのも無きにしも非ずですが」
「この戦、武田が負けると思ってるのか?」
勘助の質問に、
「またまた。山本殿も気付いてる癖に~。武田軍の雑兵の士気が上がっていない事を。それで茶臼山から仕方なく海津城に入ったのでしょう?」
「チッ、良く見ておるのう」
「関東の北条を10万で攻めた関東管領軍。その関東管領軍の後詰め5万が関東から北信濃に接近中。武田の陣中でこんな根も葉もない噂が広まるのを許すだなんて。長尾改め上杉の諜報部隊を褒めるべきですかね、これは?」
「いや、これは上杉の策謀ではないぞ」
「えっ? まさか、駿河の麒麟児とか言わないでしょうね?」
「違う違う。美濃さ。死んだ義龍と入れ替わるように面倒なのが幅を利かせ始めてな。お陰で今、武田はこのザマさ」
「美濃にそんな凄いの居ましたっけ?」
「何だ、織田もやられたはずであろうが。もしかしてまだ気付いておらんのか?」
「織田がやられたって何の事です? ーー待った。美濃の稲葉山城攻めの最中に犬山城で一門衆の織田信清が寝返ったのって」
「それだよ。ソヤツの差し金だからな」
「ほう。つまり小口城で長門が死んだのも美濃のソイツの――」
表情は普段通りの恒興と一緒だったが凄味だけが急に増した。
勘助と喜兵衛は気付かないふりをして、
「美濃の宿老の安藤が娘をやった奴だ。後は自分で調べるが良かろう」
「御助言ありがとうございます、山本殿」
「ではな」
勘助と喜兵衛は歩いていったのだが、
恒興と離れた2人が、
「今のを見たか、喜兵衛?」
「はい。あっちが本当の顔だったんですね。これは舐めて掛かると拙いかも」
「まだそんな事を言っておるのか。あっちの方が格上なのに」
「どこがですか?」
「武勇や知略では測れない実力以外の何かがだ。稀に居る。上杉の当主もその類だからな」
「理解が出来ませんが」
「今回の戦が終われば嫌でも体感出来るであろうさ」
「オレが負けるとお考えで?」
「それ以前に勝負自体が流れる可能性がある。甚だ不本意だがな」
「2万8000の武田軍が9000の上杉軍に負けると?」
「誰に物を言っておるのじゃ。我が軍略の秘儀を用いても武田を勝たすわ」
そう勘助は吐き捨てたのだった。
海津城内では信玄が不機嫌そうに、
「クソ、三倍の兵数を集めたのにこのような見え透いた流言一つで浮足立つとはーーこの流言の出所は美濃斎藤の宿老の安藤で、実行者は竹中重治とかいう若僧で間違いないのだな、信繁?」
「はい、間違いございません」
「ここまでコケにされたのは久しぶりだ。礼に斎藤の名跡を継いだ小僧を酒と女漬けにしてやれ」
「直ちに」
信繁が答える中、勘助が、
「美濃の報復もよろしいですが、まずは眼の前の上杉を」
「上杉ではない。長尾だ。長尾が兵権で上杉家を脅迫して関東管領職を奪った。武田の主張はこれでいく」
「はっ」
「して何か必勝の策は浮かんだか? 今回は雪が降り長尾が帰るのを待つ訳にもいかんぞ。武田の兵はいつ総崩れになってもおかしくない状態だからな」
信玄の認識は正しく、武田軍が今悩んでるのはそこだった。
「はい。出来ましてございます」
自信満々に勘助は信玄にその戦法の概要を説明した。
早い話が別動隊を使った挟撃だが、啄木鳥が嘴で虫の潜む木を叩き、驚いて飛び出してきた虫を喰らう事に例えて、
「啄木鳥戦法、と名付けました」
「ほう。なるほどな。悪くない。勘助、虫をどこで喰らう?」
「八幡原がよろしいかと」
「よし、直ちにその計を実行するぞ。足軽どもに今回の戦の褒賞は三倍だと伝えよ」
「本当に三倍支払われるので?」
「勝てればな」
信玄はニヤリと笑ったのだった。
一方の妻女山の山頂では、
「オン・ベイシラマンダヤ・ソワカ」
改名したばかりの上杉政虎が毘沙門天の真言を唱えながら海津城に布陣した武田軍を見ていた。
柿崎景家がやってきて、
「関東管領様、何を見ておられるのですか?」
「雲だったが、今は雲に伸びてきた無粋な海津城の炊飯の煙だな」
「?」
「普段より煙が出てる刻が長いのだが、それをどう見る?」
「純粋に飯を多く焚いているのかと」
「何故、飯を多く焚いていると思う?」
「それはーー」
遅蒔きに気付いた景家が、
「直ちに将を集めまする」
「うむ、良きに計らえ」
政虎はそう答えたのだった。
海津城の方では足軽の間で、
「おい、聞いたか? 今回の戦、褒賞が三倍だってよ」
「本当か? なら頑張らないとな」
「それに関東からの兵、遅れてるらしくって、その間に眼の前の敵を叩くんだってよ」
「おお、なら勝てるな」
そんな話がされており、恒興は、
「欲で動かすか。雑兵には効果的だな。今度、信長様に進言してみるか」
そう呟いたのだった。
登場人物、1561年度
原虎吉(26)・・・武田の家臣。通称、大隅守。信玄直属で勘助統括の隠密所属。恒興が武田に害する行動を取った場合の暗殺許可が出てる。
能力値、勘助の子飼いB、知り難きこと陰の如くC、暗殺はお手の物B、勘助への忠誠B、勘助からの信頼S、武田家臣団での待遇E
上杉政虎(31)・・・山内上杉家の養子にして当主。室町幕府の関東管領。越後の今義経。強運持ちで有名で「毘沙門天の加護がある」との噂が立つほど。
能力値、山内上杉家を継承A、越後の龍S、毘沙門天の加護SS、雲を愛すA、俗世嫌いB、先頭懸けの今義経A
柿崎景家(48)・・・上杉家の宿老。上杉四天王の一人。別名、弥次郎。上杉軍の副将。柿崎城主。政虎の尻ぬぐいをする苦労人。部下に突撃を強いる猪武者との誤解を受けてる。
能力値、馬集めの景家A、浮世離れした大将を補佐する苦労人A、主を追って猪武者の真似A、政虎への忠誠B、政虎からの信頼B、上杉家臣団での待遇SS
【池田恒興の監視役が原虎吉説、採用】
【原虎吉、1535年生まれ説、採用】
【第4次川中島の戦いに美濃の竹中重治介入説、採用】
【第4次川中島の戦い、武田軍2万8000人説、採用】
【第4次川中島の戦い、上杉軍9000人説、採用】
【第4次川中島の戦い、開戦前から武田軍総崩れ寸前説、採用】
【山本勘助の軍略、啄木鳥戦法で武田軍が2隊に分かれた説、採用】
【上杉政虎、炊飯の煙で武田軍が動くと看破した説、採用】
尾張の清州城に帰ってきた成政は気苦労と共に信長に謁見した。
「おお、御苦労だったな、内蔵。ん? 勝はどうした?」
「それが何と申しましょうか」
「死んだのか?」
澄ましているが一番怒っている時の顔で信長が問うたので、
「いえーー」
成政に嘘をつける度量はなく、清州城出発から躑躅ヶ崎館での会見までを詳しく説明したら、
「武田の重臣達の前で桶狭間で武田が織田に味方した事を暴露して武田の嫡子を怒らせた? それは上々」
信長は心底愉快そうに笑ったのだった。
「ですが、戦の手柄勝負をする事となり、オレだけが先に帰らされました。申し訳ございません」
「まあ、問題なかろう。勝は手柄を結構立ててるからな」
「ですがーー」
「よいよい、余り気にするな、内蔵。勝ならその内、ふらりと戻ってくるだろうさ」
そう笑い、信長は1人で帰ってきた成政を労ったのだった。
◇
一方の甲斐に残った池田恒興の方は、
甲斐の躑躅ヶ崎館から北信濃の茶臼山を経て海津城まで移動しており、
「城に入り切らないって味方だけで何人居るんだよ、これ?」
海津城に入り切らない武田軍を見て、普段は不敵な恒興もそう呟かずにはいられなかった。
因みに恒興の今の恰好は武田で借りた足軽鎧だ。
「御味方は1万8000人との事です」
そう答えるのは山本勘助が恒興の護衛番として付けた原大隅守だった。
名は虎吉らしいが、
「虎吉なんて弱そうですから。こちらを名乗ってまして」
「虎と吉が入ってるんだから縁起がいいと思うがな」
初対面の挨拶でそんな言葉を交わしている。
「えっ、1万8000人なの? もっと多いと思ったけど」
恒興はそう呟きながら、
(もしかして少数に吹聴して敵の油断を誘ってる? 色々と考えてるね~)
妻女山の山頂に布陣する越後上杉の軍勢を見た。
「さすがは甲斐と南信濃を完全に支配してる武田だな~。オレとしてはもっと少数の小競り合いを想像してたんだが。双方合わせて3万人を越える大戦だとは」
「何だ、もう負けた時の言い訳かな?」
と現れたのは片足が不自由な隻眼の老将、山本勘助と今回の勝負の相手の武藤喜兵衛だった。
「これは審判役の山本殿、それに勝負のお相手の武藤殿まで。この度の勝負の方、お手柔らかにお頼みしますね」
「やめい。今更そんな見え透いた小芝居は」
「では普段通りに。勝負は公平なんですよね? 武藤殿に必勝の策とか授けないで下さいよ、山本殿?」
「必勝の策?」
「ええ、『戦中、アヤツの傍にずっと貼り付け。そしてアヤツが手柄を上げそうになったら横取りしてやれ。これで完勝じゃ』です」
「する訳ないでしょ、そんな事をしなくても余裕で勝てますのに」
少年武者の喜兵衛が怒ってそう言い放つのに対して、
「ああ~、ダメだわ、それは。ねえ、山本殿?」
「・・・」
「何がダメなんですか?」
勘助は呆れ気味の苦笑で留めたが、まだまだ子供の喜兵衛はそう質問した。
「腹芸も身に付けろって事だよ。山本殿なら今の返事は『おお、そんないい方法が。これは良い事を聞いたわい』だぞ。大きな戦で手柄を立てたいのは分かるが。今のはオレがおまえさんの動きを言葉で誘導したんだぜ。これで貼り付かれる心配が無くなってオレも大助かりさ。正直それをされると負けてたからな、今回。もう勝負は始まってるって事さ」
恒興が笑いながら、そう長々と説明した。
恒興には過去に信長の小姓の教育係というクソ面倒臭い仕事をやらされた事があり、小姓が失敗すると信長に恒興が怒られるので子供相手にも手を抜かずに説明する癖が身に付いていたのだ。
勘助が、
「今日来たのはその勝負の事だ。織田の客人が武田軍のどこに布陣したいのかの確認なのだが、どこに布陣したい?」
「無論、本陣ですよ。それも出来れば武田の殿様のすぐ傍」
助が隻眼を光らせて警戒しながら、
「何故か聞いても?」
「敵の情報が逐一集まるからですよ」
「それは分かるが、それでは手柄が立てられんであろうが?」
「? どうしてです?」
「?」
「敵兵は本陣の武田の殿様を目指してやってくるのに? 本陣で待ってたら敵の情報が入ってきて、その上、敵が近付いてきてくれる。最高の場所でしょ、手柄が一番転がってて」
「なるほどのう。他に本陣に居たい下心は無かろうな?」
「まあ、武田の殿様が逃げるのも分かるから、ってのも無きにしも非ずですが」
「この戦、武田が負けると思ってるのか?」
勘助の質問に、
「またまた。山本殿も気付いてる癖に~。武田軍の雑兵の士気が上がっていない事を。それで茶臼山から仕方なく海津城に入ったのでしょう?」
「チッ、良く見ておるのう」
「関東の北条を10万で攻めた関東管領軍。その関東管領軍の後詰め5万が関東から北信濃に接近中。武田の陣中でこんな根も葉もない噂が広まるのを許すだなんて。長尾改め上杉の諜報部隊を褒めるべきですかね、これは?」
「いや、これは上杉の策謀ではないぞ」
「えっ? まさか、駿河の麒麟児とか言わないでしょうね?」
「違う違う。美濃さ。死んだ義龍と入れ替わるように面倒なのが幅を利かせ始めてな。お陰で今、武田はこのザマさ」
「美濃にそんな凄いの居ましたっけ?」
「何だ、織田もやられたはずであろうが。もしかしてまだ気付いておらんのか?」
「織田がやられたって何の事です? ーー待った。美濃の稲葉山城攻めの最中に犬山城で一門衆の織田信清が寝返ったのって」
「それだよ。ソヤツの差し金だからな」
「ほう。つまり小口城で長門が死んだのも美濃のソイツの――」
表情は普段通りの恒興と一緒だったが凄味だけが急に増した。
勘助と喜兵衛は気付かないふりをして、
「美濃の宿老の安藤が娘をやった奴だ。後は自分で調べるが良かろう」
「御助言ありがとうございます、山本殿」
「ではな」
勘助と喜兵衛は歩いていったのだが、
恒興と離れた2人が、
「今のを見たか、喜兵衛?」
「はい。あっちが本当の顔だったんですね。これは舐めて掛かると拙いかも」
「まだそんな事を言っておるのか。あっちの方が格上なのに」
「どこがですか?」
「武勇や知略では測れない実力以外の何かがだ。稀に居る。上杉の当主もその類だからな」
「理解が出来ませんが」
「今回の戦が終われば嫌でも体感出来るであろうさ」
「オレが負けるとお考えで?」
「それ以前に勝負自体が流れる可能性がある。甚だ不本意だがな」
「2万8000の武田軍が9000の上杉軍に負けると?」
「誰に物を言っておるのじゃ。我が軍略の秘儀を用いても武田を勝たすわ」
そう勘助は吐き捨てたのだった。
海津城内では信玄が不機嫌そうに、
「クソ、三倍の兵数を集めたのにこのような見え透いた流言一つで浮足立つとはーーこの流言の出所は美濃斎藤の宿老の安藤で、実行者は竹中重治とかいう若僧で間違いないのだな、信繁?」
「はい、間違いございません」
「ここまでコケにされたのは久しぶりだ。礼に斎藤の名跡を継いだ小僧を酒と女漬けにしてやれ」
「直ちに」
信繁が答える中、勘助が、
「美濃の報復もよろしいですが、まずは眼の前の上杉を」
「上杉ではない。長尾だ。長尾が兵権で上杉家を脅迫して関東管領職を奪った。武田の主張はこれでいく」
「はっ」
「して何か必勝の策は浮かんだか? 今回は雪が降り長尾が帰るのを待つ訳にもいかんぞ。武田の兵はいつ総崩れになってもおかしくない状態だからな」
信玄の認識は正しく、武田軍が今悩んでるのはそこだった。
「はい。出来ましてございます」
自信満々に勘助は信玄にその戦法の概要を説明した。
早い話が別動隊を使った挟撃だが、啄木鳥が嘴で虫の潜む木を叩き、驚いて飛び出してきた虫を喰らう事に例えて、
「啄木鳥戦法、と名付けました」
「ほう。なるほどな。悪くない。勘助、虫をどこで喰らう?」
「八幡原がよろしいかと」
「よし、直ちにその計を実行するぞ。足軽どもに今回の戦の褒賞は三倍だと伝えよ」
「本当に三倍支払われるので?」
「勝てればな」
信玄はニヤリと笑ったのだった。
一方の妻女山の山頂では、
「オン・ベイシラマンダヤ・ソワカ」
改名したばかりの上杉政虎が毘沙門天の真言を唱えながら海津城に布陣した武田軍を見ていた。
柿崎景家がやってきて、
「関東管領様、何を見ておられるのですか?」
「雲だったが、今は雲に伸びてきた無粋な海津城の炊飯の煙だな」
「?」
「普段より煙が出てる刻が長いのだが、それをどう見る?」
「純粋に飯を多く焚いているのかと」
「何故、飯を多く焚いていると思う?」
「それはーー」
遅蒔きに気付いた景家が、
「直ちに将を集めまする」
「うむ、良きに計らえ」
政虎はそう答えたのだった。
海津城の方では足軽の間で、
「おい、聞いたか? 今回の戦、褒賞が三倍だってよ」
「本当か? なら頑張らないとな」
「それに関東からの兵、遅れてるらしくって、その間に眼の前の敵を叩くんだってよ」
「おお、なら勝てるな」
そんな話がされており、恒興は、
「欲で動かすか。雑兵には効果的だな。今度、信長様に進言してみるか」
そう呟いたのだった。
登場人物、1561年度
原虎吉(26)・・・武田の家臣。通称、大隅守。信玄直属で勘助統括の隠密所属。恒興が武田に害する行動を取った場合の暗殺許可が出てる。
能力値、勘助の子飼いB、知り難きこと陰の如くC、暗殺はお手の物B、勘助への忠誠B、勘助からの信頼S、武田家臣団での待遇E
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