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1561年、甲斐への使い
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【甲斐武田への使者に池田恒興と佐々成政が選出説、採用】
【使者の道は美濃方面説、採用】
【島清興、若き日に武者修行の旅に出て一時期、蜂須賀党に草鞋を抜いでた説、採用】
【木曽義昌、若き頃から甲斐に含む物あり説、採用】
内応疑惑の噂が広がった池田恒興と佐々成政に下された信長の指令は甲斐の武田信玄への使者役だった。
問題は甲斐までの道である。
舟で駿河まで移動して甲斐に向かう道順はダメだ。昨年、今川義元を倒したばかりなのだから。尾張織田の人間だとバレたら最後、厳しい詮議が待っている。
舟で更に東の相模に向かうのもダメだ。桶狭間で信長が義元の首を取った事に触発されてか、関東管領になった長尾景虎が昨年から関東中の兵を集めて北条を攻めている。そんな戦場を移動するのは不可能だ。
残る道筋は、
三河から武田の領地の南信濃に入る道か。
美濃から武田の領地の南信濃に入る道か。
この二つだ。
当然、北陸から越後へ移動して北信濃から甲斐に向かうという迂回する道は日数が掛かり過ぎるので除外とするが。
まずはこの道順で恒興と成政は揉めた。
恒興からすれば三河は鬼門だ。
三河松平の竹千代を信長のふりをして火縄銃で撃っている。
成政からすれば美濃の方が鬼門である。
斎藤家の家老、稲葉良通の叔父の首級を上げて尾張で内応の流言まで広められている。
下手をすれば今この時も尾張での動向を斎藤の間者に見張られてるかもしれない。
その状態で美濃に入るのは選択肢としてあり得なかった。
お陰で2人は揉めて、普段なら恒興に折れる成政も、
「今回は信長様の裁定を仰ごう」
信長に決めて貰う事となった。
成政からすれば、頭脳明晰な信長なら三河方面を指示してくれるだろうと思っての提案だったが、信長の方も竹千代との会見前に恒興が影武者だったのが露見する危険は冒したくない。
そうでなくても恒興は何かとやらかす男だ。
同盟を組んだばかりの三河で騒動を起こして会見が流れたら面白くない。
そこで、
「美濃から行け」
となった。
美濃方面から甲斐に向かう道の最大の難所は尾張である。
尾張の木曽川の川並衆の蜂須賀党は織田信長を裏切った織田信清に仕えていたからだ。
つまり信清が裏切った今、信長方とは敵同士だ。
だが、それまでは味方同士だったので、恒興も成政も信清方の内情に精通しており、実在する武士の名前を拝借して堂々と蜂須賀党の宿場で一泊していた。
「甲斐か。オレも行って武田の兵法を習得してみたかったな~」
と言ったのは蜂須賀党の宿場の若き用心棒だった。
「ん? 蜂須賀党の人間なのに甲斐に行きたいのか、左近って?」
何故か波長が合って名前を聞くくらい仲良くなった恒興が尋ねた。
因みに、成政の方は敵陣のど真ん中なので過度に緊張して無言だ。
「いやいや、オレは元々大和出身だよ。武者修行の旅に出て、ここで金子が尽きて旅費を稼ぐ為に蜂須賀党に草鞋を脱いでるだけだから」
「へ~、武者修行も大変なんだな~」
「そちらさんの方が大変そうだけどね」
「? 何故だ?」
「犬山城の人間って嘘なんでしょ?」
小声で看破してくる中、左近に、
「どうしてそう思う?」
「お連れさんがあれだけ正直ならね」
「確かに。内緒だぞ」
恒興もさらりと答えた。
それだけだ。
左近は蜂須賀党に密告するようなケチな男ではなく、一泊しても捕縛される事はなく、二人はそのまま信州方面へと移動した。
美濃も抜けて、南信濃の木曽に着いたのだが、その木曽の城下で、
「そこのおまえ、随分と立派な刀を下げてるではないか」
御供付きの、馬に乗った若武者に馬上から声を掛けられた。
声を掛けてきたのはどう見ても若殿風だったのだが、徒歩移動に辟易していた恒興が、
「ちょうど良いところに。武田の家中だよな? 馬を貸してくれ。甲斐の躑躅ヶ崎館まで行くから」
「馬鹿、止めろ。ハハハ、お気になさらずに」
成政が何とか誤魔化そうとしたが、
「何をしに出向く?」
若殿の質問に、
「書状をーー」
「だからベラベラと喋るなと言うにっ!」
「何で?」
「武田の敵だったらどうする?」
「えっ、ここ、武田の領土だよな?」
「違う。木曽の領土だ。木曽源氏の本拠地だろうが。武田源氏に従ってるのを内心快く思ってなかったらどうするつもりだ? 殺されるぞ、オレ達?」
「そうなの?」
本人に直接聞ける恒興だったが、聞かれた若殿とその取り巻きは逆に警戒し、
「何者なのか聞こうか?」
「尾張織田家中。織田の殿の書状を甲斐の殿様に届けてる最中だけど」
「良く来られた。本日の宿所を手配しよう」
待遇が良くなり、木曽では宿場まで手配してくれたのだった。
本日の宿所の部屋で休む恒興は呑気に、
「いや~、言ってみるもんだな。待遇がこんなに良くなるなんて」
「違うだろ。これは警戒されてるんだよ。気付けよ、恒興」
「そうなの?」
「ずっと見張られてるだろうが?」
「あれは女中さんがよそ者の若いオレ達に興味津津なだけで」
「どうしてそんなに楽観的なんだ、おまえは? 本当に信じられないぞ。尾張の信清みたいに木曽が武田に背くところだったらどうするつもりだ?」
「それはないって。あの若殿は思慮深そうだったから」
「確かに。それでも警戒だけはしてろよ」
「分かったよ」
こうして木曽で一泊するも命を狙われる事もなく、甲斐に向かう事が出来たのだった。
登場人物、1561年度
島清興(21)・・・大和の島氏。島豊前守の息子。柳生新介に師事。甲斐の飯富源四郎の客分。山本勘助から兵法を学ぶ。動向を探る為、蜂須賀党の潜入。
能力値、柳生新陰流の左近B、風火D、武田贔屓B、勘助からの信頼C、親からの帰還命令D、川中島を逃がすA
木曽義昌(21)・・・武田の親族衆。正室は武田信玄の娘、真理姫。木曽源氏かは不明。武田憎し。木曽義仲を尊敬する。
能力値、義仲憧れの義昌A、正室は武田の姫A、武田憎しC、信玄への忠誠B、信玄からの信頼D、武田家臣団での待遇A
【使者の道は美濃方面説、採用】
【島清興、若き日に武者修行の旅に出て一時期、蜂須賀党に草鞋を抜いでた説、採用】
【木曽義昌、若き頃から甲斐に含む物あり説、採用】
内応疑惑の噂が広がった池田恒興と佐々成政に下された信長の指令は甲斐の武田信玄への使者役だった。
問題は甲斐までの道である。
舟で駿河まで移動して甲斐に向かう道順はダメだ。昨年、今川義元を倒したばかりなのだから。尾張織田の人間だとバレたら最後、厳しい詮議が待っている。
舟で更に東の相模に向かうのもダメだ。桶狭間で信長が義元の首を取った事に触発されてか、関東管領になった長尾景虎が昨年から関東中の兵を集めて北条を攻めている。そんな戦場を移動するのは不可能だ。
残る道筋は、
三河から武田の領地の南信濃に入る道か。
美濃から武田の領地の南信濃に入る道か。
この二つだ。
当然、北陸から越後へ移動して北信濃から甲斐に向かうという迂回する道は日数が掛かり過ぎるので除外とするが。
まずはこの道順で恒興と成政は揉めた。
恒興からすれば三河は鬼門だ。
三河松平の竹千代を信長のふりをして火縄銃で撃っている。
成政からすれば美濃の方が鬼門である。
斎藤家の家老、稲葉良通の叔父の首級を上げて尾張で内応の流言まで広められている。
下手をすれば今この時も尾張での動向を斎藤の間者に見張られてるかもしれない。
その状態で美濃に入るのは選択肢としてあり得なかった。
お陰で2人は揉めて、普段なら恒興に折れる成政も、
「今回は信長様の裁定を仰ごう」
信長に決めて貰う事となった。
成政からすれば、頭脳明晰な信長なら三河方面を指示してくれるだろうと思っての提案だったが、信長の方も竹千代との会見前に恒興が影武者だったのが露見する危険は冒したくない。
そうでなくても恒興は何かとやらかす男だ。
同盟を組んだばかりの三河で騒動を起こして会見が流れたら面白くない。
そこで、
「美濃から行け」
となった。
美濃方面から甲斐に向かう道の最大の難所は尾張である。
尾張の木曽川の川並衆の蜂須賀党は織田信長を裏切った織田信清に仕えていたからだ。
つまり信清が裏切った今、信長方とは敵同士だ。
だが、それまでは味方同士だったので、恒興も成政も信清方の内情に精通しており、実在する武士の名前を拝借して堂々と蜂須賀党の宿場で一泊していた。
「甲斐か。オレも行って武田の兵法を習得してみたかったな~」
と言ったのは蜂須賀党の宿場の若き用心棒だった。
「ん? 蜂須賀党の人間なのに甲斐に行きたいのか、左近って?」
何故か波長が合って名前を聞くくらい仲良くなった恒興が尋ねた。
因みに、成政の方は敵陣のど真ん中なので過度に緊張して無言だ。
「いやいや、オレは元々大和出身だよ。武者修行の旅に出て、ここで金子が尽きて旅費を稼ぐ為に蜂須賀党に草鞋を脱いでるだけだから」
「へ~、武者修行も大変なんだな~」
「そちらさんの方が大変そうだけどね」
「? 何故だ?」
「犬山城の人間って嘘なんでしょ?」
小声で看破してくる中、左近に、
「どうしてそう思う?」
「お連れさんがあれだけ正直ならね」
「確かに。内緒だぞ」
恒興もさらりと答えた。
それだけだ。
左近は蜂須賀党に密告するようなケチな男ではなく、一泊しても捕縛される事はなく、二人はそのまま信州方面へと移動した。
美濃も抜けて、南信濃の木曽に着いたのだが、その木曽の城下で、
「そこのおまえ、随分と立派な刀を下げてるではないか」
御供付きの、馬に乗った若武者に馬上から声を掛けられた。
声を掛けてきたのはどう見ても若殿風だったのだが、徒歩移動に辟易していた恒興が、
「ちょうど良いところに。武田の家中だよな? 馬を貸してくれ。甲斐の躑躅ヶ崎館まで行くから」
「馬鹿、止めろ。ハハハ、お気になさらずに」
成政が何とか誤魔化そうとしたが、
「何をしに出向く?」
若殿の質問に、
「書状をーー」
「だからベラベラと喋るなと言うにっ!」
「何で?」
「武田の敵だったらどうする?」
「えっ、ここ、武田の領土だよな?」
「違う。木曽の領土だ。木曽源氏の本拠地だろうが。武田源氏に従ってるのを内心快く思ってなかったらどうするつもりだ? 殺されるぞ、オレ達?」
「そうなの?」
本人に直接聞ける恒興だったが、聞かれた若殿とその取り巻きは逆に警戒し、
「何者なのか聞こうか?」
「尾張織田家中。織田の殿の書状を甲斐の殿様に届けてる最中だけど」
「良く来られた。本日の宿所を手配しよう」
待遇が良くなり、木曽では宿場まで手配してくれたのだった。
本日の宿所の部屋で休む恒興は呑気に、
「いや~、言ってみるもんだな。待遇がこんなに良くなるなんて」
「違うだろ。これは警戒されてるんだよ。気付けよ、恒興」
「そうなの?」
「ずっと見張られてるだろうが?」
「あれは女中さんがよそ者の若いオレ達に興味津津なだけで」
「どうしてそんなに楽観的なんだ、おまえは? 本当に信じられないぞ。尾張の信清みたいに木曽が武田に背くところだったらどうするつもりだ?」
「それはないって。あの若殿は思慮深そうだったから」
「確かに。それでも警戒だけはしてろよ」
「分かったよ」
こうして木曽で一泊するも命を狙われる事もなく、甲斐に向かう事が出来たのだった。
登場人物、1561年度
島清興(21)・・・大和の島氏。島豊前守の息子。柳生新介に師事。甲斐の飯富源四郎の客分。山本勘助から兵法を学ぶ。動向を探る為、蜂須賀党の潜入。
能力値、柳生新陰流の左近B、風火D、武田贔屓B、勘助からの信頼C、親からの帰還命令D、川中島を逃がすA
木曽義昌(21)・・・武田の親族衆。正室は武田信玄の娘、真理姫。木曽源氏かは不明。武田憎し。木曽義仲を尊敬する。
能力値、義仲憧れの義昌A、正室は武田の姫A、武田憎しC、信玄への忠誠B、信玄からの信頼D、武田家臣団での待遇A
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