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1561年、甲斐への使い
森部の戦い
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【木下藤吉郎、桶狭間の戦い直後に木下秀吉に改名した説、採用】
【木下秀吉、信長にねねとの結婚の許可を貰った説、採用】
【森部の戦い、十四条の戦い、軽海の戦いが同日だった説、採用】
【今回の戦い、美濃方に斎藤義龍の死が完全に隠蔽された形での激突説、採用】
【美濃に侵攻した織田軍4500人説、採用】
【織田軍、美濃内の墨俣に砦を建築、採用】
【森部の戦い、義龍の死は隠蔽したが兵が集まらず、斎藤軍2900人説、採用】
【森部の戦い、斉藤軍の総大将、宿老の日比野清実、稲葉良通説、採用】
【足立六兵衛、1530年生まれ説、採用】
【竹中重治、今孔明説、採用】
【竹中重治、病弱説、不採用】
1560年に今川義元の首級を挙げて4万人の今川上洛軍を破った織田軍の本拠地、尾張はそりゃあ浮かれていた。
木下藤吉郎などは、
「今川からの大勝利を記念して、この藤吉郎、これからは先代信秀様から一字をおいただきして木下秀吉と名乗りまする~」
調子に乗って改名して、
「サルめ、何を勝手に父の名を・・・まあ、良かろう」
呆れながらも信長が認めるくらい、信長以下織田家中全体が浮かれていた。
今川上洛軍を尾張から追い出した翌年の1561年もまだ織田家中は浮かれた空気が漂っており、新年のある日の事、池田恒興にその木下秀吉が、
「勝様、信長様の機嫌の良い日はいつでございましょうか?」
「? 近頃は『常に』な事は藤吉、いや秀吉も知っておろうが」
「中でも機嫌の良い日の時に、この秀吉に教えていただきたく」
いつになく慎重な秀吉の態度を妙に思ったが、恒興もまだ今川に勝った事に浮かれていたので気軽に教えてやり、何を頼むのか、と同席すれば、
「あの、信長様。実は恋仲になった娘と祝言を上げたいのですが」
「ったく、サルが色気付きおって。どこの誰だ、サルを好いた物好きな娘は?」
「へえ、それが浅野長勝殿の養女でして」
「浅野の? サルが高望みしおって」
「認めて下さい、信長様。お願いします」
秀吉が土下座して、機嫌が良かった信長が、
「まあ、良かろう」
と許可を出したりするくらいに。
その秀吉の縁談は先方の母親がゴネて、まだ果たされていなかったが。
◇
良い事は続くものである。
1561年の5月には信長の宿敵で、信長の舅の斎藤道三を殺した美濃斎藤家の当主、義龍が「また重病で倒れた」との情報を掴み、千載一遇の好機とばかりに織田軍は4500人を動員して美濃に攻め込んだ。
とはいえ、いくら昨年、桶狭間の戦いで今川軍を打ち破り、浮かれているとはいえ、美濃斎藤家の居城、難攻不落の稲葉山城が初手で簡単に落城させられるとは織田軍も思ってはいない。
今回は美濃の墨俣の地に軍事拠点である砦建設の為の遠征であった。
だがしかし、自分の領地で敵が勝手に砦を築くのを指をくわえて黙って見ていられる程、斎藤軍はお人好しじゃない。
その砦建設を邪魔すべく斎藤軍が迎え討って出てきた。
ただ迎え討って出てきたはいいが、本当に斉藤義龍が重病らしく兵が動員されておらず、現れた斎藤軍は僅か2900人だった。
その状況下で始まったのが、1561年5月の森部の戦いである。
織田軍は昨年の桶狭間の戦い以降、勢いに乗っている。
そして斎藤軍は数も少なければ、明らかに兵の士気も低い。
斉藤軍の総大将も斎藤家の六宿老の外戚の稲葉良通や日比野清実で斎藤義龍本人は出陣していなかった。
その森部の戦いの織田軍の先鋒、森可成の部隊の中には「槍の又左」こと前田利家が居た。
利家はまだ出仕停止中なので戦場に出る事は許されない。
当然、信長の許可は(本当は出てるのだが密偵の任務は周囲には内緒なので)出ていない。
但し、部隊長の可成の許可は出ていた。
それも愛智拾阿弥が今川に内応していた事を知らずに、単純に利家に同情して、
「余り無理はするなよ、大千代」
「しますよ。いい加減、信長様の許に帰参しないと」
本当は桶狭間の戦いでも敵将の御首級を取っており、その時に帰参出来たはずなのだが、面会前に池田恒興が信長の実弟、織田信勝を唆した「尾張一の妖剣使い」津々木蔵人の首級を持ち帰ったのに怒られるというヤラカシを犯した所為で、桶狭間の戦いでは今川義元以外の敵将の首級に価値がなくなり、帰参を果たせなかった。
(あの津々木蔵人を倒すなんて、やっぱり強かったんだな、池田殿って。さすがは信長様の側近だぜ)
蔵人が倒された、と聞いた時はそう思ったものだが、その後、戦場で大将首が取れず、まだ利家は帰参が出来ていなかった。
よって森部の戦場で、
「侍大将はどこだ? 今日こそ帰参しないとっ!」
利家は焦りながら、敵の大将首を探していた。
戦場で5人目の雑兵を槍で倒してると、
「調子に乗るなよ、雑兵がっ!」
大男と遭遇した。
前田利家には大男が誰か分からなかったが、
「ヒィ、『首取り足立』だ」
「逃げろ」
と織田軍が浮足立ったのを見て、織田家にも武勇が聞こえた足立六兵衛だと知った。
「おまえが日比野の先駆け、『首取り足立』か? オレの帰参の為にーーその首、貰ったっ!」
「何を言ってるんだ? ここでオレに首を取られる雑魚がよっ!」
皆が怖がる六兵衛に利家だけが果敢に挑んだので一騎打ちの形となった。
利家が槍を繰り出し、六兵衛の身体数カ所を刺すも、
「効くかっ!」
怪力で振り回した槍の刃のない箇所で利家を吹き飛ばした。
「ぐおお、この馬鹿力がーーだがなっ!」
20合程の戦闘の末、負傷しながらも利家の槍が六兵衛の首筋に突き刺さり、
「ぐあああああ」
「『首取り足立』、この前田利家が討ち取ったりぃ~」
利家が手柄名乗りを上げ、近くまで駆け付けていた可成が、
「見事」
と褒め称えたのだった。
首取り足立の敗北で斎藤軍の一角、宿老の日比野隊は総崩れとなり、総大将の一人、日比野清実も織田軍の恒川久蔵に討ち取られたのだった。
織田軍の本陣に居る信長は、次々と届く織田軍優勢の報告に、
「いくら義龍が重病とは言え、手応えが無さ過ぎるな」
そう逆に警戒した。
信長が警戒するのも当然だ。
美濃斎藤の兵は本当は強いのだ。
先代の斎藤道三の時代には美濃への侵攻を目論んだ尾張の先代、織田信秀も遂には断念して信長と濃姫の婚姻による和議を結び、侵攻を諦めている。
息子の義龍の代になっても斎藤軍は強く、信長も何度となく挑んだが、まだ美濃を取れてはいなかった。
今回だけが格段に斎藤軍が弱いのである。
「・・・」
信長はその斎藤軍の弱さの正体が「義龍の重病」だけでは納得せずに思案を巡らせていたのだが。
その横には近習幹部の恒興も居た。
恒興は信長の親衛隊なので信長の命令が無ければ前衛には出れず、
(暇だ)
欠伸が出るのを堪えていた。
それくらい、この森部の戦いは織田軍の楽勝だった。
一方、斎藤軍を率いるもう一人の総大将、稲葉良通は、
「日比野殿が戦死しただと? 拙い・・・」
報告を聞き、さすがに絶句してしまった。
(殿が身罷って士気が落ちてるとはいえ、ここまで一方的に追い込まれるとは。織田め、やはり相当勢い付いているな)
「西美濃から後詰めが来るのを待ってさえいればこのような事態には」
そう咎めるように嘆いたのは稲葉隊の若き副将の斎藤利三である。
「何度も気の滅入るような事を言うではないわ。十四条まで退くぞ」
その命令で斎藤軍は撤退を開始したのだが、その最中、良通は、
(まさか日比野殿が討たれるとはーー待てよ。「そうなる」と出陣前に安藤殿が連れてた若僧が縁起の悪い事を言ってなかったか? いやいや、さすがにただの偶然であろう。人の身でこうなる事が前もって予見など出来る訳がない)
些細な事と打ち消したのだった。
斎藤軍の退却で森部の戦いは織田軍の勝利で終わったのだった。
◇
美濃が一望出来る稲葉山城の物見台の上に立つ17歳の鎧も来ていない若武者が森部の戦いの一部始終を観戦し、
「だから無駄な事は止めるように忠告したのに。蝮の牙と称された老人達は頑固者ばかりで困る・・・今回は手駒が揃わず王手までの打ち筋が皆無だというのに。それに稲葉山城ではなく十四条などという半端な場所に退いて色気を見せるとは。いやはや、どこまでも足を引っ張ってくれる。お陰で明日の織田の退却時には斎藤方は追撃する気力も失い、織田は悠々と無傷で退却、か。織田の日の出の勢いは当分続きそうだな」
涼しい顔でそう言い放ったのだった。
その若武者の名前は竹中重治と言った。
◇
森部の戦いの勝利後。
信長が斎藤家の宿老、日比野清実を討った恒川久蔵を褒めてると、森可成が、
「斎藤軍日比野の先駆け、『首取り足立』を討ち取った者を連れてきました」
赤母衣衆筆頭ながら出資停止中の前田利家を信長の前に連れてきた。
無論、 可成は信長の傍に居て、死んだ捨阿弥贔屓の恒興を牽制する為に間に立っている。
恒興はやらかす奴なので信長の御前でも利家を斬り捨てる可能性があったからだ。
「信長様が御所望でござりました『首取り足立』の首級でございまする」
怪力で知られた足立六兵衛の首級を見せた。
帰参の願い出である。
信長が褒めれば、帰参が叶う訳だが、
「これだけの手柄があれば文句はないが·······勝、おまえはどう思う?」
信長が愉快そうに問うが、
恒興は桶狭間の戦いの後に、
「信長様、愛智捨阿弥が今川方に通じていたと聞いたのですが?」
「ん? 誰に聞いた、その話」
「佐久間殿ですが」
「あのお喋りめ。内緒だぞ、権六が犬を警戒すると困るから」
「はっ」
との会話を交わしているので、
「それだけの手柄をあげる剛の者を遊ばせておく方が織田家の損失かと」
「良く言った、勝。この足立の首をもって犬の帰参を認めよう」
信長の一声で前田利家の帰参が叶ったのだった。
勢い付く織田軍は森部から離れた十四条で兵を立て直している斎藤軍の情報を入手すると、
「先程の斎藤軍の当たりが弱かったのは二の矢を隠していたからか。生意気な。蹴散らしてくれる。砦の建築する部隊を除いて後はオレに続けっ!」
信長が進軍を決めて更に美濃の奥地へと進軍したのだった。
登場人物、1561年度
木下秀吉(24)・・・将来の天下人。出しゃばり。信長の傍に良く出没。槍働きよりも知恵で信長に貢献。秀吉に改名。ねねとの結婚許可を信長に貰う。
能力値、天下人の才気S、人証しの秀吉SS、図々しさ、信長への忠誠A、信長からの信頼C、織田家臣団での待遇E
池田恒興(25)・・・主人公。信長の近習幹部。信長の乳兄弟。織田一門衆と同格扱い。信長に幼少期から鍛えられてるで弱くはない。
能力値、信長と養徳院の教えS、大物に気に入られる何かS、ヤラカシ伝説A、信長への絶対忠誠SS、信長からの信頼SS、織田家臣団での待遇S
織田信長(27)・・・将来の天下人。織田家当主。天才肌。奇抜な事が好き。桶狭間の戦いで今川義元に勝利して武名が近隣に轟く。
能力値、天下人の才気SS、うつけの信長S、麒麟の如くS、奇抜な事好きS、新しい物好きSS、火縄銃SS
森可成(39)・・・織田家の家老。古参の美濃衆。織田二代に仕える。信長のお気に入り。美濃攻めの織田軍先鋒。攻めの三左。
能力値、攻めの三左S、豪傑が集うA、信長のお気に入りS、織田二代への忠誠S、信長からの信頼A、織田家臣団での待遇A
前田利家(23)・・・元赤母衣衆筆頭。出仕停止中。首取り足立を倒して帰参が叶う。
能力値、槍の又左A、愛妻まつS、そろばんC、信長への絶対忠誠S、信長からの信頼A、織田家臣団での待遇B
足立六兵衛(31)・・・斎藤家の日比野清実の配下。怪力の猛者。首取り足立。何十と織田方の首を取ってる。
能力値、首取り足立A、命知らずA、日比野家の先駆け、日比野家への忠誠A、日比野清実からの信頼S、日比野家臣団での待遇A
稲葉良通(46)・・・斎藤家の六宿老。斎藤義龍の母親、深芳野の弟。別名、彦四郎。蝮の八の牙。きかん坊。誠の仁者。
能力値、蝮の八の牙の良通A、きかん坊A、不吉認めずA、龍興への忠誠A、義興からの信頼S、斎藤家臣団での待遇SS
斎藤利三(27)・・・稲葉家の家臣。斎藤姓だが道三とは別系統。本来の美濃斎藤氏の一族。良通の若き副将。勇猛だが主君運がない。悲観的な嘆き癖がある。
能力値、主君運なしA、娘達は大成A、嘆きの利三A、良通への忠誠B、良通からの信頼D、稲葉家臣団での待遇D
竹中重治(17)・・・斎藤家の家臣。大御堂城主の竹中重元の息子。通称、半兵衛。美濃の今孔明。容貌婦人の如し。正室は六宿老の安藤守就の娘。
能力値、美濃の今孔明SS、容貌婦人の如しA、健康な肉体A、龍興への忠誠A、龍興からの信頼D、斎藤家臣団での待遇D
【木下秀吉、信長にねねとの結婚の許可を貰った説、採用】
【森部の戦い、十四条の戦い、軽海の戦いが同日だった説、採用】
【今回の戦い、美濃方に斎藤義龍の死が完全に隠蔽された形での激突説、採用】
【美濃に侵攻した織田軍4500人説、採用】
【織田軍、美濃内の墨俣に砦を建築、採用】
【森部の戦い、義龍の死は隠蔽したが兵が集まらず、斎藤軍2900人説、採用】
【森部の戦い、斉藤軍の総大将、宿老の日比野清実、稲葉良通説、採用】
【足立六兵衛、1530年生まれ説、採用】
【竹中重治、今孔明説、採用】
【竹中重治、病弱説、不採用】
1560年に今川義元の首級を挙げて4万人の今川上洛軍を破った織田軍の本拠地、尾張はそりゃあ浮かれていた。
木下藤吉郎などは、
「今川からの大勝利を記念して、この藤吉郎、これからは先代信秀様から一字をおいただきして木下秀吉と名乗りまする~」
調子に乗って改名して、
「サルめ、何を勝手に父の名を・・・まあ、良かろう」
呆れながらも信長が認めるくらい、信長以下織田家中全体が浮かれていた。
今川上洛軍を尾張から追い出した翌年の1561年もまだ織田家中は浮かれた空気が漂っており、新年のある日の事、池田恒興にその木下秀吉が、
「勝様、信長様の機嫌の良い日はいつでございましょうか?」
「? 近頃は『常に』な事は藤吉、いや秀吉も知っておろうが」
「中でも機嫌の良い日の時に、この秀吉に教えていただきたく」
いつになく慎重な秀吉の態度を妙に思ったが、恒興もまだ今川に勝った事に浮かれていたので気軽に教えてやり、何を頼むのか、と同席すれば、
「あの、信長様。実は恋仲になった娘と祝言を上げたいのですが」
「ったく、サルが色気付きおって。どこの誰だ、サルを好いた物好きな娘は?」
「へえ、それが浅野長勝殿の養女でして」
「浅野の? サルが高望みしおって」
「認めて下さい、信長様。お願いします」
秀吉が土下座して、機嫌が良かった信長が、
「まあ、良かろう」
と許可を出したりするくらいに。
その秀吉の縁談は先方の母親がゴネて、まだ果たされていなかったが。
◇
良い事は続くものである。
1561年の5月には信長の宿敵で、信長の舅の斎藤道三を殺した美濃斎藤家の当主、義龍が「また重病で倒れた」との情報を掴み、千載一遇の好機とばかりに織田軍は4500人を動員して美濃に攻め込んだ。
とはいえ、いくら昨年、桶狭間の戦いで今川軍を打ち破り、浮かれているとはいえ、美濃斎藤家の居城、難攻不落の稲葉山城が初手で簡単に落城させられるとは織田軍も思ってはいない。
今回は美濃の墨俣の地に軍事拠点である砦建設の為の遠征であった。
だがしかし、自分の領地で敵が勝手に砦を築くのを指をくわえて黙って見ていられる程、斎藤軍はお人好しじゃない。
その砦建設を邪魔すべく斎藤軍が迎え討って出てきた。
ただ迎え討って出てきたはいいが、本当に斉藤義龍が重病らしく兵が動員されておらず、現れた斎藤軍は僅か2900人だった。
その状況下で始まったのが、1561年5月の森部の戦いである。
織田軍は昨年の桶狭間の戦い以降、勢いに乗っている。
そして斎藤軍は数も少なければ、明らかに兵の士気も低い。
斉藤軍の総大将も斎藤家の六宿老の外戚の稲葉良通や日比野清実で斎藤義龍本人は出陣していなかった。
その森部の戦いの織田軍の先鋒、森可成の部隊の中には「槍の又左」こと前田利家が居た。
利家はまだ出仕停止中なので戦場に出る事は許されない。
当然、信長の許可は(本当は出てるのだが密偵の任務は周囲には内緒なので)出ていない。
但し、部隊長の可成の許可は出ていた。
それも愛智拾阿弥が今川に内応していた事を知らずに、単純に利家に同情して、
「余り無理はするなよ、大千代」
「しますよ。いい加減、信長様の許に帰参しないと」
本当は桶狭間の戦いでも敵将の御首級を取っており、その時に帰参出来たはずなのだが、面会前に池田恒興が信長の実弟、織田信勝を唆した「尾張一の妖剣使い」津々木蔵人の首級を持ち帰ったのに怒られるというヤラカシを犯した所為で、桶狭間の戦いでは今川義元以外の敵将の首級に価値がなくなり、帰参を果たせなかった。
(あの津々木蔵人を倒すなんて、やっぱり強かったんだな、池田殿って。さすがは信長様の側近だぜ)
蔵人が倒された、と聞いた時はそう思ったものだが、その後、戦場で大将首が取れず、まだ利家は帰参が出来ていなかった。
よって森部の戦場で、
「侍大将はどこだ? 今日こそ帰参しないとっ!」
利家は焦りながら、敵の大将首を探していた。
戦場で5人目の雑兵を槍で倒してると、
「調子に乗るなよ、雑兵がっ!」
大男と遭遇した。
前田利家には大男が誰か分からなかったが、
「ヒィ、『首取り足立』だ」
「逃げろ」
と織田軍が浮足立ったのを見て、織田家にも武勇が聞こえた足立六兵衛だと知った。
「おまえが日比野の先駆け、『首取り足立』か? オレの帰参の為にーーその首、貰ったっ!」
「何を言ってるんだ? ここでオレに首を取られる雑魚がよっ!」
皆が怖がる六兵衛に利家だけが果敢に挑んだので一騎打ちの形となった。
利家が槍を繰り出し、六兵衛の身体数カ所を刺すも、
「効くかっ!」
怪力で振り回した槍の刃のない箇所で利家を吹き飛ばした。
「ぐおお、この馬鹿力がーーだがなっ!」
20合程の戦闘の末、負傷しながらも利家の槍が六兵衛の首筋に突き刺さり、
「ぐあああああ」
「『首取り足立』、この前田利家が討ち取ったりぃ~」
利家が手柄名乗りを上げ、近くまで駆け付けていた可成が、
「見事」
と褒め称えたのだった。
首取り足立の敗北で斎藤軍の一角、宿老の日比野隊は総崩れとなり、総大将の一人、日比野清実も織田軍の恒川久蔵に討ち取られたのだった。
織田軍の本陣に居る信長は、次々と届く織田軍優勢の報告に、
「いくら義龍が重病とは言え、手応えが無さ過ぎるな」
そう逆に警戒した。
信長が警戒するのも当然だ。
美濃斎藤の兵は本当は強いのだ。
先代の斎藤道三の時代には美濃への侵攻を目論んだ尾張の先代、織田信秀も遂には断念して信長と濃姫の婚姻による和議を結び、侵攻を諦めている。
息子の義龍の代になっても斎藤軍は強く、信長も何度となく挑んだが、まだ美濃を取れてはいなかった。
今回だけが格段に斎藤軍が弱いのである。
「・・・」
信長はその斎藤軍の弱さの正体が「義龍の重病」だけでは納得せずに思案を巡らせていたのだが。
その横には近習幹部の恒興も居た。
恒興は信長の親衛隊なので信長の命令が無ければ前衛には出れず、
(暇だ)
欠伸が出るのを堪えていた。
それくらい、この森部の戦いは織田軍の楽勝だった。
一方、斎藤軍を率いるもう一人の総大将、稲葉良通は、
「日比野殿が戦死しただと? 拙い・・・」
報告を聞き、さすがに絶句してしまった。
(殿が身罷って士気が落ちてるとはいえ、ここまで一方的に追い込まれるとは。織田め、やはり相当勢い付いているな)
「西美濃から後詰めが来るのを待ってさえいればこのような事態には」
そう咎めるように嘆いたのは稲葉隊の若き副将の斎藤利三である。
「何度も気の滅入るような事を言うではないわ。十四条まで退くぞ」
その命令で斎藤軍は撤退を開始したのだが、その最中、良通は、
(まさか日比野殿が討たれるとはーー待てよ。「そうなる」と出陣前に安藤殿が連れてた若僧が縁起の悪い事を言ってなかったか? いやいや、さすがにただの偶然であろう。人の身でこうなる事が前もって予見など出来る訳がない)
些細な事と打ち消したのだった。
斎藤軍の退却で森部の戦いは織田軍の勝利で終わったのだった。
◇
美濃が一望出来る稲葉山城の物見台の上に立つ17歳の鎧も来ていない若武者が森部の戦いの一部始終を観戦し、
「だから無駄な事は止めるように忠告したのに。蝮の牙と称された老人達は頑固者ばかりで困る・・・今回は手駒が揃わず王手までの打ち筋が皆無だというのに。それに稲葉山城ではなく十四条などという半端な場所に退いて色気を見せるとは。いやはや、どこまでも足を引っ張ってくれる。お陰で明日の織田の退却時には斎藤方は追撃する気力も失い、織田は悠々と無傷で退却、か。織田の日の出の勢いは当分続きそうだな」
涼しい顔でそう言い放ったのだった。
その若武者の名前は竹中重治と言った。
◇
森部の戦いの勝利後。
信長が斎藤家の宿老、日比野清実を討った恒川久蔵を褒めてると、森可成が、
「斎藤軍日比野の先駆け、『首取り足立』を討ち取った者を連れてきました」
赤母衣衆筆頭ながら出資停止中の前田利家を信長の前に連れてきた。
無論、 可成は信長の傍に居て、死んだ捨阿弥贔屓の恒興を牽制する為に間に立っている。
恒興はやらかす奴なので信長の御前でも利家を斬り捨てる可能性があったからだ。
「信長様が御所望でござりました『首取り足立』の首級でございまする」
怪力で知られた足立六兵衛の首級を見せた。
帰参の願い出である。
信長が褒めれば、帰参が叶う訳だが、
「これだけの手柄があれば文句はないが·······勝、おまえはどう思う?」
信長が愉快そうに問うが、
恒興は桶狭間の戦いの後に、
「信長様、愛智捨阿弥が今川方に通じていたと聞いたのですが?」
「ん? 誰に聞いた、その話」
「佐久間殿ですが」
「あのお喋りめ。内緒だぞ、権六が犬を警戒すると困るから」
「はっ」
との会話を交わしているので、
「それだけの手柄をあげる剛の者を遊ばせておく方が織田家の損失かと」
「良く言った、勝。この足立の首をもって犬の帰参を認めよう」
信長の一声で前田利家の帰参が叶ったのだった。
勢い付く織田軍は森部から離れた十四条で兵を立て直している斎藤軍の情報を入手すると、
「先程の斎藤軍の当たりが弱かったのは二の矢を隠していたからか。生意気な。蹴散らしてくれる。砦の建築する部隊を除いて後はオレに続けっ!」
信長が進軍を決めて更に美濃の奥地へと進軍したのだった。
登場人物、1561年度
木下秀吉(24)・・・将来の天下人。出しゃばり。信長の傍に良く出没。槍働きよりも知恵で信長に貢献。秀吉に改名。ねねとの結婚許可を信長に貰う。
能力値、天下人の才気S、人証しの秀吉SS、図々しさ、信長への忠誠A、信長からの信頼C、織田家臣団での待遇E
池田恒興(25)・・・主人公。信長の近習幹部。信長の乳兄弟。織田一門衆と同格扱い。信長に幼少期から鍛えられてるで弱くはない。
能力値、信長と養徳院の教えS、大物に気に入られる何かS、ヤラカシ伝説A、信長への絶対忠誠SS、信長からの信頼SS、織田家臣団での待遇S
織田信長(27)・・・将来の天下人。織田家当主。天才肌。奇抜な事が好き。桶狭間の戦いで今川義元に勝利して武名が近隣に轟く。
能力値、天下人の才気SS、うつけの信長S、麒麟の如くS、奇抜な事好きS、新しい物好きSS、火縄銃SS
森可成(39)・・・織田家の家老。古参の美濃衆。織田二代に仕える。信長のお気に入り。美濃攻めの織田軍先鋒。攻めの三左。
能力値、攻めの三左S、豪傑が集うA、信長のお気に入りS、織田二代への忠誠S、信長からの信頼A、織田家臣団での待遇A
前田利家(23)・・・元赤母衣衆筆頭。出仕停止中。首取り足立を倒して帰参が叶う。
能力値、槍の又左A、愛妻まつS、そろばんC、信長への絶対忠誠S、信長からの信頼A、織田家臣団での待遇B
足立六兵衛(31)・・・斎藤家の日比野清実の配下。怪力の猛者。首取り足立。何十と織田方の首を取ってる。
能力値、首取り足立A、命知らずA、日比野家の先駆け、日比野家への忠誠A、日比野清実からの信頼S、日比野家臣団での待遇A
稲葉良通(46)・・・斎藤家の六宿老。斎藤義龍の母親、深芳野の弟。別名、彦四郎。蝮の八の牙。きかん坊。誠の仁者。
能力値、蝮の八の牙の良通A、きかん坊A、不吉認めずA、龍興への忠誠A、義興からの信頼S、斎藤家臣団での待遇SS
斎藤利三(27)・・・稲葉家の家臣。斎藤姓だが道三とは別系統。本来の美濃斎藤氏の一族。良通の若き副将。勇猛だが主君運がない。悲観的な嘆き癖がある。
能力値、主君運なしA、娘達は大成A、嘆きの利三A、良通への忠誠B、良通からの信頼D、稲葉家臣団での待遇D
竹中重治(17)・・・斎藤家の家臣。大御堂城主の竹中重元の息子。通称、半兵衛。美濃の今孔明。容貌婦人の如し。正室は六宿老の安藤守就の娘。
能力値、美濃の今孔明SS、容貌婦人の如しA、健康な肉体A、龍興への忠誠A、龍興からの信頼D、斎藤家臣団での待遇D
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しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。
目指すは徳川家康の首級ただ一つ。
しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。
その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
16世紀のオデュッセイア
尾方佐羽
歴史・時代
【第13章を夏ごろからスタート予定です】世界の海が人と船で結ばれていく16世紀の遥かな旅の物語です。
12章は16世紀後半のフランスが舞台になっています。
※このお話は史実を参考にしたフィクションです。
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
大東亜戦争を有利に
ゆみすけ
歴史・時代
日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
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