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1560年、桶狭間の戦い
記録から抹消された真実
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【石川数正、とっくに同じ顔の者を発掘し、狂犬の松平元康を見限っていた説、採用】
【水野信元、1520年生まれ説、採用】
【水野信元、石川数正に1年前に甥の水野信政を紹介してた説、採用】
【水野信政、1543年生まれ説、採用】
【水野信政、1年前から松平元康と入れ替わる為に訓練をしていた説、採用】
桶狭間では今川義元が討ち死にした事が知れ渡って各所で織田軍が勝ち鬨を上げていた。
そして奇襲部隊が信長の周囲に戻ってくる中、今川義元の首が届くのを今か今かと待っている信長に、別の首を届けるというポカをしたのが徒歩で津々木蔵人の首を持ち帰った恒興である。
「信長様、お喜び下さい」
「おお、勝、それが義元の首か?」
馬から降りて待ってた信長が問う中、
「いえ、違いまーー」
「義元の首以外は要らんと言っただろうがっ!」
憤怒した信長にドカッと前蹴りされた恒興が手にしていた首を落としてひっくり返った。
蹴りは鎧の上からなので痛くも何ともなかったが、雨で泥濘となった足場の悪い桶狭間を歩き回ってヘトヘトだったので藤吉郎のように大袈裟に倒れていた。
「で、ですが――」
「失せい、勝っ!」
信長の憤怒を見て、幼少から信長を知る恒興が今の信長には、話を聞いて貰えない、と判断し、
「畏まりました。清州城に先に帰ってます」
一礼して、地面に落ちた首もそのままに信長の前から去っていった。
その一部始終を信長の許に居た織田の奇襲部隊も見ており、
あの一門扱いの池田恒興が叱責を受けたぞ。
これは下手な事をしたらオレ達なら首が飛ぶぞ。
皆、衝撃と共に、戦勝の浮かれ気分から一転、気を引き締めたのだが、恒興と入れ替わるように信長の前に現れたのが木下藤吉郎で、御存知、藤吉郎は聡いので、信長の傍に落ちてる首が誰なのか瞬時に気付き、
「うひょぉ~、信長様の弟君の信勝様を唆した津々木蔵人の首じゃないですか。誰が尾張一の剣の達人を倒したんですか?」
いつものように大袈裟に驚いたのだった。
憤怒中の信長もその言葉には、
「津々木蔵人だと? 何の事だ?」
「えっ、その首、そうですよね?」
それで初めて信長以下全員が、恒興の持ってきた首に視線を向けたが、
「それで誰がその不埒者を――」
「黙らんか、サルっ!」
信長は今度は藤吉郎を蹴った。
理不尽な八つ当たりであったが、それが許されるのが信長である。
「義元の首以外は要らんと言っただろうがっ!」
「はっ、はい。堪忍して置くんなまし。サルめが悪うございましたから」
慌てて土下座をした藤吉郎だったが、すぐに今川義元の首級が届いた。
持ってきたのは当然、義元を討ち取った張本人の鼻高々の新介である。
「義元の首級、お持ちしました」
「おお、これが。良くやったぞ。皆の者、この戦、織田の勝利だ。改めて勝ち鬨を上げよ」
信長は上機嫌で勝ち鬨を上げさせてから、桶狭間より清州城に凱旋したのだった。
三河松平勢が陥落させた丸根砦内において一時は、死んだ、との誤報が流れた松平の陣にも桶狭間の凶報が届いたのだが、今川義元の戦死は今の三河松平勢からすれば吉報以外の何物でもなかった。
「織田の奇襲部隊が、今川の御大(御大将の略)を討ち取った?」
元康の懐刀である石川数正が同席してる水野信元に静かに視線を移した。
信元が気勢を制して、
「おっと、何を考えてる、数正? 死人に口なしかな? 我らが元康殿が黙ってはいないぞ」
「・・・まさか。今後ともよしなに」
「うむ」
と喋る中、上座に座る瓜二つとは言わないまでも元康とかなり似てる若者が、
「本当にやるのだな、数正?」
そう念を押した。
その正体は水野信元の弟、水野信近の長男にして、17歳の水野信政だった。
松平元康の母親の於大の方が水野一族な事から、松平元康と水野信政は、水野忠政を同じ祖父に持つ同年の従兄弟同士で、血が繋がっているだけあって、松平元康と水野信政はかなり似ていた。
松平元康の狂犬っぷりにほとほと愛想が尽きており、今川方の元康暗殺の策謀が無くとも、従兄弟の信政とのすり替えを独自に計画し、1年の準備期間を経て水野信政を教育し終えていた数正が、
「無論です、お願いします、殿」
「では、伯父上。行って参ります」
「ああ、頑張ってな」
「全軍、三河への撤退準備を始めろっ!」
今川義元が桶狭間で討たれたその日から松平元康は人が変わったように物静かになったのだった。
◇
そして桶狭間の戦いから数日が過ぎ、清州城では論功行賞が行われた。
ただ褒美を与えるだけではない。
今川義元を倒した際の様子を信長に聞かせる報告会のような意味合いもあり、重臣達も同席する中、一番槍の服部小平太と、義元を討った毛利新介が都合良く武勇伝を語っていた。
だが、他にも織田の奇襲隊の中に義元との奮闘を目撃した者は複数居り、既に情報を掴んでいた信長が上座から、
「妙な話を聞いたのだが、義元の首を取る際に暴れ馬が乱入したという話は本当か?」
「えっと、はい」
森可成の不機嫌な顔が視界に入り、これはバレてる、と観念した新介が、
「実は話しても信じて貰えないと思い、話しませんでしたが」
本当に遭った事を吐露し始め、
「それで折れた刀でどうにか義元に勝てました。勝てたのはその暴れ馬のお陰です」
「その暴れ馬、どんな馬だった?」
「さあ、一瞬だったので」
新介は覚えておらず、
「栗毛で白鼻だったと思います」
小平太の方は遠くからだったので覚えていたのかそう答えた。
他の証言と一致している。
そればかりか、他の目撃者からは、
「信長様の白鼻でしたよ、あの馬」
との証言までが飛び出していた。
その後、2人には褒美を与えて退室させたのだが。
信長が平手久秀を見たので、久秀が、
「あの日より信長様の白鼻は行方知れずです。馬番の話では、あの夜、信長様の白鼻を勝手に乗っていったのは・・・」
「そんな厭味ったらしく遠回しな事を言われずとも、あの日、勝がオレの白鼻に乗ってたのはちゃんとこの眼で見ておるわっ!」
そう吐き捨てた信長が河尻秀隆に、
「秀隆、勝にあの蔵人が倒せたと思うか?」
「勝の実力は殿の方が御存知でしょう? 無理ですよ、勝の実力では天才蔵人なんて。オレでもあの蔵人に勝てるかどうか。ですが勝は突飛な事をしますので。その突飛がハマればあるいは」
「勝付きの近習は誰も見ていなかったのか?」
「すぐに義元を探す為に離れたそうです」
「勝と蔵人の勝負を見た者もいない?」
「はい」
今度は森可成を見て、
「勝は今、何をしてる?」
「信長様に怒られたのですからいつものように不貞腐れてますよ、屋敷で」
可成がそう答えたのは清州城下の屋敷が隣だったからだ。
「仕方ない。サル、上手い事言って勝を呼んで来い」
「サルよりも、ここは長門様の方がよろしいかと」
藤吉郎の意見を入れた信長が岩室重休を見て、
「長門、頼む」
「畏まりました」
こうして重休は広間から出ていき、
暫くして拗ねた子供のような様子の恒興が清州城の広間に現れ、
「何か御用ですか?」
そう不貞腐れて尋ねた訳だが、乳兄弟の信長はこうなった時の恒興の扱い方を誰よりも知っており、その恒興の背後から、
「信長様に対してなんて口の聞き方をしてるんだい、勝っ!」
との言葉で、ビクッと背筋を正した恒興が恐る恐る振り返ると、恒興の母親、養徳院が立っていた。
信長の乳母で、織田の先代、信秀の側室でもあり、清州城に居ても何の不思議でもなかったが。
「へっ、母上? どうして清州城に? 那古野城に居るんじゃ?」
「勝が信長様を困らせてるって聞かされて清州のお城に呼ばれたのよ。最初聞いた時は、何を世迷い事を、と思ったけど、どうやらその報告は正しかったようね? いつから信長様を困らせれるまで偉くなったんだい、勝っ! その腐った性根を叩き直してあげるから、そこにお直りっ!」
「いやいや、みんなが居ますし、それにオレ、もう24だしっ!」
「お黙り、勝っ!」
母親の凄い剣幕を見て、
「嘘でしょ――信長様、助けて」
「ん? 大御ちが言うように、実際にオレも勝に困らされてるしーー」
面白がって信長がとぼける中、
「ちょ、ずるい。信長様っ! お願いですからっ!」
あっという間に養徳院の膝の上に抱えられて、1発尻を叩かれたのだった。
「イタっ! 母上、もうしませんからっ!」
「お黙りなさいっ! 信長様にどれだけ良くして貰ってると思ってるんだいっ! 手柄も立ててないのに信長様から馬を何頭貰ったか言ってみなさいっ!」
「全部で7頭ですっ!」
「それなのに、何だい、今の態度は?」
「だって、信勝様を唆した蔵人を倒したのに、信長様が褒めてくれなかったからーー」
「それは今川の総大将以外の首は要らないって信長様が言ってたのに首を持っていくからでしょうがっ!」
「そうだけれどもっ! 母上、お願いですから、もう許して下さいっ!」
「私じゃなくて信長様にお願いしなさいっ!」
「心を入れ替えて御奉公しますので許して下さい、信長様っ!」
「まあ、勝がそこまで言うなら。大御ち、もうよい」
「信長様、勝を甘やかしちゃダメです。間違った事をしたのなら、ちゃんと折檻しないとっ! またヤラカシます、この勝はっ!」
信長の制止を無視して、その後も叩かれ、ようやく解放された時には恒興は尻の痛さで涙目になっていた。
普段から特別扱いの恒興でも、これはさすがに少し可哀想だ、と広間の皆は苦笑していたが。
信長も苦笑しながら、
「命令違反をした勝の今回の不手際は記録に残すな。勝は蔵人の首も持ってこなかった。つまり蔵人は行方不明のままだ。よいな」
「ーーえっ? どうして?」
恒興が非難の声を上げたが、
「勝っ!」
養徳院のその一言で、
「何でもありません」
恒興は黙った。
「本当によろしいのですね、それで?」
平手久秀の最終確認に、
「ああ、暴れ馬の方も記録に残すな。義元に敬意を払ってやれ」
信長のその決定によって、後年作成された信長公記にもこの一節は記載されなかったのだった。
登場人物、1560年度
水野信元(40)・・・織田の家臣。甥の信政を数正に提供して三河松平家の乗っ取りを企む。乗っ取りに邪魔な石川数正の抹殺の機会を窺う。
能力値、尾張三河の国境の顔役S、三河松平贔屓SS、ロクな死に方は出来ないSS、信長への忠誠D、信長からの信頼B、織田家臣団での待遇B
石川数正(27)・・・松平の家臣。元康の今川人質時代からの近侍。悪人面の謀臣。元康と信政の入れ替えを独断で計画。入れ替えを知る水野氏の抹殺の機会を窺う。
能力値、元康の懐刀S、総ては三河の為SS、悪人面の謀臣A、元康への忠誠E、元康からの信頼D、松平家臣団での待遇A
松平元康(17)・・・三河松平家の当主。未来の天下人。元の名は水野信政。正体を知る三河石川氏の抹殺の機会を窺う。
能力値、秘密あり☆、松平元康の傷痕を再現A、天下人の才気C、尾張水野贔屓SS、貧乏性A、薬は自前でS
養徳院(45)・・・池田恒興の実母。信長の乳母。先代、信秀の側室。
能力値、信長の乳母A、先代織田家当主の側室A、恒興を正しく導くS、信長からの信頼S、織田家臣の女房衆からの尊敬A、政治には口を挟まずA
【水野信元、1520年生まれ説、採用】
【水野信元、石川数正に1年前に甥の水野信政を紹介してた説、採用】
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【水野信政、1年前から松平元康と入れ替わる為に訓練をしていた説、採用】
桶狭間では今川義元が討ち死にした事が知れ渡って各所で織田軍が勝ち鬨を上げていた。
そして奇襲部隊が信長の周囲に戻ってくる中、今川義元の首が届くのを今か今かと待っている信長に、別の首を届けるというポカをしたのが徒歩で津々木蔵人の首を持ち帰った恒興である。
「信長様、お喜び下さい」
「おお、勝、それが義元の首か?」
馬から降りて待ってた信長が問う中、
「いえ、違いまーー」
「義元の首以外は要らんと言っただろうがっ!」
憤怒した信長にドカッと前蹴りされた恒興が手にしていた首を落としてひっくり返った。
蹴りは鎧の上からなので痛くも何ともなかったが、雨で泥濘となった足場の悪い桶狭間を歩き回ってヘトヘトだったので藤吉郎のように大袈裟に倒れていた。
「で、ですが――」
「失せい、勝っ!」
信長の憤怒を見て、幼少から信長を知る恒興が今の信長には、話を聞いて貰えない、と判断し、
「畏まりました。清州城に先に帰ってます」
一礼して、地面に落ちた首もそのままに信長の前から去っていった。
その一部始終を信長の許に居た織田の奇襲部隊も見ており、
あの一門扱いの池田恒興が叱責を受けたぞ。
これは下手な事をしたらオレ達なら首が飛ぶぞ。
皆、衝撃と共に、戦勝の浮かれ気分から一転、気を引き締めたのだが、恒興と入れ替わるように信長の前に現れたのが木下藤吉郎で、御存知、藤吉郎は聡いので、信長の傍に落ちてる首が誰なのか瞬時に気付き、
「うひょぉ~、信長様の弟君の信勝様を唆した津々木蔵人の首じゃないですか。誰が尾張一の剣の達人を倒したんですか?」
いつものように大袈裟に驚いたのだった。
憤怒中の信長もその言葉には、
「津々木蔵人だと? 何の事だ?」
「えっ、その首、そうですよね?」
それで初めて信長以下全員が、恒興の持ってきた首に視線を向けたが、
「それで誰がその不埒者を――」
「黙らんか、サルっ!」
信長は今度は藤吉郎を蹴った。
理不尽な八つ当たりであったが、それが許されるのが信長である。
「義元の首以外は要らんと言っただろうがっ!」
「はっ、はい。堪忍して置くんなまし。サルめが悪うございましたから」
慌てて土下座をした藤吉郎だったが、すぐに今川義元の首級が届いた。
持ってきたのは当然、義元を討ち取った張本人の鼻高々の新介である。
「義元の首級、お持ちしました」
「おお、これが。良くやったぞ。皆の者、この戦、織田の勝利だ。改めて勝ち鬨を上げよ」
信長は上機嫌で勝ち鬨を上げさせてから、桶狭間より清州城に凱旋したのだった。
三河松平勢が陥落させた丸根砦内において一時は、死んだ、との誤報が流れた松平の陣にも桶狭間の凶報が届いたのだが、今川義元の戦死は今の三河松平勢からすれば吉報以外の何物でもなかった。
「織田の奇襲部隊が、今川の御大(御大将の略)を討ち取った?」
元康の懐刀である石川数正が同席してる水野信元に静かに視線を移した。
信元が気勢を制して、
「おっと、何を考えてる、数正? 死人に口なしかな? 我らが元康殿が黙ってはいないぞ」
「・・・まさか。今後ともよしなに」
「うむ」
と喋る中、上座に座る瓜二つとは言わないまでも元康とかなり似てる若者が、
「本当にやるのだな、数正?」
そう念を押した。
その正体は水野信元の弟、水野信近の長男にして、17歳の水野信政だった。
松平元康の母親の於大の方が水野一族な事から、松平元康と水野信政は、水野忠政を同じ祖父に持つ同年の従兄弟同士で、血が繋がっているだけあって、松平元康と水野信政はかなり似ていた。
松平元康の狂犬っぷりにほとほと愛想が尽きており、今川方の元康暗殺の策謀が無くとも、従兄弟の信政とのすり替えを独自に計画し、1年の準備期間を経て水野信政を教育し終えていた数正が、
「無論です、お願いします、殿」
「では、伯父上。行って参ります」
「ああ、頑張ってな」
「全軍、三河への撤退準備を始めろっ!」
今川義元が桶狭間で討たれたその日から松平元康は人が変わったように物静かになったのだった。
◇
そして桶狭間の戦いから数日が過ぎ、清州城では論功行賞が行われた。
ただ褒美を与えるだけではない。
今川義元を倒した際の様子を信長に聞かせる報告会のような意味合いもあり、重臣達も同席する中、一番槍の服部小平太と、義元を討った毛利新介が都合良く武勇伝を語っていた。
だが、他にも織田の奇襲隊の中に義元との奮闘を目撃した者は複数居り、既に情報を掴んでいた信長が上座から、
「妙な話を聞いたのだが、義元の首を取る際に暴れ馬が乱入したという話は本当か?」
「えっと、はい」
森可成の不機嫌な顔が視界に入り、これはバレてる、と観念した新介が、
「実は話しても信じて貰えないと思い、話しませんでしたが」
本当に遭った事を吐露し始め、
「それで折れた刀でどうにか義元に勝てました。勝てたのはその暴れ馬のお陰です」
「その暴れ馬、どんな馬だった?」
「さあ、一瞬だったので」
新介は覚えておらず、
「栗毛で白鼻だったと思います」
小平太の方は遠くからだったので覚えていたのかそう答えた。
他の証言と一致している。
そればかりか、他の目撃者からは、
「信長様の白鼻でしたよ、あの馬」
との証言までが飛び出していた。
その後、2人には褒美を与えて退室させたのだが。
信長が平手久秀を見たので、久秀が、
「あの日より信長様の白鼻は行方知れずです。馬番の話では、あの夜、信長様の白鼻を勝手に乗っていったのは・・・」
「そんな厭味ったらしく遠回しな事を言われずとも、あの日、勝がオレの白鼻に乗ってたのはちゃんとこの眼で見ておるわっ!」
そう吐き捨てた信長が河尻秀隆に、
「秀隆、勝にあの蔵人が倒せたと思うか?」
「勝の実力は殿の方が御存知でしょう? 無理ですよ、勝の実力では天才蔵人なんて。オレでもあの蔵人に勝てるかどうか。ですが勝は突飛な事をしますので。その突飛がハマればあるいは」
「勝付きの近習は誰も見ていなかったのか?」
「すぐに義元を探す為に離れたそうです」
「勝と蔵人の勝負を見た者もいない?」
「はい」
今度は森可成を見て、
「勝は今、何をしてる?」
「信長様に怒られたのですからいつものように不貞腐れてますよ、屋敷で」
可成がそう答えたのは清州城下の屋敷が隣だったからだ。
「仕方ない。サル、上手い事言って勝を呼んで来い」
「サルよりも、ここは長門様の方がよろしいかと」
藤吉郎の意見を入れた信長が岩室重休を見て、
「長門、頼む」
「畏まりました」
こうして重休は広間から出ていき、
暫くして拗ねた子供のような様子の恒興が清州城の広間に現れ、
「何か御用ですか?」
そう不貞腐れて尋ねた訳だが、乳兄弟の信長はこうなった時の恒興の扱い方を誰よりも知っており、その恒興の背後から、
「信長様に対してなんて口の聞き方をしてるんだい、勝っ!」
との言葉で、ビクッと背筋を正した恒興が恐る恐る振り返ると、恒興の母親、養徳院が立っていた。
信長の乳母で、織田の先代、信秀の側室でもあり、清州城に居ても何の不思議でもなかったが。
「へっ、母上? どうして清州城に? 那古野城に居るんじゃ?」
「勝が信長様を困らせてるって聞かされて清州のお城に呼ばれたのよ。最初聞いた時は、何を世迷い事を、と思ったけど、どうやらその報告は正しかったようね? いつから信長様を困らせれるまで偉くなったんだい、勝っ! その腐った性根を叩き直してあげるから、そこにお直りっ!」
「いやいや、みんなが居ますし、それにオレ、もう24だしっ!」
「お黙り、勝っ!」
母親の凄い剣幕を見て、
「嘘でしょ――信長様、助けて」
「ん? 大御ちが言うように、実際にオレも勝に困らされてるしーー」
面白がって信長がとぼける中、
「ちょ、ずるい。信長様っ! お願いですからっ!」
あっという間に養徳院の膝の上に抱えられて、1発尻を叩かれたのだった。
「イタっ! 母上、もうしませんからっ!」
「お黙りなさいっ! 信長様にどれだけ良くして貰ってると思ってるんだいっ! 手柄も立ててないのに信長様から馬を何頭貰ったか言ってみなさいっ!」
「全部で7頭ですっ!」
「それなのに、何だい、今の態度は?」
「だって、信勝様を唆した蔵人を倒したのに、信長様が褒めてくれなかったからーー」
「それは今川の総大将以外の首は要らないって信長様が言ってたのに首を持っていくからでしょうがっ!」
「そうだけれどもっ! 母上、お願いですから、もう許して下さいっ!」
「私じゃなくて信長様にお願いしなさいっ!」
「心を入れ替えて御奉公しますので許して下さい、信長様っ!」
「まあ、勝がそこまで言うなら。大御ち、もうよい」
「信長様、勝を甘やかしちゃダメです。間違った事をしたのなら、ちゃんと折檻しないとっ! またヤラカシます、この勝はっ!」
信長の制止を無視して、その後も叩かれ、ようやく解放された時には恒興は尻の痛さで涙目になっていた。
普段から特別扱いの恒興でも、これはさすがに少し可哀想だ、と広間の皆は苦笑していたが。
信長も苦笑しながら、
「命令違反をした勝の今回の不手際は記録に残すな。勝は蔵人の首も持ってこなかった。つまり蔵人は行方不明のままだ。よいな」
「ーーえっ? どうして?」
恒興が非難の声を上げたが、
「勝っ!」
養徳院のその一言で、
「何でもありません」
恒興は黙った。
「本当によろしいのですね、それで?」
平手久秀の最終確認に、
「ああ、暴れ馬の方も記録に残すな。義元に敬意を払ってやれ」
信長のその決定によって、後年作成された信長公記にもこの一節は記載されなかったのだった。
登場人物、1560年度
水野信元(40)・・・織田の家臣。甥の信政を数正に提供して三河松平家の乗っ取りを企む。乗っ取りに邪魔な石川数正の抹殺の機会を窺う。
能力値、尾張三河の国境の顔役S、三河松平贔屓SS、ロクな死に方は出来ないSS、信長への忠誠D、信長からの信頼B、織田家臣団での待遇B
石川数正(27)・・・松平の家臣。元康の今川人質時代からの近侍。悪人面の謀臣。元康と信政の入れ替えを独断で計画。入れ替えを知る水野氏の抹殺の機会を窺う。
能力値、元康の懐刀S、総ては三河の為SS、悪人面の謀臣A、元康への忠誠E、元康からの信頼D、松平家臣団での待遇A
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能力値、秘密あり☆、松平元康の傷痕を再現A、天下人の才気C、尾張水野贔屓SS、貧乏性A、薬は自前でS
養徳院(45)・・・池田恒興の実母。信長の乳母。先代、信秀の側室。
能力値、信長の乳母A、先代織田家当主の側室A、恒興を正しく導くS、信長からの信頼S、織田家臣の女房衆からの尊敬A、政治には口を挟まずA
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またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
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大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
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