池田恒興

竹井ゴールド

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1560年、桶狭間の戦い

狙うは今川義元の首級

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 【桶狭間の戦い、織田の奇襲部隊2000人説、採用】

 【一宮宗是、1546年生まれ説、採用】

 【一宮宗是、変名、津々木蔵人で尾張に潜入していた説、採用】

 【一宮宗是、上泉信綱の門下破門説、採用】

 【織田信勝謀反の黒幕、太原雪斎説、採用】

 【服部小平太、1548年生まれ説、採用】





「狙うは今川義元の首級、ただ一つだっ! それ以外には構うなっ!」





 信長の号令で織田の奇襲隊の2000人が雨の桶狭間に突っ込んだ。

 尾張の各砦に兵を割り振ってるので、2000人が織田軍が桶狭間に動員出来る最大数だ。

 武田の策謀と露払いのお陰で、敵の数が減っており、倒れてる今川兵を見て、織田の奇襲隊も驚いたが、足を止める程ではない。

 今この時こそがこのいくさが伸るか反るかの瀬戸際なのだから。

 織田の奇襲隊は今川の本陣に突入した。

 だが、今川義元の姿がない。

 輿もだ。部下も居ない。

「探せっ! 輿に乗ってるのだからまだ遠くには逃げていないはずだっ!」

 雨の中、義元の捜索が始まった。

 この時、池田恒興は信長の隣に居た。

 恒興の最大の仕事は信長を守る事だ。

 よって周囲を見渡して義元を探すが、信長の傍を離れようとはしなかった。

 しかし、その信長が、

「勝、おまえも探してこいっ! 今川義元の首を今ここで取れなければ織田は終わりだっ!」

「ですがーー」

「勝っ! 探せと言ったぞっ!」

「はい、行ってきます。おまえら、ついて来いっ!」

 怒られる、と思った瞬間にそう返事して信長の傍から離れた恒興であった。





 あの天が何かを告げるかのような不気味な雷鳴は止んだが、まだ土砂降りは続いている。

 その雨の桶狭間を上将なので馬に乗った池田恒興が進む。

 恒興は近習幹部だ。そして織田一門衆と同格扱い。

 当然、近習の配下が付いており、恒興の配下には、

 中川秀胤。

 香川長兵衛。

 滝川益重。

 3人が居たが、全員が手柄を目指して突っ込み、呆気なくはぐれてしまった。

「クソ、この雨だと遠くが見えなくて嫌になるぜ」

 それに信長が欲しいのは今川義元の首級だけだ。

 その為、逃げる今川兵達も斬られてはいるものの首は取られてはおらず、桶狭間の泥濘に転がっていた訳だが、こすい今川武者が死んだふりをしており、馬に乗った恒興が通り過ぎた背後で立ち上がり、背後から槍で突いてきた。

 武将の鎧のお陰で槍先で突かれても無傷だったが、

「おわっ!」

 雨で濡れて滑るのに妙な方向に力が加わって恒興は落馬した。

 正直、落馬での打撲の方が槍で突かれた事よりも痛いくらいで、

「いたたたたーー」

 見上げた時には今川武者が恒興の乗ってた馬に乗ろうとしながら、

「あばよ、馬は貰っていくぞ、信長の腰巾着っ!」

 捨て台詞を吐いており、

「ーーなっ、ふざけるなよっ!」

 恒興の馬は信長のお下がりなので実はかなりの名馬だったのだが、清州城からの出陣のドサクサに誰かが厩舎に入れてた恒興の馬を乗っていってしまっていた。

 出陣に出遅れれば、例え、乳兄弟の恒興でも信長からのお叱りが待っている。

 怒られるのが嫌だった恒興は信長専用の厩舎の名馬の中から下の方の、栗毛に白鼻な事から白鼻と名付けられていた名馬を無断で拝借して今回出陣していた。

 それだけでも怒られるかもしれないのに、今川武者に信長の名馬を取られたりしたら確実に激怒案件だ。

 怒られるのが嫌だった恒興は将軍義輝から拝領した村正、塀落へいらく(恒興自身が命名)を抜いて、白鼻の尻に剣先を突き刺したのだった。

 これは信長からの教えの1つだ。

 敵兵に盗まれるくらいなら馬を殺せ、との。

 だが、尻を刺されたくらいでは馬は死なない。

 確かに死にはしないが、尻を刺された馬からしたら堪ったものではなかった。

 普通に痛いのだから。

 白鼻は尻の激痛に驚いて後ろ足2本で垂直に立ち上がると、乗ろうとしていた今川武者を、

「うわっ!」

 振り落として、雨の中、走り去っていった。

「いたたた」

 落馬した今川武者が蹲って痛がってる中、

「信長様の馬を盗もうとか100年早いんだよっ!」

 恒興が怒り任せにその今川武者を一刀で背後から斬り倒し、馬を追おうと走り出そうとして、

「そう言えば、どうして今川兵がオレの事を知ってやがったんだ?」

 斬り倒した今川兵の顔を確認し、

「ーーなっ、コイツは。信長様が探してた津々木蔵人じゃねえか。や、やった、白鼻を失ったのを差し引いても大手柄だっ! ってか、今川方だったのか? それとも出奔して今川に流れ付いた? ともかく首だっ!」

 そんな訳で義元探しを中断して首級と取ったのだった。





 ◇





 横筋はここまでにして本筋に戻ろう。





 小雨の中、織田の奇襲隊は遂に輿を運ぶ今川部隊を発見し、急襲したが、中に乗っていたのは副将の松井宗信だった。

「身の程知らずの尾張の田舎者どもめがっ! ここで血祭りに上げてくれるわっ!」

 武辺者でもある宗信が織田の奇襲隊を斬り伏せていく。

「強過ぎる」

「さすがは海道一の弓取り、今川義元だぜ」

「いやいや多分違うぞ、こいつ」

 織田の奇襲隊も「今川義元じゃない」と気付いてはいたが、大将首には違いない。

 信長の言い付けも守らず、松井宗信に襲い掛かったのだった。





 この小説は創作ありきだが、基本的には史実に忠実なので結末は決まっている。





 今川義元は小雨の中、近習と一緒に輿を捨てて逃げていた。

 普段から輿に乗るのを好んだが、鎧姿でもちゃんと自分の足で移動出来た。

 それが義元だ。

 そして、輿の方は囮を買って出た副将の松井宗信が乗って反対側に逃げて、敵の織田の軍勢を引き付けてくれている。

 その為、「このままこの死地を抜け出せるのではないか」との考えが頭をよぎったが、大胆不敵というか、本物の織田の奇襲隊が桶狭間に到着しても、最後まで桶狭間に残っていた織田の旗を掲げた騎馬武者の少年、武藤喜兵衛が、

「今川義元がここに居るぞっ!」

 大声を上げて義元の居場所を本物の織田の奇襲隊に教えて回っていた。

 その声を聞いた義元は、

戦場いくさばで子供の声だと? 待てよ。あの子供の声は確かーーそうか、最初からおかしいと思っていたんだっ! 織田ごときにこの私が追い詰められるだなんてっ! 武田めぇぇぇぇぇっ! 駿府に帰ったら覚えておけよぉぉぉぉっ! 三国同盟を破棄して甲斐を滅ぼしてくれるぅぅぅぅっ!」

 桶狭間でのこの苦戦の裏側に武田が居る事を知って悔しがったが後の祭りだった。

 囮の輿を追い掛けたのとはまた違う、周辺に居た織田の奇襲隊が声を聞いて集まってきたのだから。

「本当だっ! 本当に今川の将が居るぞっ!」

「もしかして本当に今川義元なのか?」

「倒せば分かるさっ!」

 いきり立つ織田の奇襲隊に、義元の近習達が、

「調子に乗るなよ、尾張の田舎者がっ!」

「我らが居る限り、義元様に近付けると思うなっ!」

「雑兵どもが切り捨ててやるっ!」

 そう吠えて反撃してきた事で乱戦となった。

 今川の近習達だ。血統も良く、英才教育が施されているので強い。

 織田の雑兵ごときでは正直、相手にならなかった。

 だが、それは同じ条件下での話だ。

 今は小雨だが、土砂降りの中、移動してて疲れてる。

 それは織田も今川も同じだったが、この雨は織田の雑兵よりも今川の名家出身の近習の方により不利に働いた。

 雨で桶狭間の地面は泥濘ぬかるみになっていたからだ。

 雑兵は泥濘に慣れっこだったが、名家の御曹司は普段は泥濘の中など歩かない。

 その足場の不利が祟ったのか、織田が徐々に押し始めた。

 兵数はこの桶狭間という窪地に限定すれば、織田側が完全に数で今川を圧倒している。

 今川の近習が徐々に数を減らしていき、遂には今川義元まで刃が届き始めた。

「貰ったっ!」

「下郎がっ! 図に乗るなっ!」

 だが、今川義元も「海道一の弓取り」と讃えられた男だ。

 普通にその辺の侍大将よりも強かった。

 小雨の中、長々と奮闘が続き、遂には泥濘で滑って避け損ねて、

「ぐああああっ!」

 織田兵の槍が義元の太股を貫いた。

「服部小平太、一番槍っ!」

 刺した本人が手柄名乗りを上げる。

「雑兵がっ!」

 太股の負傷のお返しとばかりに、義元が小平太の太股を斬り返す。

「ぐおおおおっ!」

 小平太が蹲る中、

「毛利新介、助太刀いたすっ!」

 出陣前に恒興の鎧の着付けを手伝わさせられ、その所為で出遅れてウンザリしてた新介が千載一遇の好機の到来とばかりに義元の前に躍り出たが、

「邪魔だ、下郎っ!」

 たったの3合で持ってるナマクラが半分にへし折られた。

「・・・嘘? 何で?」

 新介が驚く中、

「安物なんぞを使ってるからだっ! 消えよっ!」

 と眼の前の義元が剣を振り被り、その背後から更に信じられない事に誰も乗っていない栗毛の暴れ馬が暴走して来て、

「へっ? ・・・ギャ」

 義元の身体を撥ねて、勢い良く吹き飛ばされた義元の身体が新介の身体とぶつかり、2人はそのまま縺れるように倒れ込んだ。

 義元が覆い被さる形で倒れた訳だが、そのぶつかった拍子に新介が握っていた半分に折れたナマクラが義元の首に突き刺さり、

「グアアアア・・・こ、こんなところでーー」

「うわ、暴れるなっ! ってか指を噛むな、このっ!」

 覆い被さられた新介が指を噛まれながらも必死に首に突き刺さったナマクラを義元の首に更に押し込んで、

「グオオオ」

 ようやく義元が死に、

「毛利新介、今川の総大将、今川義元を討ちとったりっ!」

 と手柄名乗りを上げて、織田の奇襲部隊全員が勝ち鬨を上げたのだった。





 登場人物、1560年

 一宮宗是(24)・・・今川家の家臣。変名、津々木蔵人。織田信勝の寵臣。美貌の妖剣士。津々木蔵人は伊賀出身で尾張随一の剣客。自称、上泉信綱の弟子。

 能力値、妖剣使いSS、誰にでも噛み付く狂犬C、信勝の謀反は太原雪舟の策謀S、義元への忠誠B、義元からの信頼D、羲元家臣団での待遇C

 服部小平太(22)・・・織田家の家臣。信長の近習。

 能力値、猪武者B、伊賀とは無縁A、信長への忠誠C、信長からの信頼D、信長家臣団での待遇D、本日の運勢最高☆
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