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1560年、桶狭間の戦い
沓掛城から今川義元出発
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【松平元康、尾張丸根砦攻めの際に戦死説、採用】
【善応院、1539年生まれ説、採用】
【七条、1556年生まれ説、採用】
【織田信房の織田姓は褒美説、採用】
【毛利新介、1539年生まれ説、採用】
【毛利新介を信長に推薦したのは森可成説、採用】
三河の松平元康は尾張の丸根砦を攻めてた訳だが、守将は佐久間盛重である。
尾張の氏族名門の佐久間の人間が守るのだから要所であり、織田方も防衛に必死で、戦国時代の最新兵器、火縄銃が20丁も与えられていた。
火縄銃20丁が弾込めが終わると同時に丸根砦から発射され、攻める松平勢に降り注いだ。
そんな中、指揮官の松平元康は、
「絶対に清州城に一番乗りするぞっ!」
やる気に満ちていた。
それには理由がある。
幼少期に織田家の人質となった元康は信長の虐め抜かれており、通常ならば牙を抜かれてるところだが、三河松平の御曹司だけあって牙が抜かれておらず、
(殺してやるっ! 絶対に殺してやるぞ、信長ぁぁぁっ! 童のオレを当たり前のように何度も何度も殴った信長の側近の大人の河尻秀隆ぁぁぁぁっ! それと信長の腕に噛み付いたくらいで背中に火縄銃の火薬を撒いて火縄で点火して背中を火傷させた腰巾着の岩室長門守ぃぃぃっ! そしてそして、火縄銃の的にして笑いながらオレの足の甲を撃ち抜きやがった織田信長ぁぁぁぁぁぁっ! おまえら3人だけは絶対に許さんからなぁぁぁぁっ! 絶対に殺してやるぅぅぅぅぅぅぅっ!)
信長憎しで三河兵に無謀な突撃をさせていたのだが、丸根砦とは別方向からの銃撃音と共に元康の首筋に激痛が走り、
「ぐああああああ、首があああ、痛い痛い痛いっ!」
「えっ、元康様?」
「拙い。元康様を守れ」
「一端兵を退くぞっ!」
松平家中の兵に守られて松平元康は撤退したのだった。
元康を撃ったのが丸根砦からの火縄銃ではなく、木の上に潜んだ服部正成が撃った火縄銃である事に気付いた者はこの混沌とした戦場では誰も居なかった。
沓掛城の今川義元の許に、
「三河の松平元康、火縄銃で撃たれて負傷しました」
その報告が届けられたのは元康が狙撃された当日だった。
元康暗殺用に松井宗信が放った弓隊からの報告なので虚偽ではないが、
「どこを撃たれた? 腹か頭か? 死に至る程の重傷なのか?」
「三河松平の重臣達のあの騒ぎようでは明日をも知れぬ命かと」
その報告に、
「あの狂犬の小僧を火縄銃で撃ってくれた織田兵に感謝せねばな、ハーッハッハッハッ」
高笑いを上げた義元は、
「よし、明日、沓掛城を出発して最前線の大高城に入るぞ。そう触れを出せ」
「ははっ」
沓掛城からの進軍を決めたのだった。
この今川義元の出発情報が清州城に入ったのはその日の昼間だったが、その頃には信長の方も清洲城下の全軍に登城の触れを出していた。
その登城の触れが出た事を受けて池田屋敷に居た池田恒興は戦に出る覚悟を決めて家族と向き合った。
恒興は既婚者である。
正室の名前は善応院。
こんな名前なのは前夫に先立たれた後家だからだった。
前夫の信長の異母兄の織田信時。
尾張で織田家の御曹司の妻になるのだ。善応院は美人な上に家柄も良かった。
まあ、善応院の実家の荒尾氏は早々に今川方に降伏しているのだが。
その善応院の横には前夫との娘で池田屋敷に引き取った七条が座る。
「どうやら明日だ。籠城か野戦かは信長様のお心次第だが」
「そうですか、死なないで下さいね」
「いざという時は勝九郎を頼むな」
女中があやしてる赤子を見ながら恒興は答えた。
「今川に降伏はされないのですか?」
「信長様の為に死ぬのみさ」
その言葉は自然と口から出たが遅蒔きに気付いて、カッコイイ、と思ってる三枚目なのが恒興なので締まらなかったが。
その後も戦前なので夫婦らしく愛し合った。
翌日。
今川義元は沓掛城から出発しなかった。
天気が理由ではない。快晴なのだから。
つまりは義元も馬鹿ではないという事だ。
清州城の内情を今川方も掴んでおり、信長が清洲城に兵を集めた事を知って、出撃するか相手の出方を見る為に出発を延期にしていたのだ。
「甘いわ、小僧。この義元を甘く見るではないぞ」
そう清州城の方を見て笑ったのだが、
奇行で知られる信長の方も清洲城に兵を集めただけで別に出陣などはしなかった。
触れで清州城内に兵が集められただけだ。
兵が集まった清洲城内にて、
「おい、恒興。信長様は本当に籠城策を選ばれるおつもりなのか?」
佐々成政が恒興に尋ねるが、本当に教えて貰っていないので、
「知らんよ。『出陣と籠城、両方の用意をしておけ』としか言われてないんだから。だよな、長門」
同意を求められた小姓筆頭の岩室重休は初耳とばかりに、
「えっ、両方なのか? オレは信長様から『籠城だ』と直接聞いたぞ」
「あれ、そうなのか?」
恒興の方がそう驚いたが、これは別に不思議な事でも何でもない。
信長は乳兄弟の恒興が嘘のつけない性格な事を知っており、本当の事は教えず、両方だ、と煙に巻き、重休は才人で嘘もさらりとつけるので野戦方針なのを知ってたが「籠城だ」と嘘をついているのだから。
「だよな、サル?」
重休が偶然通り掛かった藤吉郎に声を掛け、
「ええ、籠城だと思います。薪の確認をするように信長様に言われて、数えにいくところですから」
藤吉郎も演技派なので、そう答えて歩いていった。
「やはり籠城か。信長様なら討って出ると思ったんだがな」
そう成政は残念がったのだった。
◇
これで話は終わりではない。
何故ならば、この小説は創作多数だが史実の流れに沿っているのだから。
二日後の深夜。
今川義元が滞在中の沓掛城の門を、三河松平の陣からの脱走者が褒美欲しさに訪ねて来ていた。
「実はとっておきの情報があるのですが」
門を守る夜勤の兵は、またか、と思いながらも、素知らぬ顔をして通せ、と言われていたので命令通りに通した。
その密告者の応対をしたのは今川上洛軍に合流した笠寺砦の守将、三浦義就である。
直接、義就が対応するのは、雑兵の密告内容がそれだけの内容だったからだ。
まあ、この雑兵で三河松平からの密告者は4人目なのだが。
最初に起こされた時はうんざりしたが、その後も何人も松平の陣から密告者が現れるので完全に眼が醒めた義就が、
「とっておきの情報とは何だ?」
「はっ、その前に御褒美はいただけますのでしょうか?」
「内容次第だな」
「実は松平の殿様が死にました」
これまでの密告者と内容は同じだった。
「直接見たのか?」
念の為に聞いてみる。
まあ、見てないだろう。どう見ても雑兵だ。
「いえ、さすがに。ですが家老の酒井様が大泣きしてるのを見ました」
「そうか。では褒美をやろう」
と視線で合図すると、密告者の背後に居た部下が槍でブスリッと突き刺し、
「グアアアアア、な、何を――」
「三河の雑兵ごときがオレの眠りを妨げた罰だっ! あの世で閻魔にそう告げよっ!」
4人目の雑兵が殺された時、奥から副将の松井宗信までが出てきた。
「悲鳴が漏れるとは仕事が荒いな。口を防いでから殺さぬか」
「申し訳ございません」
暗殺の指南をしてると、
「松平勢に付けていた暗殺部隊が戻って参りました」
との報告と共に、宗信の前に弓隊に扮する近習の1人が現れた。
「只今、戻りました」
「おまえ達が戻ってきたという事は死んだか?」
「はっ、火縄銃の流れ弾が首に当たって意識不明だった三河の若僧が先程、死にましてございまする」
「確実か? 丸根砦を松平勢が今日の昼間落としたと報告を受けたが?」
「はい、松平の陣に忍び込んで直接確認致しました。織田との戦が終わるまで松平の重臣どもは御大(御大将の事)に報告しない腹づもりです。手柄を積み上げて御家の存続を図るとか言っておりました」
「馬鹿どもが。それが理由で三河松平が解体されるとも知らずに」
宗信はニヤリと笑ったのだった。
同時刻。
信長は敦盛を舞ってから、清州城から出発した。
その信長の行動に付いていけたのは信長の鎧着せを手伝った小姓の岩室重休、長谷川橋介、山口飛騨守、加藤弥三郎、佐脇良之の5人だけだった。
尚、佐脇良之は姓が違うが前田利家の弟である。
呑気に清州城内で仮眠を取っていた恒興は鎧を脱いで眠っていたので、
「信長様が清州城から出陣したってよ」
「何だと?」
「どこに行ったんだ?」
「熱田神社で集合だそうだ」
「だったら急がないと」
と城内が騒然となってようやく起き、鎧を着て追い掛けようとしたのだが。
恒興は織田一門衆と同格扱いだ。
よって足軽の鎧ではなく立派な鎧を与えられており、当然1人では装着出来ず、
「おい、誰かオレの鎧を着るのを手伝ってくれ。ああ、九右衛門、いいところにーー」
「悪い、勝さん。オレも親父みたいに織田姓が貰えるくらいの手柄を立てたいんでね、お先に」
小姓の菅屋長頼はそう言って足軽鎧を着ながら出ていった。
「嘘だろ。信長様だぞ? 戦場に出送れたらオレでも怒られるんだぞっ! そこの、ええっと、毛利新介っ! 鎧を着るのを手伝えっ!」
次に名前を呼ばれた21歳の若武者の毛利新介が嫌そうな顔で、
「ああ、もう。早く鎧を着て下さいよ、池田殿。池田殿と違って、小姓のオレの場合、送れたら本当に首が飛ぶんですから」
文句を言いながらも鎧を着るのを手伝ったのは恒興が織田一門衆と同格扱いだからだけではない。
新介を信長の小姓に推薦したのが森可成で、信長のお気に入りの可成と織田一門衆と同格扱いの池田恒興との仲が良好だったという家臣派閥の政治的な背景もあった。
恒興に名前が知られていたのもその所為だ。
それに織田一門衆と同格扱いの恒興に嫌われるのは、織田家中ではかなり拙いのも事実だ。
新介は渋々と手伝い、恒興はそのお陰でどうにか鎧を着る事が出来て清洲城から出発したが完全に出遅れたのだった。
そして夜が明けた朝、沓掛城からは今川義元の本隊が出発した。
目指すは尾張内の今川最前線基地の大高城である。
睡眠が妨げられる事もなく、寝起きと同時に、
「三河の松平勢は隠しておりますが、どうも松平元康が死んだようです」
との報告を受けた義元が御機嫌で出発の触れを出して。
馬に乗れないのではなく、京での生活の練習として輿に乗り込もうとした義元が、
「今日は良い事がありそうだな」
曇った天気だったがそう呟き、
「案外、清州城で寝返りに遭った織田の若僧の首が落ちてるやもしれませんな」
副将の松井宗信もそう追従し、
「そうかもしれんな、ハァーッハッハッハッ」
本当に機嫌良く出発したのだった。
登場人物、1560年度
松平元康(17)・・・三河松平家当主。祖父と父親同様、誰にでも噛み付く狂犬。信長憎し、織田憎しで有名。享年17歳。元康が知る信長は影武者だった池田恒興。
能力値、松平の狂犬一族S、三河魂D、信長憎しSS、生傷が絶えずA、雪舟の鎖B、本日の運勢最悪☆☆☆
善応院(21)・・・恒興の正室。前夫は信長の異母兄の織田信時。前夫との間に娘、七条あり。
能力値、再婚は信長の命令B、姑に頭上がらずSS、政治に口を挟まずA、実家にウンザリA、子育てA、今の生活に満足D
佐々成政(24)・・・信長の近習。近江源氏の佐々氏の庶流。織田信安の元部下。政務が有能。正室は村井貞勝の娘。
能力値、まさかの文官肌A、不運の佐々☆、豪傑への尊敬A、信長への絶対忠誠B、信長からの信頼B、織田家臣団での待遇B
岩室重休(24)・・・信長の寵臣の小姓。通称、長門守。文武、容姿共に優れている。甲賀五十三家の岩室氏の傍系。信秀の最後の側室、岩室殿とは無関係。
能力値、命知らずA、隠れなき才人A、信長の寵臣A、信長への絶対忠誠S、信長からの信頼A、織田家臣団での待遇A
菅屋長頼(22)・・・織田家の家臣。織田信房の次男。父親の信房は繊田一族とは無関係。信房の織田姓は褒美。恒興とは領地が隣同士。兄は小瀬清長。
能力値、父親の七光りB、武芸は下手の横好きA、若き奉行候補A、信長への忠誠A、信長からの信頼C、織田家臣団での待遇C
毛利新介(21)・・・織田家の家臣。信長の小姓。言わずと知れた桶狭間の戦いの主役。
能力値、我武者羅A、森可成の推薦A、信長への忠誠B、信長からの信頼B、信長家臣団での待遇D、本日の運勢最高☆☆☆
【善応院、1539年生まれ説、採用】
【七条、1556年生まれ説、採用】
【織田信房の織田姓は褒美説、採用】
【毛利新介、1539年生まれ説、採用】
【毛利新介を信長に推薦したのは森可成説、採用】
三河の松平元康は尾張の丸根砦を攻めてた訳だが、守将は佐久間盛重である。
尾張の氏族名門の佐久間の人間が守るのだから要所であり、織田方も防衛に必死で、戦国時代の最新兵器、火縄銃が20丁も与えられていた。
火縄銃20丁が弾込めが終わると同時に丸根砦から発射され、攻める松平勢に降り注いだ。
そんな中、指揮官の松平元康は、
「絶対に清州城に一番乗りするぞっ!」
やる気に満ちていた。
それには理由がある。
幼少期に織田家の人質となった元康は信長の虐め抜かれており、通常ならば牙を抜かれてるところだが、三河松平の御曹司だけあって牙が抜かれておらず、
(殺してやるっ! 絶対に殺してやるぞ、信長ぁぁぁっ! 童のオレを当たり前のように何度も何度も殴った信長の側近の大人の河尻秀隆ぁぁぁぁっ! それと信長の腕に噛み付いたくらいで背中に火縄銃の火薬を撒いて火縄で点火して背中を火傷させた腰巾着の岩室長門守ぃぃぃっ! そしてそして、火縄銃の的にして笑いながらオレの足の甲を撃ち抜きやがった織田信長ぁぁぁぁぁぁっ! おまえら3人だけは絶対に許さんからなぁぁぁぁっ! 絶対に殺してやるぅぅぅぅぅぅぅっ!)
信長憎しで三河兵に無謀な突撃をさせていたのだが、丸根砦とは別方向からの銃撃音と共に元康の首筋に激痛が走り、
「ぐああああああ、首があああ、痛い痛い痛いっ!」
「えっ、元康様?」
「拙い。元康様を守れ」
「一端兵を退くぞっ!」
松平家中の兵に守られて松平元康は撤退したのだった。
元康を撃ったのが丸根砦からの火縄銃ではなく、木の上に潜んだ服部正成が撃った火縄銃である事に気付いた者はこの混沌とした戦場では誰も居なかった。
沓掛城の今川義元の許に、
「三河の松平元康、火縄銃で撃たれて負傷しました」
その報告が届けられたのは元康が狙撃された当日だった。
元康暗殺用に松井宗信が放った弓隊からの報告なので虚偽ではないが、
「どこを撃たれた? 腹か頭か? 死に至る程の重傷なのか?」
「三河松平の重臣達のあの騒ぎようでは明日をも知れぬ命かと」
その報告に、
「あの狂犬の小僧を火縄銃で撃ってくれた織田兵に感謝せねばな、ハーッハッハッハッ」
高笑いを上げた義元は、
「よし、明日、沓掛城を出発して最前線の大高城に入るぞ。そう触れを出せ」
「ははっ」
沓掛城からの進軍を決めたのだった。
この今川義元の出発情報が清州城に入ったのはその日の昼間だったが、その頃には信長の方も清洲城下の全軍に登城の触れを出していた。
その登城の触れが出た事を受けて池田屋敷に居た池田恒興は戦に出る覚悟を決めて家族と向き合った。
恒興は既婚者である。
正室の名前は善応院。
こんな名前なのは前夫に先立たれた後家だからだった。
前夫の信長の異母兄の織田信時。
尾張で織田家の御曹司の妻になるのだ。善応院は美人な上に家柄も良かった。
まあ、善応院の実家の荒尾氏は早々に今川方に降伏しているのだが。
その善応院の横には前夫との娘で池田屋敷に引き取った七条が座る。
「どうやら明日だ。籠城か野戦かは信長様のお心次第だが」
「そうですか、死なないで下さいね」
「いざという時は勝九郎を頼むな」
女中があやしてる赤子を見ながら恒興は答えた。
「今川に降伏はされないのですか?」
「信長様の為に死ぬのみさ」
その言葉は自然と口から出たが遅蒔きに気付いて、カッコイイ、と思ってる三枚目なのが恒興なので締まらなかったが。
その後も戦前なので夫婦らしく愛し合った。
翌日。
今川義元は沓掛城から出発しなかった。
天気が理由ではない。快晴なのだから。
つまりは義元も馬鹿ではないという事だ。
清州城の内情を今川方も掴んでおり、信長が清洲城に兵を集めた事を知って、出撃するか相手の出方を見る為に出発を延期にしていたのだ。
「甘いわ、小僧。この義元を甘く見るではないぞ」
そう清州城の方を見て笑ったのだが、
奇行で知られる信長の方も清洲城に兵を集めただけで別に出陣などはしなかった。
触れで清州城内に兵が集められただけだ。
兵が集まった清洲城内にて、
「おい、恒興。信長様は本当に籠城策を選ばれるおつもりなのか?」
佐々成政が恒興に尋ねるが、本当に教えて貰っていないので、
「知らんよ。『出陣と籠城、両方の用意をしておけ』としか言われてないんだから。だよな、長門」
同意を求められた小姓筆頭の岩室重休は初耳とばかりに、
「えっ、両方なのか? オレは信長様から『籠城だ』と直接聞いたぞ」
「あれ、そうなのか?」
恒興の方がそう驚いたが、これは別に不思議な事でも何でもない。
信長は乳兄弟の恒興が嘘のつけない性格な事を知っており、本当の事は教えず、両方だ、と煙に巻き、重休は才人で嘘もさらりとつけるので野戦方針なのを知ってたが「籠城だ」と嘘をついているのだから。
「だよな、サル?」
重休が偶然通り掛かった藤吉郎に声を掛け、
「ええ、籠城だと思います。薪の確認をするように信長様に言われて、数えにいくところですから」
藤吉郎も演技派なので、そう答えて歩いていった。
「やはり籠城か。信長様なら討って出ると思ったんだがな」
そう成政は残念がったのだった。
◇
これで話は終わりではない。
何故ならば、この小説は創作多数だが史実の流れに沿っているのだから。
二日後の深夜。
今川義元が滞在中の沓掛城の門を、三河松平の陣からの脱走者が褒美欲しさに訪ねて来ていた。
「実はとっておきの情報があるのですが」
門を守る夜勤の兵は、またか、と思いながらも、素知らぬ顔をして通せ、と言われていたので命令通りに通した。
その密告者の応対をしたのは今川上洛軍に合流した笠寺砦の守将、三浦義就である。
直接、義就が対応するのは、雑兵の密告内容がそれだけの内容だったからだ。
まあ、この雑兵で三河松平からの密告者は4人目なのだが。
最初に起こされた時はうんざりしたが、その後も何人も松平の陣から密告者が現れるので完全に眼が醒めた義就が、
「とっておきの情報とは何だ?」
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「内容次第だな」
「実は松平の殿様が死にました」
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「直接見たのか?」
念の為に聞いてみる。
まあ、見てないだろう。どう見ても雑兵だ。
「いえ、さすがに。ですが家老の酒井様が大泣きしてるのを見ました」
「そうか。では褒美をやろう」
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「グアアアアア、な、何を――」
「三河の雑兵ごときがオレの眠りを妨げた罰だっ! あの世で閻魔にそう告げよっ!」
4人目の雑兵が殺された時、奥から副将の松井宗信までが出てきた。
「悲鳴が漏れるとは仕事が荒いな。口を防いでから殺さぬか」
「申し訳ございません」
暗殺の指南をしてると、
「松平勢に付けていた暗殺部隊が戻って参りました」
との報告と共に、宗信の前に弓隊に扮する近習の1人が現れた。
「只今、戻りました」
「おまえ達が戻ってきたという事は死んだか?」
「はっ、火縄銃の流れ弾が首に当たって意識不明だった三河の若僧が先程、死にましてございまする」
「確実か? 丸根砦を松平勢が今日の昼間落としたと報告を受けたが?」
「はい、松平の陣に忍び込んで直接確認致しました。織田との戦が終わるまで松平の重臣どもは御大(御大将の事)に報告しない腹づもりです。手柄を積み上げて御家の存続を図るとか言っておりました」
「馬鹿どもが。それが理由で三河松平が解体されるとも知らずに」
宗信はニヤリと笑ったのだった。
同時刻。
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尚、佐脇良之は姓が違うが前田利家の弟である。
呑気に清州城内で仮眠を取っていた恒興は鎧を脱いで眠っていたので、
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「何だと?」
「どこに行ったんだ?」
「熱田神社で集合だそうだ」
「だったら急がないと」
と城内が騒然となってようやく起き、鎧を着て追い掛けようとしたのだが。
恒興は織田一門衆と同格扱いだ。
よって足軽の鎧ではなく立派な鎧を与えられており、当然1人では装着出来ず、
「おい、誰かオレの鎧を着るのを手伝ってくれ。ああ、九右衛門、いいところにーー」
「悪い、勝さん。オレも親父みたいに織田姓が貰えるくらいの手柄を立てたいんでね、お先に」
小姓の菅屋長頼はそう言って足軽鎧を着ながら出ていった。
「嘘だろ。信長様だぞ? 戦場に出送れたらオレでも怒られるんだぞっ! そこの、ええっと、毛利新介っ! 鎧を着るのを手伝えっ!」
次に名前を呼ばれた21歳の若武者の毛利新介が嫌そうな顔で、
「ああ、もう。早く鎧を着て下さいよ、池田殿。池田殿と違って、小姓のオレの場合、送れたら本当に首が飛ぶんですから」
文句を言いながらも鎧を着るのを手伝ったのは恒興が織田一門衆と同格扱いだからだけではない。
新介を信長の小姓に推薦したのが森可成で、信長のお気に入りの可成と織田一門衆と同格扱いの池田恒興との仲が良好だったという家臣派閥の政治的な背景もあった。
恒興に名前が知られていたのもその所為だ。
それに織田一門衆と同格扱いの恒興に嫌われるのは、織田家中ではかなり拙いのも事実だ。
新介は渋々と手伝い、恒興はそのお陰でどうにか鎧を着る事が出来て清洲城から出発したが完全に出遅れたのだった。
そして夜が明けた朝、沓掛城からは今川義元の本隊が出発した。
目指すは尾張内の今川最前線基地の大高城である。
睡眠が妨げられる事もなく、寝起きと同時に、
「三河の松平勢は隠しておりますが、どうも松平元康が死んだようです」
との報告を受けた義元が御機嫌で出発の触れを出して。
馬に乗れないのではなく、京での生活の練習として輿に乗り込もうとした義元が、
「今日は良い事がありそうだな」
曇った天気だったがそう呟き、
「案外、清州城で寝返りに遭った織田の若僧の首が落ちてるやもしれませんな」
副将の松井宗信もそう追従し、
「そうかもしれんな、ハァーッハッハッハッ」
本当に機嫌良く出発したのだった。
登場人物、1560年度
松平元康(17)・・・三河松平家当主。祖父と父親同様、誰にでも噛み付く狂犬。信長憎し、織田憎しで有名。享年17歳。元康が知る信長は影武者だった池田恒興。
能力値、松平の狂犬一族S、三河魂D、信長憎しSS、生傷が絶えずA、雪舟の鎖B、本日の運勢最悪☆☆☆
善応院(21)・・・恒興の正室。前夫は信長の異母兄の織田信時。前夫との間に娘、七条あり。
能力値、再婚は信長の命令B、姑に頭上がらずSS、政治に口を挟まずA、実家にウンザリA、子育てA、今の生活に満足D
佐々成政(24)・・・信長の近習。近江源氏の佐々氏の庶流。織田信安の元部下。政務が有能。正室は村井貞勝の娘。
能力値、まさかの文官肌A、不運の佐々☆、豪傑への尊敬A、信長への絶対忠誠B、信長からの信頼B、織田家臣団での待遇B
岩室重休(24)・・・信長の寵臣の小姓。通称、長門守。文武、容姿共に優れている。甲賀五十三家の岩室氏の傍系。信秀の最後の側室、岩室殿とは無関係。
能力値、命知らずA、隠れなき才人A、信長の寵臣A、信長への絶対忠誠S、信長からの信頼A、織田家臣団での待遇A
菅屋長頼(22)・・・織田家の家臣。織田信房の次男。父親の信房は繊田一族とは無関係。信房の織田姓は褒美。恒興とは領地が隣同士。兄は小瀬清長。
能力値、父親の七光りB、武芸は下手の横好きA、若き奉行候補A、信長への忠誠A、信長からの信頼C、織田家臣団での待遇C
毛利新介(21)・・・織田家の家臣。信長の小姓。言わずと知れた桶狭間の戦いの主役。
能力値、我武者羅A、森可成の推薦A、信長への忠誠B、信長からの信頼B、信長家臣団での待遇D、本日の運勢最高☆☆☆
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歴史・時代
【第13章を夏ごろからスタート予定です】世界の海が人と船で結ばれていく16世紀の遥かな旅の物語です。
12章は16世紀後半のフランスが舞台になっています。
※このお話は史実を参考にしたフィクションです。
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
大東亜戦争を有利に
ゆみすけ
歴史・時代
日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
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