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1560年、桶狭間の戦い
沓掛城から今川義元出発
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【松平元康、尾張丸根砦攻めの際に戦死説、採用】
【善応院、1539年生まれ説、採用】
【七条、1556年生まれ説、採用】
【織田信房の織田姓は褒美説、採用】
【毛利新介、1539年生まれ説、採用】
【毛利新介を信長に推薦したのは森可成説、採用】
三河の松平元康は尾張の丸根砦を攻めてた訳だが、守将は佐久間盛重である。
尾張の氏族名門の佐久間の人間が守るのだから要所であり、織田方も防衛に必死で、戦国時代の最新兵器、火縄銃が20丁も与えられていた。
火縄銃20丁が弾込めが終わると同時に丸根砦から発射され、攻める松平勢に降り注いだ。
そんな中、指揮官の松平元康は、
「絶対に清州城に一番乗りするぞっ!」
やる気に満ちていた。
それには理由がある。
幼少期に織田家の人質となった元康は信長の虐め抜かれており、通常ならば牙を抜かれてるところだが、三河松平の御曹司だけあって牙が抜かれておらず、
(殺してやるっ! 絶対に殺してやるぞ、信長ぁぁぁっ! 童のオレを当たり前のように何度も何度も殴った信長の側近の大人の河尻秀隆ぁぁぁぁっ! それと信長の腕に噛み付いたくらいで背中に火縄銃の火薬を撒いて火縄で点火して背中を火傷させた腰巾着の岩室長門守ぃぃぃっ! そしてそして、火縄銃の的にして笑いながらオレの足の甲を撃ち抜きやがった織田信長ぁぁぁぁぁぁっ! おまえら3人だけは絶対に許さんからなぁぁぁぁっ! 絶対に殺してやるぅぅぅぅぅぅぅっ!)
信長憎しで三河兵に無謀な突撃をさせていたのだが、丸根砦とは別方向からの銃撃音と共に元康の首筋に激痛が走り、
「ぐああああああ、首があああ、痛い痛い痛いっ!」
「えっ、元康様?」
「拙い。元康様を守れ」
「一端兵を退くぞっ!」
松平家中の兵に守られて松平元康は撤退したのだった。
元康を撃ったのが丸根砦からの火縄銃ではなく、木の上に潜んだ服部正成が撃った火縄銃である事に気付いた者はこの混沌とした戦場では誰も居なかった。
沓掛城の今川義元の許に、
「三河の松平元康、火縄銃で撃たれて負傷しました」
その報告が届けられたのは元康が狙撃された当日だった。
元康暗殺用に松井宗信が放った弓隊からの報告なので虚偽ではないが、
「どこを撃たれた? 腹か頭か? 死に至る程の重傷なのか?」
「三河松平の重臣達のあの騒ぎようでは明日をも知れぬ命かと」
その報告に、
「あの狂犬の小僧を火縄銃で撃ってくれた織田兵に感謝せねばな、ハーッハッハッハッ」
高笑いを上げた義元は、
「よし、明日、沓掛城を出発して最前線の大高城に入るぞ。そう触れを出せ」
「ははっ」
沓掛城からの進軍を決めたのだった。
この今川義元の出発情報が清州城に入ったのはその日の昼間だったが、その頃には信長の方も清洲城下の全軍に登城の触れを出していた。
その登城の触れが出た事を受けて池田屋敷に居た池田恒興は戦に出る覚悟を決めて家族と向き合った。
恒興は既婚者である。
正室の名前は善応院。
こんな名前なのは前夫に先立たれた後家だからだった。
前夫の信長の異母兄の織田信時。
尾張で織田家の御曹司の妻になるのだ。善応院は美人な上に家柄も良かった。
まあ、善応院の実家の荒尾氏は早々に今川方に降伏しているのだが。
その善応院の横には前夫との娘で池田屋敷に引き取った七条が座る。
「どうやら明日だ。籠城か野戦かは信長様のお心次第だが」
「そうですか、死なないで下さいね」
「いざという時は勝九郎を頼むな」
女中があやしてる赤子を見ながら恒興は答えた。
「今川に降伏はされないのですか?」
「信長様の為に死ぬのみさ」
その言葉は自然と口から出たが遅蒔きに気付いて、カッコイイ、と思ってる三枚目なのが恒興なので締まらなかったが。
その後も戦前なので夫婦らしく愛し合った。
翌日。
今川義元は沓掛城から出発しなかった。
天気が理由ではない。快晴なのだから。
つまりは義元も馬鹿ではないという事だ。
清州城の内情を今川方も掴んでおり、信長が清洲城に兵を集めた事を知って、出撃するか相手の出方を見る為に出発を延期にしていたのだ。
「甘いわ、小僧。この義元を甘く見るではないぞ」
そう清州城の方を見て笑ったのだが、
奇行で知られる信長の方も清洲城に兵を集めただけで別に出陣などはしなかった。
触れで清州城内に兵が集められただけだ。
兵が集まった清洲城内にて、
「おい、恒興。信長様は本当に籠城策を選ばれるおつもりなのか?」
佐々成政が恒興に尋ねるが、本当に教えて貰っていないので、
「知らんよ。『出陣と籠城、両方の用意をしておけ』としか言われてないんだから。だよな、長門」
同意を求められた小姓筆頭の岩室重休は初耳とばかりに、
「えっ、両方なのか? オレは信長様から『籠城だ』と直接聞いたぞ」
「あれ、そうなのか?」
恒興の方がそう驚いたが、これは別に不思議な事でも何でもない。
信長は乳兄弟の恒興が嘘のつけない性格な事を知っており、本当の事は教えず、両方だ、と煙に巻き、重休は才人で嘘もさらりとつけるので野戦方針なのを知ってたが「籠城だ」と嘘をついているのだから。
「だよな、サル?」
重休が偶然通り掛かった藤吉郎に声を掛け、
「ええ、籠城だと思います。薪の確認をするように信長様に言われて、数えにいくところですから」
藤吉郎も演技派なので、そう答えて歩いていった。
「やはり籠城か。信長様なら討って出ると思ったんだがな」
そう成政は残念がったのだった。
◇
これで話は終わりではない。
何故ならば、この小説は創作多数だが史実の流れに沿っているのだから。
二日後の深夜。
今川義元が滞在中の沓掛城の門を、三河松平の陣からの脱走者が褒美欲しさに訪ねて来ていた。
「実はとっておきの情報があるのですが」
門を守る夜勤の兵は、またか、と思いながらも、素知らぬ顔をして通せ、と言われていたので命令通りに通した。
その密告者の応対をしたのは今川上洛軍に合流した笠寺砦の守将、三浦義就である。
直接、義就が対応するのは、雑兵の密告内容がそれだけの内容だったからだ。
まあ、この雑兵で三河松平からの密告者は4人目なのだが。
最初に起こされた時はうんざりしたが、その後も何人も松平の陣から密告者が現れるので完全に眼が醒めた義就が、
「とっておきの情報とは何だ?」
「はっ、その前に御褒美はいただけますのでしょうか?」
「内容次第だな」
「実は松平の殿様が死にました」
これまでの密告者と内容は同じだった。
「直接見たのか?」
念の為に聞いてみる。
まあ、見てないだろう。どう見ても雑兵だ。
「いえ、さすがに。ですが家老の酒井様が大泣きしてるのを見ました」
「そうか。では褒美をやろう」
と視線で合図すると、密告者の背後に居た部下が槍でブスリッと突き刺し、
「グアアアアア、な、何を――」
「三河の雑兵ごときがオレの眠りを妨げた罰だっ! あの世で閻魔にそう告げよっ!」
4人目の雑兵が殺された時、奥から副将の松井宗信までが出てきた。
「悲鳴が漏れるとは仕事が荒いな。口を防いでから殺さぬか」
「申し訳ございません」
暗殺の指南をしてると、
「松平勢に付けていた暗殺部隊が戻って参りました」
との報告と共に、宗信の前に弓隊に扮する近習の1人が現れた。
「只今、戻りました」
「おまえ達が戻ってきたという事は死んだか?」
「はっ、火縄銃の流れ弾が首に当たって意識不明だった三河の若僧が先程、死にましてございまする」
「確実か? 丸根砦を松平勢が今日の昼間落としたと報告を受けたが?」
「はい、松平の陣に忍び込んで直接確認致しました。織田との戦が終わるまで松平の重臣どもは御大(御大将の事)に報告しない腹づもりです。手柄を積み上げて御家の存続を図るとか言っておりました」
「馬鹿どもが。それが理由で三河松平が解体されるとも知らずに」
宗信はニヤリと笑ったのだった。
同時刻。
信長は敦盛を舞ってから、清州城から出発した。
その信長の行動に付いていけたのは信長の鎧着せを手伝った小姓の岩室重休、長谷川橋介、山口飛騨守、加藤弥三郎、佐脇良之の5人だけだった。
尚、佐脇良之は姓が違うが前田利家の弟である。
呑気に清州城内で仮眠を取っていた恒興は鎧を脱いで眠っていたので、
「信長様が清州城から出陣したってよ」
「何だと?」
「どこに行ったんだ?」
「熱田神社で集合だそうだ」
「だったら急がないと」
と城内が騒然となってようやく起き、鎧を着て追い掛けようとしたのだが。
恒興は織田一門衆と同格扱いだ。
よって足軽の鎧ではなく立派な鎧を与えられており、当然1人では装着出来ず、
「おい、誰かオレの鎧を着るのを手伝ってくれ。ああ、九右衛門、いいところにーー」
「悪い、勝さん。オレも親父みたいに織田姓が貰えるくらいの手柄を立てたいんでね、お先に」
小姓の菅屋長頼はそう言って足軽鎧を着ながら出ていった。
「嘘だろ。信長様だぞ? 戦場に出送れたらオレでも怒られるんだぞっ! そこの、ええっと、毛利新介っ! 鎧を着るのを手伝えっ!」
次に名前を呼ばれた21歳の若武者の毛利新介が嫌そうな顔で、
「ああ、もう。早く鎧を着て下さいよ、池田殿。池田殿と違って、小姓のオレの場合、送れたら本当に首が飛ぶんですから」
文句を言いながらも鎧を着るのを手伝ったのは恒興が織田一門衆と同格扱いだからだけではない。
新介を信長の小姓に推薦したのが森可成で、信長のお気に入りの可成と織田一門衆と同格扱いの池田恒興との仲が良好だったという家臣派閥の政治的な背景もあった。
恒興に名前が知られていたのもその所為だ。
それに織田一門衆と同格扱いの恒興に嫌われるのは、織田家中ではかなり拙いのも事実だ。
新介は渋々と手伝い、恒興はそのお陰でどうにか鎧を着る事が出来て清洲城から出発したが完全に出遅れたのだった。
そして夜が明けた朝、沓掛城からは今川義元の本隊が出発した。
目指すは尾張内の今川最前線基地の大高城である。
睡眠が妨げられる事もなく、寝起きと同時に、
「三河の松平勢は隠しておりますが、どうも松平元康が死んだようです」
との報告を受けた義元が御機嫌で出発の触れを出して。
馬に乗れないのではなく、京での生活の練習として輿に乗り込もうとした義元が、
「今日は良い事がありそうだな」
曇った天気だったがそう呟き、
「案外、清州城で寝返りに遭った織田の若僧の首が落ちてるやもしれませんな」
副将の松井宗信もそう追従し、
「そうかもしれんな、ハァーッハッハッハッ」
本当に機嫌良く出発したのだった。
登場人物、1560年度
松平元康(17)・・・三河松平家当主。祖父と父親同様、誰にでも噛み付く狂犬。信長憎し、織田憎しで有名。享年17歳。元康が知る信長は影武者だった池田恒興。
能力値、松平の狂犬一族S、三河魂D、信長憎しSS、生傷が絶えずA、雪舟の鎖B、本日の運勢最悪☆☆☆
善応院(21)・・・恒興の正室。前夫は信長の異母兄の織田信時。前夫との間に娘、七条あり。
能力値、再婚は信長の命令B、姑に頭上がらずSS、政治に口を挟まずA、実家にウンザリA、子育てA、今の生活に満足D
佐々成政(24)・・・信長の近習。近江源氏の佐々氏の庶流。織田信安の元部下。政務が有能。正室は村井貞勝の娘。
能力値、まさかの文官肌A、不運の佐々☆、豪傑への尊敬A、信長への絶対忠誠B、信長からの信頼B、織田家臣団での待遇B
岩室重休(24)・・・信長の寵臣の小姓。通称、長門守。文武、容姿共に優れている。甲賀五十三家の岩室氏の傍系。信秀の最後の側室、岩室殿とは無関係。
能力値、命知らずA、隠れなき才人A、信長の寵臣A、信長への絶対忠誠S、信長からの信頼A、織田家臣団での待遇A
菅屋長頼(22)・・・織田家の家臣。織田信房の次男。父親の信房は繊田一族とは無関係。信房の織田姓は褒美。恒興とは領地が隣同士。兄は小瀬清長。
能力値、父親の七光りB、武芸は下手の横好きA、若き奉行候補A、信長への忠誠A、信長からの信頼C、織田家臣団での待遇C
毛利新介(21)・・・織田家の家臣。信長の小姓。言わずと知れた桶狭間の戦いの主役。
能力値、我武者羅A、森可成の推薦A、信長への忠誠B、信長からの信頼B、信長家臣団での待遇D、本日の運勢最高☆☆☆
【善応院、1539年生まれ説、採用】
【七条、1556年生まれ説、採用】
【織田信房の織田姓は褒美説、採用】
【毛利新介、1539年生まれ説、採用】
【毛利新介を信長に推薦したのは森可成説、採用】
三河の松平元康は尾張の丸根砦を攻めてた訳だが、守将は佐久間盛重である。
尾張の氏族名門の佐久間の人間が守るのだから要所であり、織田方も防衛に必死で、戦国時代の最新兵器、火縄銃が20丁も与えられていた。
火縄銃20丁が弾込めが終わると同時に丸根砦から発射され、攻める松平勢に降り注いだ。
そんな中、指揮官の松平元康は、
「絶対に清州城に一番乗りするぞっ!」
やる気に満ちていた。
それには理由がある。
幼少期に織田家の人質となった元康は信長の虐め抜かれており、通常ならば牙を抜かれてるところだが、三河松平の御曹司だけあって牙が抜かれておらず、
(殺してやるっ! 絶対に殺してやるぞ、信長ぁぁぁっ! 童のオレを当たり前のように何度も何度も殴った信長の側近の大人の河尻秀隆ぁぁぁぁっ! それと信長の腕に噛み付いたくらいで背中に火縄銃の火薬を撒いて火縄で点火して背中を火傷させた腰巾着の岩室長門守ぃぃぃっ! そしてそして、火縄銃の的にして笑いながらオレの足の甲を撃ち抜きやがった織田信長ぁぁぁぁぁぁっ! おまえら3人だけは絶対に許さんからなぁぁぁぁっ! 絶対に殺してやるぅぅぅぅぅぅぅっ!)
信長憎しで三河兵に無謀な突撃をさせていたのだが、丸根砦とは別方向からの銃撃音と共に元康の首筋に激痛が走り、
「ぐああああああ、首があああ、痛い痛い痛いっ!」
「えっ、元康様?」
「拙い。元康様を守れ」
「一端兵を退くぞっ!」
松平家中の兵に守られて松平元康は撤退したのだった。
元康を撃ったのが丸根砦からの火縄銃ではなく、木の上に潜んだ服部正成が撃った火縄銃である事に気付いた者はこの混沌とした戦場では誰も居なかった。
沓掛城の今川義元の許に、
「三河の松平元康、火縄銃で撃たれて負傷しました」
その報告が届けられたのは元康が狙撃された当日だった。
元康暗殺用に松井宗信が放った弓隊からの報告なので虚偽ではないが、
「どこを撃たれた? 腹か頭か? 死に至る程の重傷なのか?」
「三河松平の重臣達のあの騒ぎようでは明日をも知れぬ命かと」
その報告に、
「あの狂犬の小僧を火縄銃で撃ってくれた織田兵に感謝せねばな、ハーッハッハッハッ」
高笑いを上げた義元は、
「よし、明日、沓掛城を出発して最前線の大高城に入るぞ。そう触れを出せ」
「ははっ」
沓掛城からの進軍を決めたのだった。
この今川義元の出発情報が清州城に入ったのはその日の昼間だったが、その頃には信長の方も清洲城下の全軍に登城の触れを出していた。
その登城の触れが出た事を受けて池田屋敷に居た池田恒興は戦に出る覚悟を決めて家族と向き合った。
恒興は既婚者である。
正室の名前は善応院。
こんな名前なのは前夫に先立たれた後家だからだった。
前夫の信長の異母兄の織田信時。
尾張で織田家の御曹司の妻になるのだ。善応院は美人な上に家柄も良かった。
まあ、善応院の実家の荒尾氏は早々に今川方に降伏しているのだが。
その善応院の横には前夫との娘で池田屋敷に引き取った七条が座る。
「どうやら明日だ。籠城か野戦かは信長様のお心次第だが」
「そうですか、死なないで下さいね」
「いざという時は勝九郎を頼むな」
女中があやしてる赤子を見ながら恒興は答えた。
「今川に降伏はされないのですか?」
「信長様の為に死ぬのみさ」
その言葉は自然と口から出たが遅蒔きに気付いて、カッコイイ、と思ってる三枚目なのが恒興なので締まらなかったが。
その後も戦前なので夫婦らしく愛し合った。
翌日。
今川義元は沓掛城から出発しなかった。
天気が理由ではない。快晴なのだから。
つまりは義元も馬鹿ではないという事だ。
清州城の内情を今川方も掴んでおり、信長が清洲城に兵を集めた事を知って、出撃するか相手の出方を見る為に出発を延期にしていたのだ。
「甘いわ、小僧。この義元を甘く見るではないぞ」
そう清州城の方を見て笑ったのだが、
奇行で知られる信長の方も清洲城に兵を集めただけで別に出陣などはしなかった。
触れで清州城内に兵が集められただけだ。
兵が集まった清洲城内にて、
「おい、恒興。信長様は本当に籠城策を選ばれるおつもりなのか?」
佐々成政が恒興に尋ねるが、本当に教えて貰っていないので、
「知らんよ。『出陣と籠城、両方の用意をしておけ』としか言われてないんだから。だよな、長門」
同意を求められた小姓筆頭の岩室重休は初耳とばかりに、
「えっ、両方なのか? オレは信長様から『籠城だ』と直接聞いたぞ」
「あれ、そうなのか?」
恒興の方がそう驚いたが、これは別に不思議な事でも何でもない。
信長は乳兄弟の恒興が嘘のつけない性格な事を知っており、本当の事は教えず、両方だ、と煙に巻き、重休は才人で嘘もさらりとつけるので野戦方針なのを知ってたが「籠城だ」と嘘をついているのだから。
「だよな、サル?」
重休が偶然通り掛かった藤吉郎に声を掛け、
「ええ、籠城だと思います。薪の確認をするように信長様に言われて、数えにいくところですから」
藤吉郎も演技派なので、そう答えて歩いていった。
「やはり籠城か。信長様なら討って出ると思ったんだがな」
そう成政は残念がったのだった。
◇
これで話は終わりではない。
何故ならば、この小説は創作多数だが史実の流れに沿っているのだから。
二日後の深夜。
今川義元が滞在中の沓掛城の門を、三河松平の陣からの脱走者が褒美欲しさに訪ねて来ていた。
「実はとっておきの情報があるのですが」
門を守る夜勤の兵は、またか、と思いながらも、素知らぬ顔をして通せ、と言われていたので命令通りに通した。
その密告者の応対をしたのは今川上洛軍に合流した笠寺砦の守将、三浦義就である。
直接、義就が対応するのは、雑兵の密告内容がそれだけの内容だったからだ。
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「とっておきの情報とは何だ?」
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「内容次第だな」
「実は松平の殿様が死にました」
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「直接見たのか?」
念の為に聞いてみる。
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4人目の雑兵が殺された時、奥から副将の松井宗信までが出てきた。
「悲鳴が漏れるとは仕事が荒いな。口を防いでから殺さぬか」
「申し訳ございません」
暗殺の指南をしてると、
「松平勢に付けていた暗殺部隊が戻って参りました」
との報告と共に、宗信の前に弓隊に扮する近習の1人が現れた。
「只今、戻りました」
「おまえ達が戻ってきたという事は死んだか?」
「はっ、火縄銃の流れ弾が首に当たって意識不明だった三河の若僧が先程、死にましてございまする」
「確実か? 丸根砦を松平勢が今日の昼間落としたと報告を受けたが?」
「はい、松平の陣に忍び込んで直接確認致しました。織田との戦が終わるまで松平の重臣どもは御大(御大将の事)に報告しない腹づもりです。手柄を積み上げて御家の存続を図るとか言っておりました」
「馬鹿どもが。それが理由で三河松平が解体されるとも知らずに」
宗信はニヤリと笑ったのだった。
同時刻。
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「何だと?」
「どこに行ったんだ?」
「熱田神社で集合だそうだ」
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と城内が騒然となってようやく起き、鎧を着て追い掛けようとしたのだが。
恒興は織田一門衆と同格扱いだ。
よって足軽の鎧ではなく立派な鎧を与えられており、当然1人では装着出来ず、
「おい、誰かオレの鎧を着るのを手伝ってくれ。ああ、九右衛門、いいところにーー」
「悪い、勝さん。オレも親父みたいに織田姓が貰えるくらいの手柄を立てたいんでね、お先に」
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「嘘だろ。信長様だぞ? 戦場に出送れたらオレでも怒られるんだぞっ! そこの、ええっと、毛利新介っ! 鎧を着るのを手伝えっ!」
次に名前を呼ばれた21歳の若武者の毛利新介が嫌そうな顔で、
「ああ、もう。早く鎧を着て下さいよ、池田殿。池田殿と違って、小姓のオレの場合、送れたら本当に首が飛ぶんですから」
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新介を信長の小姓に推薦したのが森可成で、信長のお気に入りの可成と織田一門衆と同格扱いの池田恒興との仲が良好だったという家臣派閥の政治的な背景もあった。
恒興に名前が知られていたのもその所為だ。
それに織田一門衆と同格扱いの恒興に嫌われるのは、織田家中ではかなり拙いのも事実だ。
新介は渋々と手伝い、恒興はそのお陰でどうにか鎧を着る事が出来て清洲城から出発したが完全に出遅れたのだった。
そして夜が明けた朝、沓掛城からは今川義元の本隊が出発した。
目指すは尾張内の今川最前線基地の大高城である。
睡眠が妨げられる事もなく、寝起きと同時に、
「三河の松平勢は隠しておりますが、どうも松平元康が死んだようです」
との報告を受けた義元が御機嫌で出発の触れを出して。
馬に乗れないのではなく、京での生活の練習として輿に乗り込もうとした義元が、
「今日は良い事がありそうだな」
曇った天気だったがそう呟き、
「案外、清州城で寝返りに遭った織田の若僧の首が落ちてるやもしれませんな」
副将の松井宗信もそう追従し、
「そうかもしれんな、ハァーッハッハッハッ」
本当に機嫌良く出発したのだった。
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松平元康(17)・・・三河松平家当主。祖父と父親同様、誰にでも噛み付く狂犬。信長憎し、織田憎しで有名。享年17歳。元康が知る信長は影武者だった池田恒興。
能力値、松平の狂犬一族S、三河魂D、信長憎しSS、生傷が絶えずA、雪舟の鎖B、本日の運勢最悪☆☆☆
善応院(21)・・・恒興の正室。前夫は信長の異母兄の織田信時。前夫との間に娘、七条あり。
能力値、再婚は信長の命令B、姑に頭上がらずSS、政治に口を挟まずA、実家にウンザリA、子育てA、今の生活に満足D
佐々成政(24)・・・信長の近習。近江源氏の佐々氏の庶流。織田信安の元部下。政務が有能。正室は村井貞勝の娘。
能力値、まさかの文官肌A、不運の佐々☆、豪傑への尊敬A、信長への絶対忠誠B、信長からの信頼B、織田家臣団での待遇B
岩室重休(24)・・・信長の寵臣の小姓。通称、長門守。文武、容姿共に優れている。甲賀五十三家の岩室氏の傍系。信秀の最後の側室、岩室殿とは無関係。
能力値、命知らずA、隠れなき才人A、信長の寵臣A、信長への絶対忠誠S、信長からの信頼A、織田家臣団での待遇A
菅屋長頼(22)・・・織田家の家臣。織田信房の次男。父親の信房は繊田一族とは無関係。信房の織田姓は褒美。恒興とは領地が隣同士。兄は小瀬清長。
能力値、父親の七光りB、武芸は下手の横好きA、若き奉行候補A、信長への忠誠A、信長からの信頼C、織田家臣団での待遇C
毛利新介(21)・・・織田家の家臣。信長の小姓。言わずと知れた桶狭間の戦いの主役。
能力値、我武者羅A、森可成の推薦A、信長への忠誠B、信長からの信頼B、信長家臣団での待遇D、本日の運勢最高☆☆☆
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当時6隻の空母を集中使用した南雲機動部隊は航空機300余機を持つ世界最強の戦力でした。
ただ彼らにもレーダーを持たない、空母の直掩機との無線連絡が出来ない、ダメージコントロールが未熟である。制空権の確保という理論が判っていない、空母戦術への理解が無い等多くの問題があります。
空母が誕生して戦術的な物を求めても無理があるでしょう。ただどの様に強力な攻撃部隊を持っていても敵地上空での制空権が確保できなけれな、簡単に言えば攻撃隊を守れなけれな無駄だと言う事です。
空母部隊が対峙した場合敵側の直掩機を強力な戦闘機部隊を攻撃の前の送って一掃する手もあります。
日本のゼロ戦は優秀ですが、悪迄軽戦闘機であり大馬力のPー47やF4U等が出てくれば苦戦は免れません。
この為旧式ですが96式陸攻で使われた金星エンジンをチューンナップし、金星3型エンジン1350馬力に再生させこれを積んだ戦闘機、爆撃機、攻撃機、偵察機を陸海軍共通で戦う。
共通と言う所が大事で国力の小さい日本には試作機も絞って開発すべきで、陸海軍別々に開発する余裕は無いのです。
その他数多くの改良点はありますが、本文で少しづつ紹介して行きましょう。
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)
我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~
城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。
一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。
二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。
三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。
四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。
五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。
六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。
そして、1907年7月30日のことである。
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