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1560年、桶狭間の戦い
開戦
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【今川上洛軍4万人説、採用】
【今川義元、名将説、採用】
【武田の援軍200騎、今川上洛軍に従軍して尾張に居た説、採用】
【武田200騎の指揮官、武藤喜兵衛説、採用】
【武藤喜兵衛、桶狭間が初陣説、採用】
【今川上洛軍副将、松井宗信説、採用】
【松平元康、誰にでも噛み付く狂犬説、採用】
【今川義元による尾張での松平元康暗殺計画発動説、採用】
【斎藤義龍、毒殺説、採用】
【犯人は斎藤道三の残党の料理番で毒見役をすり抜ける弱い毒を数年に渡り与え続けてた説、採用】
【斎藤義龍、桶狭間の戦いの時、重病で尾張に介入出来なかった説、採用】
【服部正成、松平元康個人ではなく松平家の為に暗躍説、採用】
今川上洛軍4万人が尾張に向かう前の事。
駿府の今川館に同盟国の甲斐武田から上洛に参加する援軍が到着した。
その数、500騎。
武田の援軍を率いるのはもちろん春日虎綱だったのだが、春日虎綱、並びに別名の高坂昌信の名前は既に他国にも轟いており、名将今川義元は上将の参加に喜ぶどころか警戒して、
「500は多過ぎるな。元々武田軍に出番はないので300は甲斐に帰してくれ。それと指揮官だが、晴信殿、おっと出家されて今は信玄殿か。ともかく甲斐の直臣が参加では心苦しい。指揮官は別の者にしてくれるように」
「いや、ですが私が指揮するよう御館様にーー」
「別の者に」
笑顔で断る義元に対して思惑が外れたとばかりに虎綱が、
「では、こちらの者を残していきますので」
後方の13歳の少年武者を指名し、
「随分と若いが・・・いいのか?」
「ええ、ちゃんと元服しておりますし、今川様は何やら同盟相手の我ら武田の事を警戒されている御様子なので武田に含むところはない事をお示しする意味も込めまして。それに今回はどうせ甲斐への今川軍の戦況報告だけとなるでしょうから」
「ふむ。名は?」
「武藤喜兵衛と申します」
そう少年武者が名乗り、義元も記憶を辿り、
「甲斐源氏の武藤の者か。なるほど、それでその若さで指揮を。分かった。200騎の従軍参加を許そう」
そう決定したのだが、虎綱もなかなかの役者で、これが武田側の狙い通りの展開だったのは言うまでもない。
◇
5月。
今川義元が大軍を率いて尾張の沓掛城に入り、今川軍の三河衆、松平元康が大高城に兵糧を入れた事で一気に戦が激化した。
各地で今川上洛軍による尾張侵略戦争が勃発。
何せ、今川軍は4万人だ。
部隊を幾つにも分けて複数の砦を同時に攻撃するという多方面作戦が展開出来る。
織田軍は各砦に籠もって防戦をしていた。
今川方も織田が兵糧を買い集めていた情報を事前に得ている。
つまり織田軍は籠城作戦だ。
信長が居る清州城まではまだ今川軍の兵は進んでいないが、もう時間の問題だろう。
尾張に侵攻する今川軍の4万人に対して、防衛側の織田軍は今川に切り崩されて5000人の動員がやっとらしいので。
沓掛城に居る今川義元は地図を見て、
「余り兵を消耗させないよう伝えよ。南近江の六角、京の三好、敵はまだまだ居るのでな」
「武田ですが、我が物顔で各地の戦場をチョロチョロと動き回り、戦況を観察してると報告が上がっております。鬱陶しいので消しましょうか?」
そう質問したのは今川上洛軍副将で宿老の松井宗信である。
「武田よりも三河の狂犬の小僧だ。あの狂犬の小僧だけは尾張で流れ矢に当たって死なねば息子の禍となる。戦場で機会があれば多少強引でもいいから絶対に抹殺せよ。弓隊は付けてあるな?」
「はっ、そちらは万事抜かりなく」
「うむ。任せたぞ」
そう答えながら義元は地図を睨んだのだった。
◇
柴田勝家が清州城の軍議に参加出来たのは織田軍が劣勢で、御家存亡の危機に冷遇が解けたからではない。
城下で独自の行動を取られたら迷惑だからである。
だが、お陰で柴田勝家の目付役の池田恒興も登城出来た訳だが、その恒興に重臣達が殺到した。
「勝、信長様に籠城ではなく迎え討って出るように進言してくれ」
「その前に軍議に出るようにと」
「この清州城では籠城は無理だとも伝えてくれ」
森可成、河尻秀隆、平手久秀を含めた織田家臣団の幹部の面々である。
既に尾張には今川の大軍が押し寄せており、重臣全員が必死に恒興に頼んでいるのだが、その恒興の反応は軽いもので、
「どうしてオレに言うんですか? 自分で言って下さいよ」
「上様がオレ達の言葉に耳を貸さんから頼んでるんだ」
と可成が嘆いてる傍から信長が顔を出して、
「おお、勝、ようやく来たか。権六への目付の任を解く。ちょっと来い」
こうして信長の後を追って奥の信長のプライベート空間に入ると、
「あら、池田殿、いらっしゃい」
出迎えたのは信長の正室、25歳の濃姫だった。
「これは濃姫様、御機嫌麗しく。本日もお美しい。あのマムシの娘とは思えぬ美しさです」
「あら、そう褒めてくれるのは池田殿だけよ」
「それは信長様の所為ですよ。下手に濃姫様を褒めて信長様に怒られたら嫌ですから。ですので皆、黙っていますが、男衆は全員内心で美しいと思っていますよ」
「ありがと。池田殿は兄を種子島で撃つだけあって、信長殿に怒られるのを覚悟するくらいの胆力があって褒めてくれるのね」
「何度も言っておりますが撃っておりませんから。あれは向こうが勝手に因縁を付けてきてるだけで」
「でも、その傷が元で最近は高熱続きで倒れてるらしいわよ、美濃の兄は。まあ、お陰で美濃は今、静かで窮地の尾張に対して何の動きもないのだけれど」
「それはオレじゃなくて、殺したマムシの毒に中っただけでは?」
恒興は何も考えずにそう軽口を返しただけだったのだが。
信長と濃姫、切れ者2人の方は真面目な顔で、
「マムシの残党に毒を盛られてる?」
「弱い毒なら毒見をすり抜けられます。長年盛れば倒れるかと」
「確認出来るか、お濃?」
「いえ、死んだ父の仕業なら誰が犯人かも分かりませんよ」
「だよな」
そう顔を見合わせていた。
「えっ、どうしたんですか、2人して真剣な顔をして?」
言った本人の恒興は自分の言葉の重みに全く気付いていない。
そもそも、今は今川の大軍に注意が向いてるので、美濃がどうしてこの好機に動かないのか、など恒興は全く気にも留めていなかったのだ。
「まずは権六から今川の所領約束の書状の回収、御苦労であった、勝」
「はっ」
「勝なら今川の大軍をどう料理する?」
「信長様のお教え通り、将棋同様、王将を取れば終了かと」
「そうだ。今川義元の首級さえ上げればこちらの勝ちだ。例え、何万の兵が残っていようとな。だが、その義元が沓掛城から出てこない」
さすがに長年、信長の近習をやってるだけあり、恒興も話の流れが分かり、
「オレに何をやれと?」
「今夜、熱田神社に客が来る。オレの代わりに会ってきてくれ」
「畏まりました」
「相手が誰か聞かないのか?」
「どうせ、三河の狂犬の配下でしょ?」
それには信長も濃姫も愉快そうな顔をしたが、
「違うぞ、勝。もっと上客だ」
「そうなので?」
「ああ、会えば分かる」
そうニヤリと信長は笑ったのだった。
その夜。
信長に言われた通りに清州城を抜け出して熱田神社にやってきた恒興は、
「池田恒興殿で?」
鳥居を通過した瞬間にそう声を掛けられた。
最初声を聞いた時、女、と疑ったが、すぐに、子供の声だ、と思い直した。
同時に声を掛けた人物を探すが隠れているのか見当たらない。
「そうだが?」
「御本人様と証明出来ますか?」
「乗ってる馬を見ろ。信長様の青毛だ」
「なるほど、確かにその辺の家臣には購入出来ない良馬ですね」
その言葉と共に社の陰から現れたのは恒興の予想通り子供だった。
子供と言っても13、4歳といったところか。
「三河の狂犬の家来よりも上客と聞いたが、おまえで合ってるんだよな?」
「こちらの素性を聞いておられないので?」
「それが信長様だ」
「なるほど。では私も名乗りませんね。早速ですが、織田様には清州城から逃げていただきたいのですが」
まずは名乗れよ、と思ったが、
「目的は?」
「沓掛城に籠もる今川義元の誘引ーー誰だっ!」
最初に気付いたのはその子供の武者だった。
熱田神社に生えた木を睨むどころか叫んだ時には突っ込んでいた。
正確にはその背後の人物に。
木の陰に隠れていた人物が少年武者の間合いから逃げるように境内に移動する。
月明かりに晒された姿は忍者装束だった。
「お待ちを。敵ではござらん」
「黙れ。この会談を見た時点で死んで貰う」
少年武者が突っ込む中、恒興が忍者に気付き、
「ん? あれ、おまえ、狂犬のところの」
「お久しぶりです、池田様」
「知り合いなのですか、池田殿?」
「三河の忍者だ」
「ならば今川の手の者ではありませんか」
少年武者が斬り伏せようと間合いを詰めようとする中、
「違います。松平です」
そう訂正した忍者装束の男が続いて、
「今川義元の誘引、こちらでやりましょうか?」
そう提案し、少年武者は初めて足を止めて距離を保った。
「どうやって?」
「松平元康様が流れ矢、または流れ弾に当たって重傷との流言を使って」
「そんな事で今川の大将を誘引出来るのか?」
と不思議がったのは池田恒興だったが、少年武者の方は、
「いえ、いけるかも。今川の御大(御大将の略)は松平元康を殺したがっている、とのもっぱらの噂ですから」
「それ、噂じゃなくて本当の話ですよ。今も戦場に今川の暗殺部隊が若様に張り付いておりますから。気勢を制そうかと」
「よし、じゃあ、それで。ダメな時はまた別の方法を模索するという事で」
恒興の言葉に、
「この者を信じられますのでーーいえ、畏まりました」
「尾張の殿様への貸しですからな」
少年武者と忍者も同意したのだった。
登場人物、1560年度
今川義元(41)・・・駿河守護職。海道一の弓取り。室町幕府不要論者。
能力値、海道一の弓取りS、輿に乗るのは乗るに相応しい身分だからSS、氏真が心配A、武田を信用に能わずA、狂犬嫌いSS、不吉な夢A
武藤喜兵衛(13)・・・甲斐源氏の武藤家の養子。真田幸綱の三男。後に真田家を継ぐ際に真田昌幸と名乗る。今回が初陣。
能力値、表裏比興の者E、信玄の右目B、風林火山C、武田家への忠誠S、信玄からの信頼B、武田家臣団での待遇C
松井宗信(35)・・・今川の宿老。今川上洛軍副将。遠江松井氏の総領。義元直属の暗部部隊の頭領。豪傑だが陰険。
能力値、豪傑だが陰険SS、配下の錬度S、暗殺が得意A、今川三代への絶対忠誠SS、義元からの信頼B、今川家臣団での待遇A
森可成(38)・・・信長の家臣。古参の美濃衆。織田二代に仕える。信長のお気に入り。
能力値、攻めの三左S、命知らずA、信長のお気に入りS、織田二代への忠誠S、信長からの信頼A、織田家臣団での待遇A
河尻秀隆(33)・・・信長の最古参の家臣。信勝を殺害。
能力値、猪武者A、政務の素養E、織田信勝(信行)殺害の知名度SS、信長への絶対忠誠A、信長からの信頼A、織田家臣団での待遇A
濃姫(25)・・・信長の正室。斎藤道三の娘。切れ者。嫡子の奇妙を養育する。徳姫の実母。
能力値、織田家当主の正室A、母似の美貌A、蝮継承C、信長との阿吽の呼吸SS、信長を天下人に押し上げる内助の功SS、信長からの信頼B
服部正成(18)・・・三河の家臣。別名、服部半蔵。
能力値、伊賀への影響力E、鬼の半蔵B、冷酷な計算A、元康への忠誠E、元康からの信頼E、松平家臣団での待遇D
【今川義元、名将説、採用】
【武田の援軍200騎、今川上洛軍に従軍して尾張に居た説、採用】
【武田200騎の指揮官、武藤喜兵衛説、採用】
【武藤喜兵衛、桶狭間が初陣説、採用】
【今川上洛軍副将、松井宗信説、採用】
【松平元康、誰にでも噛み付く狂犬説、採用】
【今川義元による尾張での松平元康暗殺計画発動説、採用】
【斎藤義龍、毒殺説、採用】
【犯人は斎藤道三の残党の料理番で毒見役をすり抜ける弱い毒を数年に渡り与え続けてた説、採用】
【斎藤義龍、桶狭間の戦いの時、重病で尾張に介入出来なかった説、採用】
【服部正成、松平元康個人ではなく松平家の為に暗躍説、採用】
今川上洛軍4万人が尾張に向かう前の事。
駿府の今川館に同盟国の甲斐武田から上洛に参加する援軍が到着した。
その数、500騎。
武田の援軍を率いるのはもちろん春日虎綱だったのだが、春日虎綱、並びに別名の高坂昌信の名前は既に他国にも轟いており、名将今川義元は上将の参加に喜ぶどころか警戒して、
「500は多過ぎるな。元々武田軍に出番はないので300は甲斐に帰してくれ。それと指揮官だが、晴信殿、おっと出家されて今は信玄殿か。ともかく甲斐の直臣が参加では心苦しい。指揮官は別の者にしてくれるように」
「いや、ですが私が指揮するよう御館様にーー」
「別の者に」
笑顔で断る義元に対して思惑が外れたとばかりに虎綱が、
「では、こちらの者を残していきますので」
後方の13歳の少年武者を指名し、
「随分と若いが・・・いいのか?」
「ええ、ちゃんと元服しておりますし、今川様は何やら同盟相手の我ら武田の事を警戒されている御様子なので武田に含むところはない事をお示しする意味も込めまして。それに今回はどうせ甲斐への今川軍の戦況報告だけとなるでしょうから」
「ふむ。名は?」
「武藤喜兵衛と申します」
そう少年武者が名乗り、義元も記憶を辿り、
「甲斐源氏の武藤の者か。なるほど、それでその若さで指揮を。分かった。200騎の従軍参加を許そう」
そう決定したのだが、虎綱もなかなかの役者で、これが武田側の狙い通りの展開だったのは言うまでもない。
◇
5月。
今川義元が大軍を率いて尾張の沓掛城に入り、今川軍の三河衆、松平元康が大高城に兵糧を入れた事で一気に戦が激化した。
各地で今川上洛軍による尾張侵略戦争が勃発。
何せ、今川軍は4万人だ。
部隊を幾つにも分けて複数の砦を同時に攻撃するという多方面作戦が展開出来る。
織田軍は各砦に籠もって防戦をしていた。
今川方も織田が兵糧を買い集めていた情報を事前に得ている。
つまり織田軍は籠城作戦だ。
信長が居る清州城まではまだ今川軍の兵は進んでいないが、もう時間の問題だろう。
尾張に侵攻する今川軍の4万人に対して、防衛側の織田軍は今川に切り崩されて5000人の動員がやっとらしいので。
沓掛城に居る今川義元は地図を見て、
「余り兵を消耗させないよう伝えよ。南近江の六角、京の三好、敵はまだまだ居るのでな」
「武田ですが、我が物顔で各地の戦場をチョロチョロと動き回り、戦況を観察してると報告が上がっております。鬱陶しいので消しましょうか?」
そう質問したのは今川上洛軍副将で宿老の松井宗信である。
「武田よりも三河の狂犬の小僧だ。あの狂犬の小僧だけは尾張で流れ矢に当たって死なねば息子の禍となる。戦場で機会があれば多少強引でもいいから絶対に抹殺せよ。弓隊は付けてあるな?」
「はっ、そちらは万事抜かりなく」
「うむ。任せたぞ」
そう答えながら義元は地図を睨んだのだった。
◇
柴田勝家が清州城の軍議に参加出来たのは織田軍が劣勢で、御家存亡の危機に冷遇が解けたからではない。
城下で独自の行動を取られたら迷惑だからである。
だが、お陰で柴田勝家の目付役の池田恒興も登城出来た訳だが、その恒興に重臣達が殺到した。
「勝、信長様に籠城ではなく迎え討って出るように進言してくれ」
「その前に軍議に出るようにと」
「この清州城では籠城は無理だとも伝えてくれ」
森可成、河尻秀隆、平手久秀を含めた織田家臣団の幹部の面々である。
既に尾張には今川の大軍が押し寄せており、重臣全員が必死に恒興に頼んでいるのだが、その恒興の反応は軽いもので、
「どうしてオレに言うんですか? 自分で言って下さいよ」
「上様がオレ達の言葉に耳を貸さんから頼んでるんだ」
と可成が嘆いてる傍から信長が顔を出して、
「おお、勝、ようやく来たか。権六への目付の任を解く。ちょっと来い」
こうして信長の後を追って奥の信長のプライベート空間に入ると、
「あら、池田殿、いらっしゃい」
出迎えたのは信長の正室、25歳の濃姫だった。
「これは濃姫様、御機嫌麗しく。本日もお美しい。あのマムシの娘とは思えぬ美しさです」
「あら、そう褒めてくれるのは池田殿だけよ」
「それは信長様の所為ですよ。下手に濃姫様を褒めて信長様に怒られたら嫌ですから。ですので皆、黙っていますが、男衆は全員内心で美しいと思っていますよ」
「ありがと。池田殿は兄を種子島で撃つだけあって、信長殿に怒られるのを覚悟するくらいの胆力があって褒めてくれるのね」
「何度も言っておりますが撃っておりませんから。あれは向こうが勝手に因縁を付けてきてるだけで」
「でも、その傷が元で最近は高熱続きで倒れてるらしいわよ、美濃の兄は。まあ、お陰で美濃は今、静かで窮地の尾張に対して何の動きもないのだけれど」
「それはオレじゃなくて、殺したマムシの毒に中っただけでは?」
恒興は何も考えずにそう軽口を返しただけだったのだが。
信長と濃姫、切れ者2人の方は真面目な顔で、
「マムシの残党に毒を盛られてる?」
「弱い毒なら毒見をすり抜けられます。長年盛れば倒れるかと」
「確認出来るか、お濃?」
「いえ、死んだ父の仕業なら誰が犯人かも分かりませんよ」
「だよな」
そう顔を見合わせていた。
「えっ、どうしたんですか、2人して真剣な顔をして?」
言った本人の恒興は自分の言葉の重みに全く気付いていない。
そもそも、今は今川の大軍に注意が向いてるので、美濃がどうしてこの好機に動かないのか、など恒興は全く気にも留めていなかったのだ。
「まずは権六から今川の所領約束の書状の回収、御苦労であった、勝」
「はっ」
「勝なら今川の大軍をどう料理する?」
「信長様のお教え通り、将棋同様、王将を取れば終了かと」
「そうだ。今川義元の首級さえ上げればこちらの勝ちだ。例え、何万の兵が残っていようとな。だが、その義元が沓掛城から出てこない」
さすがに長年、信長の近習をやってるだけあり、恒興も話の流れが分かり、
「オレに何をやれと?」
「今夜、熱田神社に客が来る。オレの代わりに会ってきてくれ」
「畏まりました」
「相手が誰か聞かないのか?」
「どうせ、三河の狂犬の配下でしょ?」
それには信長も濃姫も愉快そうな顔をしたが、
「違うぞ、勝。もっと上客だ」
「そうなので?」
「ああ、会えば分かる」
そうニヤリと信長は笑ったのだった。
その夜。
信長に言われた通りに清州城を抜け出して熱田神社にやってきた恒興は、
「池田恒興殿で?」
鳥居を通過した瞬間にそう声を掛けられた。
最初声を聞いた時、女、と疑ったが、すぐに、子供の声だ、と思い直した。
同時に声を掛けた人物を探すが隠れているのか見当たらない。
「そうだが?」
「御本人様と証明出来ますか?」
「乗ってる馬を見ろ。信長様の青毛だ」
「なるほど、確かにその辺の家臣には購入出来ない良馬ですね」
その言葉と共に社の陰から現れたのは恒興の予想通り子供だった。
子供と言っても13、4歳といったところか。
「三河の狂犬の家来よりも上客と聞いたが、おまえで合ってるんだよな?」
「こちらの素性を聞いておられないので?」
「それが信長様だ」
「なるほど。では私も名乗りませんね。早速ですが、織田様には清州城から逃げていただきたいのですが」
まずは名乗れよ、と思ったが、
「目的は?」
「沓掛城に籠もる今川義元の誘引ーー誰だっ!」
最初に気付いたのはその子供の武者だった。
熱田神社に生えた木を睨むどころか叫んだ時には突っ込んでいた。
正確にはその背後の人物に。
木の陰に隠れていた人物が少年武者の間合いから逃げるように境内に移動する。
月明かりに晒された姿は忍者装束だった。
「お待ちを。敵ではござらん」
「黙れ。この会談を見た時点で死んで貰う」
少年武者が突っ込む中、恒興が忍者に気付き、
「ん? あれ、おまえ、狂犬のところの」
「お久しぶりです、池田様」
「知り合いなのですか、池田殿?」
「三河の忍者だ」
「ならば今川の手の者ではありませんか」
少年武者が斬り伏せようと間合いを詰めようとする中、
「違います。松平です」
そう訂正した忍者装束の男が続いて、
「今川義元の誘引、こちらでやりましょうか?」
そう提案し、少年武者は初めて足を止めて距離を保った。
「どうやって?」
「松平元康様が流れ矢、または流れ弾に当たって重傷との流言を使って」
「そんな事で今川の大将を誘引出来るのか?」
と不思議がったのは池田恒興だったが、少年武者の方は、
「いえ、いけるかも。今川の御大(御大将の略)は松平元康を殺したがっている、とのもっぱらの噂ですから」
「それ、噂じゃなくて本当の話ですよ。今も戦場に今川の暗殺部隊が若様に張り付いておりますから。気勢を制そうかと」
「よし、じゃあ、それで。ダメな時はまた別の方法を模索するという事で」
恒興の言葉に、
「この者を信じられますのでーーいえ、畏まりました」
「尾張の殿様への貸しですからな」
少年武者と忍者も同意したのだった。
登場人物、1560年度
今川義元(41)・・・駿河守護職。海道一の弓取り。室町幕府不要論者。
能力値、海道一の弓取りS、輿に乗るのは乗るに相応しい身分だからSS、氏真が心配A、武田を信用に能わずA、狂犬嫌いSS、不吉な夢A
武藤喜兵衛(13)・・・甲斐源氏の武藤家の養子。真田幸綱の三男。後に真田家を継ぐ際に真田昌幸と名乗る。今回が初陣。
能力値、表裏比興の者E、信玄の右目B、風林火山C、武田家への忠誠S、信玄からの信頼B、武田家臣団での待遇C
松井宗信(35)・・・今川の宿老。今川上洛軍副将。遠江松井氏の総領。義元直属の暗部部隊の頭領。豪傑だが陰険。
能力値、豪傑だが陰険SS、配下の錬度S、暗殺が得意A、今川三代への絶対忠誠SS、義元からの信頼B、今川家臣団での待遇A
森可成(38)・・・信長の家臣。古参の美濃衆。織田二代に仕える。信長のお気に入り。
能力値、攻めの三左S、命知らずA、信長のお気に入りS、織田二代への忠誠S、信長からの信頼A、織田家臣団での待遇A
河尻秀隆(33)・・・信長の最古参の家臣。信勝を殺害。
能力値、猪武者A、政務の素養E、織田信勝(信行)殺害の知名度SS、信長への絶対忠誠A、信長からの信頼A、織田家臣団での待遇A
濃姫(25)・・・信長の正室。斎藤道三の娘。切れ者。嫡子の奇妙を養育する。徳姫の実母。
能力値、織田家当主の正室A、母似の美貌A、蝮継承C、信長との阿吽の呼吸SS、信長を天下人に押し上げる内助の功SS、信長からの信頼B
服部正成(18)・・・三河の家臣。別名、服部半蔵。
能力値、伊賀への影響力E、鬼の半蔵B、冷酷な計算A、元康への忠誠E、元康からの信頼E、松平家臣団での待遇D
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歴史・時代
満州国は、日本が作った対ソ連の干渉となる国であった。 未開の不毛の地であった。 無法の馬賊どもが闊歩する草原が広がる地だ。 そこに、農業開発開墾団が入植してくる。 とうぜん、馬賊と激しい勢力争いとなる。 馬賊は機動性を武器に、なかなか殲滅できなかった。 それで、入植者保護のため満州政府が宗主国である日本国へ馬賊討伐を要請したのである。 それに答えたのが馬賊専門の討伐飛行隊である。
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