池田恒興

竹井ゴールド

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1559年、室町幕府13代将軍、足利義輝謁見

将軍義輝

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 【進士藤延、1532年生まれ説、採用】

 【進士藤延の通称、日向守説、採用】





 塀の上から落ちた恒興が、

「イタタタタ」

 と打ったところをさすっていると、

「貴様、何者だっ!」

 将軍の奉公衆の1人が真っ先に駆け付けてきた。

 現在の足利義輝は三好長慶と京で暗闘の真っ只中。

 なので、将軍の御座所に侵入するような奴は三好長慶の手下に決まっている。

 問答など必要ない。

 斬り捨てるに限る。

 そんな訳で当たり前のように日本刀を抜こうとしており、その若い奉公衆の武者が将軍家の御座所を警備してるだけあって妙に強そうだったので、

「ちょっと待ったっ! 本日、これより将軍様と謁見する尾張の織田家の家臣、池田恒興です。けっして怪しい者ではございません」

 恒興は速攻で素性を名乗った。

「嘘をつけっ!」

「本当ですってば」

「ならば、どうして正門ではなく塀を登って侵入してきた?」

「侵入したのではなく塀の上に登っただけです。そしたら落ちたんですってば」

「ああ、あの場所は仕掛けのーーだが、塀の上を登った事には間違いなかろうが。どうして登った?」

 将軍を見たかったから。

 と本当の事を喋ったら怒られるどころか命が危ない事くらいは分かってる恒興は、

あるじを心配するのは家臣として当然の事ではありませんか」

 方便を使った。

「ここは将軍の御座所だぞ? 心配するような事が起こる訳がーー」

「いやいや、上洛の道中で命を狙われましたから。美濃斎藤家の連中に」

「ーー美濃斎藤家? ああ、三好が勝手に官位を与えた中の1人か。確か親殺し?」

「そうです。あのクソ怪しい悪人面です」

 と喋ってた頃には庭先(本当は境内だが)に人がやたらと集まってきており、遂には屋敷の中からも、

「何の騒ぎだ? 騒々しい」

 やたらと煌びやかな着物を纏った立派な武人が出てきた。

 その武人の登場と共に、全員が平伏して、最初に恒興と喋ってた奉公衆が、

「嘘だろーーいけません、こちらに来られては。怪しい者の侵入がありーー」

 そう発言し、一連の流れで恒興もその武人が将軍だと理解出来たので、

「だから怪しくないってーー本日これより将軍様と謁見する尾張の織田家の家臣、池田恒興にございます。けっして怪しい者ではございません」

「と言ってるがーー信長、そうなのか?」

 その武人が振り返って、奥から信長が出てきたのを見て、恒興は、あっ、やべ、と思った。

「はっ、我が乳兄弟ではありますが、気に入らないようであれば斬り捨てていただいて構いません」

「そんな~。いえ、何でもありません。信長様の采配にお任せします」

「ソヤツを連れて来い。近くで顔が見てみたい」

「いけません、上様」

「聞こえなかったのか、日向守ひゅうがのかみ?」

「はっ」

 こうして屋敷側に恒興は近付き、見えた信長の表情が呆れてるだけだったのでホッとした。

「どうして侵入ーーああ、仕掛け屋根か。どうして登ったのだ?」

「上洛途中に不穏な事があり、信長様が心配でしたもので」

「不穏な事とは?」

「美濃斎藤家の暗殺部隊に狙われましてございまする」

「信長、本当なのか?」

「はっ、領国が隣同士の関係で、父の代から揉めておりまして。縁組でようやく和解かと思いましたが、義龍が実の父親を殺した事でその和解も御破算に」

「ああ、親殺しか。敵わんな」

「はっ」

 信長が返事をし、

「それで主を心配して塀に登り、瓦ごと滑り落ちた訳か」

「はっ」

 今度は恒興が返事をした。

「大した忠義者ではないか」

 そう評する義輝に対して日向守が、

「ですが、将軍家の御座所に侵入した罪は問わねばなりません」

「分かりました。では、宝剣を一振りお預け下さい。将軍様を困らせてるとかいう三好なんとかって奴を斬って御覧にいれますから」

 恒興のその軽口には、集まってた将軍家の家来衆全員がハッと息を飲んだ。

 慌てて将軍義輝の顔色を窺う。

 将軍義輝の前で三好の話はまだ禁句だったからだ。

 義輝の顔がみるみる真剣になり、

「出来るのか、おまえに?」

「いえ、無理ですね。顔はもちろん名前も分かりませんので。この御座所に誘き出していただいての1対1の構図ならば、やれる、と思いますが」

「そこまでの御膳立てが出来るのであれば私がこの手でやっておるわ」

 と呆れた将軍義輝が、

「・・・今後もその方の主に尽くすように」

「ははっ、1番に信長様に、2番に将軍様に尽くしまする」

「将軍の私が2番?」

 通常ならば不敬なところだが、その言葉が妙に気に入ったのか表情を緩めて笑った義輝が、

「えっ、だって今、あるじに尽くせって」

「よいよい。嘘で1番だと言われるよりは断然気に入ったぞ、今の言葉は。褒美として宝剣はやれんがその2番の忠義に免じて刃毀れして使わなくなった名刀くらいならくれてやろう。その方、名は?」

「池田勝三郎恒興にございまする」

「では日向守。この恒興に刀を1本やって門の内側、玄関で主を待たせてやれ」

「よろしいのですか、将軍様?」

 そう質問したのは信長だ。

「今の京の都で『三好を殺す』と言ったのでな。御座所への侵入はそれで帳消しだ。では信長、会談に戻ろう。そうそう、恒興が御座所の塀を越えた事実はなかったものとする。よいな、皆の者?」

「ははっ」

 信長を連れて中に戻る前のその義輝の言葉で、恒興が塀を越えた事実はどの記録にも残らなかった。

 恒興は将軍義輝のその後ろ姿を庭から見えなくなるまで見送ったのだった。





 登場人物、1559年度

 進士藤延(27)・・・進士晴舎の息子。日向守は通称で、正式な官位ではない。

 能力値、総ては義輝の為にSS、麒麟の如くE、三好憎しB、義輝への絶対忠誠SS、義輝からの信頼B、義輝家臣団での待遇C

 足利義輝(23)・・・室町幕府13代将軍。塚原卜伝創設の新当流の免許皆伝。一之太刀の義輝。

 能力値、天下人の才気E、悲運の将軍B、一之太刀の義輝B、朝廷での評判D、三好憎しSS、刀狂いSS
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