4 / 91
1559年、室町幕府13代将軍、足利義輝謁見
将軍義輝
しおりを挟む
【進士藤延、1532年生まれ説、採用】
【進士藤延の通称、日向守説、採用】
塀の上から落ちた恒興が、
「イタタタタ」
と打ったところを摩っていると、
「貴様、何者だっ!」
将軍の奉公衆の1人が真っ先に駆け付けてきた。
現在の足利義輝は三好長慶と京で暗闘の真っ只中。
なので、将軍の御座所に侵入するような奴は三好長慶の手下に決まっている。
問答など必要ない。
斬り捨てるに限る。
そんな訳で当たり前のように日本刀を抜こうとしており、その若い奉公衆の武者が将軍家の御座所を警備してるだけあって妙に強そうだったので、
「ちょっと待ったっ! 本日、これより将軍様と謁見する尾張の織田家の家臣、池田恒興です。けっして怪しい者ではございません」
恒興は速攻で素性を名乗った。
「嘘をつけっ!」
「本当ですってば」
「ならば、どうして正門ではなく塀を登って侵入してきた?」
「侵入したのではなく塀の上に登っただけです。そしたら落ちたんですってば」
「ああ、あの場所は仕掛けのーーだが、塀の上を登った事には間違いなかろうが。どうして登った?」
将軍を見たかったから。
と本当の事を喋ったら怒られるどころか命が危ない事くらいは分かってる恒興は、
「主を心配するのは家臣として当然の事ではありませんか」
方便を使った。
「ここは将軍の御座所だぞ? 心配するような事が起こる訳がーー」
「いやいや、上洛の道中で命を狙われましたから。美濃斎藤家の連中に」
「ーー美濃斎藤家? ああ、三好が勝手に官位を与えた中の1人か。確か親殺し?」
「そうです。あのクソ怪しい悪人面です」
と喋ってた頃には庭先(本当は境内だが)に人がやたらと集まってきており、遂には屋敷の中からも、
「何の騒ぎだ? 騒々しい」
やたらと煌びやかな着物を纏った立派な武人が出てきた。
その武人の登場と共に、全員が平伏して、最初に恒興と喋ってた奉公衆が、
「嘘だろーーいけません、こちらに来られては。怪しい者の侵入がありーー」
そう発言し、一連の流れで恒興もその武人が将軍だと理解出来たので、
「だから怪しくないってーー本日これより将軍様と謁見する尾張の織田家の家臣、池田恒興にございます。けっして怪しい者ではございません」
「と言ってるがーー信長、そうなのか?」
その武人が振り返って、奥から信長が出てきたのを見て、恒興は、あっ、やべ、と思った。
「はっ、我が乳兄弟ではありますが、気に入らないようであれば斬り捨てていただいて構いません」
「そんな~。いえ、何でもありません。信長様の采配にお任せします」
「ソヤツを連れて来い。近くで顔が見てみたい」
「いけません、上様」
「聞こえなかったのか、日向守?」
「はっ」
こうして屋敷側に恒興は近付き、見えた信長の表情が呆れてるだけだったのでホッとした。
「どうして侵入ーーああ、仕掛け屋根か。どうして登ったのだ?」
「上洛途中に不穏な事があり、信長様が心配でしたもので」
「不穏な事とは?」
「美濃斎藤家の暗殺部隊に狙われましてございまする」
「信長、本当なのか?」
「はっ、領国が隣同士の関係で、父の代から揉めておりまして。縁組でようやく和解かと思いましたが、義龍が実の父親を殺した事でその和解も御破算に」
「ああ、親殺しか。敵わんな」
「はっ」
信長が返事をし、
「それで主を心配して塀に登り、瓦ごと滑り落ちた訳か」
「はっ」
今度は恒興が返事をした。
「大した忠義者ではないか」
そう評する義輝に対して日向守が、
「ですが、将軍家の御座所に侵入した罪は問わねばなりません」
「分かりました。では、宝剣を一振りお預け下さい。将軍様を困らせてるとかいう三好なんとかって奴を斬って御覧にいれますから」
恒興のその軽口には、集まってた将軍家の家来衆全員がハッと息を飲んだ。
慌てて将軍義輝の顔色を窺う。
将軍義輝の前で三好の話はまだ禁句だったからだ。
義輝の顔がみるみる真剣になり、
「出来るのか、おまえに?」
「いえ、無理ですね。顔はもちろん名前も分かりませんので。この御座所に誘き出していただいての1対1の構図ならば、やれる、と思いますが」
「そこまでの御膳立てが出来るのであれば私がこの手でやっておるわ」
と呆れた将軍義輝が、
「・・・今後もその方の主に尽くすように」
「ははっ、1番に信長様に、2番に将軍様に尽くしまする」
「将軍の私が2番?」
通常ならば不敬なところだが、その言葉が妙に気に入ったのか表情を緩めて笑った義輝が、
「えっ、だって今、主に尽くせって」
「よいよい。嘘で1番だと言われるよりは断然気に入ったぞ、今の言葉は。褒美として宝剣はやれんがその2番の忠義に免じて刃毀れして使わなくなった名刀くらいならくれてやろう。その方、名は?」
「池田勝三郎恒興にございまする」
「では日向守。この恒興に刀を1本やって門の内側、玄関で主を待たせてやれ」
「よろしいのですか、将軍様?」
そう質問したのは信長だ。
「今の京の都で『三好を殺す』と言ったのでな。御座所への侵入はそれで帳消しだ。では信長、会談に戻ろう。そうそう、恒興が御座所の塀を越えた事実はなかったものとする。よいな、皆の者?」
「ははっ」
信長を連れて中に戻る前のその義輝の言葉で、恒興が塀を越えた事実はどの記録にも残らなかった。
恒興は将軍義輝のその後ろ姿を庭から見えなくなるまで見送ったのだった。
登場人物、1559年度
進士藤延(27)・・・進士晴舎の息子。日向守は通称で、正式な官位ではない。
能力値、総ては義輝の為にSS、麒麟の如くE、三好憎しB、義輝への絶対忠誠SS、義輝からの信頼B、義輝家臣団での待遇C
足利義輝(23)・・・室町幕府13代将軍。塚原卜伝創設の新当流の免許皆伝。一之太刀の義輝。
能力値、天下人の才気E、悲運の将軍B、一之太刀の義輝B、朝廷での評判D、三好憎しSS、刀狂いSS
【進士藤延の通称、日向守説、採用】
塀の上から落ちた恒興が、
「イタタタタ」
と打ったところを摩っていると、
「貴様、何者だっ!」
将軍の奉公衆の1人が真っ先に駆け付けてきた。
現在の足利義輝は三好長慶と京で暗闘の真っ只中。
なので、将軍の御座所に侵入するような奴は三好長慶の手下に決まっている。
問答など必要ない。
斬り捨てるに限る。
そんな訳で当たり前のように日本刀を抜こうとしており、その若い奉公衆の武者が将軍家の御座所を警備してるだけあって妙に強そうだったので、
「ちょっと待ったっ! 本日、これより将軍様と謁見する尾張の織田家の家臣、池田恒興です。けっして怪しい者ではございません」
恒興は速攻で素性を名乗った。
「嘘をつけっ!」
「本当ですってば」
「ならば、どうして正門ではなく塀を登って侵入してきた?」
「侵入したのではなく塀の上に登っただけです。そしたら落ちたんですってば」
「ああ、あの場所は仕掛けのーーだが、塀の上を登った事には間違いなかろうが。どうして登った?」
将軍を見たかったから。
と本当の事を喋ったら怒られるどころか命が危ない事くらいは分かってる恒興は、
「主を心配するのは家臣として当然の事ではありませんか」
方便を使った。
「ここは将軍の御座所だぞ? 心配するような事が起こる訳がーー」
「いやいや、上洛の道中で命を狙われましたから。美濃斎藤家の連中に」
「ーー美濃斎藤家? ああ、三好が勝手に官位を与えた中の1人か。確か親殺し?」
「そうです。あのクソ怪しい悪人面です」
と喋ってた頃には庭先(本当は境内だが)に人がやたらと集まってきており、遂には屋敷の中からも、
「何の騒ぎだ? 騒々しい」
やたらと煌びやかな着物を纏った立派な武人が出てきた。
その武人の登場と共に、全員が平伏して、最初に恒興と喋ってた奉公衆が、
「嘘だろーーいけません、こちらに来られては。怪しい者の侵入がありーー」
そう発言し、一連の流れで恒興もその武人が将軍だと理解出来たので、
「だから怪しくないってーー本日これより将軍様と謁見する尾張の織田家の家臣、池田恒興にございます。けっして怪しい者ではございません」
「と言ってるがーー信長、そうなのか?」
その武人が振り返って、奥から信長が出てきたのを見て、恒興は、あっ、やべ、と思った。
「はっ、我が乳兄弟ではありますが、気に入らないようであれば斬り捨てていただいて構いません」
「そんな~。いえ、何でもありません。信長様の采配にお任せします」
「ソヤツを連れて来い。近くで顔が見てみたい」
「いけません、上様」
「聞こえなかったのか、日向守?」
「はっ」
こうして屋敷側に恒興は近付き、見えた信長の表情が呆れてるだけだったのでホッとした。
「どうして侵入ーーああ、仕掛け屋根か。どうして登ったのだ?」
「上洛途中に不穏な事があり、信長様が心配でしたもので」
「不穏な事とは?」
「美濃斎藤家の暗殺部隊に狙われましてございまする」
「信長、本当なのか?」
「はっ、領国が隣同士の関係で、父の代から揉めておりまして。縁組でようやく和解かと思いましたが、義龍が実の父親を殺した事でその和解も御破算に」
「ああ、親殺しか。敵わんな」
「はっ」
信長が返事をし、
「それで主を心配して塀に登り、瓦ごと滑り落ちた訳か」
「はっ」
今度は恒興が返事をした。
「大した忠義者ではないか」
そう評する義輝に対して日向守が、
「ですが、将軍家の御座所に侵入した罪は問わねばなりません」
「分かりました。では、宝剣を一振りお預け下さい。将軍様を困らせてるとかいう三好なんとかって奴を斬って御覧にいれますから」
恒興のその軽口には、集まってた将軍家の家来衆全員がハッと息を飲んだ。
慌てて将軍義輝の顔色を窺う。
将軍義輝の前で三好の話はまだ禁句だったからだ。
義輝の顔がみるみる真剣になり、
「出来るのか、おまえに?」
「いえ、無理ですね。顔はもちろん名前も分かりませんので。この御座所に誘き出していただいての1対1の構図ならば、やれる、と思いますが」
「そこまでの御膳立てが出来るのであれば私がこの手でやっておるわ」
と呆れた将軍義輝が、
「・・・今後もその方の主に尽くすように」
「ははっ、1番に信長様に、2番に将軍様に尽くしまする」
「将軍の私が2番?」
通常ならば不敬なところだが、その言葉が妙に気に入ったのか表情を緩めて笑った義輝が、
「えっ、だって今、主に尽くせって」
「よいよい。嘘で1番だと言われるよりは断然気に入ったぞ、今の言葉は。褒美として宝剣はやれんがその2番の忠義に免じて刃毀れして使わなくなった名刀くらいならくれてやろう。その方、名は?」
「池田勝三郎恒興にございまする」
「では日向守。この恒興に刀を1本やって門の内側、玄関で主を待たせてやれ」
「よろしいのですか、将軍様?」
そう質問したのは信長だ。
「今の京の都で『三好を殺す』と言ったのでな。御座所への侵入はそれで帳消しだ。では信長、会談に戻ろう。そうそう、恒興が御座所の塀を越えた事実はなかったものとする。よいな、皆の者?」
「ははっ」
信長を連れて中に戻る前のその義輝の言葉で、恒興が塀を越えた事実はどの記録にも残らなかった。
恒興は将軍義輝のその後ろ姿を庭から見えなくなるまで見送ったのだった。
登場人物、1559年度
進士藤延(27)・・・進士晴舎の息子。日向守は通称で、正式な官位ではない。
能力値、総ては義輝の為にSS、麒麟の如くE、三好憎しB、義輝への絶対忠誠SS、義輝からの信頼B、義輝家臣団での待遇C
足利義輝(23)・・・室町幕府13代将軍。塚原卜伝創設の新当流の免許皆伝。一之太刀の義輝。
能力値、天下人の才気E、悲運の将軍B、一之太刀の義輝B、朝廷での評判D、三好憎しSS、刀狂いSS
11
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原
糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。
慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。
しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。
目指すは徳川家康の首級ただ一つ。
しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。
その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
16世紀のオデュッセイア
尾方佐羽
歴史・時代
【第13章を夏ごろからスタート予定です】世界の海が人と船で結ばれていく16世紀の遥かな旅の物語です。
12章は16世紀後半のフランスが舞台になっています。
※このお話は史実を参考にしたフィクションです。
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
大東亜戦争を有利に
ゆみすけ
歴史・時代
日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる