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1559年、室町幕府13代将軍、足利義輝謁見
将軍の御座所に侵入した不審者
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【池田元助、1559年生まれ説、採用】
【岩室重休、信長の寵臣説、採用】
【池田恒興、将軍の御座所へ同行出来ず説、採用】
【1559年の将軍の御座所の妙覚寺の塀に間諜用の対策あり説、採用】
尾張の上洛隊500人は京に到着した訳だが。
応仁の乱以降、内戦が続く京は永禄2年のこの時、荒れに荒れていた。
「こんなのが日の本の中心と言われてる京の都かよ?」
馬上からキョロキョロとボロボロの町並みを見渡した恒興がガッカリとし、藤吉郎も、
「尾張や通ってきた南近江の方が断然栄えてますね」
「ああ、印象としてどことなく暗いし」
「こりゃあ、きっと美人も居ませんよ、勝様」
「だよな。せっかく期待してたのに」
「うわ、身重の奥方が居るのに女漁りの事を考えていたなんて」
「藤吉、きたねえぞ。今のは」
と喋ってたが、恒興がふと信長を見て『あっ、怒ってる』と顔色を読んで藤吉郎に視線で合図した。
藤吉郎も優秀なので恒興の視線に気付いたが、もう遅く、
「黙ってろ、サルっ!」
馬上から信長の蹴りが飛んできた。
「ひぃやあああ」
藤吉郎が大袈裟にすっ転ぶ。
その後、すぐに藤吉郎はその場で土下座をして、
「堪忍して置くんなまし、信長様。後生ですから。堪忍して置くんなまし」
命乞いをするように謝罪した。
馬上の信長は一々降りてまで土下座する藤吉郎を追撃する事はなく、
「チッ。行くぞ」
そのまま上洛隊は進み、藤吉郎は信長が見えなくなるまでその場で土下座をし続けたのだった。
そして見えなくなると、
「勝様ももう少し早く教えてくれたらな~。でも一番に気付いたのはやっぱりさすがか~」
ケロッとした顔で立ち上がり、上洛隊に加わって歩いたのだった。
尾張の田舎者が京に到着した当日に将軍に面会出来る訳もない。
京の都で美濃斎藤家の襲撃部隊が騒ぎを起こす事も出来ない。
そして京がボロボロなのを見てから、信長はずっと不機嫌で、近習幹部の池田恒興は京見物に抜け出す事も出来ない。
そんな数日が過ぎ去り、ようやく信長が将軍と謁見出来る事となった。
信長と一緒に将軍の御座所内まで同行出来るのは平手久秀、河尻秀隆、森可成、岩室重休のこの4人であった。
「ええ~、留守番なんですか、オレ? 同い年の長門が付いていけて?」
特別待遇だけあり、恒興は織田家臣団の中で信長にそう尋ねても怒られない数少ない存在だった。
尚、長門とは岩室重休の通称、長門守の長門である。
「当然だろ。勝だと将軍の御家来衆相手に粗相を起こす可能性があるからな」
「いやいや、そんな事はーー」
「ダメだ」
信長にピシャリと言われて、
「はっ、畏まりました」
引き際を弁えてる恒興はすぐに従った。
これで話は終わりではない。
本作の池田恒興はムードメーカーでありギャグメーカーなのだ。
将軍の御座所の門の中に信長と御供の4人が消えていく中、門前まで献上品を運ぶのを手伝った恒興は将軍の御座所の塀を見た。
意外に低い。
それには理由がある。
1559年時点の足利義輝は室町幕府の将軍の癖に三好長慶にボッコボコにされており、1558年まで京の都を追われていた関係で御座所が借り物の妙覚寺だったのだ。
寺の塀なんて正直、簡単に登れそうだった。
「ほら宿舎まで戻るぞ、恒興」
門前でそう声を掛けたのは佐々成政だったが、恒興がニヤリとして、
「ここまで来たんだ、ちょいと将軍様のツラを拝んでいこうぜ、成政」
「ふざけるなよ、おまえ。何を考えてる?」
「いやいや、京まで来たんだ。将軍様がどんな人か一目見てみたいだろ?」
「そんな不敬な事を考えてるのはおまえだけだよっ!」
「一目見るだけだからさ。な?」
「ダメに決まってるだろ。美濃のマムシとの会見の時、おまえ、自分が何をやらかしたのか忘れたんじゃないだろうな? オレはその頃まだ信安様の配下だったが、そのオレのところまでおまえの所為で斬り合い寸前までいったって話は聞こえてきたんだからな?」
「今回は大丈夫だって。火縄銃も持ってないし」
「ダメだ。ほら、帰るぞ」
「一瞬だけ。一瞬だけだから」
成政の常識と恒興の好奇心のこの論争は、信じられない事に恒興が勝利した。
年齢も一緒で仲も良いが、恒興の方が近習としての格が上なので無理が通ったのが原因なのだが。
「一瞬だけだからな、恒興。一目見たらバレる前にすぐに帰る。いいな?」
「もちろん」
恒興が塀の上に登るのを成政が下から協力するまでに至っていた。
そして恒興は将軍の御座所の塀の上に登った訳だが。
今、足利義輝は三好長慶と京の都で暗闘の真っ最中だ。
こんな低い塀の寺を三好側が将軍の御座所として用意したのは、塀を飛び越えて間諜を侵入させる為な事は明白で、将軍側も対策として塀に細工をしていた。
塀の上側の屋根には瓦が乗ってる訳だが、その瓦が内側に滑り落ちるように仕掛けがしてあり、塀の屋根に乗った瞬間に、
「うわあああっ!」
ガラガラッと滑る瓦と共に御座所の内側に恒興は落ちていったのだった。
塀の外側に残された成政は恒興が落ちたのを見て、
「やばっ! 一抜けたっ!」
さっさと逃げていったのだった。
登場人物、1559年度
佐々成政(23)・・・信長の近習。近江源氏の佐々氏の庶流。織田信安の元部下。政務が有能。正室は村井貞勝の娘。
能力値、まさかの文官肌A、不運の佐々C、豪傑への尊敬A、信長への忠誠B、信長からの信頼B、織田家臣団での待遇B
【岩室重休、信長の寵臣説、採用】
【池田恒興、将軍の御座所へ同行出来ず説、採用】
【1559年の将軍の御座所の妙覚寺の塀に間諜用の対策あり説、採用】
尾張の上洛隊500人は京に到着した訳だが。
応仁の乱以降、内戦が続く京は永禄2年のこの時、荒れに荒れていた。
「こんなのが日の本の中心と言われてる京の都かよ?」
馬上からキョロキョロとボロボロの町並みを見渡した恒興がガッカリとし、藤吉郎も、
「尾張や通ってきた南近江の方が断然栄えてますね」
「ああ、印象としてどことなく暗いし」
「こりゃあ、きっと美人も居ませんよ、勝様」
「だよな。せっかく期待してたのに」
「うわ、身重の奥方が居るのに女漁りの事を考えていたなんて」
「藤吉、きたねえぞ。今のは」
と喋ってたが、恒興がふと信長を見て『あっ、怒ってる』と顔色を読んで藤吉郎に視線で合図した。
藤吉郎も優秀なので恒興の視線に気付いたが、もう遅く、
「黙ってろ、サルっ!」
馬上から信長の蹴りが飛んできた。
「ひぃやあああ」
藤吉郎が大袈裟にすっ転ぶ。
その後、すぐに藤吉郎はその場で土下座をして、
「堪忍して置くんなまし、信長様。後生ですから。堪忍して置くんなまし」
命乞いをするように謝罪した。
馬上の信長は一々降りてまで土下座する藤吉郎を追撃する事はなく、
「チッ。行くぞ」
そのまま上洛隊は進み、藤吉郎は信長が見えなくなるまでその場で土下座をし続けたのだった。
そして見えなくなると、
「勝様ももう少し早く教えてくれたらな~。でも一番に気付いたのはやっぱりさすがか~」
ケロッとした顔で立ち上がり、上洛隊に加わって歩いたのだった。
尾張の田舎者が京に到着した当日に将軍に面会出来る訳もない。
京の都で美濃斎藤家の襲撃部隊が騒ぎを起こす事も出来ない。
そして京がボロボロなのを見てから、信長はずっと不機嫌で、近習幹部の池田恒興は京見物に抜け出す事も出来ない。
そんな数日が過ぎ去り、ようやく信長が将軍と謁見出来る事となった。
信長と一緒に将軍の御座所内まで同行出来るのは平手久秀、河尻秀隆、森可成、岩室重休のこの4人であった。
「ええ~、留守番なんですか、オレ? 同い年の長門が付いていけて?」
特別待遇だけあり、恒興は織田家臣団の中で信長にそう尋ねても怒られない数少ない存在だった。
尚、長門とは岩室重休の通称、長門守の長門である。
「当然だろ。勝だと将軍の御家来衆相手に粗相を起こす可能性があるからな」
「いやいや、そんな事はーー」
「ダメだ」
信長にピシャリと言われて、
「はっ、畏まりました」
引き際を弁えてる恒興はすぐに従った。
これで話は終わりではない。
本作の池田恒興はムードメーカーでありギャグメーカーなのだ。
将軍の御座所の門の中に信長と御供の4人が消えていく中、門前まで献上品を運ぶのを手伝った恒興は将軍の御座所の塀を見た。
意外に低い。
それには理由がある。
1559年時点の足利義輝は室町幕府の将軍の癖に三好長慶にボッコボコにされており、1558年まで京の都を追われていた関係で御座所が借り物の妙覚寺だったのだ。
寺の塀なんて正直、簡単に登れそうだった。
「ほら宿舎まで戻るぞ、恒興」
門前でそう声を掛けたのは佐々成政だったが、恒興がニヤリとして、
「ここまで来たんだ、ちょいと将軍様のツラを拝んでいこうぜ、成政」
「ふざけるなよ、おまえ。何を考えてる?」
「いやいや、京まで来たんだ。将軍様がどんな人か一目見てみたいだろ?」
「そんな不敬な事を考えてるのはおまえだけだよっ!」
「一目見るだけだからさ。な?」
「ダメに決まってるだろ。美濃のマムシとの会見の時、おまえ、自分が何をやらかしたのか忘れたんじゃないだろうな? オレはその頃まだ信安様の配下だったが、そのオレのところまでおまえの所為で斬り合い寸前までいったって話は聞こえてきたんだからな?」
「今回は大丈夫だって。火縄銃も持ってないし」
「ダメだ。ほら、帰るぞ」
「一瞬だけ。一瞬だけだから」
成政の常識と恒興の好奇心のこの論争は、信じられない事に恒興が勝利した。
年齢も一緒で仲も良いが、恒興の方が近習としての格が上なので無理が通ったのが原因なのだが。
「一瞬だけだからな、恒興。一目見たらバレる前にすぐに帰る。いいな?」
「もちろん」
恒興が塀の上に登るのを成政が下から協力するまでに至っていた。
そして恒興は将軍の御座所の塀の上に登った訳だが。
今、足利義輝は三好長慶と京の都で暗闘の真っ最中だ。
こんな低い塀の寺を三好側が将軍の御座所として用意したのは、塀を飛び越えて間諜を侵入させる為な事は明白で、将軍側も対策として塀に細工をしていた。
塀の上側の屋根には瓦が乗ってる訳だが、その瓦が内側に滑り落ちるように仕掛けがしてあり、塀の屋根に乗った瞬間に、
「うわあああっ!」
ガラガラッと滑る瓦と共に御座所の内側に恒興は落ちていったのだった。
塀の外側に残された成政は恒興が落ちたのを見て、
「やばっ! 一抜けたっ!」
さっさと逃げていったのだった。
登場人物、1559年度
佐々成政(23)・・・信長の近習。近江源氏の佐々氏の庶流。織田信安の元部下。政務が有能。正室は村井貞勝の娘。
能力値、まさかの文官肌A、不運の佐々C、豪傑への尊敬A、信長への忠誠B、信長からの信頼B、織田家臣団での待遇B
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