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クロベーテ王国脱出
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城塞街ベーデに巨大な岩の蛇が出没したとの情報が城塞都市エクレロイドに届いたのはリアルタイムでだった。
ベーデの兵舎は陥落しても魔法学校、聖シルバスタ教団の教会、冒険者ギルド、商業ギルドは巨大な岩の蛇が地上に出た時点では無傷で第1報がその時、魔道具で各地に伝達され、情報はクロベーテ王国によって秘匿される事なく、一般人が向かわないように近隣の都市に伝わったのだから。
カイルとマーベラは日の出と共に起きる生活習慣が行商によって身に付いていたが、その日は安宿のベッドで朝から愛し合ってたので、
「もう、朝から何考えてるのよ、カーンは」
「だって、マーベさんが余りに綺麗だったから」
「知らないわよ、もう」
ようやく朝食に出向く為に部屋を出たのは朝の8時頃だった。
素泊まりの宿屋なので朝食を食べに出向く訳だが、例え安宿だろうと商業ギルド御用達だ。フロントと呼ぶにはこじんまりとした空間だが、安宿の店主の40代の獣人だが肥満の男が、
「ベーデで何かあったみたいだよ」
「何かって?」
「さあ、速報で騒いでた。ベーデには行かせるなって。詳しくは商業ギルドで聞くといい。チェックアウトは10時だからそれまでに部屋の荷物を持って出てくれ。もう一泊するにしても15時までは荷物は外に出してくれよ。掃除するから」
「了解」
と返事したマーベラが呑気に、
「何があったのかしらね」
カイルと喋ってたが、安食堂で朝食を頼むと情報が次々と舞い込んできた。
安食堂に飛び込んできた客が、
「聞いてきたぞ。やっぱりモルニードスの森に出現したとかいう巨大な岩蛇がベーデを襲撃したんだってよ」
「おお、マジでか?」
「どうなってるんだよ、この国は? 国王様が死んで、エクレロイドはスタンピード、今度はベーデって」
「まったくだぜ。呪われてるんじゃないか」
客達が真面目な顔になって不安がっている(全部カイルが噛んでます)。
カイルは別に何とも思わなかったが、対面に座るマーベラは違った。真剣な顔をしている。
「大丈夫、マーベさん?」
「ええ」
「今日は国境越えだけど・・・」
「待って。カーン」
「?」
「もう一泊しましょ」
「ええっと、ベーデに戻るとか言わないよね?」
「・・・もちろんよ」
と答えたマーベラの顔を見てカイルは嘘だと悟った。
(おいおい、嘘でしょ。ここでお別れとかあり得ないんだけど? カイローン遺跡の奥の扉を開けるにはユリアの血脈が必要なんだから。操るか? 駄目だ。目的は遺跡の扉を開ける事じゃない。遺跡の遺産ーー古代神の叡智の確保だ。別の遺跡で王の末裔を操ってムゲルの時、古代神の亡霊を怒らせて大変な事になったから。どうする? 一緒にベーデに向かうか? いや『街を落とした』となったらさすがに王国も動く。国王も死んでるんだ。下手するとまた手配されるぞ。このまま国境を越えるに限る)
と考えながら、
「マーベさん、戻りたかったら戻っていいよ」
「いいの?」
マーベラとしては『カイルと一緒に』という意味だったが、カイルが、
「うん。ボクはソルトーヤ王国の城塞都市ビーゴコスタで待ってるから追い掛けて来てね」
「・・・ええ」
その歯切れの悪さにカイルが、
「えっ? 英雄マルコスみたいに戦うとか言わないよね?」
「誰かがやらないと」
「何もマーベさんがやらなくても・・・」
「英雄マルコスの末裔がやらなくて誰がやるのよ」
「・・・そうだね」
カイルはそう理解を示しながら、
(ダメだ。ユリアの血脈を失った。国境を越える前にお別れになるなんて・・・待てよ。ユリアが生んだ子供は3人。探せば末裔はまだ居るな。確かマーベが英雄マルコスの血統でエクレロイドに移り住んだって・・・スタンピードで死んでるぽいな。やはり予定通り、今日中に国境を越えるべきか)
「ありがとね、カーン」
こうして安食堂でマーベラと別れる事が決定し、カイルは肩を落としたのだった。
安宿に戻った際、カイルはリュックから金貨50枚を選別にマーベラに渡した。
「何、このお金?」
「マーベさんの当座の資金だよ」
「要らないわよ」
「じゃあ、ベーデの困ってる人達に役立てて上げて」
「・・・そういう事なら預かるわ」
「じゃあね」
「ええ、一緒に付いていけなくてごめんね、カーン」
「ううん。マーべさんとはまた会えるような気がするから」
「そうね、お別れを言うのはよしましょう」
部屋で別れのキスをしてカイルはマーベラと別れたのだった。
マーベラと別れたカイルの心情は、
(クソクソクソっ! 何で森で暴れろって命令したのにベーデを襲ってるんだっ!)
自分が放流した巨大な岩の蛇への激怒であった。
余りにムカついたので、せっかく魔石袋2袋を使って作ったゴーレムに向かって、城塞都市エクレロイドの通りを歩きながら、
「獄界で悪しき存在を縛る鎖よ。獄界を抜けて移し身に宿り、大罪を犯した蛇を捕らえよ。害意を向けない無辜な存在の命を無慈悲に奪った蛇を創世の理に従い、鎖で縛りたまえ、ーー獄鎖の捕縛」
と呪文を詠唱したが、
「この距離だ。魔法が発動する訳もないか」
そう自嘲して通りを歩いたのだった。
◇
カイルは思考を切り替えた。
さっさとクロベーテ王国を出よう。
ベーデ陥落の陰に隠れてるが黒き刃のアジトの皆殺しも騒ぎになってる。
食糧を大量に買い込み、水袋に水を確保したカイルはソルトーヤ王国に向かう4台の商隊の1台に透明の腕輪で姿を消して乗り込み、城塞都市エクレロイドの東門を潜ってクロベーテ王国を後にしたのだった。
第1章、終わり
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