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城塞都市ズイロドでの保護者選び
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デル川の東側は魔物の出現率が上がる。
隊商は魔物除けの道具、鈴や香炉を使うのが一般的だ。どっちを使うかは荷車を引く獣との相性による。
そしてカイルは現在、30代の樽腹の獣人の男の商人の荷車に操作魔法で商人を操って乗っていた。この男の荷車を選んだのは護衛や従業員、つまりは同乗者がゼロだったからだ。
同乗者がゼロなのは荷車の中の荷が穀倉地帯で麦を取った残りカスの藁だったからだが。
実はもう1つ、この隊商にはカイルが注目する点があった。
驚く事に魔物除けの道具を使用していなかったのだ。
その為、荷車が街道を進むと魔物が寄ってきて、半径500メートルに入った魔物をカイルが片っ端から、
「獄界の闇よ、我が矢となり遠方に居る我が敵を射抜け、ーー獄闇の矢」
「獄界の雷の将柱よ、我が槍となり遠方に居る敵どもを貫け、ーー獄雷の投げ槍」
「獄界の風よ、我が刃となり遠方に居る我が敵を斬り裂け、ーー獄風の真空刃」
「我と契約せし獄界の光の王柱よ、その盟約を果たせ。我が剣となり敵を斬り伏せよ、ーー獄光王の巨大剣」
「我と契約せし獄界の氷の王柱よ、その盟約をーーあっ、クソ、発動しない。我と契約せし獄界の氷の王柱よーーちくしょう、使えなくなってる。黒魔法6だからな」
どこまで使えるのか魔法の実験がてら、黒魔法を使いまくって射程範囲に入る魔物を始末し続けていた。
冒険者が対峙していようとお構いなしで。
遠距離だろうと魂魄の吸収はある事をカイルはムゲルの知識で知っていたのだ。
とはいえ、この界隈に居る魔物はまだ雑魚だ。
100匹倒しても94のカイルの魂魄の階位が上がる事はなく、カイルはガッカリしたのだった。
デル川を越えて3日の距離にズイロドという城塞都市はあった。
ズイロトはクロベーテ王国の東部に当たる。まだ国境ではない。透明の腕輪を使ってカイルは城門をパスした訳だが、その際に門番の兵士が壁に貼り付けた手配書を指差して、
「この2枚はもういいんですか?」
「ああ、誤って手配されたらしいからな」
「誤ってって、本部も何をやってるんだか」
そう言いながら、カイルとテイジーの悪そうに書かれた手配書を破って、水を掛けて壁をブラシで磨いてる現場を通り過ぎた。
(ようやくか。だが、油断は禁物ってね。この国は信用ならないから)
カイルはクロベーテ王国では変身の指輪を使い続ける事を決めた。
クロベーテ王国の城塞都市ズイロドは東に広がるモルニードスの森の監視砦が発展した都市である。
エルフが住まない森は魔物の縄張りだ。放っておいたら繁殖を続け、強い個体が出現する。その前に間引きをする為に騎士や兵士を駐屯させる為の砦が発展し、都市へと変わった。
今ではモルニードスの森の魔物は弱く、冒険者ギルドも出動するので騎士や兵士の出動も少ないが、このズイロドはクロベーテ王国の直轄都市だった。
ズイロド騎士隊の部隊長は今や騎士団長になる為のエリートコースの通過点となっており、代々優秀な人材が派遣されている。
現在の部隊長はモーレ・ラバーという28歳の黒髪屈強の青年だった。出自はラバー伯爵家の三男坊。最大の特徴は眼だ。右眼が青色で、左眼が金色。その左眼の方が魔力を帯びており、魔法を看破する能力を備えていた。
そんなモーレが馬サイズの狼に騎乗して城塞都市ズイロドの表通りを移動していたのは3日に1度の定期巡回だったからだが、そこでカイルを見た。
カイルの現在の姿は茶髪エルフだったが、モーレの魔眼では完全に看破だ。それも変身を使ってる事の発見付きで。
それも正体は指名手配が本日取り消されたばかりの金髪の少年だった。
(ん? あれはーー本日付けで手配が末梢された人物か。どうする? 声を掛けるか? いや、誤って手配された気の毒な子供だ。これ以上、迷惑を掛ける事も無かろう。それよりも街道の怪現象だ。あちこちの地形が歪み、魔物が死んでると聞く。それらの調査の為に騎士隊を派遣せねばな)
街道の怪現象を起こした張本人がカイルである事を知らないモーレはカイルを見逃してやり、カイルはカイルで、
(あの魔眼使いの視線。テイジーの変身の腕輪を抜いてたな、今。テイジーも雑な仕事をする。いや、テイジーに限ってそれはないか。あの魔眼が凄いのかな? ふむ、魔眼も失った事だし、あの眼を貰っちゃおうかなぁ~。クロベーテ王国には迷惑も掛けられた事だし。いやいや、せっかく指名手配が解除されたんだ。ここは大人しくしてよう。オレはまだ14歳の成長期。もしかしたら後天的にオレの眼に魔眼を発現するかもしれないしな)
そう物騒な事を考えて騎士隊とすれ違ったのだった。
◇
カイルの豪遊は止まらない。
城塞都市ズイロドでも一番高いホテル、カルロスホテルに宿泊した。支払いは金貨で前払いだ。ホテルのフロントの従業員は訝しんだが、金貨は当然、本物だ。そしてカイルが作成した偽造のエルフの証明証がある。
よってチェックインの時、フロントの32歳の人間の女従業員が、
「身分証はお持ちでしょうか?」
「もちろん」
堂々と首からぶら下げていた魔力印が捺された樹木の木板の身分証を提示している。
モリュアンナーの古代森のレの村のタバルカルハスの子のアブレーシロ。
とエルフ語で書かれており、偽造ながら本物さながらの魔力印が捺されていた。
というか、元は本物の身分証だった。デイジーの仕事ではない。
衛星都市デルの奴隷店の宝物庫の中にエルフの身分証が4つあり(おそらく奴隷として捕まり売られたのだろう)、その1つに貰って加工して文字を消し、新たにカイルがエルフ語で記入するという形で身分証を偽造していた。
つまり木板と魔力印は本物。
そして、この身分証の最たる悪辣さはそのアフレーシロが実在する点だった。
外見年齢も同じくらいだ。
当然、カイル本人は会った事もないがカイルの知識としてあるムゲルの記憶の中では会った事があった。
とはいえ、この身分証は失敗作である。
カイルは装飾品をしてるので都市型シティエルのエルフとなり、モリュアンナーの古代森は森の民ロギアナの総本山だ。実は作成後にカイルも気付いたが、エルフ以外に見せる分には大丈夫だろう、と堂々と見せていた。
案の定、エルフ語が読めないフロントの女従業員が困った顔で、
「申し訳ございません。他の身分証はございませんか? 冒険者ギルド等々の」
「ないよ。宿泊費を前払いで払うからさ」
こうしてフロントの女従業員は、相手がエルフなので出身の村が旅費を出したのだろう、と勝手に解釈して上司に許可の許、チェックインの手続きをしたのだった。
宿を確保したカイルはそろそろ本気で仲間(保護者)の必要性を感じていた。
毎回毎回「身分証はお持ちですか?」と聞かれる。もうウンザリだ。
そもそも高額の買い物も出来ない。どこかに手頃の仲間(保護者)は居ないものだろうか。
カイルが想定する仲間の条件は、
裏切らない。
口を滑らせない。
足を引っ張らない。
魔法の知識がない。
無駄に勘が鋭過ぎない。
頭がキレ過ぎない。
自分の身は自分で守れる。
ソロで他に仲間が居ない。
出来れば見殺しにしても心が痛まない。
意外と多かった。
中でも『魔法の知識がある』奴はダメだ。カイルの魔法は高等魔法なので呪文を理解出来る奴に詠唱を聞かれた日には魔法をどこで獲得したか等々の素性の詮索が必ず始まる。
『魔法が使えなくて強い』となると獣人だが、獣人というのは『無駄に勘がいいキレ者か『足を引っ張るトラブルメーカー』のどちらかだ。
正直、獣人はない。
エルフに隷属の術式を使って使い潰すか。だが、エルフは容姿が優れてるので一緒に居るだけで騒動は尽きない。
やはり人間だろう。単独行動を好む戦士。または行商人。獣車を持ってる行商人が狙い目か。
カイルが、どうしたものか、と頭を悩ませながらカルロスホテルの1階にある大浴場(男湯)に入浴して部屋に戻る為に廊下を歩いてると、妙な人間が視界に入った。
男装してる女である。年齢は22歳。紫毛で商人風の身なり。隊商を率いる商人には強さも必要だ。荷が襲われた際に守らなければならないので。よって剣を装備して胸当てや額当てもしていたが。
気品があり過ぎる。貴族様で通る女が無理矢理男装をして商人の格好をしてる風だった。
それがフロントで従業員と揉めており、
「金はないがこれで支払う。泊めてくれ」
装飾品の腕輪を見せて堂々と要求していた。
カイルは貧乏農家の次男坊だ。だからだろうか、金持ちや貴族様には少し偏見がある。ぶっちゃければ大嫌いだった。ムゲルはそうでもなかったのだが。
それでもカイルはそのやり取りをみて、
(面白いのが居るな)
と思ったものだった。もっとも(ムゲルの知識を有するカイルから言わせれば)どう見てもトラブルメーカーの類だ。関わり合いにはなりたくなかったが。
なので、カイルは1階のフロント横を無言館で通過した。
カルロスホテルは一流ホテルだ。なので、上階の移動は階段ではない。魔石で稼働する柵なしの上下床である。ムゲルの記憶では何度も乗ってるが、カイル自身はこのホテルで2回目だ。内心ドキドキしながら4階へと移動し、宿泊する部屋に戻った。
カイルの宿泊する部屋の室内では魔法の罠に引っ掛かって骸骨5体に身体を大の字で拘束されて、その背後に人型の魂を抜かれて闇に浸食されてる馬鹿な女が1人居た。
黒魔法の極があり、なおかつ魔法の罠の発動をカイルは確認していたので、宿泊部屋の来訪者の事を事前に知っており、顔色一つ変えずにその女を見た。
25歳でピンク髪を隠すようにスカーフを被った人間の女だ。スタイルは良いが、纏ってる服装はこのホテルの従業員の制服だった。
(従業員がコソドロの真似ねぇ~。いや、このホテル自体が盗賊ギルドと繋がってると考えた方がいいか。盗賊ギルドも一流ホテルを狩り場にするなんてやるな。おそらく標的は全員ではなく、盗んでも問題なさそうな相手だけに絞ってるな)
カイルはつまらなそうに幽体を見た。
もう3分の1が闇に喰われて存在を失う中、
『イダダダダ・・・お願い、助けて・・・』
助けを乞うてる。
「名前は?」
『パール・・・ギャアアアアア』
女の幽体が答えようとした瞬間に、幽体を包んでいた闇が蠢き、女の幽体が絶叫を上げた。幽体の悲鳴だ。波長を合わせなければ聞こえる事はないのでカイルは平然と、
「言い忘れてたけど、嘘をつくと痛いらしいよ」
『・・・コーサ・ブラハンテ』
「所属は?」
『カルロスホテルの接客スタッフです』
「他には?」
『? ありませんが』
闇に動きはない。つまり嘘ではない。手癖の悪い従業員の素人というのがコーサという女の正体らしい。いや、待てよ、決め付けるのは早い。念の為に、
「盗み行為に対して、誰かに上納金を納めてないの?」
『納める訳ないじゃないですか』
闇に動きはない。
違ったか。てっきり組織の事を知らない末端かと思ったが。本当に素人なだけか。
「どうしてボクの宿泊した部屋に入ったの?」
『お小遣いを貰おうと思って。いえ、決して金貨3枚以上は取るつもりはありませんでした』
これも嘘ではない事を纏わり付いていた闇が証明していた。
魔法に引っ掛かったのが小物過ぎてカイルは拍子抜けした。てっきり国王殺しをしたガルタイルの件で因縁を付けられて宮廷魔術師エリオスから追跡者が放たれたとばかり思ったが。
カイルは魔法の事は詳しくは知らない。ムゲルの知識があるだけだ。そのムゲルの価値観では『発動した魔法の罠が勿体無い』と感じるくらい、このコーサは雑魚だった。
敵対勢力ならノータイムで殺すところだが、
(この女に隷属魔法の術式を掛けて保護者にして一緒に旅をするのはどうだろう? いや、ないな。絶対に変だと周囲が思う。それに戦闘力も無さそうだ。すぐに死ぬだろうし)
「魔法の術式で隷属になるのなら許してあげるけど」
『助けて貰えるのなら何にでもなります』
「そう。じゃあ、視線を向けたら『我が主はカリル様』と答えてね。5回くらい」
と教えた後、カイルは呪文の詠唱を始めた。
「獄界の蝙蝠と蛇をここに召喚する。蝙蝠を燃やした炎でその者の幽体を復活させ、蛇の牙を心臓に突き刺す。助けた対価としてその者から忠誠を捧がれん」
2つの魔法陣から蝙蝠型の闇と蛇型の闇が出現し、蝙蝠型の闇がコーサの幽体の傍で燃えて炎となって、その炎が欠損した幽体を補修した。蛇の方は骸骨が拘束してるコーサの身体の服をすり抜けて心臓に絡まる。
「その者の名はコーサ・ブラハンテ。その魂が主の名を口にする」
カイルがコーサの幽体に視線を向けた。合図だ。
コーサの幽体が、
『ええっと、我が主はカイル様』
その言葉で幽体の補修が完全に融合化した。
「その者の名はコーサ・ブラハンテ。その魂が主の名を口にする」
『我が主はカイル様』
更に補修された幽体の箇所が完全に同調した。
「その者の名はコーサ・ブラハンテ。その魂が主の名を口にする」
『我が主はカイル様』
その言葉で闇に囚われていたコーザの幽体が骸骨5体に拘束されてる身体の中に戻った。幽体を捕えていた闇は未練がましくコーザの身体に纏わり付き始める。
「その者の名はコーサ・ブラハンテ。その肉体が主の名を口にする」
「我が主はカイル様」
骸骨5体に拘束されてるコーザの口が声に出してそう言うと、身体を拘束していた骸骨5体が手を離した。
「最後に今一度口にする。コーサ・ブラハンテの主の名は?」
「我が主はカイル様」
その言葉でコーサの身体から一瞬闇が薄く噴き出し、そして消えた。
役目を終えた幽体と身体を拘束していた闇と骸骨が消え失せる。
「隷属の魔法は完了したよ。紋章がどこか身体の表面に浮いてると思うけど、神殿程度じゃ祓えないから。後、祓ったら欠損部分を失って凄く痛いから気を付けてね」
「・・・はあ」
「余り理解してないっぽいな。どのくらい痛いのか体験した方がいいかもね? 服を脱いで裸になれ」
「はい?」
とコーサが『何言ってるの、脱ぐわないでしょ』とカイルを見た瞬間、
「ギャアアアアア」
激痛が走って部屋の絨毯の布かれた床に崩れ落ちた。転がり回る事も出来ない痛みが全身を襲う。この激痛は肉体ではなく幽体から発せられたもので例えるなら全身を内側から焼かれてるような激痛だった。
「・・・ぬ、脱ぎますから」
その本心から言葉で全身を襲っていた激痛が嘘のように消えた。
怯えた顔でカイルを見ながらコーサが服に手を掛けようとして、
「ああ、脱がなくていいよ。どのくらい痛いか体験させる為の命令だったから」
カイルが苦笑した。
「オレからの命令は1つ。オレがこのホテルからチェックアウトするまで、オレに不都合な事はしないでね。特別扱いも要らないから。オレに不都合が生じる情報もあったら教えて欲しいかな?」
「分かりま・・・イダダダダ」
と答えようとしたコーサが突然、部屋の絨毯の布かれた床にまた崩れた。
「あれ、もしかして『命令なんて聞く訳ないでしょ』とか考えちゃった?」
「 いえ、そんな事は・・・」
「なら、何か報告しなければならない情報を持ってる? ちゃんと考えてみて。コーサが無意識の内に『これは拙いかも』ってチラッと思ったはずだから」
「ええっと、黒髪のエルフの少年のダインってのにこの街の裏社会が高額の懸賞金を懸けてます。後、一度に金貨100枚以上の支払いをした全員も。他には・・・カイルって名前なんですか、アフレーシロ様って?」
「まあね」
「3日前に冒険者がカイルって手配書の子供が宿泊したか質問してきました」
「人相と数は?」
「商人風で1人です。おそらくですが、他国の人間ですね」
(ブローゼン連合の連中か。そうか、王都オルクロリアのテイジーの隠れアジト滞在中に追い抜かれた訳か。国境で待ち伏せされてる? 拙いな、これは)
と考えながら、ふと眼前のコーサに視線を向けた。
(この女と姉弟のフリをして国境を脱出するってのは? いや弱過ぎる。それにこの女がこのホテルを唐突に辞めるのも不自然だ。ん? 可能か? このまま支配人に『部屋に侵入された』と客のオレが訴えて辞めさせ、そして街に居れなくなって旅に出る。うん、悪くない)
そんな事を考えつつ、
「ありがと、為になったよ」
カイルはコーサを見ながら、
「コーサの家族構成は?」
「年老いた母方の祖父母と妹が3人、弟が1人です。それでコソドロなんて真似を」
カイルが欲しかった情報ではなかった。
「結婚は? 恋人とか?」
「諦めてます。一番下の妹はまだ10歳ですから。私が稼がないとダメで」
カイルは貧農の次男坊だけあり、金持ちや貴族は嫌いな反面、貧乏人を虐めるのには抵抗があった。オセンチではないが、コーサを保護者にする案はあっさりと中止にした。
「東の国境を越える客は居る? 個人が望ましいんだけど?」
「それでしたらお客様ではありませんがフロントで妙な男の恰好をした女の人? が」
「オレも見たよ、それ」
カイルはそう答えたのだった。
◇
カイルは早急に必要な保護者確保に動いた。
コーサの情報提供により本日、カルロスホテルの宿泊してる客の中で1人客なのはカイルの他に4人。
1人目は20代前半の人間の女。どう見ても貴族の愛人風。というか実際に愛人だった。あり得ない。
2人目は40代の人間の男。やり手の商人だ。1人なのはカルロスホテルに宿泊してるのがこの男なだけで部下は安宿に放り込んでるっぽい。却下だ。
3人目は20代の獣人の男。屈強で眼光が鋭過ぎる。冒険者ギルドよりも盗賊ギルドの暗殺者が似合う風貌だった。20代でこの風格。却下。
4人目は30代の人間の男。商売不祥。家の金で旅を続けてる? ないな。
ホテル内のレストランで直接、または魔法の眼を飛ばして確認したが、どれも条件には程遠い。
この一流ホテル、カルロスホテルの客から保護者を選ぼうとするからこんなのしか居ないのだ。
そうだ。商業ギルドで保護者を厳選しよう。
そう思ってカイルはこの日、眠ったのだった。
翌朝、あっさりとカイルは保護者をゲットした。
理由は隊商が衛星都市デル~城塞都市ズイロドの3日間の輸送移動を嫌った為だ。
どうして嫌ったのかと言えば『魔物が大量に死に、地形が変わる』という原因不明の怪現象が発生している為だ(原因はカイルの魔法実験です)。
どうも自然魔法発生現象らしいが騎士隊も原因を特定していないらしい(原因はカイルの魔法実験です)。
冗談ではない。命は1つしかないのだ。誰も死にたくはない。
以上の経緯から、城塞都市ズイロドに到着した隊商達は安全が確定するまでズイロドで足を止めるか、城塞都市ズイロドで運んだ荷を売って、ズイロドで新たな荷を購入して東に運ぶかの選択に迫られ、無駄金を使いたくない大半の隊商が東(厳密には東に広がるモルニードスの森を南東側に迂回するルート)へと進む事を選んでいた。
お陰で商業ギルド前では選り取り見取りで、カイルは陸獣は持つが運悪くモルニードスの森から出てきた魔物に襲われて荷車と荷と護衛を失った女商人マーベラに資金を融資する形で保護者になって貰い、堂々と旅を続けたのだった。
隊商は魔物除けの道具、鈴や香炉を使うのが一般的だ。どっちを使うかは荷車を引く獣との相性による。
そしてカイルは現在、30代の樽腹の獣人の男の商人の荷車に操作魔法で商人を操って乗っていた。この男の荷車を選んだのは護衛や従業員、つまりは同乗者がゼロだったからだ。
同乗者がゼロなのは荷車の中の荷が穀倉地帯で麦を取った残りカスの藁だったからだが。
実はもう1つ、この隊商にはカイルが注目する点があった。
驚く事に魔物除けの道具を使用していなかったのだ。
その為、荷車が街道を進むと魔物が寄ってきて、半径500メートルに入った魔物をカイルが片っ端から、
「獄界の闇よ、我が矢となり遠方に居る我が敵を射抜け、ーー獄闇の矢」
「獄界の雷の将柱よ、我が槍となり遠方に居る敵どもを貫け、ーー獄雷の投げ槍」
「獄界の風よ、我が刃となり遠方に居る我が敵を斬り裂け、ーー獄風の真空刃」
「我と契約せし獄界の光の王柱よ、その盟約を果たせ。我が剣となり敵を斬り伏せよ、ーー獄光王の巨大剣」
「我と契約せし獄界の氷の王柱よ、その盟約をーーあっ、クソ、発動しない。我と契約せし獄界の氷の王柱よーーちくしょう、使えなくなってる。黒魔法6だからな」
どこまで使えるのか魔法の実験がてら、黒魔法を使いまくって射程範囲に入る魔物を始末し続けていた。
冒険者が対峙していようとお構いなしで。
遠距離だろうと魂魄の吸収はある事をカイルはムゲルの知識で知っていたのだ。
とはいえ、この界隈に居る魔物はまだ雑魚だ。
100匹倒しても94のカイルの魂魄の階位が上がる事はなく、カイルはガッカリしたのだった。
デル川を越えて3日の距離にズイロドという城塞都市はあった。
ズイロトはクロベーテ王国の東部に当たる。まだ国境ではない。透明の腕輪を使ってカイルは城門をパスした訳だが、その際に門番の兵士が壁に貼り付けた手配書を指差して、
「この2枚はもういいんですか?」
「ああ、誤って手配されたらしいからな」
「誤ってって、本部も何をやってるんだか」
そう言いながら、カイルとテイジーの悪そうに書かれた手配書を破って、水を掛けて壁をブラシで磨いてる現場を通り過ぎた。
(ようやくか。だが、油断は禁物ってね。この国は信用ならないから)
カイルはクロベーテ王国では変身の指輪を使い続ける事を決めた。
クロベーテ王国の城塞都市ズイロドは東に広がるモルニードスの森の監視砦が発展した都市である。
エルフが住まない森は魔物の縄張りだ。放っておいたら繁殖を続け、強い個体が出現する。その前に間引きをする為に騎士や兵士を駐屯させる為の砦が発展し、都市へと変わった。
今ではモルニードスの森の魔物は弱く、冒険者ギルドも出動するので騎士や兵士の出動も少ないが、このズイロドはクロベーテ王国の直轄都市だった。
ズイロド騎士隊の部隊長は今や騎士団長になる為のエリートコースの通過点となっており、代々優秀な人材が派遣されている。
現在の部隊長はモーレ・ラバーという28歳の黒髪屈強の青年だった。出自はラバー伯爵家の三男坊。最大の特徴は眼だ。右眼が青色で、左眼が金色。その左眼の方が魔力を帯びており、魔法を看破する能力を備えていた。
そんなモーレが馬サイズの狼に騎乗して城塞都市ズイロドの表通りを移動していたのは3日に1度の定期巡回だったからだが、そこでカイルを見た。
カイルの現在の姿は茶髪エルフだったが、モーレの魔眼では完全に看破だ。それも変身を使ってる事の発見付きで。
それも正体は指名手配が本日取り消されたばかりの金髪の少年だった。
(ん? あれはーー本日付けで手配が末梢された人物か。どうする? 声を掛けるか? いや、誤って手配された気の毒な子供だ。これ以上、迷惑を掛ける事も無かろう。それよりも街道の怪現象だ。あちこちの地形が歪み、魔物が死んでると聞く。それらの調査の為に騎士隊を派遣せねばな)
街道の怪現象を起こした張本人がカイルである事を知らないモーレはカイルを見逃してやり、カイルはカイルで、
(あの魔眼使いの視線。テイジーの変身の腕輪を抜いてたな、今。テイジーも雑な仕事をする。いや、テイジーに限ってそれはないか。あの魔眼が凄いのかな? ふむ、魔眼も失った事だし、あの眼を貰っちゃおうかなぁ~。クロベーテ王国には迷惑も掛けられた事だし。いやいや、せっかく指名手配が解除されたんだ。ここは大人しくしてよう。オレはまだ14歳の成長期。もしかしたら後天的にオレの眼に魔眼を発現するかもしれないしな)
そう物騒な事を考えて騎士隊とすれ違ったのだった。
◇
カイルの豪遊は止まらない。
城塞都市ズイロドでも一番高いホテル、カルロスホテルに宿泊した。支払いは金貨で前払いだ。ホテルのフロントの従業員は訝しんだが、金貨は当然、本物だ。そしてカイルが作成した偽造のエルフの証明証がある。
よってチェックインの時、フロントの32歳の人間の女従業員が、
「身分証はお持ちでしょうか?」
「もちろん」
堂々と首からぶら下げていた魔力印が捺された樹木の木板の身分証を提示している。
モリュアンナーの古代森のレの村のタバルカルハスの子のアブレーシロ。
とエルフ語で書かれており、偽造ながら本物さながらの魔力印が捺されていた。
というか、元は本物の身分証だった。デイジーの仕事ではない。
衛星都市デルの奴隷店の宝物庫の中にエルフの身分証が4つあり(おそらく奴隷として捕まり売られたのだろう)、その1つに貰って加工して文字を消し、新たにカイルがエルフ語で記入するという形で身分証を偽造していた。
つまり木板と魔力印は本物。
そして、この身分証の最たる悪辣さはそのアフレーシロが実在する点だった。
外見年齢も同じくらいだ。
当然、カイル本人は会った事もないがカイルの知識としてあるムゲルの記憶の中では会った事があった。
とはいえ、この身分証は失敗作である。
カイルは装飾品をしてるので都市型シティエルのエルフとなり、モリュアンナーの古代森は森の民ロギアナの総本山だ。実は作成後にカイルも気付いたが、エルフ以外に見せる分には大丈夫だろう、と堂々と見せていた。
案の定、エルフ語が読めないフロントの女従業員が困った顔で、
「申し訳ございません。他の身分証はございませんか? 冒険者ギルド等々の」
「ないよ。宿泊費を前払いで払うからさ」
こうしてフロントの女従業員は、相手がエルフなので出身の村が旅費を出したのだろう、と勝手に解釈して上司に許可の許、チェックインの手続きをしたのだった。
宿を確保したカイルはそろそろ本気で仲間(保護者)の必要性を感じていた。
毎回毎回「身分証はお持ちですか?」と聞かれる。もうウンザリだ。
そもそも高額の買い物も出来ない。どこかに手頃の仲間(保護者)は居ないものだろうか。
カイルが想定する仲間の条件は、
裏切らない。
口を滑らせない。
足を引っ張らない。
魔法の知識がない。
無駄に勘が鋭過ぎない。
頭がキレ過ぎない。
自分の身は自分で守れる。
ソロで他に仲間が居ない。
出来れば見殺しにしても心が痛まない。
意外と多かった。
中でも『魔法の知識がある』奴はダメだ。カイルの魔法は高等魔法なので呪文を理解出来る奴に詠唱を聞かれた日には魔法をどこで獲得したか等々の素性の詮索が必ず始まる。
『魔法が使えなくて強い』となると獣人だが、獣人というのは『無駄に勘がいいキレ者か『足を引っ張るトラブルメーカー』のどちらかだ。
正直、獣人はない。
エルフに隷属の術式を使って使い潰すか。だが、エルフは容姿が優れてるので一緒に居るだけで騒動は尽きない。
やはり人間だろう。単独行動を好む戦士。または行商人。獣車を持ってる行商人が狙い目か。
カイルが、どうしたものか、と頭を悩ませながらカルロスホテルの1階にある大浴場(男湯)に入浴して部屋に戻る為に廊下を歩いてると、妙な人間が視界に入った。
男装してる女である。年齢は22歳。紫毛で商人風の身なり。隊商を率いる商人には強さも必要だ。荷が襲われた際に守らなければならないので。よって剣を装備して胸当てや額当てもしていたが。
気品があり過ぎる。貴族様で通る女が無理矢理男装をして商人の格好をしてる風だった。
それがフロントで従業員と揉めており、
「金はないがこれで支払う。泊めてくれ」
装飾品の腕輪を見せて堂々と要求していた。
カイルは貧乏農家の次男坊だ。だからだろうか、金持ちや貴族様には少し偏見がある。ぶっちゃければ大嫌いだった。ムゲルはそうでもなかったのだが。
それでもカイルはそのやり取りをみて、
(面白いのが居るな)
と思ったものだった。もっとも(ムゲルの知識を有するカイルから言わせれば)どう見てもトラブルメーカーの類だ。関わり合いにはなりたくなかったが。
なので、カイルは1階のフロント横を無言館で通過した。
カルロスホテルは一流ホテルだ。なので、上階の移動は階段ではない。魔石で稼働する柵なしの上下床である。ムゲルの記憶では何度も乗ってるが、カイル自身はこのホテルで2回目だ。内心ドキドキしながら4階へと移動し、宿泊する部屋に戻った。
カイルの宿泊する部屋の室内では魔法の罠に引っ掛かって骸骨5体に身体を大の字で拘束されて、その背後に人型の魂を抜かれて闇に浸食されてる馬鹿な女が1人居た。
黒魔法の極があり、なおかつ魔法の罠の発動をカイルは確認していたので、宿泊部屋の来訪者の事を事前に知っており、顔色一つ変えずにその女を見た。
25歳でピンク髪を隠すようにスカーフを被った人間の女だ。スタイルは良いが、纏ってる服装はこのホテルの従業員の制服だった。
(従業員がコソドロの真似ねぇ~。いや、このホテル自体が盗賊ギルドと繋がってると考えた方がいいか。盗賊ギルドも一流ホテルを狩り場にするなんてやるな。おそらく標的は全員ではなく、盗んでも問題なさそうな相手だけに絞ってるな)
カイルはつまらなそうに幽体を見た。
もう3分の1が闇に喰われて存在を失う中、
『イダダダダ・・・お願い、助けて・・・』
助けを乞うてる。
「名前は?」
『パール・・・ギャアアアアア』
女の幽体が答えようとした瞬間に、幽体を包んでいた闇が蠢き、女の幽体が絶叫を上げた。幽体の悲鳴だ。波長を合わせなければ聞こえる事はないのでカイルは平然と、
「言い忘れてたけど、嘘をつくと痛いらしいよ」
『・・・コーサ・ブラハンテ』
「所属は?」
『カルロスホテルの接客スタッフです』
「他には?」
『? ありませんが』
闇に動きはない。つまり嘘ではない。手癖の悪い従業員の素人というのがコーサという女の正体らしい。いや、待てよ、決め付けるのは早い。念の為に、
「盗み行為に対して、誰かに上納金を納めてないの?」
『納める訳ないじゃないですか』
闇に動きはない。
違ったか。てっきり組織の事を知らない末端かと思ったが。本当に素人なだけか。
「どうしてボクの宿泊した部屋に入ったの?」
『お小遣いを貰おうと思って。いえ、決して金貨3枚以上は取るつもりはありませんでした』
これも嘘ではない事を纏わり付いていた闇が証明していた。
魔法に引っ掛かったのが小物過ぎてカイルは拍子抜けした。てっきり国王殺しをしたガルタイルの件で因縁を付けられて宮廷魔術師エリオスから追跡者が放たれたとばかり思ったが。
カイルは魔法の事は詳しくは知らない。ムゲルの知識があるだけだ。そのムゲルの価値観では『発動した魔法の罠が勿体無い』と感じるくらい、このコーサは雑魚だった。
敵対勢力ならノータイムで殺すところだが、
(この女に隷属魔法の術式を掛けて保護者にして一緒に旅をするのはどうだろう? いや、ないな。絶対に変だと周囲が思う。それに戦闘力も無さそうだ。すぐに死ぬだろうし)
「魔法の術式で隷属になるのなら許してあげるけど」
『助けて貰えるのなら何にでもなります』
「そう。じゃあ、視線を向けたら『我が主はカリル様』と答えてね。5回くらい」
と教えた後、カイルは呪文の詠唱を始めた。
「獄界の蝙蝠と蛇をここに召喚する。蝙蝠を燃やした炎でその者の幽体を復活させ、蛇の牙を心臓に突き刺す。助けた対価としてその者から忠誠を捧がれん」
2つの魔法陣から蝙蝠型の闇と蛇型の闇が出現し、蝙蝠型の闇がコーサの幽体の傍で燃えて炎となって、その炎が欠損した幽体を補修した。蛇の方は骸骨が拘束してるコーサの身体の服をすり抜けて心臓に絡まる。
「その者の名はコーサ・ブラハンテ。その魂が主の名を口にする」
カイルがコーサの幽体に視線を向けた。合図だ。
コーサの幽体が、
『ええっと、我が主はカイル様』
その言葉で幽体の補修が完全に融合化した。
「その者の名はコーサ・ブラハンテ。その魂が主の名を口にする」
『我が主はカイル様』
更に補修された幽体の箇所が完全に同調した。
「その者の名はコーサ・ブラハンテ。その魂が主の名を口にする」
『我が主はカイル様』
その言葉で闇に囚われていたコーザの幽体が骸骨5体に拘束されてる身体の中に戻った。幽体を捕えていた闇は未練がましくコーザの身体に纏わり付き始める。
「その者の名はコーサ・ブラハンテ。その肉体が主の名を口にする」
「我が主はカイル様」
骸骨5体に拘束されてるコーザの口が声に出してそう言うと、身体を拘束していた骸骨5体が手を離した。
「最後に今一度口にする。コーサ・ブラハンテの主の名は?」
「我が主はカイル様」
その言葉でコーサの身体から一瞬闇が薄く噴き出し、そして消えた。
役目を終えた幽体と身体を拘束していた闇と骸骨が消え失せる。
「隷属の魔法は完了したよ。紋章がどこか身体の表面に浮いてると思うけど、神殿程度じゃ祓えないから。後、祓ったら欠損部分を失って凄く痛いから気を付けてね」
「・・・はあ」
「余り理解してないっぽいな。どのくらい痛いのか体験した方がいいかもね? 服を脱いで裸になれ」
「はい?」
とコーサが『何言ってるの、脱ぐわないでしょ』とカイルを見た瞬間、
「ギャアアアアア」
激痛が走って部屋の絨毯の布かれた床に崩れ落ちた。転がり回る事も出来ない痛みが全身を襲う。この激痛は肉体ではなく幽体から発せられたもので例えるなら全身を内側から焼かれてるような激痛だった。
「・・・ぬ、脱ぎますから」
その本心から言葉で全身を襲っていた激痛が嘘のように消えた。
怯えた顔でカイルを見ながらコーサが服に手を掛けようとして、
「ああ、脱がなくていいよ。どのくらい痛いか体験させる為の命令だったから」
カイルが苦笑した。
「オレからの命令は1つ。オレがこのホテルからチェックアウトするまで、オレに不都合な事はしないでね。特別扱いも要らないから。オレに不都合が生じる情報もあったら教えて欲しいかな?」
「分かりま・・・イダダダダ」
と答えようとしたコーサが突然、部屋の絨毯の布かれた床にまた崩れた。
「あれ、もしかして『命令なんて聞く訳ないでしょ』とか考えちゃった?」
「 いえ、そんな事は・・・」
「なら、何か報告しなければならない情報を持ってる? ちゃんと考えてみて。コーサが無意識の内に『これは拙いかも』ってチラッと思ったはずだから」
「ええっと、黒髪のエルフの少年のダインってのにこの街の裏社会が高額の懸賞金を懸けてます。後、一度に金貨100枚以上の支払いをした全員も。他には・・・カイルって名前なんですか、アフレーシロ様って?」
「まあね」
「3日前に冒険者がカイルって手配書の子供が宿泊したか質問してきました」
「人相と数は?」
「商人風で1人です。おそらくですが、他国の人間ですね」
(ブローゼン連合の連中か。そうか、王都オルクロリアのテイジーの隠れアジト滞在中に追い抜かれた訳か。国境で待ち伏せされてる? 拙いな、これは)
と考えながら、ふと眼前のコーサに視線を向けた。
(この女と姉弟のフリをして国境を脱出するってのは? いや弱過ぎる。それにこの女がこのホテルを唐突に辞めるのも不自然だ。ん? 可能か? このまま支配人に『部屋に侵入された』と客のオレが訴えて辞めさせ、そして街に居れなくなって旅に出る。うん、悪くない)
そんな事を考えつつ、
「ありがと、為になったよ」
カイルはコーサを見ながら、
「コーサの家族構成は?」
「年老いた母方の祖父母と妹が3人、弟が1人です。それでコソドロなんて真似を」
カイルが欲しかった情報ではなかった。
「結婚は? 恋人とか?」
「諦めてます。一番下の妹はまだ10歳ですから。私が稼がないとダメで」
カイルは貧農の次男坊だけあり、金持ちや貴族は嫌いな反面、貧乏人を虐めるのには抵抗があった。オセンチではないが、コーサを保護者にする案はあっさりと中止にした。
「東の国境を越える客は居る? 個人が望ましいんだけど?」
「それでしたらお客様ではありませんがフロントで妙な男の恰好をした女の人? が」
「オレも見たよ、それ」
カイルはそう答えたのだった。
◇
カイルは早急に必要な保護者確保に動いた。
コーサの情報提供により本日、カルロスホテルの宿泊してる客の中で1人客なのはカイルの他に4人。
1人目は20代前半の人間の女。どう見ても貴族の愛人風。というか実際に愛人だった。あり得ない。
2人目は40代の人間の男。やり手の商人だ。1人なのはカルロスホテルに宿泊してるのがこの男なだけで部下は安宿に放り込んでるっぽい。却下だ。
3人目は20代の獣人の男。屈強で眼光が鋭過ぎる。冒険者ギルドよりも盗賊ギルドの暗殺者が似合う風貌だった。20代でこの風格。却下。
4人目は30代の人間の男。商売不祥。家の金で旅を続けてる? ないな。
ホテル内のレストランで直接、または魔法の眼を飛ばして確認したが、どれも条件には程遠い。
この一流ホテル、カルロスホテルの客から保護者を選ぼうとするからこんなのしか居ないのだ。
そうだ。商業ギルドで保護者を厳選しよう。
そう思ってカイルはこの日、眠ったのだった。
翌朝、あっさりとカイルは保護者をゲットした。
理由は隊商が衛星都市デル~城塞都市ズイロドの3日間の輸送移動を嫌った為だ。
どうして嫌ったのかと言えば『魔物が大量に死に、地形が変わる』という原因不明の怪現象が発生している為だ(原因はカイルの魔法実験です)。
どうも自然魔法発生現象らしいが騎士隊も原因を特定していないらしい(原因はカイルの魔法実験です)。
冗談ではない。命は1つしかないのだ。誰も死にたくはない。
以上の経緯から、城塞都市ズイロドに到着した隊商達は安全が確定するまでズイロドで足を止めるか、城塞都市ズイロドで運んだ荷を売って、ズイロドで新たな荷を購入して東に運ぶかの選択に迫られ、無駄金を使いたくない大半の隊商が東(厳密には東に広がるモルニードスの森を南東側に迂回するルート)へと進む事を選んでいた。
お陰で商業ギルド前では選り取り見取りで、カイルは陸獣は持つが運悪くモルニードスの森から出てきた魔物に襲われて荷車と荷と護衛を失った女商人マーベラに資金を融資する形で保護者になって貰い、堂々と旅を続けたのだった。
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