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9000枚の金貨を使った女

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 衛星都市デルの一流ホテル、リンダホテルに夜襲があった翌朝には騎士団が50人体制で出動していた。

 とは言ってもリンダホテルは一流ホテルだ。

 客も一流で、貴族様もご宿泊してる。

 悪いのは暗殺部隊の方なのだから昨夜の騒動で無関係な客達が事情聴取される事はなかった。

 よって朝から走り回る騎士団を横目にホテル内のレストランでカイルは朝食を食べていた。

 食べる料理は当然、高位魔物の高級肉、ーーぶっちゃけ、ドラゴン肉のステーキである。

 朝からガッツリと500グラムのドラゴン肉のステーキをカイルは食べていた訳だが、問題はドラゴン肉のステーキのお値段だ。

 高級食材なだけに100グラム、金貨100枚。それを500グラム。つまりは金貨500枚だ。

 迷惑料を集金した直後のウハウハのカイルには軽く支払える。正直、金貨があり過ぎて邪魔なので、わざと浪費しているくらいだ。

 朝からそんな食事をしているのだから当然、ホテル内のレストランでも悪目立ちしていた。





 カイルのこの行動が『光の乙女団』の冒険者達に目撃されなかったのは彼女達が朝から詰め掛けた騎士団達に事情説明をしていた為だったが。





 だが、『光の乙女団』の以外の客にはバッチリと目撃されていた。

 カイルの食事風景を見た30歳の茶髪無精髭の装備こそしてないが戦士風の筋肉質の人間の男、ニコラスはレストランを出た後、廊下を歩くホテルの女従業員に、

「なあ、あの洒落た額当てのエルフの小僧はどこの金持ちなんだ?」

「お客様の情報はお答え出来ない決まりとなっております」

「そこを頼むぜ、お姉ちゃん」

 馴れ馴れしくニコラスが握手をし、その際に女従業員に金貨2枚を握らせると、

「ビーンリのダイン様です。お父君は絨毯の卸業をされてるそうですよ」

「へぇ~、ビーンリのダインねぇ~。教えてくれてありがとさん」

 と答えたニコラスはそのまま宿泊してた部屋へと戻った。

 部屋は相部屋で仲間の銀髪オールバックの魔術師の人間の男、ブラッドが出発準備を終えており、ニコラスが興奮気味に、

「おい、ブラッド。レストランにナメた奴が居たぜ。聞いて驚けよ」

「遅いぞ、ニコラス。ボスは20分後に出発だ。さっさと鎧を着て、準備をしろ」

「いやいや、ボスに出発は中止だって伝えてくれ。ビーンリ出身のダインって名乗ってるナメたエルフの小僧がこのホテルに居るからさ。親の仕事は何と絨毯の卸業だとよ」

「ん? どういう意味だ?」

「ほら、居ただろ。ビーンリの奴隷店の店長の髭がこんなのが。ビーンリの奴隷店の表の商標登録は絨毯の卸業だし」

 指で髭の形を作ったが、ブラッドはハテナ顔で、

「知らんな。そもそもビーンリの奴隷店には顔を出した事がないから」

「あれ、そうだっけ? ともかくだ。そのナメたのが――」

「時間がないから鎧を着ながら喋れ」

「へいよ」

 仕方なくニコラスが鎧を纏いながら、

「ともかくビーンリの奴隷店の店長だったその髭の男は店の上納金を使い込んで粛清されてるんだよ。そして昨日、デルの奴隷店が襲撃されて、そのビーンリの店長の名前を使ってるエルフの小僧が同じくデルのこのホテルに居る。カネ使いは浪費を通り越して滅茶苦茶で、ドラゴン肉のステーキを夕朝と食べてる。支払いは金貨の現物で、計2回の支払いで金貨1000枚だぜ? 魔石や宝石ならともかく嵩張る金貨1000枚って。これで変だと思わない方が変だろ?」

 言わんとしてる事はブラッドにも分かったが、

「確かに面白い話だが、それよりも面白い話がクロベーテ王国のキンラス国王が死んだ話だ。32歳という若さで死んでる。お陰で国王の上の息子、第1王子でさえ、まだ8歳で王太子の儀を済ませていないときてる。臣籍降下したキンラス国王の4歳年下の実弟、ドーリオスは28歳。一度は諦めた王位が狙えるこの好機に野心が疼き、クロベーテ王国の裏社会を牛耳ってる犯罪シンジケート『黒き刃』に王位継承の後押しを依頼してきた。王都オルクロリアにボスを含めた幹部全員が招集されてるのはその為だ。さて、ニコラス。どっちの話がより面白そうだと思う?」

「諦めろってか? 組織の店潰しに噛んだ奴が眼の前に居るのに?」

 ニコラスが不服そうにブラッドを見ると、

「衛星都市デルはボスの担当じゃないからな。それに今回の幹部会は荒れるに決まってる。そっちに全神経を使うべきだ」

「チッ、あのエルフの小僧。命拾いしやがったな」

 渋々と納得したニコラスはそう諦めたが、無論、命拾いをしたのはニコラスの方だったのは言うまでもない。





 20分後、リンダホテルをチェックアウトしたのは24歳で銀髪碧眼の貴公子、キース・ライド男爵だった。

 キースは貴族様だ。1階のフロント前で他の客と一緒に並んでチェックアウトの順番を待つような事はしない。支配人が昨夜の騒動で騎士団の対応に追われていた為に、リンダホテルの副支配人が自らキースが宿泊する部屋へと足を運び、ホテルのチェックアウトの手続きを取った。

 その手続きのサインはキースの美貌の女秘書のダークエルフがしたのだが。

 騎士団が活動するリンダホテルを出て、玄関前で待ってた狼2頭が引く貴族車に乗り込んだキースは、

「デル支部は能無し揃いのようだな?」

 と呟いた。

 騎士団に対しての評価ではない。

 暗殺に失敗した暗殺部隊の方の評価である。

 つまりキースは犯罪シンジケート『黒き刃』の若き大幹部だった。

 本業は死んだ親から受け継いだルビー鉱脈主。その収益のみで男爵位を2年前に叙爵じょしゃくしている。

 貴族車内に一緒に乗り込んだ20代の外見で、黒髪アップに眼鏡を掛けた褐色肌の女秘書兼愛人のダークエルフのブイが、

「死神と双騎士が敗北しているので一概に無能とは言えないかと」

「A級の冒険者相手に死神が敗北した?」

「はい」

「ーー昨日潰された奴隷店には火炎術師が居たと聞いたが?」

「A級の冒険者を隠れ蓑に別の勢力が動いていると思われます。先程ニコラスがホテル内のレストランでビーンリの奴隷店の粛清された店長の名前を名乗り、金貨1000枚を支払ってるエルフの少年が居る、と報告を上げてきました」

「金貨1000枚を? デルの奴隷店を襲ったのはそのエルフか?」

「微妙ですね。露骨過ぎますので。『黒い刃』を釣る囮の可能性もあります」

「金貨1000枚を浪費してまでの囮? 相手が思い浮かばないがそんな敵が居るのか?」

「今回の幹部会の議題の競争相手などが」

 深読みしたブイの指摘に背筋を正したキースが、

「ニコラスに絶対に手を出すなと――」

「既にそう命令しております」

「結構」

 そのような会話を貴族車の車内でしながら、キース達が乗った貴族車は王都オルクロリアへと向かったのだった。





 ◇





 衛星都市デルの最大の特徴は東側にデル川が流れてる事である。

 デル川は王都オルクロリア周辺の穀倉地帯の水源なのだが、それは同時に危険を意味した。

 この世界での川は魔物の縄張りなのだから。

 お陰で衛星都市デルには多数の騎士や兵士、冒険者や傭兵の姿を見る事が出来た。

 そのデル川を越える方法は城壁に上って城壁の高さの石製の橋で渡るという方法だ。無論、通行料を支払って。そちらが一般的な渡河の方法だった。

 貴族や隊商や騎士達が使ってる陸獣や車は高架橋を登れないので、魔物が居ないかを確認してからの筏での渡河移動となった。





 カイルはその日の朝にリンダホテルをチェックアウトして衛星都市デルを発たなかった。

 実はカイルは身動きが取れなくて発てなかったのだ。

 ずばり、奴隷店から集金した金貨の量が多過ぎて。

 カイルが昨日リンダホテルにチェックインした際には荷物は大人が持っても大きなザックが1つだったが、使い魔モンとの位置交換でホテルの宿泊部屋に運び込んだザックは合計で3つだった。その全部に金貨や宝石や魔石が詰まっていた。

 集金し過ぎたな、とカイル自身、反省してるくらいだった。

 よって邪魔な金貨を消費したかったが、カイルは昨日の時点で気付いていた。

 子供が金貨を大量に使ったら絶対に目立つ以前に店が商品を売らない可能性がある、と。

 こんな事ならテイジーに年齢変更の変身用の魔道具を貰っておけば良かった、と悔やんだくらいだ。

 そこでカイルは一計を案じた。金貨の消費と同時に代理人を引き寄せるという一挙両得の。

 それがリンダホテル内のレストランでのドラゴン肉のステーキだった。

 案の定、朝食終わりに部屋に戻ろうとした時、リンダホテルに宿泊の34歳の長い金髪を纏めた清楚な人間の女、ミラーヌに、

「そこのエルフの御曹司様。資金に余裕があるのなら私に融資して下さいませんか?」

 と声を掛けられた。

 カイルは内心で、ようやく釣れたか、と思ったが、

の願いを聞いていただけるなら幾らでも」

「願いとは?」

「何、簡単な内容ですよ」

 とカイルはミラーヌに願い事を伝えたのだった。





 そして、その日の午前中、ミラーヌは表通りにある武器屋に顔を出していた。エルフ姿のカイルを従者として従えて。

 店内に、剣や斧が壁に掛かってる典型的な武器屋だが、一流店過ぎて客が少ない。値札を見れば、最低価格の武器が金貨200枚だった。

「いらっしゃいませ」

 女性店員がミラーヌだけを値踏みしつつ、

「何をお探しでしょうか?」

「魔剣を。出来れば金貨3000枚以内で」

「御自身でお使いになられるのでしょうか?」

「いえ、さる人物に購入を依頼されて。男性が使うと想定してくれていいわ」

 嘘ではない。さる人物が従者に扮するカイルなだけで。

「それはそれは。では、こちらなどは如何でしょう」

 その後、3本の魔剣を店員がミラーヌに見せて、カイルが3本目を目線で合図したので、

「こちらをいただくわ」

「ありがとうございます。金貨2800枚になりますが、お支払いは如何しましょうか」

「金貨で持って来てるわ」

 とミラーヌが答えて、尊大にカイルの方に視線をやり、

「出してちょうだい」

 命令した。命令されたカイルも、

「はい、社長」

 ザックを下ろして集金時から金貨1000枚に小分けされた袋を3つ出してカウンターの上に置く。

「これはこれは。数えますので少々お待ち下さい」

 女性店員を飛び越えて、奥から恰幅の良い50代の男の獣人が金貨袋を持って奥に入り、数分後には金貨200枚を袋に入れて、

「金貨が3000枚ありましたので、200枚はこちらの袋に入れさせていただきました」

「ありがと」

「商品をお包みしましょうか?」

「ええ、お願い」

 こうして武器屋にてミラーヌは刀身に炎が宿り、火炎球も放射出来る魔剣を金貨2800枚で購入した。





 同じ要領で従者のカイルを従えたミラーヌが次に現れたのは防具屋である。

 こちらも一流店過ぎて客が少ない。

「いらっしゃいませ、マダム。何をお求めでしょうか?」

 一流店らしく礼儀正しい男の接客係がミラーヌに声を掛けた。

「防具を見せてちょうだい。出来れば金貨2000枚までで。男性用、または兼用のを」

「色や重量等々に指定はございますでしょうか?」

「オルクロリアまで輸送するので全身鎧は止めてちょうだい。万人受けするのがいいわ。せっかく輸送したのに気に入らないって言われた日には大変だから」

「畏まりました」

 その後、8点ほどの防具を見せられて、カイルの合図で、

「そちらの千年亀の甲羅で作られた胸当てをいただくわ」

「胸だけの防具ですが、よろしいのですか?」

「ええ」

「では金貨1500枚となります」

「出してちょうだい」

「はい、奥様」

 エルフ姿のカイルがまたもや金貨袋をザックから出して金貨1500枚で、ミラーヌは千年亀の甲羅製の胸当てを購入したのだった。





 最後に出向いたのは魔物の高級肉を販売する冒険者ギルドの直営店だ。

「食用に熟成させたドラゴン肉を5キロちょうだい。リンダホテルに届けれるわよね?」

「はい。お値段、100グラム80金貨で、5キロだと4000金貨ですが、よろしいですか?」

「全部、金貨で払うわね」

「金貨で4000枚も?」

「ええ、先方が金貨で欲しいと言ってきて、仕方なく掻き集めたのに、よそに商品を流されてね。いい迷惑よ」

 適当な事をミラーヌは言って、従者役のカイルに金貨袋を出させて、

「数えますので少々お待ち下さい」

 奥で金貨4000枚を数えた後、

「確かにいただきました。リンダホテルですね」

「ええ、私は用事があるからこっちのダインが受け取るわ」

「ダイン様ですね。畏まりました」

 こうしてカイルはドラゴン肉の塊5キロもミラーヌに購入させたのだった。





 リンダホテルに戻ったカイルとミラーヌはカイルの宿泊室で、

「じゃあ、約束の融資額、金貨2000枚ね」

 カイルはテーブルの上にポンと金貨1000枚入りの革袋を2個、気軽に置いた。

 金貨袋を手元に引き寄せながら、ミラーヌが、

「ありがとうございます、ダイン様」

「いいって。こっちも助かったし」

「ダイン様は何の御商売をやられてる方なんですか?」

は何も。パパが手広く商売をやってるけど」

 当然、嘘である。カイルは貧農の次男坊なのだから。

 というか、名前のダインからして嘘だった。

「それはそれは、どちらの商会の会頭なのでしょうか? これを縁にダイン様のお父様ともよしみを通じる事が出来れば幸いなのですが」

「ああ、今は無理だよ」

「そうなんですか?」

「うん、国王様が死んで叙爵の件が宙に浮いてイライラしてるから」

「それはそれは」

 そんな適当な事を喋って、ミラーヌはカイルの部屋から出ていき、ドラゴン肉の配達を受け取ると同時に昼3時ながらカイルはリンダホテルをチェックアウトしたのだった。





 ◇





 衛星都市デルから東に向かうには高架橋か筏でデル川を渡河する以外に移動法がない。

 だが、カイルの使い魔モンは御存知、位置交換が出来る。

 それでカイルは移動していた。高架橋の通行料をケチった訳ではない。高架橋の通行時に騎士や兵士達が通行人達の顔や荷物を確認しているという情報をキャッチしていたからだ。

 今のカイルは実はかなり怪しい。

 剣は高価な魔剣で、胸当ても見る者が見れば千年亀の甲羅製だと分かる。それ以上に怪しいのが背負った馬鹿デカイザックだ。中身は魔石や宝石、それにドラゴン肉の塊、金貨もまだ大量にある。14歳の少年が1人で所持するには怪し過ぎる。

 追及されたらべんが立つカイルでも言い訳出来ない。

 よって危険を回避する為に対岸へと位置交換と透明の腕輪のコンボで移動していた。

 ちょうど筏で渡河してきた商隊が居たので、その馭者の1人と交渉という名の操作魔法であっという間にカイルはデル川界隈から脱出したのだった。





 ◇





 ババを引かされたのはまんまとカイルによって矢面に立たされたミラーヌである。

 ミラーヌは商業ギルドに所属してるが、その正体は信用詐欺師だった。

 架空の儲け話を持ち掛けてマヌケな商人から金を騙し取ってた訳で、獲物を探してリンダホテルに宿泊していたら金の価値も分からないマヌケなエルフの少年が金貨を2000枚もプレゼントしてくれた。

 当然、返すつもりはない。全部を豪遊して浪費だ。

 だが。

 そう喜んでられたのは僅か1日の事だった。

 衛星都市デルの違法奴隷店が襲撃されて奪われた資産は金貨だけで1万5000枚。

 こんなに奴隷店にあったのは『牢獄』という建造物の所為だ。

 その辺の金庫よりも安全だった為に犯罪シンジケート『黒き刃』デル支部は全資産か保管されていたのだから。

 盗まれなかったのは、魔法を帯びた高価な武具や上級回復薬、絵画や壺といった美術品、つまりは持ち運びに不便な物だけだ。

 それらも現在は総て騎士団が押収している。

 それと相当目端が利く連中だったらしく盗難対策の魔道具が入った金貨袋と魔石袋には触りもせず残している。お陰で押収時に無防備に触った騎士達が呪詛に掛かるという顛末付きだ。

 犯罪シンジケート『黒き刃』は当初、『光の乙女団』が襲撃者だと疑い、奴隷店が襲撃された当夜に暗殺部隊を送り込んでいた訳だが、奴隷店が襲撃された翌日に金貨を9000枚(正確には8300枚)も使った女が出た。

 それもナメた事にお膝元の衛星都市デルでだ。当然『黒き刃』の耳にも入る。

 犯罪シンジゲート『黒き刃』としては、話を聞かない訳にはいかない。

 そんな訳でエルフの少年から巻き上げた金貨でホスト店で豪遊してたミラーヌは睡眠薬入りの酒を飲まされて、





 気付いた時には倉庫内で逆さ吊りにされていた。

 眼の前にはブチギレた『黒き刃』デル支部長のパンプキルが居た。

「えっ、パンプキルさん? 何ですか、これ?」

「随分と舐めた事をしてくれたな、ミラーヌ」

 パンプキルがブチキレてるのはミラーヌと顔見知りだったからだ。

「まさか、小物の詐欺師だと思ってたおまえが奴隷店の襲撃に噛んでたなんてな」

「はい? 何の事ですか?」

「おまえ、昨日、金貨を何枚使った? 9000枚だ。そんな金、おまえが持ってる訳がないよな? どうした?」

「あれはエルフの坊やがーー」

「そんな嘘はいい。早く奪った他の宝石や魔石の在処を言え」

 パンプキルが気が立ってるのは死神と双騎士が死んだ事や幹部会が招集されてる事が関係している。幹部会の議題は別の件らしいが、下手をすればその幹部会で支部長を罷免される可能性すらあるのだから。

 パンプキルは現在、尻に火が付いた状態なのだ。

 そしてミラーヌのホテルの部屋からは金貨1800枚が見つかっている。『黒き刃』は犯罪組織だ。金貨1000枚を入れる革袋には素人目には分からぬようにちゃんと組織の印の細工もされており、ミラーヌの部屋から見つかった革袋にも組織の印が付いていた。

 印が付いているのは当然だ。カイルが奪った金貨がそのままミラーヌの手に渡ってるのだから。

 だが、金貨袋の動きを『黒き刃』が知る由もなく、『黒き刃』が知る事実はただ1つ。

 昨日、金貨8300枚を使ったミラーヌが襲撃されたデル支部の奴隷店の金貨1800枚を持ってた。

 それだけだ。

 つまり、ミラーヌは黒。

 もう有罪の判決が下った後なのだ。

 よって言い訳などは通用せず、

「待って下さい。本当に私は――」

「早く言った方がいいぞ。どうせ死ぬにしても痛い思いをしなくて死ねるから」

「ちょ、本当です。本当にーー」

 ミラーヌは必死に弁明したが、有罪結審後の詐欺師の言葉を信じる訳もなく、強奪された残りの資産の在処を吐くまで拷問された。

 無論、ミラーヌがそんな場所を知ってる訳もなく、拷問の苦痛から逃れる為に嘘の作り話をしてしまった為に拷問は激化。治癒魔法や回復薬がある世界の為、『光の乙女団』に救助される1年後まで、ずっと拷問され続けたのだった。
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