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勇者マトリスの来訪、罪の天秤の神界追放判決について、勇者の証の行方
しおりを挟む聖フメミス教国のフメバーゼ宮殿の勇者マトリス歓迎の晩餐会で、勇者マトリスの仲間達が苦しみ出した。
毒を盛られたのではない。
殆どの者が見えない黒い人魂が体内に入り、獄界追放者へと変貌する過程で、意識があるから抵抗してるのか、その激痛で苦しんでいた。
だが、身体はみるみると変化して肌は浅黒く、黒い蝙蝠の翼が服を破るように背中から出現していた。
知識のない殆どの者が『悪魔だ』と叫ぶが、
正式には、
獄界第7層追放者。
獄界第8層追放者。
それがソイツラの名前だった。
オーケイ、ベービー。
何も言うなよ、おまえら。
おまえらの考えてる事など天才のオレは総てお見通しなのだからな。
どうせ、また『おまえの仕業だろ』ってドヤ顔で言うんだろ?
えっ?
おまえらにも天才のオレがこれから言う説明の言葉が分かってるって?
ほう、面白い。
ならば、答え合わせといこうじゃないか。
じゃあ、説明するぜ?
オレは悪くない。
えっ?
おまえら、オレが言う言葉を当てたの?
何故だ?
まさか、おまえらもオレと同じで天才なのか?
まあ、冗談はさておき。
フメバーゼ宮殿の晩餐会が騒然となる中、隣の席のテーブルに着地して新鮮なシャキシャキの薬草を食べようとしていたチャーリーが、
「大地の女神ミーカル様がお怒りなのだ」
「でしょうね、追放者がこの世界に現れたのだから」
「ロザリアになのだ」
「あら。そうなの?」
オレはそう抜け抜けと答えたのだった。
◇
さて問題。
この世界に勇者は何人いるでしょうか?
答え。
国や宗教に勇者認定の権限があるので1人じゃない事だけは確か。
◇
続いて問題。
異者にはどうなったらなれるでしょうか?
答え。
民衆が納得する多大な功績。
認定する国家や宗教の都合。
それらで決まる。
稀に外見や血統により、実力のない王子が認定される場合もある。
因みに歪曲結界のお陰でこれまでは干渉出来ず、大地の女神ミーカルは勇者の選定には関与していない。
◇
そんな訳で、
安全地帯の構築に余念がないオレな訳だったが・・・
フメミス王国、または聖フメミス教国にどうも長居し過ぎたようだ。
「勇者マリトス殿がロザリア様への面会を求めて聖フメミス教国に入国されました」
との報告をオレは聖フメミス教国のフメバーゼ宮殿の来賓室で聞かされたのが、今回の冒頭だった。
オレに報告をしたのは戦闘力280の女神官の巨乳ちゃん、フローネだった。
人間で18歳で巨乳ちゃんで、大地の女神ミーカルの祝福歪曲結界の崩壊後に祝福を大量に浴びた女、それがフローネだ。
つまりは信仰心が頗る高い。
かなりポイントが高かったが、如何せん、名前が悪いからなぁ~。
オレの元の世界でフローネといったら・・・
いや、止めよう。
長くなるから。
話を戻すか。
「勇者マリトスねえ」
北の大国オズ帝国が任命した2勇者の1人だ。
つまりは『オズ帝国を裏から支配していた魔十教団の黒い勇者』。
くうぅぅぅ。
カッコイイ肩書きで羨ましいぜ。
とはいえ、オレの肩書きも凄いからな。
『大地の女神ミーカルの系譜の半神にして女勇者のロザリア』。
うんうん、負けてない。
十分カッコイイから。
「用件はなんだって?」
「オズ帝国の帝都オズブラックを助けて欲しいとの事です」
「? そう言えば先日、『暗黒竜サバンキール』が帝都を攻撃したって聞いたわねえ。それの討伐をしろって事かしら?」
「さあ、詳しくは聞いてみませんと」
「いいわ、会いましょう」
とオレは気軽に言ったのだった。
◇
そんな訳で、飛竜であっという間に勇者マトリスがフメバーゼ宮殿にやってきた。
「オレがマリトスだ」
ほう、戦闘力4300。
勇者を名乗るだけはあるな。
ってか、戦闘力500が限界の人間で4000超えは異質だ。
だが、不正をしてる形跡はないな。
戦闘力500と戦闘力2000の壁を自力で突破した?
生意気な。
ただの人間の分際で。
どう見ても20代だろ?
オレみたいに修練の空間を使った?
いや、ないか。
だったら、何か『#強_持ってる_・__#』な。
それにお付きは、
戦闘力2000の虎人。
戦闘力1400のエルフ。
戦闘力1300の人間。
この3人か。
こっちの3人は全員、不正をしてるな。
虎人は心臓が5個。
エルフは戦闘力の不正譲渡術式の悪用。
人間は大地の女神ミーカルの祝福不正利用。
この3人の方が人間味があるな。
えっ?
どうして、そんな事が分かるのかって?
それはな。
魂にうっすらと記載されてるからだよ。
それが視えるオレの何と凄い事か(自画自賛)。
そんな事を査定しつつ、
「私がロザリアよ」
と名乗って、心にもない社交辞令の、
「先日はオズブラック宮殿にて皇太子殺しの第2皇子ウエンスを討つ大活躍とか?」
「いえいえ、あれは他の誰かよ。私は半殺しで済ませたから」
などとの言葉の応酬の後、マリトスが、
「現在、オズ帝国の帝都オズブラックにゾンビの群れが進行中でな。帝都オズブラックの堅牢な城壁ならば問題ないと思っていたが先日、辺境に居る『暗黒竜サバンキール』が何故か帝都を襲ってな。城壁が瓦解してゾンビが侵入しそうでな。助けてくれ」
そう用件をオレに告げた。
あれ?
オレ、それ、どういう訳か知ってるぞ?
何だったっけ?
ダメだ、思い出せない。
オズ帝国内で魔十教団狩りをしてる時に聞いたのかな?
「ゾンビくらい、勇者マリトスなら余裕で退治出来るでしょ?」
「無理を言わないでくれ。廃墟グロアスバリのゾンビだぞ。魔法が効かない上位種もいるのに」
ああ。
ようやく思い出した。
オレがやったのか。
まだ進行中な訳ね、あのゾンビ連中?
ってか、オズ帝国、さっさと狩れよ。
「そう。でもね。私、もうオズ帝国には関わらない事にしてるから」
それも本当だが、本音は1つ。
マッチポンプで功績を得ると色々と問題だからやらない。
だった。
もう、オレ、半神だからな。
戦闘力も17万超え。
無理に上げる必要もないし。
「ん? もし第2皇子ウエンス殺しの件を警戒してるなら、あれは功績だぞ?」
「そっちじゃなくて魔十教団の方よ。オズ帝国に入ったら最後、暗殺者に狙われるのがオチだからね」
とオレが話すとエルフと人間が微量だが殺気を放った。
はい、魔十教団所属で決定ぇ~っと。
「魔十教団か。名前だけは聞くが本当に居るのか?」
それがマリトスの言葉だった。
あれ、嘘じゃない?
素で言ってるぞ、コイツ。
「えっ、かち合った事ないの?」
「1度もな」
何だ、そりゃ?
と思った時に、ニヤリとしたエルフを見て、天才のオレは総てを悟った。
へぇ~、なるほど。
勇者マリトスがかち合わないように、魔十教団側がマリトスを上手く誘導してる訳ね。
「さすがの魔十教団も勇者マトリスは避けてたようね」
「そうなのか?」
「ええ、私なんて狙われまくりよ。それに魔十教団って規模も大きくて一説には、消滅したとかいうイエロ将国も奴らの仕業らしいわよ」
これはギリギリ嘘ではないぞ。
愚者が原因なんだから。
「『暗黒竜サバンキール』の動向も調べた方がいいんじゃないの?」
これは提案しただけ。
別に魔十教団が噛んでるとか言ってないから嘘じゃない。
話の流れでそう聞こえただけで。
「ふむ、帰ったら調べてみるか」
との会談をした訳だが、
もう昼下がりだ。
結局はその日は勇者マトリスもフメバーゼ宮殿に一泊する事となった。
それでだ。
オズ帝国の勇者マトリスの滞在だ。
そりゃ歓迎の晩餐会の流れになるわなぁ~。
聖フメミス教国の元首であるマイレック・ジョムズ一世を上座に座り、
次席の左右には勇者のオレとマトリスが座る訳だが、
着席して夕食が運ばれてくる、まさにその席で、黒い人魂が出現した。
「何なのだ?」
「えっ、何だ、あれ?」
普通の奴には視えない。
視えて反応したのはオウムのチャーリーと勇者マトリスだけだ。
へぇ~。
視えるんだ、マトリスにも『あれ』が。
マジで本物の勇者なんだな。
それにしても・・・
夕食前に『この現象』が起きるって。
何をする気だったんだ?
食事に毒でも入れた?
でも、オレ、毒は効かないぜ、もう?
・・・おっと、3つ目。
戦闘力2000の虎人まで釣れたか。
これは面白い事になるかもなぁ~、くっくっくっ。
出現したのは勇者マトリスの仲間の周囲で、あっという間に3つの黒い人魂は勇者マトリスの仲間の身体に入ったのだった。
直後に、
「ぐあああああああ」
「ぎゃああああああ」
「くおおおおおおお」
と勇者マトリスの仲間3人が苦しみ出した。
そして、『デッピール』が始まり、
それを見たチャーリーの、
「大地の女神ミーカル様がお怒りなのだ」
「でしょうね」
「ロザリアになのだ」
「あら、そうなの?」
という冒頭のシーンになる訳だ。
◇
なるほど、チャーリーの言葉は真実だった。
本当に御立腹らしい。
『何をやってるんですか、アナタは? 隷属契約は禁止にしたはずですよ?』
大地の女神ミーカルの声がオレの頭の中で聞こえた。
申し訳ございません。看過出来ない相手でしたので。
『嘘おっしゃい。反抗しそうな相手を黙って隷属にしてわざと追放者にした癖にっ!』
まさか、そのような。
『ともかく、絶対に倒す事っ! いいですねっ!』
ははぁ~っ!
との会話をしてる間に、晩餐会では、
聖フメミス教国は教団幹部がそのまま国の幹部を占めてるので、晩餐会に出席した神官達が口々に、
「悪魔だ」
「信じられない、初めて見たっ!」
と騒いでいた。
大地の女神ミーカルとの会話を終えたオレは抜け抜けと、
「勇者マトリス、どういう事かしら? あんなのを仲間にしてたの?」
と非難した。
「違うっ! オレは知らないっ!」
「証明して見せてっ! 退治は任せたからねっ!」
とオレは勇者マトリスに丸投げした。
「ああ、任せろ。誰か、オレの武器を頼むっ!」
異者マトリスが了承する中、
「教皇猊下はこちらへ」
オレは大司教から勝手に教皇になった意外と俗物だったオッサンを部屋の外へと連れ出した。
「待つなのだ、ロザリア。アイツでは勝てないなのだ」
そう言ったのはチャーリーだったが、
おっと、チャーリーの評価ポイントアップだな。
それに気付くなんて。
そうなんだよなぁ~。
戦闘力の高い身体が追放者になったが為に入る魂の階層も上がってるんだよ。
つまり、戦闘力2000の虎人は、
獄界第6層追放者で、その戦闘力は驚きの5000。
戦闘力1400のエルフと戦闘力1300の人間は、
獄界第7層追放者で、その戦闘力は3000。
えっ?
『前に大地の精霊を吸ってたハーフエルフは戦闘力3000だったのに獄界第9層追放者だったぞ?』だって?
おっ、その事に気付いたのか?
そうなんだよっ!
これこそが『罪の天秤』の『神界追放判決』の威力なんだよっ!
前のハーフエルフのは『魂への烙印』だったから罪状がショボクて、第9層止まりだったが、『罪の天秤』での『神界追放判決』は戦闘力がモロに反映するから、こうなるんだよっ!
これが女神達が『罪の天秤』で追放者を出す事を嫌う理由さ。
戦闘力1000超えがバンバン誕生では収拾が付かなくなるからな。
くっくっくっ、はぁーっはっはっはっはっ。
戦闘力170を4人分、支払っても、惜しくない買い物だったろ?
はぁーっはっはっはっはっ。
廊下に教皇を逃がした時、『どごぉぉぉん』と食堂から爆発音がして、
「勇者マトリスがっ!」
「そんな、勇者が負けるだなんて・・・」
なんて悲鳴が聞こえてきた。
「ロザリア様、私はいいので、悪魔を・・・」
教皇がそう言ったので、
「ええ、アナタ達は猊下をお願い」
とオレはアシュ、リラ、シューに留守番をさせて、食堂へと戻った。
あぁ~あ、マトリス、マジで死んでた。
腹どころか、心臓を貫かれて。
相手は3人。
オレはロザリアの聖剣を指輪から出して、
「大地の女神ミーカル様の御言葉を伝えるわ。『安らかな死を許す』だそうよ」
オレは決めゼリフと共に斬空剣の一閃だけで、
「グアアアア」
「ギャアアア」
「エグアアア」
3人の獄界追放者を瞬殺したのだった。
獄界第6層追放者を一瞬で倒す、この強さ。
やっぱりオレは凄いわ。
そして、まだ残ってたトロ臭い神官達が戦いを目撃し、
「おお、さすがは勇者ロザリア様。勇者マトリスなんて紛い物とは実力が違う」
「さすがです、勇者ロザリア様」
「勇者ロザリア様は我らが聖フメミス教国の守護神です」
「勇者ロザリア様」
との賞賛の嵐となった。
いいね。
のってるね
えっ?
『これって完全なマッチポンプだよな?』だって?
おいおい、頭、大丈夫か、おまえら?
奴らが罪を犯したからこうなっただけで、オレが悪い訳じゃないぜ(悪そうな顔)?
そうだろう、んんっ?
そんな訳で、これはマッチポンプではギリギリありません。
「ロザリア、後で吾輩からも説教なのだ」
「どうしてよ、私は悪くないわよ?」
「『勇者の証』を継承しておいて何を言ってるなのだ? それが目的だろなのだ?」
おおっと。
マトリスの奴、『勇者の証』を持ってたのか。
それで戦闘力4300?
何をサボってたんだが。
そしてマトリスを倒した追放者を倒したオレが『勇者の証』を継承ってか?
この令嬢、マジで運だけはいいな。
はぁーっはっはっはっはっ。
「誤解だぞ、チャーリー。『勇者の証』はオレ、視えないんだから」
「嘘つけなのだ。説教なのだ」
「ええぇ~」
なんてチャーリーと話してると、
討伐を聞いた教皇が部屋に戻ってきて、
「さすがは勇者ロザリア、見事であったっ!」
と締め括ったのだった。
コイツ、もしかしていいところ取りが得意なのか?
「総ては大地の女神ミーカル様の御心のままに」
オレはアイドルスマイルで答えながら、そう教皇を査定したのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
登場人物。
フローネ・・・戦闘力280。聖フメミス教国の女神官。
勇者マトリス・・・戦闘力4300。通称『勇者の証』の正統所持者。その為、本当に勇者だったがロザリアに関わった為に引き立て役として犬死にして『勇者の証』をロザリアに献上した。
戦闘力2000の虎人・・・ゴアビーズ。男。魔十教団の実験ラボの心臓4個移植成功体。傀儡の術式が施されており、簡単に操れる操り人形だった。
戦闘力1400のエルフ・・・レコビーテア・ニエラ。女。魔十教団の幹部『傀儡師』。ゴアビーズを操る。勇者マトリスのお目付け役。聖メシコス教国の教皇を操って晩餐会でロザリアを謀殺する計画を企てたがロザリアに先制攻撃を喰らった。
戦闘力1300の人間・・・エンテア。女。魔十教団の実験ラボで祝福吸引能力を後天的に移植された成功体。祝福吸引は魂の烙印では第8層追放者に相当だが罪を逃れてる。傀儡師の腹心。
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