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怒髪天、オズ帝国に追われる、エリクサーを飲む
しおりを挟むさて問題。
惚れ薬を夕食に盛られてイケメンの第2皇子に夜這いされました。
どうしますか?
答え。
金玉と顔面を潰して逃げる。
◇
そんな訳で、
「オラ、オラ、オラっ!」
夜、オズ帝国の帝都にあるオズブラック宮殿のオレにあてがわれた客間の床に転がった第2皇子ウエンスを、オレはドゴ、ドゴッと踵で踏み付けるように全体重を乗せて蹴り、
「おまえは調子に乗り過ぎだっ! オレに夜這いなんて1000年早いんだよっ! 何考えてるんだ、おまえはっ?」
普段の女口調を使う余裕もなく、ネグリジェ姿のオレは床に転がって既に意識を失ってる第2皇子ウエンスを蹴り続けていた。
踵蹴りで、もうイケメンの顔は見る影もない。
ついでに股間も尾骨ごと念入りに潰しておいた。
素足だから金玉の感触が伝わって気持ち悪いんじゃないのかって?
そんなのに気を使う余裕なんて無かったんだよ、こっちはっ!
何せ、ベッドで目覚めたら、この馬鹿が覆い被さってキスしようとしてやがったんだぜっ?
本当に焦ったんだからよっ!
悪寒が全身を襲ったしっ!
マジでムカツクぜ、この馬鹿皇子っ!
皇帝一族で利用出来るからお情けで参戦させてやっただけだってのにっ!
なのに、夢見やがってっ!
夜這いってっ!
こいつの考えは透けて見える。
オレを抱いて、手駒に加える気だったってなっ!
ってか、今夜はあの異形の怪物の眼玉を倒した当日の夜だぞ?
オズブラック宮殿に招かれて一泊したら、いきなり『これ』だからっ!
【静寂】魔法で外部に音は漏れてないはずだが。
ともかくズラかるか。
この同室の同じベッドにはアシュも居たので、起こそうとしてオレはドキンッとした。
見慣れたネグリジェの寝姿が色っぽいだと?
これって、まさか、惚れ薬を夕食に盛られた?
それでオレの精神が男だから、第2皇子には作用しなく、アシュに作用してる?
今は惚れ薬の事は置いておいてアシュを起こそう。
◇
そして、オレ達はオズブラック宮殿から抜け出して厩舎で飛竜を盗み、逃げていた。
オズブラック宮殿から飛竜を盗んだ時点でオズ帝国に追われる身だが、第2皇子ウエンスを半殺しにしたのがバレたら、どうせ追われる身だから関係ない。
そして、数匹のオズ帝国の飛獣部隊がそんなオレ達を追跡していた。
『止まれ。何を考えている? オズ帝国所有の飛竜を盗むなんて。今すぐに投降しろ』
念話で投降を呼びかけてくるが無視だ、無視。
「信じられねえから、あの皇子? ご主人様を夜這いしようとか。それも私が隣で寝てる前で」
飛竜を操縦するアシュがブチキレて叫び、
「まったくよ」
オレは不機嫌そうに吐き捨てたが、オレはオレでそれどころではなかった。
アシュは御存知、レーサー乗りをしており、尻を突き出してる訳だが、
ダメだ。
エロ過ぎる。
アシュの尻が。
オレ、胸派と尻派で言ったら完全な胸派なのに。
アシュの尻がエロイと感じるなんて。
今にも手を伸ばしたい衝動に駆られてオレは我慢していた。
完全に惚れ薬を盛られてるな、これは。
身体の感度も上がってるから媚薬込みのが。
あのバカ、信じられねえ。
オレは魔教団を潰して、この世界を救った勇者だぞ?
オズ帝国も魔十教団の呪縛から解き放ってやったってのにっ!
惚れ薬なんて盛りやがってっ!
でも、マジな話。
男に効かなくて助かったな。
もし惚れ薬が効いてあのバカに股を開いて受け入れてたらと思うとゾッとするぞ。
ってか、あのバカ、どんな惚れ薬をオレに使いやがったんだ?
【浄化】や【状態異常回復】魔法で中和出来ないなんて。
一生、オレを惚れさせて飼い殺すつもりだったから強力な惚れ薬を盛ったのか?
オズ帝国の皇帝一族だからな。
それくらいは手に入るんだろうけど・・・
第2皇子ウエンスめ。
オレを自分の陣営に加えようとか身の程知らずの野心があり過ぎだろうがっ!
まあ、結果、あの大惨事だけどな。
念入りに金玉と顔面への踵蹴りを20発以上ずつキッチリと入れておいたから。
当分は女を見るのも怖いだろうさ。
はぁーっはっはっはっはっ。
ざまぁみろ。
「どうするのだ、これから?」
当たり前のように居るオウムのチャーリーが質問してきた。
「チャーリー、どうしてまだ居るのよ? あの怪物を倒したんだから、もうお役御免じゃないの?」
「いや、吾輩の任はまだ解かれていないのだ」
「あっそ」
というオレに対して、アシュが、
「いいんじゃないの、いざという時の非常食として連れていったら?」
「ふざけるな、なのだ。絶対に吾輩は喰わせないのだ」
うげえ。
今、想像してしまったぞ、チャーリーの丸焼きを。
人語を話す鳥を食べるのはオレもちょっとな。
そんな訳で、オズ帝国から逃げたのだった。
◇
オズ帝国は現在、結構大変な状況だ。
ドラゴンが住処を追われた所為で、ドラゴンが他の魔獣を縄張りから追い出した所為でトコロテン方式に魔獣生息の分布が激変。縄張りを押し出された雑魚が人里に現れるので討伐しまくってる始末だ。
ゾンビ軍団は何故か帝都オズブラックに向けて行進中。
属国ではスケルトン王国が誕生。
そこに魔十教団も潰えて、第2皇子が皇太子を殺害。
今度はその第2皇子が女に襲われたときた。
お陰で余り兵隊を出せない。
それでも強大なオズ帝国だ。
オレ達は追われに追われた。
魔法で返り討ち出来なくもなかったが、そんな事をしたら、それこそ本当に大罪人だ。
なので、魔法で姿を隠して逃げるのみだった。
惚れ薬を盛られたのに優し過ぎないかって?
いや、まあ。
褒美として魔教団がアジトに貯めてた金銀財宝の3分の1を第2皇子ウエンスから内緒で貰ってるんだよな、実は。
これくらいの義理はオズ帝国にも返すさ、オレも。
◇
そしてオレは一番近い国境まで飛竜で2日間移動し、広大なオズ帝国から脱出したのだった。
脱出出来たのはオズ帝国の版図が広過ぎるからだ。
広過ぎて国境全部を警邏する事は事実上、不可能。
なので、サクッとオレ達はオズ帝国を脱出し、オズ帝国の属国諸国も通過したのだった。
◇
問題は盛られた惚れ薬の方だ。
3日経過しても身体から抜けず、オレは大地の女神ミーカルに泣き付いた。
助けてくれ。
身体の疼きが止まらない。
対する大地の女神ミーカルの言葉は、
『所有するエリクサーを飲むといいでしょう』
だった。
エリクサー。
どんな傷や呪いでも治す魔法薬の最高峰だ。
霊薬とも言う。
そんなもんをどうしてオレが持ってるのかだって?
無造作に置かれてたんだよ、魔教団のアジトの金銀財宝の中に。
3分の1が貰える約束だったんだ。
誰も気付いてなかったんだから、こっそりとバレないように貰える側にエリクサーを忍ばせても何の問題ないよな?
そんな訳でオレはエリクサーを持ってた。
持ってたが、惚れ薬の中和に使うのって、さすがに勿体無くないか?
エリクサーってのは腕や足がちぎれた死に掛けの時に使う物なんだぜ、普通は。
だが、背に腹は代えられない。
オレはエリクサーを飲んで惚れ薬の効果を打ち消したのだった。
◇
因みに、
オズ帝国から金髪のオレの姿の手配書が公布されたが、第2皇子暴行への賞金首の手配書ではなかった。
オズ帝国からの功労者に対する呼び掛けの手配書だったからな。
功労の内容は、
皇太子を殺害した第2皇子の討伐。
だった。
誤解がないように言っておくが、オレは第2皇子ウエンスの顔と金玉は潰したが殺してはいない。
つまり、あのドサクサで上手く立ち振る舞った奴が居たって事だ。
ヤダヤダ。
そんな連中に関わるの。
そんな訳で当然、オレがオズ帝国に褒美を貰いに出向く事はなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
登場人物。
追跡者・・・オズ帝国の飛竜騎士。エリート。
地名。
帝都オズブラック・・・オズ帝国の首都。13の堅牢な城壁に守られた難攻不落の巨大都市。
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