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女神からのお願い、ゾンビが住む廃墟、モルダイエー山脈がマグマを噴く
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オレは今、オズ帝国に来ていた。
オズ帝国ってのは少し離れた北の大国だ。
どうしてこんな場所に居るのかと言えば、
変異型の竜毒の蔓延を防ぐ為にリティア大森林を燃やしたのに、
その功績を誇る事もなく、
誰にも語らず、
自らの胸の内に秘めるという、
この奥ゆかしい英雄的行動から少し離れた場所に飛竜で2日掛けて移動していた。
えっ?
リティア大森林を燃やしたのが怖くなって逃げたんじゃないのかって?
失敬な。
オレがそんなセコイ奴に見えるのか?
ってか、少し森が燃えたくらい、問題ないでしょ(ムカツク顔)。
リティア大森林を燃やした件はオレの中では良くある『尊い犠牲』で、とっくに片付付いてるから安心してくれていい。
何故ならオレの行動は総て正しいのだから。
というのも、
リティア大森林を燃やした直後に、飛竜に乗るオレは白昼夢というか(まあ、夜だったが)変な言葉を聞いたからな。
『・・・私は大地の女神ミーエル・・・世界は現在、女神干渉阻止の術式が覆い・・・私の祝福が歪曲されております・・・どうか、その術式を破壊して下さい・・・』
姿も見せずに、妨害された念話のような声だけを。
通常ならば、こんな変な声など無視だ。
だが、オレは竜勇者、キルト・デルレーン。
元の世界に戻るのを目的としている。
嘘かホントか分からないが、その自称女神の願いとやらも聞いてやろうじゃないの。
それにだ。
リティア大森林を燃やした直後に『これ』がきたんだぜ。
つまり、リティア大森林には女神干渉阻止の何かがあった訳だ。
ほらほらほらぁ~♪
オレのリティア大森林を燃やしたあの行動が正しかったって証明されただろう。
変異型の竜毒の蔓延を防ぐ以上に。
だって、この世界の神、大地の女神ミーエルが頼んでるんだぜ?
なっ?
オレは何も悪くなぁ~い。
大地の女神ミーエルの御指名なんだから。
行動の総てが世界に貢献する。
それがこのオレ、キルト・デルレーンなのさ。
はぁーっはっはっはっはっはっ。
◇
天気は鮮やかな快晴。
その太陽が降り注ぐ先には廃墟があり、
その城下や城には5000体を越える臭そうなゾンビが蠢いていた。
ちょっと待てえっ!
今、また『オレが何かやったな』って思っただろ?
フフン。
残念でしたぁ~。
違いますぅ~。
今回は最初から『こう』でしたぁ~(ムカツク勝ち誇った顔)。
正直な話、アシュに、
「オズ帝国には200年間以上、ゾンビが住みついてる廃墟があるらしいぜ」
と聞いて女神干渉素子の術式を探る前に、
オレはこの廃墟に足を運んでいた訳だ。
◇
因みに情報提供者のアシュは居ない。
アシュは強くする為に狩猟場に置いてきた。
戦闘力220は強い方だが、オレの部下としては雑魚過ぎるからな。
「いやいや、無理だって、ご主人様。ソロなんて」
とか言ってたが、
『可愛い弟子には試練を与えろ』だ。
それがオレの育成方針だから。
◇
『ご主人様、こんなところに来て何をする気だピョン』
影の中からのアルの念話での問いかけに、
『そんなの決まってるだろ。調査だよ、調査』
オレも念話で返事した。
因みにアルが影の中なのはオレが出る事を許さなかったからだ。
何せ、オレも今の外見は、
【変身】魔法で、リティア大森林に居たエルフの老婆の恰好を丸パクリしてるからな。
老婆に変身ってテンションが下がるよなぁ~。
これならピンクブロンドの巨乳ちゃんの方がまだマシだぜ。
なら、どうしてそんな老婆に変身したのかって?
何となくさ。
いやいや、今のはギャグじゃないから。
オレの『何となく』ってのは馬鹿にならないんだぜ?
ほら、オレって行動が総て世界に貢献する竜勇者だから、
はぁーはっはっはっはっ。
話を戻そう。
『調査って何だピョン?』
『500年以上の歴史を誇る世界最大のオズ帝国領内に200年以上前からゾンビが放置された廃墟があるんだぜ? 胡散臭いを通り越して怪しいだろうがっ! 絶対にこの場所には何かあるっ! 他の連中が探らなかったのが不思議なくらいだぜっ!』
『それであの屯してる幾千のゾンビを倒すのかピョン? ご主人様は本当暴れるのが好きだピョンね』
我が使い魔のアルよ。
おまえは人生経験が浅いな。
『あのなぁ~。そんな事する訳ないだろ』
『なら、どうするんだピョン』
『ゾンビどもが城壁の外に出ないのは聖なる結界で封じられてるからなんだぜ。ほら、オレの視覚情報で見てみろよ。周囲に聖石が嵌められた柱が何本も建ってるだろうが』
『ご主人様、まさか・・・』
『その『まさか』さ』
『いいのかピョン?』
『そんなに重要なら、ちゃんと柱の警備に人員を配置しろって話さ』
その後、オレは、
「【影沼】っ!」
聖なる結界の柱13本全部を影魔法で地中深くに沈めて、結界を排除し、
「【火炎球】っ!」
廃墟の城壁4か所に大穴を開けて、
5000体のゾンビを廃墟の外に解放したのだった。
えっ、勇者の癖に影魔法が使えるのかって?
あのなぁ~。
こっちは80年間も修行の空間に居たんたぜ?
剣の素振りばっかりだと実戦が鍛えられないだろうが。
対戦相手に一番役立つのが【土人形】と【自身の影】なんだから、【土】や【影】魔法も極めるのは普通の事なんだから。
◇
ゾンビ3500体くらいが城壁の外に出た時点で、ゾンビしかいないはずの廃墟の中から30人以上の人間が泡を食ってワラワラ出てきた。
ほらな。
何かあっただろ。
その様子を城壁の更に上の崩れていない物見台の屋上から眺めてたオレだったが、
出てきた数人がオレの方を地上で指差し、攻撃魔法を撃ってきた。
はあ?
何でいきなり攻撃魔法を撃ってくるんだよ?
今のオレはイタイケなエルフの老婆だぞ?
と思ってると、監視塔の屋上に空中ジャンプを駆使したショートカットで、戦闘力120の男がやってきた。
「ババア、貴様かぁっ? 結界を破壊してゾンビを外に逃がしたのは?」
「そうじゃよ」
ババア言葉でオレが答える。
「何者だ、名乗れ?」
と目的を問うてきたので、オレはしれっと、
「魔十教団じゃよ。我らに逆らった愚か者には死を」
そう老婆の声で言ってやった。
『何、それ?』って?
適当だよ、適当。
オレをリティア大森林でゲリピーになった竜毒をエルフに提供したり、
そのリティア大森林で変異型の竜毒を撒いた犯人にしたり、
ニッサー王国にオレを狙わせたり、
何かオレの敵みたいだからさ、その魔十教団って。
だから『大国の裏で何かやってる怪しげな組織と揉めたら面白いかなぁ~』と思って言ってみた訳だが、
「はぁぁぁ? 我らは魔教団の名を騙るだと?」
「万死に値するぞっ!」
後から追い付いてきた男達が叫んだ。
あれ、コイツラ、魔十教団だったの?
なら、見逃してやる理由はどこにもないな。
オレなんてゲリピーにさせられたんだから。
運の悪い奴ら。
ざっと敵を見渡す。
最高戦闘力が340の30人の集団か。
雑魚だな。
「失礼な。ワシも魔十教団所属じゃよ」
「嘘つけっ!」
「エルフのババアなんて知るかっ!」
「五月蠅い奴らじゃ、死ね。【氷の矢】っ!」
と魔法を使った。
氷の矢500本を30人に放つ。
一端の実力があるからか、障壁を展開して、
「そんなもんが効くか・・・ギャアアアア」
「グアアアアア」
「ゲフッ。何だ、この氷の矢は?」
瞬殺した。
何をしたのかって。
分かりやすく説明すると、氷の矢に1本を作るのに魔力を1込めるとして、オレは今回魔力を300込めて氷の矢を作ったって訳さ。
つまり1本1本の戦闘力が300って事だ。
戦闘力200以下にはキツイって事だな。
それでも数人は生きており、
「グオオオ、貴様、許さんぞっ!」
とか嘆いてたので、オレは生きてる連中の1人に、
「この廃墟の中で何をやってたんじゃ?」
「誰が言うかっ!」
ドゴッ。
否定的な事を言ったので更に蹴りを入れた。
城下にまだ居るゾンビ達にプレゼントする。
意識のあるままゾンビ達に喰われてるが、まあ、それは置いておいて。
次の生き残りに、
「何をやってたんじゃ?」
「誰が・・・」
バキッ。
「何をやってたんじゃ?」
「話す訳ないだろっ!」
ガツンッ。
「何をやってたんじゃ?」
「言うかっ!」
グシャッ。
と4人を蹴り落として地面を徘徊するゾンビにプレゼントしたところで方針を変えた。
最後のまだ生きてる奴には、
「【魅了】っ!」
オレは魅了魔法を使った。
老婆の姿とかは関係ない。
エロイ事をする訳じゃないからな。
えっ、エロイ事をすると思ったの?
ないない。
相手に好印象を持たせて情報を聞き出すだけだから。
それが本来の魅了の使い方なんだぜ。
何故か恋愛小説では令嬢が恋愛ごときに使ってるが。
「教えてくれるよな?」
「・・・ですが、言えぬ決まりですので」
「結果が伴えば『あの方』も褒めてくれるさ」
「・・・永遠様を御存知なんですか?」
永遠?
何だ、それ?
と思ったが、オレはさらりと、
「ああ、知ってるよ。昔馴染みだから。連絡を取りたかったんだが20年ぶりだったのでアジトが変わっておってね。それでここまで足を運んだ訳だが」
「・・・そうでしたか、永遠様はこちらのアジトではなく、ドラゴンの巣の洞窟の奥のアジトの方に居られますよ」
えっ。
このゾンビ廃墟に魔十教団の連中が何をしてるのかと思ったら、アジトがあった訳?
ってか、ドラゴンの巣?
そこって確か。
「この辺の地理には不案内なんだが」
「・・・北東側にグリフォンで2時間の場所にあるドラゴンの巣窟、モルダイエー山脈です。遠くから念話で話しかければ問題ないかと」
やっぱり、そこか。
「そう。で、こっちのアジトでは何をしておるのじゃ?」
「・・・生命様のクローン研究です」
クローンって。
「動力源は魔石じゃよな?」
「・・・はい、それが?」
「貯蔵量はどのくらいなんじゃ?」
「・・・3000個は常備してますが」
「ふ~ん。今、幹部は?」
「・・・居りません」
「自爆魔法の術式は?」
「・・・あります」
さすがは悪の組織。
自爆の術式があるのかよ。
備蓄してる魔石が動力かな?
「稼働させるんじゃ、今すぐに」
「・・・ですが、幹部の許可がなければ」
「クローンの研究を他人に奪われた方が拙いであろうが。ワシから生命には言っておくから」
「・・・そういう事でしたら」
【魅了】って便利だろ?
こんな適当な嘘を信じるんだから。
恋愛小説で令嬢達が多用する訳だぜ。
「じゃあ、任せたからな」
オレはそう言って【魅了】の他に【強制】魔法も掛けてから、ソイツを自爆魔法陣の起動要員として逃がしてやったのだった。
◇
さて、問題。
主級が全長50メートル、最小でも20メートルのドラゴンが500頭は生息してる山脈の洞窟の奥の巣穴にあるアジトを攻撃するにはどうすればいいか?
答え。
大魔法で遠距離から『ちゅどぉぉぉぉぉぉぉぉぉん』。
◇
そんな訳で、
飛竜に乗ったオレは2時間掛けて、そのモルダイエー山脈に出向いた。
モルダイエー山脈は岩肌の山の集合体だった訳だが、オレが放った【巨神封滅炎槍】魔法で山脈の地面を貫き、魔法が地中深くにあるマグマ層に達した事で、
『ちゅどぉぉぉぉぉん』どころか『どっかぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!』とマグマが噴火していた。
ドラゴン達は大慌てだ。
飛べるドラゴンは空を舞い、飛べないドラゴンは我先にモルダイエー山脈を駆け下りていた。
逃げ遅れたのが20匹くらいマグマに飲み込まれたが。
他はマグマで負傷しながらも逃げ遂せていた。
エルフの老婆に変身したオレは飛竜の背から山頂付近にあった洞窟の穴からマグマが溢れる様子を見て、
「脱出者は1人もなしか。魔十教団ってのも意外と大した事ないらしいな」
そう呟き、グリフォンに座ってるオレの尻から影の中からアルが、
『滅茶苦茶を通り越して、これじゃあ破壊魔だピョン』
と言ってたが、
「どこがぁ? 効率的じゃないか」
笑いながらオレは帰っていったのだった。
そうそう、オズ帝国、この後、
ゾンビのスタンピードと、
ドラゴンのスタンピードが起きて、
何か大変な事になったんだってさ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
登場人物。
戦闘力120・・・狼の獣人の男。下っ端。
蹴られた敵1・・・魔物の筋肉移植の強化人間。
蹴られた敵2・・・ハーフダークエルフ。眼鏡女。
蹴られた敵3・・・護符を大量に持つ闇司祭。
蹴られた敵4・・・クローンの失敗作。
魅了された敵・・・悪魔の末裔の研究員。
国名。
オズ帝国・・・この世界の巨大帝国。元首は皇帝。
地名。
モルダイエー山脈・・・ドラゴンが多数生息する。魔十教団のアジトもある。
オズ帝国ってのは少し離れた北の大国だ。
どうしてこんな場所に居るのかと言えば、
変異型の竜毒の蔓延を防ぐ為にリティア大森林を燃やしたのに、
その功績を誇る事もなく、
誰にも語らず、
自らの胸の内に秘めるという、
この奥ゆかしい英雄的行動から少し離れた場所に飛竜で2日掛けて移動していた。
えっ?
リティア大森林を燃やしたのが怖くなって逃げたんじゃないのかって?
失敬な。
オレがそんなセコイ奴に見えるのか?
ってか、少し森が燃えたくらい、問題ないでしょ(ムカツク顔)。
リティア大森林を燃やした件はオレの中では良くある『尊い犠牲』で、とっくに片付付いてるから安心してくれていい。
何故ならオレの行動は総て正しいのだから。
というのも、
リティア大森林を燃やした直後に、飛竜に乗るオレは白昼夢というか(まあ、夜だったが)変な言葉を聞いたからな。
『・・・私は大地の女神ミーエル・・・世界は現在、女神干渉阻止の術式が覆い・・・私の祝福が歪曲されております・・・どうか、その術式を破壊して下さい・・・』
姿も見せずに、妨害された念話のような声だけを。
通常ならば、こんな変な声など無視だ。
だが、オレは竜勇者、キルト・デルレーン。
元の世界に戻るのを目的としている。
嘘かホントか分からないが、その自称女神の願いとやらも聞いてやろうじゃないの。
それにだ。
リティア大森林を燃やした直後に『これ』がきたんだぜ。
つまり、リティア大森林には女神干渉阻止の何かがあった訳だ。
ほらほらほらぁ~♪
オレのリティア大森林を燃やしたあの行動が正しかったって証明されただろう。
変異型の竜毒の蔓延を防ぐ以上に。
だって、この世界の神、大地の女神ミーエルが頼んでるんだぜ?
なっ?
オレは何も悪くなぁ~い。
大地の女神ミーエルの御指名なんだから。
行動の総てが世界に貢献する。
それがこのオレ、キルト・デルレーンなのさ。
はぁーっはっはっはっはっはっ。
◇
天気は鮮やかな快晴。
その太陽が降り注ぐ先には廃墟があり、
その城下や城には5000体を越える臭そうなゾンビが蠢いていた。
ちょっと待てえっ!
今、また『オレが何かやったな』って思っただろ?
フフン。
残念でしたぁ~。
違いますぅ~。
今回は最初から『こう』でしたぁ~(ムカツク勝ち誇った顔)。
正直な話、アシュに、
「オズ帝国には200年間以上、ゾンビが住みついてる廃墟があるらしいぜ」
と聞いて女神干渉素子の術式を探る前に、
オレはこの廃墟に足を運んでいた訳だ。
◇
因みに情報提供者のアシュは居ない。
アシュは強くする為に狩猟場に置いてきた。
戦闘力220は強い方だが、オレの部下としては雑魚過ぎるからな。
「いやいや、無理だって、ご主人様。ソロなんて」
とか言ってたが、
『可愛い弟子には試練を与えろ』だ。
それがオレの育成方針だから。
◇
『ご主人様、こんなところに来て何をする気だピョン』
影の中からのアルの念話での問いかけに、
『そんなの決まってるだろ。調査だよ、調査』
オレも念話で返事した。
因みにアルが影の中なのはオレが出る事を許さなかったからだ。
何せ、オレも今の外見は、
【変身】魔法で、リティア大森林に居たエルフの老婆の恰好を丸パクリしてるからな。
老婆に変身ってテンションが下がるよなぁ~。
これならピンクブロンドの巨乳ちゃんの方がまだマシだぜ。
なら、どうしてそんな老婆に変身したのかって?
何となくさ。
いやいや、今のはギャグじゃないから。
オレの『何となく』ってのは馬鹿にならないんだぜ?
ほら、オレって行動が総て世界に貢献する竜勇者だから、
はぁーはっはっはっはっ。
話を戻そう。
『調査って何だピョン?』
『500年以上の歴史を誇る世界最大のオズ帝国領内に200年以上前からゾンビが放置された廃墟があるんだぜ? 胡散臭いを通り越して怪しいだろうがっ! 絶対にこの場所には何かあるっ! 他の連中が探らなかったのが不思議なくらいだぜっ!』
『それであの屯してる幾千のゾンビを倒すのかピョン? ご主人様は本当暴れるのが好きだピョンね』
我が使い魔のアルよ。
おまえは人生経験が浅いな。
『あのなぁ~。そんな事する訳ないだろ』
『なら、どうするんだピョン』
『ゾンビどもが城壁の外に出ないのは聖なる結界で封じられてるからなんだぜ。ほら、オレの視覚情報で見てみろよ。周囲に聖石が嵌められた柱が何本も建ってるだろうが』
『ご主人様、まさか・・・』
『その『まさか』さ』
『いいのかピョン?』
『そんなに重要なら、ちゃんと柱の警備に人員を配置しろって話さ』
その後、オレは、
「【影沼】っ!」
聖なる結界の柱13本全部を影魔法で地中深くに沈めて、結界を排除し、
「【火炎球】っ!」
廃墟の城壁4か所に大穴を開けて、
5000体のゾンビを廃墟の外に解放したのだった。
えっ、勇者の癖に影魔法が使えるのかって?
あのなぁ~。
こっちは80年間も修行の空間に居たんたぜ?
剣の素振りばっかりだと実戦が鍛えられないだろうが。
対戦相手に一番役立つのが【土人形】と【自身の影】なんだから、【土】や【影】魔法も極めるのは普通の事なんだから。
◇
ゾンビ3500体くらいが城壁の外に出た時点で、ゾンビしかいないはずの廃墟の中から30人以上の人間が泡を食ってワラワラ出てきた。
ほらな。
何かあっただろ。
その様子を城壁の更に上の崩れていない物見台の屋上から眺めてたオレだったが、
出てきた数人がオレの方を地上で指差し、攻撃魔法を撃ってきた。
はあ?
何でいきなり攻撃魔法を撃ってくるんだよ?
今のオレはイタイケなエルフの老婆だぞ?
と思ってると、監視塔の屋上に空中ジャンプを駆使したショートカットで、戦闘力120の男がやってきた。
「ババア、貴様かぁっ? 結界を破壊してゾンビを外に逃がしたのは?」
「そうじゃよ」
ババア言葉でオレが答える。
「何者だ、名乗れ?」
と目的を問うてきたので、オレはしれっと、
「魔十教団じゃよ。我らに逆らった愚か者には死を」
そう老婆の声で言ってやった。
『何、それ?』って?
適当だよ、適当。
オレをリティア大森林でゲリピーになった竜毒をエルフに提供したり、
そのリティア大森林で変異型の竜毒を撒いた犯人にしたり、
ニッサー王国にオレを狙わせたり、
何かオレの敵みたいだからさ、その魔十教団って。
だから『大国の裏で何かやってる怪しげな組織と揉めたら面白いかなぁ~』と思って言ってみた訳だが、
「はぁぁぁ? 我らは魔教団の名を騙るだと?」
「万死に値するぞっ!」
後から追い付いてきた男達が叫んだ。
あれ、コイツラ、魔十教団だったの?
なら、見逃してやる理由はどこにもないな。
オレなんてゲリピーにさせられたんだから。
運の悪い奴ら。
ざっと敵を見渡す。
最高戦闘力が340の30人の集団か。
雑魚だな。
「失礼な。ワシも魔十教団所属じゃよ」
「嘘つけっ!」
「エルフのババアなんて知るかっ!」
「五月蠅い奴らじゃ、死ね。【氷の矢】っ!」
と魔法を使った。
氷の矢500本を30人に放つ。
一端の実力があるからか、障壁を展開して、
「そんなもんが効くか・・・ギャアアアア」
「グアアアアア」
「ゲフッ。何だ、この氷の矢は?」
瞬殺した。
何をしたのかって。
分かりやすく説明すると、氷の矢に1本を作るのに魔力を1込めるとして、オレは今回魔力を300込めて氷の矢を作ったって訳さ。
つまり1本1本の戦闘力が300って事だ。
戦闘力200以下にはキツイって事だな。
それでも数人は生きており、
「グオオオ、貴様、許さんぞっ!」
とか嘆いてたので、オレは生きてる連中の1人に、
「この廃墟の中で何をやってたんじゃ?」
「誰が言うかっ!」
ドゴッ。
否定的な事を言ったので更に蹴りを入れた。
城下にまだ居るゾンビ達にプレゼントする。
意識のあるままゾンビ達に喰われてるが、まあ、それは置いておいて。
次の生き残りに、
「何をやってたんじゃ?」
「誰が・・・」
バキッ。
「何をやってたんじゃ?」
「話す訳ないだろっ!」
ガツンッ。
「何をやってたんじゃ?」
「言うかっ!」
グシャッ。
と4人を蹴り落として地面を徘徊するゾンビにプレゼントしたところで方針を変えた。
最後のまだ生きてる奴には、
「【魅了】っ!」
オレは魅了魔法を使った。
老婆の姿とかは関係ない。
エロイ事をする訳じゃないからな。
えっ、エロイ事をすると思ったの?
ないない。
相手に好印象を持たせて情報を聞き出すだけだから。
それが本来の魅了の使い方なんだぜ。
何故か恋愛小説では令嬢が恋愛ごときに使ってるが。
「教えてくれるよな?」
「・・・ですが、言えぬ決まりですので」
「結果が伴えば『あの方』も褒めてくれるさ」
「・・・永遠様を御存知なんですか?」
永遠?
何だ、それ?
と思ったが、オレはさらりと、
「ああ、知ってるよ。昔馴染みだから。連絡を取りたかったんだが20年ぶりだったのでアジトが変わっておってね。それでここまで足を運んだ訳だが」
「・・・そうでしたか、永遠様はこちらのアジトではなく、ドラゴンの巣の洞窟の奥のアジトの方に居られますよ」
えっ。
このゾンビ廃墟に魔十教団の連中が何をしてるのかと思ったら、アジトがあった訳?
ってか、ドラゴンの巣?
そこって確か。
「この辺の地理には不案内なんだが」
「・・・北東側にグリフォンで2時間の場所にあるドラゴンの巣窟、モルダイエー山脈です。遠くから念話で話しかければ問題ないかと」
やっぱり、そこか。
「そう。で、こっちのアジトでは何をしておるのじゃ?」
「・・・生命様のクローン研究です」
クローンって。
「動力源は魔石じゃよな?」
「・・・はい、それが?」
「貯蔵量はどのくらいなんじゃ?」
「・・・3000個は常備してますが」
「ふ~ん。今、幹部は?」
「・・・居りません」
「自爆魔法の術式は?」
「・・・あります」
さすがは悪の組織。
自爆の術式があるのかよ。
備蓄してる魔石が動力かな?
「稼働させるんじゃ、今すぐに」
「・・・ですが、幹部の許可がなければ」
「クローンの研究を他人に奪われた方が拙いであろうが。ワシから生命には言っておくから」
「・・・そういう事でしたら」
【魅了】って便利だろ?
こんな適当な嘘を信じるんだから。
恋愛小説で令嬢達が多用する訳だぜ。
「じゃあ、任せたからな」
オレはそう言って【魅了】の他に【強制】魔法も掛けてから、ソイツを自爆魔法陣の起動要員として逃がしてやったのだった。
◇
さて、問題。
主級が全長50メートル、最小でも20メートルのドラゴンが500頭は生息してる山脈の洞窟の奥の巣穴にあるアジトを攻撃するにはどうすればいいか?
答え。
大魔法で遠距離から『ちゅどぉぉぉぉぉぉぉぉぉん』。
◇
そんな訳で、
飛竜に乗ったオレは2時間掛けて、そのモルダイエー山脈に出向いた。
モルダイエー山脈は岩肌の山の集合体だった訳だが、オレが放った【巨神封滅炎槍】魔法で山脈の地面を貫き、魔法が地中深くにあるマグマ層に達した事で、
『ちゅどぉぉぉぉぉん』どころか『どっかぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!』とマグマが噴火していた。
ドラゴン達は大慌てだ。
飛べるドラゴンは空を舞い、飛べないドラゴンは我先にモルダイエー山脈を駆け下りていた。
逃げ遅れたのが20匹くらいマグマに飲み込まれたが。
他はマグマで負傷しながらも逃げ遂せていた。
エルフの老婆に変身したオレは飛竜の背から山頂付近にあった洞窟の穴からマグマが溢れる様子を見て、
「脱出者は1人もなしか。魔十教団ってのも意外と大した事ないらしいな」
そう呟き、グリフォンに座ってるオレの尻から影の中からアルが、
『滅茶苦茶を通り越して、これじゃあ破壊魔だピョン』
と言ってたが、
「どこがぁ? 効率的じゃないか」
笑いながらオレは帰っていったのだった。
そうそう、オズ帝国、この後、
ゾンビのスタンピードと、
ドラゴンのスタンピードが起きて、
何か大変な事になったんだってさ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
登場人物。
戦闘力120・・・狼の獣人の男。下っ端。
蹴られた敵1・・・魔物の筋肉移植の強化人間。
蹴られた敵2・・・ハーフダークエルフ。眼鏡女。
蹴られた敵3・・・護符を大量に持つ闇司祭。
蹴られた敵4・・・クローンの失敗作。
魅了された敵・・・悪魔の末裔の研究員。
国名。
オズ帝国・・・この世界の巨大帝国。元首は皇帝。
地名。
モルダイエー山脈・・・ドラゴンが多数生息する。魔十教団のアジトもある。
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