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【夜王side】黒猫、死す

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「おい、大変だっ!」

 ソファーで惰眠を貪ってると黒猫ブラックキャットがそう叫びながら部屋に入ってきた。

 おっと、黒猫ブラックキャットはコードネームな。

 ダークエルフの男だから、黒猫ブラックキャットは。

 因みにオレは、

 種族は高貴なるヴァンパイア。

 コードネームは夜王ナイトメア・ハイロードだ。

 フッ、カッコイイだろ。

 本名はって?

 フッ、分かってないな。

 本名が分からない方がカッコイイだろうが、フッ。

「何が?」

 オレがアンニュイに尋ねると、

「リティア大森林が燃えてるんだよっ!」

「フッ、それが? あれだけ茂ってるんだ。少しくらい燃えても10年くらいで戻るだろ、フッ」

 オレがつまらなそうに答えると、

「違うっ! 森の7割以上が燃えてるんだよっ!」

「はん?」

 おっと、今のナシ。

「ーーフッ、あんなにデカイ森が燃える訳ないだろ」

「なら、見てみろよっ!」

 水晶玉を黒猫ブラックキャットに押し付けられて、仕方なくオレが水晶玉でリティア大森林の様子を確認すると、





 本当に広大な森の7割が燃えていた。





 いや、もしかしたら8割かも。

 ともかく盛大に燃えていた。

 山火事?

 それはないか。

 自然火災でこんな広範囲が燃える訳がない。

 燃えるかもしれないが、それは数日掛けてだ。

 こんなすぐに燃え広がるのは異常だ。

「これって・・・誰かがやったんだよな?」

「だろうな。魔力の痕跡がある」

「狙いは女神干渉阻止の巨大魔法陣の楔の破壊? それとも魔十教団がリディア大森林に持つアジトや研究施設? 確か5つくらいあったはずだが」

「7つだ」

「そんなに増設したのか? よくエルフどもが怒らなかったな」

 あっちのエリアはオレの担当じゃないから詳しい事は知らないが。

「エルフが不干渉なのをいい事に調子に乗って叡智ウィズダムの奴が」

 へぇ~。

「で、どこの馬鹿がこんな事を? 大地の女神を崇める狂信者か? それとも魔十教団に喧嘩を売って?」

「さあな。いや、待て。確か、リティア大森林の近くにあった魔十教団のアジトが1つ街ごと燃かれ、活動資金を奪った女が居たとの報告を受けてる。それじゃないのか?」

 何だ、魔十教団うち狙いか。

 なら余裕だな、フッ。

「魔十教団に逆らう馬鹿が出たのは久しぶりだな。フッ、オレが直々に狩ってやろう」

「いや、オレも出る。今回は笑えないから。それに魔十教団に喧嘩を売ってきたんだから勝算ありと踏んでの事だろう。アンチ魔十教団の国家連合が出来てる可能性もあるからな」

 こうしてオレと黒猫ブラックキャットは出向く事となった。





 ◇





 3日後、ようやく現場のリティア大森林に到着した。

 これでも飛竜ワイバーンを使って最速で来たからなっ!

 もう炎は消えていたが、森は焼け野原になっていた。

 リティア大森林にあった女神干渉阻止の楔は完全に破壊されていた。

 魔十教団が森の中に建設した施設7つと中に居た研究員も全滅。

 幹部の叡智ウィズダム緑帽子グリーンベレーも。

 幹部を2人も撃破されるなんて。

 冗談じゃないぞ。

 絶対に犯人を見付けて後悔させてやるっ!





 まずは犯人探しだ。

 フッ、それは簡単な作業だった。

 【過去視】をすればチョチョイのチョイで、夜空に飛竜ワイバーンに乗るピンクブロンドと奴隷の姿を確認出来たのだから。

 それよりも問題なのは、このリティア大森林を焼いた魔法の方だ。

 800年生きてる博識なオレでも見た事もない魔法だった。

 これは予想以上に拙い事態のようだ。

「何だ、この魔法の発動時に法陣? 見た事ないぞ? 炎が長い大蛇のようにウネってるし? 夜王ナイは知ってるか、この魔法?」

 普段なら短縮されたコードネームを正すところだが、

「いや、見た事もないな・・・最近開発された新魔法か?」

 と呟いた時だった。

 一陣の風が吹き、オレと黒猫ブラックキャットがそれぞれに乗る飛竜ワイバーンが真っ二つになって撃ち落とされた。

 何だ?

 眼下を見れば、エルフの老婆の姿。

 確か名前はアステルアナだっけ?

「何の真似だ、婆さん? おまえ達、リティア大森林のエルフとは不可侵協定を結んでるだろうがっ!」

 空中に浮遊する黒猫ブラックキャットの言葉に、老婆が、

「はあぁぁぁぁぁぁっ? リティア大森林を燃やして協定破りをしておいて、何を今更っ! 【風刃】っ!」

 怒髪天で風刃魔法で攻撃してきた。

「待て待て待て。オレ達じゃないぞ、なあ?」

「ああ、オレ達じゃないぞっ!」

 身体を霧にしながらオレも答えた。

「どうせ、他の幹部の仕業だろうがっ! おまえのところは頭のおかしいのが揃ってるからなっ!」

 それがエルフの老婆の言い分で、

「そんな事・・・」

 『ない』とは言えないのが悲しい。

 魔十教団の幹部は全員、わがままだから。

 まともなのはオレくらいだからな。

 そう思って、

「フッ」

 と普段通りに笑ったのが悪かった。

「やはり、おまえらじゃないかっ!」

 オレの『フッ』を見て、エルフの老婆が決め付けてきた。

「違うぞっ! 今の『フッ』は・・・」 

「【聖風竜巻陣】っ!」

「人の話を聞け・・・ギャアアアアア」

 今のは身体を霧化しても避けれず、無数の聖なる風の竜巻の先端で身体を貫かれた。

 いってぇぇぇっ!

「何してくれてるんだ、ババアっ!」

 と吠えたオレの隣で、

「ゲフッ」

 吐血したのは黒猫ブラックキャットだった。

 胸板に風穴を開けた黒猫ブラックキャットがそのまま墜落していった。

 嘘、黒猫ブラックキャットが・・・まさか、死んだ?

 こんなにあっさり?

「許さんぞ、ババアっ! 【赤闇閃光】っ!」

「許さないのはこっちだよっ! 森を焼きやがってっ! 魔十教団は皆殺しと思えっ! 【聖風竜巻陣】っ!」
 
 その後、オレは5日5晩のエルフの老婆と戦い、





 そして、遂には、

「ゲフっ・・・クソ・・・(バタッ)」

「はあはあはあ、勝てたのが不思議なくらいだ」

 オレは半殺しにされながらも、どうにかエルフの老婆を始末した訳だが、





 その時には長々とやりあった戦闘を遠くから観戦していた連中によって、魔十教団がリティア大森林を燃やした犯人とのデマを広められたのだった。





 ふざけるなぁぁぁっ!

 ゆるさんぞぉぉぉっ!

 ピンクブロンドのクソ女ぁぁぁっ!





 ◇





 登場人物。




 
 夜王・・・魔十教団の大幹部。ヴァンパイア。

 黒猫・・・魔十教団の幹部。ダークエルフ。
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