モルリント王国戦記

竹井ゴールド

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南部騒乱

内応

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 1月。

 ブラベ王宮への夜襲の後始末の為、レストはゆっくりする事が出来なかった。

 捕縛した兵士達が事情聴取をすれば、やはりモモシア領の連中だったからだ。

 だが、襲撃を画策した黒幕が分からない。

 新年に合わせるように賊軍2000人を王都ブラベに分からぬように入れ、装備一式も渡している。

 2000人分の武器と防具だ。

 それを用意するだけでも結構な資金が必要になる。

 装備を一時保管する倉庫を王都ブラベに確保するのにも、だ。

 絶対に黒幕が居る訳で、暗部や密偵、地道な調査をした。

 レストも王都ブラベから領地のトリスパル港町に移動していた。

 王都ブラベに荷を運ぶのに一番怪しまれないのはトリスパル港町からの輸送ルートなのだから。

 前にレストを嵌める為にアヘン事件の際にはトリスパル港経由の輸送ルートが使われている。

 今回も『そうだ』と思ってレストは調べさせたが、鎧は重い。

 隠して運ぶのは無理だ。

 水兵は鎧を使わないから、余計に目立つ。

 偽造書類が使われたと思ったが、鎧が運ばれた形跡はここ数カ月無く、報告を聞いたレストはガッカリしたのだった。





 ◇





 2月。

 北都シャハイネにはモンドル国軍の第2陣が到着していた。

 その数、9000人。

 総大将はブーカ族長。

 ブーカ四天王の残る2人、サイ、レッドスも引き連れている。

 ブーカ族長が率いるモンドル国軍としては9000人と少ない。

 だが、これが今のブーカ族長が動員出来る最大数だった。

 内乱で男が死にまくって、これだけしか居ないのではない。

 確かに内乱があって戦士の数は減ったが、全滅した訳ではない。

 数が少ない理由は季節が冬だからだ。

 モンドル草原の冬は雪が降り、皆、草原から動く事を嫌がる。

 それにブーカ族長は『族長殺しで親殺し』だ。

 モンドル国の騎馬民族の支持が今1つ得られてなかった。

 それでもブーカ族長が出陣したのは先発隊の8000人が敗北したからではない。

 その前の『モルリント王国がテス一党を匿ってる』との情報を得て、周囲の制止を振り切って怒り任せに出陣していた。

 その際に率いる事が出来た数が9000人だったのだ。





 対するモルリント王国軍は、先月の戦闘を終え、





 コルエーゼが率いる第1師団、3700人。

 マスレズ師団長率いる第4師団、7100人。

 サイバル・ゴクートル師団長が率いる第14師団、7400人。

 リューズ師団長率いる第12師団、6200人。





 4個師団で計2万4400人だ。





 そして東国境から移動してきたテスが鍛えたモルリント王国軍の騎兵4300人も北都シャイネに入都して待機していた。





 まともにモンドル国軍9000人と戦う必要はない。

 籠城戦をして城壁から矢射で応戦し、疲弊したところを、別の門から出たテスが鍛えた騎兵部隊を側面に突っ込ませたら勝てる。

 簡単ないくさだった。





 モルリント王国の最上の勝ち方は、





 ちゃんとこの場でブーカを殺す事だ。無論、テスが生きてる形で。





 ブーカとテスの両方が死んでもモルリント王国としてはりょうだが。





 最悪なのはテスが討ち取られて、ブーカが生き残ってモルリント王国に怨みを抱く事だった。





 ◇





 雪がぱらつく冬空の下、両軍の激突が始まった。

 モンドル国軍の兵数は9000人だ。

 全方位からシャハイネの城壁を攻める事は出来ない。

 兵を分けての3方向や2方向も無理だ。

 2方向でも4500人ずつとなり、打って出て来られたら圧倒的に不利なのだから。

 1方向、一番防御が弱い東城壁に狙いを絞って城攻めを始めた。

 四天王のサイが先陣である。

 サイの部隊は攻城戦を得意としていたので、城門に張り付いて、

「城門を破壊しろっ!」

 騎馬数頭を左右に配置した攻城兵器の破城槌で城門破壊に取り掛かるが、

「門を壊させるなっ! 連中を射殺せっ!」

 リューズ師団長が指揮する第12師団が矢の雨を降らせて破城槌を引く馬を殺させて近付く事すらさせなかった。

 それでも次の馬に引かせて破城槌を運ばせる。

「城門だ。城門さえ破ったら、モンドル国軍は巨万の富を得るのだからなっ!」

 サイが激を飛ばした。

 だが、シャテチ連合時代に首都だったシャハイネが陥落した事はない。

 シャテチ連合がシャハイネを首都に置いたのは、モンドル国軍に迅速に対応する為の意志の表れでもあったのだから。

 ようやく破城槌を城門に張り付かせるが、シャハイネの城門は鉄製だ。

 そう簡単には壊れない。

 その間にも矢が降り注く。

 あっという間にモンドル国軍は屍の山を築いた。

 何せ、本当に北都シャハイネを落とす気で9000人の騎兵が矢の射程範囲に入っていたので。

 矢の雨を城壁から降らされて、どんどんモンドル国軍の兵士は死んでいった。

 東城壁で矢の雨を降らす兵士達が少し違和感を覚えるくらいに。

 だが、相手は勇猛なモンドル国軍だ。

 城壁の上に布陣する兵士達は必死で矢を放った。

 この数時間の攻防でもうモンドル国軍は3000人が矢だけで死んでいた。





 それでもモンドル国軍のブーカが無謀な北都シャハイネ攻略を続けた。

 こんな兵を死なす無謀な城攻めを行ったのには当然、理由がある。





 数日前に北都シャハイネ側からの便が来たのだ。

 シャテチ連合の残党で、北都シャハイネを攻めて城外にモルリント王国軍の眼を引き付けてくれれば、内側から乱を起こして協力する、という内容だった。

 協力の報酬は、助命と北都シャハイネの支配権。

 北都シャハイネが陥落後、そんな約束は無視する気満々のブーカが、

「良かろう。これが助命の約束代わりの、我が配下だ、と示す水晶印だ。持っていけ」

「ははっ、ありがとうございます」

 密偵が帰った後、ブーカに向かってレッドスが、

「内と外から攻めればシャハイネと言えど陥落は間違いなし。歴代のモンドル国の族長が落とせなかったシャハイネを落とすとなれば、またブーカ様の偉業が1つ増えますな」

「まあな。ハッハッハッ。今日は前祝いとするかっ!」

 とブーカは酒を飲んだのだった。





 この密約があったが為に、内応する連中の為に無謀にもモンドル国軍は城壁に張り付いて兵の数を減らしていた訳だが、6000人に数が減らしたところで、

「まだか? これ以上はこちらが持たんぞっ!」

 そうブーカが苛立った時、歓声と共に北都シャハイネの内側の数カ所から煙が上がった。

「ブーカ様」

「おお、やったかっ! 攻め立てよ、今こそシャハイネを落とすのだっ!」

 ブーカの命令で、モンドル国軍は更に城壁へと攻め立てて、門の破壊を試みたが、ビクともせず、その間にもモンドル国軍は数を減らした。

「クソ、内側から内応してる今が好機なのにっ!」

 そしてモンドル国軍が4000人にまで減った時、遂に東門が内側から開いた。

「おおっ、内応した者が門を開けたぞっ! 突撃しろっ! シャハイネの内側に入ったらこっちのものだっ!」

 ブーカの命令で、次々と矢を浴びながらモンドル国軍は開いた東門から北都シャハイネの中へと入る。

 族長であるブーカもモンドル国軍を鼓舞する為に先頭でシャハイネに突っ込んだ。

 北都シャイネの東門を潜ったモンドル国軍を待ち構えていたのは高く積まれた半円形の袋小路の土嚢の壁だった。

 馬ではどこにも進めない。

 そして弓兵が土嚢の上に立ち、一斉に矢を放った。

「これは・・・」

 東門を潜って勝利を確信したブーカの顔色が絶望に変わる。

(内応の話は全部嘘だと? 無謀な城攻めをして無駄に兵を失ったではないか。それが狙いか、あの内応話は)

「罠だっ!」

「退け、退けっ!」

 と叫ぶが、次から次へとモンドル国軍の騎兵が東門から入ってきて引き返せない。

 矢は面白いように命中する。

 ブーカの顔にも2本の矢が刺さって、

「グアアアア」

 族長ブーカは戦死したのだった。

 その後もモンドル国軍が東門に近付く際に矢で射殺されて、矢から逃れながら東門に突っ込んでは土嚢の壁の前で射殺されていった。

 四天王のサイとレッドスも戦死。

 最後の1兵までが東門の前と中に死地に飲み込まれていき、モンドル国軍9000人はこうして本当に全滅したのだった。
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