モルリント王国戦記

竹井ゴールド

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南部騒乱

ブラベ王宮の変

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 レストは国王親衛隊であると同時に貴族様でもある。

 なので、ブラベ王宮で新年の謁見の期間中、夜勤警備は免除で、貴族区のドム伯爵邸に帰れた訳だが。

 レストはブラベ王宮内の親衛隊の宿舎で寝泊まりしていた。

 仕事熱心だからではない。

 コルエーゼの言葉を忠実に守ったのでもない。

 カール国王にゴマを揺る為でもなかった。

 真相は、屋敷に帰っても、妻2人が産後でまだ閏を共に出来ず、赤ん坊達がギャン泣きして睡眠妨害をしてくるからだ。

 正直、ブラベ王宮内の宿舎の方が眠れる、との理由で、レストはブラべ王宮に泊まり込んでいたのだった。

 本当にそれだけの理由で泊まり込んでいただけだったのだが。





 ◇





 その夜、ブラベ王宮の正門前広場に表通りから兵2000人が行進してきた。

 閉じた王宮正門の城壁の上で門を守る夜勤の兵士達は、余りに堂々と行進してきたので、賊とは思わず、

「どこの部隊だ? こんな夜中に?」

「何か聞いてるか?」

「いや」

 喋ってる間に矢で射られて、

「グアア」

「て、敵襲だっ!」

 と警笛を吹き、更には鐘で敵襲を知らせた。





 この夜襲を受けた夜、ブラベ王宮には警備が強化されて通常よりも多い兵数が常勤していた。

 だが、それ以上に特筆するべきは、





 新年なのにプラベ王宮の守備隊の幹部クラスの貴族達がやたらと王宮内に宿泊していた事だった。





 その原因がレスト・ドムである事を本人のレストだけが知らない。

 つまり、どういう事情かと言えば、

 レストは御存知、陛下のお気に入りだ。

 その上、爵位は伯爵。

 国王親衛隊員でもある。

 そんな男が新年からブラベ王宮の親衛隊の宿舎で寝泊まりしてるのに、他の下位の貴族達は屋敷に帰って、その情報がの耳に入ったら『忠誠心がない奴め』と思われるかもしれず、本心では新年なので帰りたかったがレストの所為で帰れなかったのだ。

 よって幹部達は内心でレストの事を憎みながらも渋々と新年から宿直をしていた訳だが、そこにこの夜襲を告げる鐘が鳴った、という構図である。

 その為、幹部達は、

(嘘だろ、この襲撃を知ってやがったのか、あの男?)

(いや、コルエーゼ様から何か聞いてたな、絶対に)

「ともかく敵を倒せっ!」

「そうだ、城壁を死守しろっ!」

 こうして守備隊は多数居る幹部達によって完全に統率されたのだった。





 末端兵の方も、新年ならば夜は酒が振る舞われるところを、今年は幹部達がやたらとブラベ王宮内に残った所為で酒も精々一口飲んだ程度だ。

 酔える訳もなく、内心で不満だったが、夜襲を受けて全員が万全の状態で奮闘した。





 ◇





 それらの事情のお陰で、鎧を纏ったレストがブラベ王宮の中庭に飛び出した時、まだ王宮正門は破られてはいなかった。

 応戦中である。

 レストは城壁に向かおうとしたが、ブラベ王宮の廊下から、

「レスト、おまえはオレ達と一緒に陛下のところだっ!」

 第1師団副師団長にして国王親衛隊副隊長のケロノーに声を掛けられて、

「はい、副隊長」

 20人程の一団に加わった。

 そのまま一団は後宮側に入って、カール国王の寝室まで移動した。

「失礼します」

 入室してみれば寝着のカール国王が、

「ケロノー、おまえはどちら側だ?」

 鞘から抜いた剣先を向けてきた。

「はい?」

 剣先を向けられたケロノーが驚く中、レストが即座に、

「それはないでしょ、陛下。こっちが心配して駆け付けたのに敵と疑うだなんて」

 素で文句を言うと、

「レストまで居るのか? 貴族区の屋敷から来たにしては少し早過ぎないか?」

 カール国王が懐疑心剥き出しで到着した親衛隊に警戒する中、レストが、

「王宮内の親衛隊の宿舎に泊まりましたからね」

「?」

「屋敷に帰っても生まれたばかりの赤ん坊が五月蠅いですから。こっちの方が眠れるかなぁ~って。まあ、夜襲の所為で眠れませんでしたが」

 レストの言葉を真面目に聞いていたカール国王が脱力して、

「自分の子の泣き声が五月蠅いって。レスト、おまえ、それは父親としてどうかと思うぞ」

 警戒するのも馬鹿馬鹿しい、と思ったのか剣を鞘にしまったのだった。

「で? この騒ぎは何だ、ケロノー?」

「敵襲です。正門が攻撃を受けています」

「どこの馬鹿だ?」

「そう言えば昼間、ザーク伯爵がガモハンレス公爵の動きが妙だと言ってましたよ」

 レストが報告すると、カール国王が、

「叔父上が噛んでるだと?」

 と不機嫌さを表してから、

「待て、ザーク伯爵とは言えばアヘン事件に噛んでる疑惑があったろ? レスト、それ、騙されてるぞ、おまえ。元々敵対してた奴の言う事を信じてどうする?」

「私もそう疑いましたが、ガモハンレス公爵の名前を出したので逆にどっちか分からず・・・」

「ふむ、確かにレストを騙すにしては余の王太后の実家の名前を使うのは妙だな。まあ、賊を撃退すれば分かるだろう」

 カール国王がそう判断して用意させた鎧を着始めたのだった。





 とはいえ、カール国王が前線に立ってブラベ王宮を防衛する事はない。

 つまりは親衛隊のレストも、前線に立てない、という事だ。

 『しまったぁ~、城壁に向かえば良かった』とレストは後悔したが後の祭りだった。





 その後、王宮門前広場で城壁攻略に手こずっていた賊軍2000人は王都ブラベ外周勤務の第3師団が駆け付けた事で背後から攻められ、呆気なく壊滅し、変事は簡単に収束した。





 鎧を装備して寝室から謁見室に場所を移したカール国王の許に、伝令兵が、

「報告、正門前広場に集まっていた賊の背後を第3師団の兵が攻撃。賊は一掃されました。キート第3師団長が謁見を求めておられますが、王宮門を開けてもよろしいでしょうか?」

「ああ、良かろう」

 カール国王が疑わずに二つ返事で開門を許したのはキート第3師団長が国王の古臣だからである。

 幼少期からの護衛隊長で、側近中の側近の一人だ。

 今ではもう60代でもあったが。

 しばらくしてその老将キートが現れて、

「陛下、賊を一掃致しました」

「うむ、御苦労だったな、パゼン」

「いえ、ノルより口を酸っぱく言われてたのに王宮門への攻撃を許していまい申し訳ございません」

 キートの反省を受けて、カール国王がコルエーゼの弟子扱いのレストに、

「そうなのか、レスト?」

「はい。私には『未確認情報がある』とだけしか言ってませんでしたが」

 それでレストも王宮内で宿直してたのか、と納得したカール国王が、

「なるほど。半々だった訳か。それでパゼン、賊の正体は?」

「どうもモモシア領の連中らしく」

「またかっ! あの馬鹿どもがっ! 降伏した兵に温情を与えたのは間違いだったなっ!」

 カール国王がそう吐き捨てる中、

「引き続き警戒にあたってくれ」

 こうしてこの夜襲は呆気なく決着が付いたのだった。
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