モルリント王国戦記

竹井ゴールド

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近隣諸国

廊下

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 ◇





 モルリント王国の上層部にも派閥というものが存在する。

 主だったものは、





 国王派。

 前王派。

 南都派。

 北都派。





 なのだが、

 その国王派1つ取っても、





 国王が重用する側近派。

 第2王子時代、モズーヤ侯爵時代から仕えていた古臣派。

 モズーヤ侯爵時代の所領が近隣で付き合いのあった北部諸侯派。

 シャテチ連合侵攻時に合流したカイ頭領率いるカイ派。

 リト王太子即位反対の立場でカールを国王に推した軍閥派。

 王都カモント奪還戦時に合流した貴族、騎士公の旧国派。

 王都カモント奪還後に服従した日和見の旧国派。





 男だけでもこれらとなった。





 その中でもレストは側近派に堂々と位置すると同時に、軍閥派にも属さない孤高の、





 王家に血が連なる妻を娶った身内派。





 という立場だった。





 ◇





 モルリント王国暦126年9月。

 レシット辺境国の海賊退治で堅十字勲章を貰ったレストはブラベ王宮の参謀府で未だにコルエーゼの補佐官として勤めていた訳だが、そのレストの最近の悩みは、

「これはドム伯爵、ゼル港での活躍、聞いておりますぞ」

 このように気軽に話し掛けてくるモルリント王国の大物が増えるも、誰か分からないという事だった。

 現在も師団長服を纏った軍幹部に気軽にブラベ王宮の廊下で話し掛けられていた。

 町を焼いた事を遠回しに嫌味で言われてる訳ではない。

 本当に讃辞だった訳だが。

「いえいえ」

 レストは否定しながらも、『誰? 新顔だよな? 初対面だよな?』と50代の髭面の顔を見ながら記憶をフル回転させる破目になっていた。

 軍服は間違いなく師団長服。

 大幹部様だ。

 当然、1人な訳もなくブラベ王宮の廊下に3人も軍人を引き連れており、それらの顔触れにヒントはないか、と見渡し、

「ぶふっ!」

 その内の1人の顔を見て、レストは吹き出した。

「ベンデ教官? 何をしてるんッスか?」

 軍隊学校の言葉使いでレストは驚く。

 ベンデは、バレたか、という顔をしながらも気を取り直して、

「ドム伯爵に置かれましてはお変わりなく」

「止めて下さいよ、気持ちの悪い。レストで結構ですから」

「いえいえ、もう伯爵様ですので」

 ベンデが敬語で話してくる中、名前の分からない師団長が、

「ベンデを御存知なので?」

「軍隊学校時代の恩師です。実はこう見えて卒業も危ぶまれるくらいの問題児でして、教官にはそれはもう迷惑を掛けた次第でして」

「自分で言うな・・・コホン、失礼。何でもありません」

「教官は今は何を?」

「第11師団で部隊長を率いております」

 その言葉でレストはようやく名前の分からない師団長の名前に気付いた。

 第11師団長、リチャード・ミル。

 旧シャテチ連合のモルガ派のレレズ守備隊長という経歴を持つ。

 第2都市攻略を担当した右軍のカール国王が気に入ったのと、軍部が出身地域のバランスを考えて承認した事で師団長に収まった男だった。

 レストとの面識はゼロだ。

 あり得ないと思いきや、今のモルリント王国は大国なのでこんな事もあり得た。

「モモシア王国の侵攻時も?」

「はい」

「だとすると、王都モモル戦の大活躍を陛下に褒められたのでしょうね?」

「それが平定後のモモシア領のスイラの街で大規模な反乱を許してしまい怒られてきたところでして」

 嫌そうな顔でミル師団長が答える中、レストが素で、

「えっ? それって統治に失敗した現地の文官のミスでしょ? もしくは他国の扇動? なのに、どうしてミル師団長が怒られたんです? 少し理不尽なんじゃ・・・」

 レストの言葉を掻き消すようにベンデが、

「ゴホン、ゴホン」

 と白々しく大きな咳払いをして、レストが意図に気付かず、

「? 風邪ですか?」

 ベンデが小声で、

「違うわ。陛下の裁定に異議を唱えるな」

 と忠告したので、レストも、なるほど、と理解して、

「ミル師団長、申し訳ございません。おそらくは、それ、オレの所為です」

「?」

「海賊に火計を使用してゼル港に少し被害を出したのですが、ブラベ王宮での報告の際に陛下が私を怒らずに笑われて、その場に居た幹部達が渋い顔をしていましたから。後で何か言われて今回、怒る演技をされたのでしょう」

「怒る演技ですか?」

「だって、ミル師団長ってレレズ降伏時に上手くやったんですよね? 当時、右軍指揮官だった陛下相手に?」

「別に上手くは・・・ええっと、私ってそういう認識なので?」

「オレはそう思ってました。だって経歴は申し分ないとはいえ、降伏後にいきなりレレズ守備隊長に抜擢で、カモント奪還戦に参加せずに師団長に昇格ですもん。モモシア戦ではサルベ砦での防衛側ではなく、王都モモル侵攻の別動隊でそれも手柄が立てれる先陣。事実、モモシア王族を一網打尽にされてますし。あれ、もしや手柄を立て過ぎた?」

「それは・・・ありえますな。少し気を付けます」

「いえいえ、そこは陛下の為にもっと手柄をお立て下さい。シャテチ連合出身でも出世出来ると周囲に示す為に」

「なるほど。では、我々はこれで」

「ええ、失礼します」

 レストはこうしてミル師団長の一団と別れて廊下を歩き出したのだった。
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