モルリント王国戦記

竹井ゴールド

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カイラス

金の延べ棒

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 トリスパル港町を拝領した裏にそんな事情があったとは知る由もないレストは総督府内を精力的に歩き回った。

 探検といった方が適切だが。

 まだ20歳なのだ。

 童心が抜け切っていないので。

 そして洗濯室なる場所に出た。

 総督府の洗濯物を一手に洗う場所である。

 水に洗濯物を付けての踏み洗いだ。

 但し、現在は12月。

 水も冷たい。

 レストは老婆達が踏み洗いをしてる姿を見て、

「お湯は貰えないのか、お婆さん?」

 思わず質問した。

「はい、お湯は貴重ですから」

「色街の娼館でも冬はお湯を貰えたぞ」

 子供時代に踏み洗いをした経験のあるレストが呆れて、

「わかった、改善させよう」

 レストはそう言って、本当にその日の内から改善させたのだった。





 一般職員用の厨房にも入った。

 大量の料理を作ってる。

 総督府で働く兵士や文官が食べる料理だ。

「これは見回り御苦労様です、総督様」

「作り過ぎた料理は捨ててないよな?」

「無論です。美味しくいただいてます」

「なら結構。最悪、貧民区にくれてやるように」

「はい」

 レストはそう言って、満足そうに別の場所を探検したのだった。





 探検は数日続いた。





 そして探検3日目。

 暇な時間に探検をして総督府の搬入口に出た時の事だ。

 荷を積んだ馬車が搬入したところで、

「御苦労さん、この麻袋の中は何だ?」

「小麦です」

 と馭者席から石畳の地上に降りてた馭者がさらりと答えた瞬間、レストは剣をシャキンと抜いて馭者の首筋に当てた。

「ヒィエエエ、何ですか?」

「小麦な訳がないだろ。このオレに荷馬車の軋みで積み荷の重量が見分けられないと本気で思っていたのか? 衛兵を呼べっ! 荷を改めさせろ」

 レストは領主になったので1人で出歩けず護衛の騎士が付いて回っていたのだが、その騎士に指示して衛兵が集められた。

 麻袋の中身が改められる。

 ちゃんと小麦が入ってたが、小麦だけではなく金の延べ棒も入っていた。

 小麦の麻袋は全部で30袋。

 その全部に金の延べ棒が5本ずつ仕込まれており、金の延べ棒の数は150本にもなった。

「何だ、これは?」

 捕縛された馭者に問うと、馭者は青ざめながら、

「し、知りません」

「食糧庫の中も改めろ」

 とのレストの命令で改めたら、食糧庫の中に積まれた少量の小麦袋からも金の延べ棒が出て、あっという間に金の延べ棒は200本以上になったのだった。

「もしかして総督府を金庫代わりに使ってる奴が居るのか?」

 レストは呆れながら眼を細めたのだった。





 ◇





 金の延べ棒が発見された夜の事だ。

 レストは妻のソフィーフィと寝てる訳だが、愛し合って眠りに付き、気付いた時には寝室のベッドの脇にソイツが立っていた。

 別に剣等々は所持していない。

「何、おまえ?」

「金の延べ棒の持ち主の使いです。返していただきたく」

「返すのはいいが、オレの取り分は貰えるんだよな? 総督府を勝手に使用してたんだから当然? 裏社会の勢力のお願いを聞いた時の貴族のピンパネの代金は折半だっけ?」

「お待ちを。金の延べ棒109本はさすがに無理です」

「じゃあ、何本ならいいんだ?」

「ええっと、延べ棒10本で」

「嘘だよな? オレ、貴族だぞ? 不敬罪って奴だろ、どう考えても」

「ですが、持ち主が・・・」

「世間知らずの主に仕えると大変だな」

 レストがしみじみと同情して、

「仕方ない。今回は許してやるよ。但し、1コ貸しだと伝えろ。金の延べ棒200本分の貸しだと」

「はい」

「後、雇い主とおまえの両方に1コ貸しだからな」

「そうなのですか?」

「寝室に入ってきた奴を見逃すんだから当然だろう」

「私もアナタ様を殺しませんでしたが?」

 なんて男がナメた事を言ったので、会話の流れが変わった。

 レストがきょとんと、

「えっ、無理だろ、おまえじゃあ」

「何なら試してみます?」

 と男が挑発的な事を言った瞬間に首元に短剣の刃が薄く触れた。

 レストじゃない。

 背後から回り込んだ手が持つ短剣だった。

 つまり背後に誰か居る。

 その事に初めて気付き、

「なっ?」

 男が驚く中、背後から面倒臭そうに、

「ああ、動くな、動くな。ドム様、殺していいですか、コイツ?」

 男の声だった。

 存在を知っていたのかレストが、

「出来れば生け捕りで」

「どうせ、何かを喋る前に自決しますよ」

 との会話の間に、短剣を首筋に当てられた男が動こうとしたので、背後の男は遠慮なく男の首に短剣を突き刺して殺したのだった。

「ちょ、寝室で血を流すなよな」

 それがレストの言葉だ。

「仕方ないでしょ。暴れたんですから」

「で、どうして部屋まで入れたのかな?」

「気付いた時にはドアを開けてて」

「ったく。お掃除、お願いね」

「はい」

 その後、何事もなくレストは眠ったのだった。
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