42 / 80
リト・モルリント王国の消滅
後に判明するリントス新王の暗殺とすり替え
しおりを挟む
モルリント王国暦125年5月。
リト新王が暗殺されたリト・モルリント王国の王都カモントでは、新王に息子のリントスが即位した。
死んだリト前王と王太后となったエテシア前王妃の政略結婚が9年前なのだ。
リントスはまだ6歳の子供だった。
当然、政が取り仕切れる訳もなく重臣に丸投げな訳だが、リントス新王の即位に合わせて、そのリト・モルリント王国の主要な役職は総てオトルレン皇国出身者に一新される事となった。
もう完全なオトルレン皇国によるリト・モルリント王国の乗っ取りに他ならない。
辛うじてリト新王に味方していた貴族達が政権から追い出されたのだから、それはもう大顰蹙である。
そうでなくても、リントス新王はリト前の子供じゃない、との噂が立ってるのだ。
内乱まで秒読み態勢に入っていた。
◇
モルリント王国の建国は今年で125年となるが、カモント王宮の歴史はまだ80年だ。
建国後にカモントの地に王宮を建築し始めたのだから。
そして王宮には当然、 秘密の隠し通路も存在した。
建築当時の者はもう生きてはいないが、それでも隠し通路の噂はまことしやかにあり、
ある夜、その隠し通路を使って暗殺者がカモント王宮に現れた。
それもその暗殺者はリト前王の親衛隊長マイケル・ブランドだった。
れっきとした貴族で、先代と後継の兄がアスレド平原の戦いで戦死した為、ブランド家を継ぎ、伯爵となった男である。
なのに、暗殺者の真似事をしていた。
ブランドは親衛隊長だったにも関わらず、昼間から飲酒するリト国王に変わってその変事の時、オトルレン皇国の幹部達と食糧問題で折衝をしていて守れなかった。
その為、国王親衛隊長だった癖にリト国王を守れなかったブランドに対する風当たりは強い。
リト国王派閥の者達から非難轟々だった。
その上、リントス新国王が、リト前王の子供じゃない、との噂が浮上。
そんな事、露とも疑っていなかったが、リト前王を殺害したあの男は今思い返せば本当に王妃にベッタリだった。
というか、リト前王を殺害した護衛騎士ボートスはまだ死んでないどころか、捕縛もされていない。
直後にオトルレン皇国軍に保護されて、そのままオトルレン皇国へ出奔しているのだから。
総ては属国宣言の所為である。
もうオトルレン皇国とリト・モルリント王国は対等ではないのだ。
国王を殺され、その下手人が引き渡されずに逃げ遂せる。
通常ならば戦争にまで発展する事案だが、王都カモントはオトルレン皇国軍14万人に占拠されていて戦争も出来ない。
お陰でカモント王宮から護衛騎士ボートスを取り逃がした親衛隊長のブランドへの風当たりは更に強く、もう何かをしなければ挽回出来ないくらいまで失墜しており、遂には暗殺殺者の真似などという行動に出ていた。
ブランドは王族のみが知る隠し通路の存在をリト前に教えられて知っており、暗殺者としてやってきていた。
狙いは毒婦エテシア前王妃とリントス新王の命である。
ブランドは隠し通路からエテシア前王妃の寝室へと出たが、隠し通路は隠し通路なだけだ。
隠し扉が開く際の音までは配慮されていない。
ガコッとの音が鳴って、ブランドはヒヤヒヤしたが、それでも入室した。
天蓋のレースカーテンを開いてベッドを見ると、リントス新王は寝ていたが、添い寝をしていた女はエテシア前王妃ではなかった。
若い乳母だ。
ブランドの右手には剣、左手には燭台に刺さった蠟燭の明かりがある。
当然だ。
隠し通路は窓のない真っ暗闇。
明かりがなければ移動は無理だ。
それにこの暗殺は失敗が許されない。
目標の確認は必須で、灯りは不可欠だった。
だが、その蠟燭の灯りの所為で添い寝をしていた乳母が眼を覚ました。
「えっ? 誰ですか? だ、誰かぁっ! 賊よっ!」
「ちぃっ! 運のない女めっ!」
ブランドは剣でその女を暗殺し、返す刀でリントス新王に向けたが、そこで剣を止めた。
当初の予定ではエテシア前王妃に真相を聞き出し、『噂通りならば殺害』の予定だったのだから。
一瞬、連れ去るかどうか迷ったブランドの眼の前で、リントス新王が眼を覚ます。
眼がブランドと合った。
不思議そうにキョトンと見てる中、
(ええぇいっ! ままよっ!)
迷った状態でブランドはリントス新王を暗殺して、隠し通路から逃げていったのだった。
◇
だが、この暗殺が明るみになるのは後日である。
何故ならば、カモント王宮を完全に支配下においていたオトルレン皇国側が一番に発見して早々に隠蔽したのだから。
エテシア前王妃は我が子が死んで半狂乱だったが、リト前王の死を悼んでる、と偽装し、その間に、赤毛の似てる子供を何らかの方法で用意し、
そして、その子供をリントス新王として担ぎ上げたのだから。
王子ならともかく国王のすり替え。
カール・モルリント王国の国王即位式に続いて、前代未聞の事が続いた。
リト新王が暗殺されたリト・モルリント王国の王都カモントでは、新王に息子のリントスが即位した。
死んだリト前王と王太后となったエテシア前王妃の政略結婚が9年前なのだ。
リントスはまだ6歳の子供だった。
当然、政が取り仕切れる訳もなく重臣に丸投げな訳だが、リントス新王の即位に合わせて、そのリト・モルリント王国の主要な役職は総てオトルレン皇国出身者に一新される事となった。
もう完全なオトルレン皇国によるリト・モルリント王国の乗っ取りに他ならない。
辛うじてリト新王に味方していた貴族達が政権から追い出されたのだから、それはもう大顰蹙である。
そうでなくても、リントス新王はリト前の子供じゃない、との噂が立ってるのだ。
内乱まで秒読み態勢に入っていた。
◇
モルリント王国の建国は今年で125年となるが、カモント王宮の歴史はまだ80年だ。
建国後にカモントの地に王宮を建築し始めたのだから。
そして王宮には当然、 秘密の隠し通路も存在した。
建築当時の者はもう生きてはいないが、それでも隠し通路の噂はまことしやかにあり、
ある夜、その隠し通路を使って暗殺者がカモント王宮に現れた。
それもその暗殺者はリト前王の親衛隊長マイケル・ブランドだった。
れっきとした貴族で、先代と後継の兄がアスレド平原の戦いで戦死した為、ブランド家を継ぎ、伯爵となった男である。
なのに、暗殺者の真似事をしていた。
ブランドは親衛隊長だったにも関わらず、昼間から飲酒するリト国王に変わってその変事の時、オトルレン皇国の幹部達と食糧問題で折衝をしていて守れなかった。
その為、国王親衛隊長だった癖にリト国王を守れなかったブランドに対する風当たりは強い。
リト国王派閥の者達から非難轟々だった。
その上、リントス新国王が、リト前王の子供じゃない、との噂が浮上。
そんな事、露とも疑っていなかったが、リト前王を殺害したあの男は今思い返せば本当に王妃にベッタリだった。
というか、リト前王を殺害した護衛騎士ボートスはまだ死んでないどころか、捕縛もされていない。
直後にオトルレン皇国軍に保護されて、そのままオトルレン皇国へ出奔しているのだから。
総ては属国宣言の所為である。
もうオトルレン皇国とリト・モルリント王国は対等ではないのだ。
国王を殺され、その下手人が引き渡されずに逃げ遂せる。
通常ならば戦争にまで発展する事案だが、王都カモントはオトルレン皇国軍14万人に占拠されていて戦争も出来ない。
お陰でカモント王宮から護衛騎士ボートスを取り逃がした親衛隊長のブランドへの風当たりは更に強く、もう何かをしなければ挽回出来ないくらいまで失墜しており、遂には暗殺殺者の真似などという行動に出ていた。
ブランドは王族のみが知る隠し通路の存在をリト前に教えられて知っており、暗殺者としてやってきていた。
狙いは毒婦エテシア前王妃とリントス新王の命である。
ブランドは隠し通路からエテシア前王妃の寝室へと出たが、隠し通路は隠し通路なだけだ。
隠し扉が開く際の音までは配慮されていない。
ガコッとの音が鳴って、ブランドはヒヤヒヤしたが、それでも入室した。
天蓋のレースカーテンを開いてベッドを見ると、リントス新王は寝ていたが、添い寝をしていた女はエテシア前王妃ではなかった。
若い乳母だ。
ブランドの右手には剣、左手には燭台に刺さった蠟燭の明かりがある。
当然だ。
隠し通路は窓のない真っ暗闇。
明かりがなければ移動は無理だ。
それにこの暗殺は失敗が許されない。
目標の確認は必須で、灯りは不可欠だった。
だが、その蠟燭の灯りの所為で添い寝をしていた乳母が眼を覚ました。
「えっ? 誰ですか? だ、誰かぁっ! 賊よっ!」
「ちぃっ! 運のない女めっ!」
ブランドは剣でその女を暗殺し、返す刀でリントス新王に向けたが、そこで剣を止めた。
当初の予定ではエテシア前王妃に真相を聞き出し、『噂通りならば殺害』の予定だったのだから。
一瞬、連れ去るかどうか迷ったブランドの眼の前で、リントス新王が眼を覚ます。
眼がブランドと合った。
不思議そうにキョトンと見てる中、
(ええぇいっ! ままよっ!)
迷った状態でブランドはリントス新王を暗殺して、隠し通路から逃げていったのだった。
◇
だが、この暗殺が明るみになるのは後日である。
何故ならば、カモント王宮を完全に支配下においていたオトルレン皇国側が一番に発見して早々に隠蔽したのだから。
エテシア前王妃は我が子が死んで半狂乱だったが、リト前王の死を悼んでる、と偽装し、その間に、赤毛の似てる子供を何らかの方法で用意し、
そして、その子供をリントス新王として担ぎ上げたのだから。
王子ならともかく国王のすり替え。
カール・モルリント王国の国王即位式に続いて、前代未聞の事が続いた。
0
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
勝手に召喚しておきながら神様の手違いでスキル非表示にされた俺が無能と罵られ国を追放された件
モモん
ファンタジー
スキルなし。
それは単なる手違いだった。
勝手に召喚しておきながら無能と罵られ無一文で国を追放された俺。
だが、それはちょっとした手違いでスキルを非表示にされただけだった。
最強スキルで異世界ライフ開始‼
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
伊賀忍者に転生して、親孝行する。
風猫(ふーにゃん)
キャラ文芸
俺、朝霧疾風(ハヤテ)は、事故で亡くなった両親の通夜の晩、旧家の実家にある古い祠の前で、曽祖父の声を聞いた。親孝行をしたかったという俺の願いを叶えるために、戦国時代へ転移させてくれるという。そこには、亡くなった両親が待っていると。果たして、親孝行をしたいという願いは叶うのだろうか。
戦国時代の風習と文化を紐解きながら、歴史上の人物との邂逅もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる