モルリント王国戦記

竹井ゴールド

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リト・モルリント王国の消滅

後に判明するリントス新王の暗殺とすり替え

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 モルリント王国暦125年5月。

 リト新王が暗殺されたリト・モルリント王国の王都カモントでは、新王に息子のリントスが即位した。

 死んだリト前王と王太后となったエテシア前王妃の政略結婚が9年前なのだ。

 リントスはまだ6歳の子供だった。

 当然、まつりごとが取り仕切れる訳もなく重臣に丸投げな訳だが、リントス新王の即位に合わせて、そのリト・モルリント王国の主要な役職は総てオトルレン皇国出身者に一新される事となった。

 もう完全なオトルレン皇国によるリト・モルリント王国の乗っ取りに他ならない。

 辛うじてリト新王に味方していた貴族達が政権から追い出されたのだから、それはもう大顰蹙である。

 そうでなくても、リントス新王はリト前の子供じゃない、との噂が立ってるのだ。

 内乱まで秒読み態勢に入っていた。





 ◇





 モルリント王国の建国は今年で125年となるが、カモント王宮の歴史はまだ80年だ。

 建国後にカモントの地に王宮を建築し始めたのだから。

 そして王宮には当然、 秘密の隠し通路も存在した。

 建築当時の者はもう生きてはいないが、それでも隠し通路の噂はまことしやかにあり、





 ある夜、その隠し通路を使って暗殺者がカモント王宮に現れた。

 それもその暗殺者はリト前王の親衛隊長マイケル・ブランドだった。

 れっきとした貴族で、先代と後継の兄がアスレド平原の戦いで戦死した為、ブランド家を継ぎ、伯爵となった男である。

 なのに、暗殺者の真似事をしていた。

 ブランドは親衛隊長だったにも関わらず、昼間から飲酒するリト国王に変わってその変事の時、オトルレン皇国の幹部達と食糧問題で折衝をしていて守れなかった。

 その為、国王親衛隊長だった癖にリト国王を守れなかったブランドに対する風当たりは強い。

 リト国王派閥の者達から非難轟々だった。

 その上、リントス新国王が、リト前王の子供じゃない、との噂が浮上。

 そんな事、露とも疑っていなかったが、リト前王を殺害したあの男は今思い返せば本当に王妃にベッタリだった。

 というか、リト前王を殺害した護衛騎士ボートスはまだ死んでないどころか、捕縛もされていない。

 直後にオトルレン皇国軍に保護されて、そのままオトルレン皇国へ出奔しているのだから。

 総ては属国宣言の所為である。

 もうオトルレン皇国とリト・モルリント王国は対等ではないのだ。

 国王を殺され、その下手人が引き渡されずに逃げおおせる。

 通常ならば戦争にまで発展する事案だが、王都カモントはオトルレン皇国軍14万人に占拠されていて戦争も出来ない。

 お陰でカモント王宮から護衛騎士ボートスを取り逃がした親衛隊長のブランドへの風当たりは更に強く、もう何かをしなければ挽回出来ないくらいまで失墜しており、遂には暗殺殺者の真似などという行動に出ていた。





 ブランドは王族のみが知る隠し通路の存在をリト前に教えられて知っており、暗殺者としてやってきていた。

 狙いは毒婦エテシア前王妃とリントス新王の命である。





 ブランドは隠し通路からエテシア前王妃の寝室へと出たが、隠し通路は隠し通路なだけだ。

 隠し扉が開く際の音までは配慮されていない。

 ガコッとの音が鳴って、ブランドはヒヤヒヤしたが、それでも入室した。

 天蓋のレースカーテンを開いてベッドを見ると、リントス新王は寝ていたが、添い寝をしていた女はエテシア前王妃ではなかった。

 若い乳母だ。

 ブランドの右手には剣、左手には燭台に刺さった蠟燭の明かりがある。

 当然だ。

 隠し通路は窓のない真っ暗闇。

 明かりがなければ移動は無理だ。

 それにこの暗殺は失敗が許されない。

 目標の確認は必須で、灯りは不可欠だった。

 だが、その蠟燭の灯りの所為で添い寝をしていた乳母が眼を覚ました。

「えっ? 誰ですか? だ、誰かぁっ! 賊よっ!」

「ちぃっ! 運のない女めっ!」

 ブランドは剣でその女を暗殺し、返す刀でリントス新王に向けたが、そこで剣を止めた。

 当初の予定ではエテシア前王妃に真相を聞き出し、『噂通りならば殺害』の予定だったのだから。

 一瞬、連れ去るかどうか迷ったブランドの眼の前で、リントス新王が眼を覚ます。

 眼がブランドと合った。

 不思議そうにキョトンと見てる中、

(ええぇいっ! ままよっ!)

 迷った状態でブランドはリントス新王を暗殺して、隠し通路から逃げていったのだった。





 ◇





 だが、この暗殺が明るみになるのは後日である。

 何故ならば、カモント王宮を完全に支配下においていたオトルレン皇国側が一番に発見して早々に隠蔽したのだから。

 エテシア前王妃は我が子が死んで半狂乱だったが、リト前王の死を悼んでる、と偽装し、その間に、赤毛の似てる子供を何らかの方法で用意し、





 そして、その子供をリントス新王として担ぎ上げたのだから。





 王子ならともかく国王のすり替え。

 カール・モルリント王国の国王即位式に続いて、前代未聞の事が続いた。
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