モルリント王国戦記

竹井ゴールド

文字の大きさ
上 下
38 / 80
シャテチ連合の滅亡

首都シャハイネ制圧

しおりを挟む
 5月。

 カールの新王即位から1月の間にシャテチ連合の北部は呆気なく、カール・モルリント王国軍の手に落ちていた。





 落ちた原因は前3頭領の署名入りの命令書である。

 すなわち、王都カモント決戦5日目の昼に3人が署名した、





「留守役のイストン大臣に特別に全権を委ねる」





 という例の書状である。

 その書状を持った伝令兵はモルリント王国の王都カモントからシャテチ連合本国を目指したが途中で密かに回り込んでいたコルエーゼが率いる別動隊に捕縛されて、書状はそのままコルエーゼの手に落ちていた、という顛末だったのだが。

 この命令書は、本物の命令書だったので、タチが悪かった。

 あの時、3頭領達は死ぬとは思っておらず、命令書はレシット辺境国の略奪部隊の排除を意味していたのだが、それだけに限定したら一々何度も確認の伝令が来て面倒臭い。

 その為、『臨機応変に対処しろ』との意味で『全権を委ねた』のだが、3頭領が死んだ今となっては、その命令書は後継指名となっていたのだ。





 ◇





 そんな訳で、その遺言書がシャテチ連合の首都シャイネに届いた日には大騒ぎとなった。

 前3頭領が戦死したのは去年の11月で、現在は年を跨いだ4月だ。

 5ヶ月が経過しており、ようやく苛烈な権力争いの末、新3頭領の選出が済んでいたのだから。

 新3頭領とは、





 遠縁で血が微かに繋がっており、モルガの家名を継ぎ、モルガ派の継承者となったマイケル・モルガ。

 ベイ派の継承者となったフラズ・カイ。

 ルパンガ派の継承者となったスルントス。





 だった。





 そして、後継指名を受けていたイストン大臣はこの時、既に後継争い負けて死んでいた。





 イストン大臣を殺したのはフラズ・カイである。

 その命令書を見たその日の内にフラズ・カイは側近達と首都シャハイネから出奔。

 カール・モルリント王国の首都となったブラベに辿り着いて降伏した。

 4月の新王即位式の僅か5日後の事である。





 フラズ・カイの出奔を受け、首都シャハイネに残された2人の頭領はこの事態をどう思ったのか。

 決まってる。

「もう1人を排除したら、自分がこの国の王だ」

 である。

 マイケル・モルガは暗殺者を派遣する方法を考えてたが、スルントスの方はもっと野蛮で行動的だった。

 軍隊で首都シャハイネを制圧して、捕縛したマイケル・モルガを満面の笑顔で、

「悪いな」

「貴様ぁぁっ! グアアアアア」

 とスルントスが自らの手で公開処刑にしたのだから。

 これは完全な悪手である。

 モルガ頭領を殺害する正当な理由がなかったのだから。

 その為、スルントスの独裁とはなったが、滅茶苦茶だ、と人心は完全に離れていた。

 同派閥のルパンガ派からも、である。

 そこに南半国を切り取ったカール・モルリント王国軍の北上である。

 モルリント王国軍内に居るフラズ・カイが書状を連発するのでベイ派はことごとく降伏。

 マイケルを殺されたモルガ派も途中で降伏路線に舵を切ったので、ルパンガ派だけが孤軍奮闘したが、頭領のスルントスには人望がない。

 旗色が悪い、と悟るとルパンガ派からも脱走や降伏者が続出。

 いくさと呼べる戦いは首都シャハイネ決戦だけだったが、この時にはもう内応者が続出で、状況打開と人気回復の為にスルントスが4万の兵を率いて首都シャハイネから討って出るも、ベイ派とモルガ派の兵を吸収して4万に膨れ上がったカール・モルリント王国軍は柵を張り巡らせて矢で応戦するのみ。

 夕方になって首都シャハイネ内に戻ろうとしたら、城門が閉じており、

「何の冗談だ? さっさと開けろ」

 と叫ぶスルントスに、守備隊を任せていた将軍コーズから、

「誰にでも噛み付く狂犬に尻尾を振る者はこのシャハイネにはもういないんだよっ!」

 その言葉と共に矢が射掛けられて、裏切りが発覚。

 仕方なく転進したが、食糧なしだ。

 それに夜になると同時に兵士達が脱走。

 人気の無さも手伝って、一夜明けたら、手元に残った兵数は4000人になっていた。

 もう戦えない事を悟ったスルントスが降伏を申し出るも、リガロ軍事総長が武功が欲しかった事や、フラズ・カイによる『スルントスは手に負えない狼です。必ず叛旗を翻すかと』等々の要因が重なって、見せしめにそのシャテチ連合軍4000人はカール・モルリント王国軍4万人に討たれ、あっさりと勝利。

 首都シャハイネ自体は無血開城をしてカール・モルリント王国軍を迎え入れたのだった。





 こうしてカール・モルリント王国がそのままシャテチ連合の領土の大半を継承した。

 それがモルリント王国暦125年5月の出来事である。





 ◇





 因みにレストは参戦せずに留守番となり、新王都ブラベに居た。

 ブラベ王宮の参謀府で仕事をしていたら、衛兵が、

「ドム男爵のご夫人がお目通りを願って王宮の門前に来られてますが?」

「そう言えばコモーズ城に来てたって報告があったな」

 レストはそう思い出しながら、王宮の門前に出向くと本当にソフィーフィが居た。

「ソフィーフィ」

「旦那様」

 お互いの再会を喜び、新婚らしく抱き合う中、

「カモント王宮が落ちる前にコモーズ城に来てたよな? どうしてだ?」

「それが3月の段階で拝領した領地から農民が大量に逃げたと報告があり、これって露見したら拙い情報でしょ。なので直接、旦那様に伝えに来たんです。モトリー城に居ると聞いていたので騎士団と交渉して輸送部隊の人達と一緒に馬車で。そしたらモトリー城に旦那様が居らず、参謀府はコモーズ城に移った、と教えて貰ったので、コモーズ城に出向いたら旦那様は居ず、王都カモントが陥落したって情報が流れて、それで即位されたカール第2王子が居られる新王都の方へ」

(何だ。オトルレン皇国軍の侵攻を予見したからじゃなくて、偶然なだけか。まあ、行動力があるのは認めるが)

 とレストは思いながら、

「でも良かったよ、ソフィーフィが無事で」

 そうレストは笑い、ブラベ王宮内にソフィーフィを案内したのだった。





 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇





 登場人物。

 レスト・・・ドム男爵。コルエーゼ参謀付き補佐官。

 コルエーゼ・・・参謀府参謀。伯爵。失脚はモルリント王国暦120年。

 アマンド・・・大臣。参謀府参謀を兼務。子爵後継。

 ソフィーフィ・・・レストの妻。

 カール・・・モズーヤ侯爵。第2王子で臣籍降下した。右軍の隊長。

 ゴクートル・・・軍事総長。前国王親衛隊長。中央軍の隊長。

 グロバー・・・参謀長。ゴクートルの軍事総長昇格で国王親衛隊長も兼務。

 グダン・・・参謀府参謀。第2大隊長を兼務。侯爵。

 セーヒ・・・侯爵。中央軍の副隊長。妻は国王の妹。

 チャル・・・第4都市ブラベの隊長。モルガ派。

 リョーガン・・・第4都市ブラベの隊長。ベイ派。

 サイ・・・第4都市ブラベの隊長。ルパンガ派。コルエーゼの義兄弟(虚偽)。

 グロス・・・セーヒ侯爵家の長男。母親は王族。カールの従弟。王位継承権あり。

 マイケル・モルガ・・・シャテチ連合の新3頭領の1人。

 スルントス・・・シャテチ連合の新3頭領の1人。

 コーズ・・・シャテチ連合の将軍。スルントスの部下。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勝手に召喚しておきながら神様の手違いでスキル非表示にされた俺が無能と罵られ国を追放された件

モモん
ファンタジー
スキルなし。 それは単なる手違いだった。 勝手に召喚しておきながら無能と罵られ無一文で国を追放された俺。 だが、それはちょっとした手違いでスキルを非表示にされただけだった。 最強スキルで異世界ライフ開始‼

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

伊賀忍者に転生して、親孝行する。

風猫(ふーにゃん)
キャラ文芸
 俺、朝霧疾風(ハヤテ)は、事故で亡くなった両親の通夜の晩、旧家の実家にある古い祠の前で、曽祖父の声を聞いた。親孝行をしたかったという俺の願いを叶えるために、戦国時代へ転移させてくれるという。そこには、亡くなった両親が待っていると。果たして、親孝行をしたいという願いは叶うのだろうか。  戦国時代の風習と文化を紐解きながら、歴史上の人物との邂逅もあります。

処理中です...