モルリント王国戦記

竹井ゴールド

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シャテチ連合の滅亡

2人の新王

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 4月。

 王都カモントの情報が続々と第4都市ブラベに届いた。

 ハイル国王の戦死は確定。

 親衛隊長兼参謀長のグロバーも戦死。

 そしてオトルレン皇国で行方不明になっていたリト王太子は生きており、カモント王宮でぬけぬけとモルリント王国の新王に即位していた。

 同時にモルリント王国はオトルレン皇国に降伏。

 属国となるらしい。





 シャテチ連合の南半国を制圧したモルリント王国軍からしたら、ふざけるな、という話だったのだが。





 ◇





 そのあり得ない事が現実になろうとしていた。





 何せ、第4都市ブラベにリト新王から『王都カモントへの帰還命令』が出て、カール第2王子が、

「分かった、カモントに帰ろうと」

 と言い出したのだから。

「お待ちを。陛下が討たれたのですぞ、オトルレン皇国に与すると?」

 さすがにゴクートルが止めたが、

「仕方あるまい。兄上と争う事など出来ぬ」

 と言ってる場面に、レストも末席に居り、

(王の器じゃないな、コイツ。コルエーゼ様はこんな奴に尽くしてたのか? だから失脚するんだよ。名臣ならちゃんと主君は選ばないと)

「いいよな、ノル?」

 カール第2王子がコルエーゼに問い、

「ダメに決まってるが、それでも帰るんだろ?」

「まあな」

「だが・・・やまいでは帰国は無理だろ?」

 コルエーゼがそう言うと同時に、その場に居た幹部全員が剣を抜いた。

 何もコルエーゼに教えて貰っていなかったレストだけが、

「ええっ? 何、これ?」

 声を出して驚く中、全員の抜刀された剣先がカール第2王子に向き、剣を向けてるゴクートル軍事総長が、

「カール殿下には明日、この地にてモルリント王国の正統な国王に即位していただく。その後、病に倒れられた陛下に全権を委任された宰相を立てる事とします。覚悟して下さいませ」

「ふざけ・・・」

 カールは激昂したが、ゴクートル軍事総長の剣先が喉に触れてさすがに口を閉じた。

「悪いがそういう事だ、カール」

 抜刀して剣を第2王子に向けてるコルエーゼも言い、

「ノル、これはおまえの差し金か?」

「当然だろう。オトルレン皇国に尻尾を振るリト殿下の軍門には下れないぞ、さすがに」

 というコルエーゼの言葉に全員が頷いたのだった。





 翌日、本当にモルリント王国の新王の即位式が大々的に民衆の前で執り行われた。

 第4都市ブラベに住む元々シャテチ連合の民衆からしたら『何のこっちゃ』という話だ。

 何せ、1月前に制圧した他国の王子が国王の即位式を催してるのだが。

 だが、第4都市ブラベは歴史的にも古く、即位する場所としては問題なかった。

 問題があったとしたら、カール本人ではなく、セーヒ侯爵の長男で、カールと従弟のグロスが髪を赤毛に染めてカールのフリで即位式に及んでる事だけだ。

 従弟なので顔立ちは似てる。

 カールが30歳で、グロスが23歳と7歳差だったが。

 こんな小細工をするのはカール本人が新王の即位を断固拒否した為だ。

 お陰でグロスが、

「ここブラベの地で、カール・モルリントが、モルリント王国の第6代国王に即位する事を宣言するっ!」

 その言葉で、茶番劇だったが、モルリント王国の全軍が喝采を上げて新王の即位を歓迎したのだった。

 少なくとも、カモント王宮のリト国王よりも。





 ◇





 シャテチ連合の南半国で建国したモルリント王国の新体制は、





 国王、カール。

 宰相、ゴクートル。

 軍事総長、リガロ。

 騎士団長、セーヒ。

 参謀長、グダン。

 国王親衛隊長、コルエーゼ。

 大臣、アマンド。

 王太子、グロス。





 それぞれが好き勝手に役職に付いていた。

 宰相にはゴクートルが就任したのはコルエーゼでは若過ぎるからだ。

 コルエーゼは確かに優秀だが、モルリント王国暦125年ではまだ30歳なのだから。

 それにコルエーゼは第2王子の側近なので、コルエーゼか宰相に就けば、味方するのは第2王子派だけとなるが、ゴクートルは前王の側近なので、ゴクートルが宰相に就けば、弔い合戦の意味合いが出て前王支持派が集う効果もあった。





 尚、レストだが役職は上がらなかった。

 参謀府コルエーゼ参謀付き補佐官のままだった。

 だが、仕事は山のようにあった。





 オトルレン皇国の北上を受けて、カール・モルリント王国軍はシャテチ連合領の全域を併合する事が決まった。

 理由はオトルレン皇国が大国の為だ。

 国土が4倍差の大国と戦うのはさすがにキツイ。

 だが、シャテチ連合国の全域を併合すれば領土は2倍差だ。

 2倍差ならば何とかなる。

 それが参謀府が打ち出した王都カモント奪還作戦の大前提で、全員が納得して北上を開始したのだった。
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