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従騎士期間
指導係ノルリアス・コルエーゼ
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レストの仕官先は本当にモルリント王国騎士団の第4大隊だった。
第4大隊は、はっきり言って親衛隊に次ぐエリート部隊である。
それも親衛隊や他の大隊は実力主義で平民から一代騎士になった者や騎士公も多数混ざっていたが、第4大隊は貴族の子弟だらけなのが特徴だった。
なのに、騎士団合同入団試験を免除で採用テストは面接だけで済んだのだからレストが、何かある、と警戒するのは当たり前だった。
今年は10人が第4大隊に入団する事になった。
軍隊学校は何も王都カモントだけではない。
各地にあったが、10人全員が王都カモントの卒業生達だった。
つまりは全員見知った顔だった。
貴族の子弟ばかりで仲が良いとは言えず、平民だ、と見下して突っ掛かってきた側だが。
訓練場に第4大隊が集合する中、副隊長のギル・ネムルトが、
「よく来たな、新米ども。おまえ達は入隊したとはいえ、まだ従騎士だ。よって従者として先輩騎士に付いて半年間、仕事を覚えて貰う」
との説明をして、その場に居た騎士達をそれぞれ引き合わせた。
だが、レストの番になって、ネムルト副隊長が、
「レスト、おまえの上官だが少し問題があってな、今、色街に居る。会ってくるといい」
そう言われた。
(これだけ騎士が居るのに不在の奴を指導係にあてがうってどんな嫌がらせだよ。やはりオレが平民だからか?)
入団初日なので少しはやる気があったが、一気にやる気が失せたレストはそんな事を思いながら、
「はっ。畏まりました。名前は何なのでしょうか?」
「ノルリアス・コルエーゼだ」
「――っ! 連れ戻せばよろしいのでしょうか?」
レストの質問に、
「そんな事出来る訳が・・・」
そう言い掛けたネムルト副隊長が面白がって、
「まあ、出来るならやってみろ」
と言ったので、
「では行って参ります。失礼します」
敬礼して、さっさと第4大隊が集まる広場から離れていったのだった。
◇
ノルリアス・コルエーゼ。
その名前をレストは知っていた。
推薦状を書いて軍隊学校にレストを叩き込んだ3人の軍幹部の内の1人だったのだから。
というか、余りにムカついて調べた。
コルエーゼ子爵家の当主だった。
年齢は28歳。
爵位は子爵で、所属は騎士団第4大隊でその幹部職だったが。
前歴に、
国王親衛隊。
第2王子親衛隊長。
参謀府参謀。
グフレール城城主。
があった。
20代でこれらの前歴があるのだ。
当然、国王陛下や軍事総長も眼を掛けている。
モルリント王国の軍部中枢の幹部中の幹部だった。
但し、現在は騎士団の第4大隊に左遷中だったが。
左遷の原因はコルエーゼ子爵を目の敵にする軍部の敵対派閥の工作による他国との内通疑惑。
なかなか手の込んだ工作で疑惑が完全に払拭出来ず、そのお陰で降格へと追いやられていたのだ。
その敵対派閥もアスレド平原でロルメ公国軍を相手に壊滅しているのだが。
そしてレストは当然、コルエーゼとは面識があった。
何せ、コルエーゼは貴族の癖に娼館に通う男で、レストがグレる前の手伝い時分から面識があったのだから。
そんな訳でレストは文句を言いに色街に出向いたのだった。
色街の娼館『百合の花』に出向くと、店番のエルのオババが、
「いらっしゃいませ、お若い騎士様。本日はどのような御用件で・・・って何だい、レストかい。本当に騎士様になったんだね? それを自慢しにきたのかい?」
そう軍服を着たレストを見て尋ねた。
従騎士と騎士では軍服が微妙に違うのだが、素人には分からない。
「違うよ。コルエーゼ様付きの従騎士になっちゃって。居る、コルエーゼ様?」
「生憎と本日は・・・」
「居る訳ね。上がるよ。公務だから」
「こら、お待ち、レストっ! コルエーゼ様はお得意様だから・・・」
「こっちは推薦された所為で2年も軍隊学校でしごかれたんだよ、オババ。文句の1つも言わないと気が済まないんだからさ」
こうして勝手知ったる娼館に入って、当たりを付けて部屋を開けると、
「ん? 従騎士が何かオレに用か? もしや緊急なのか?」
昼間っから娼婦のエマの膝枕で寝転んでるコルエーゼを発見した。
エマはレストの母親の妹分で顔馴染みだった。
「本日より第4大隊に赴任し、コルエーゼ様の従騎士になったレストと申します。以後よろしくお願いします」
「ああ、御苦労さん。もう帰っていいぞ。明日からは王宮の方に出仕するように」
膝枕に頭を置いたままコルエーゼは言ったが、
「何でオレを軍隊学校に推薦したんです?」
「推薦? 誰、おまえ?」
覚えてなかった。
「ここの娼婦キャレスの息子レストだよ」
「ああ、おまえはあの時のガキか。立派になって」
「本当よね、レストちゃんがこんなに立派な騎士様になるなんて。姐さんも喜んでるわよ、きっと」
膝枕をさせてるエマも感慨深げに頷いた。
「エマさん、あのですねぇ~」
レストは苦笑した。
レストはエマだけには頭が上がらなかったのだ。
何せ、グレてた時も遊ぶ金を渡して貰ってたから。
「ほら、もういいから。帰った帰った」
「オレ、コルエーゼ様を連れて帰るって言っちまったんですけど?」
「そんなの知るか」
「じゃあ、軍部の敵対派閥をどうやってハメたのか、教えてよ」
レストがそう追及すると、コルエーゼの眼が一瞬だけ知性を帯び、
「あの時の小間使いがこうも聡明に育つとは。チェスでオレに勝てたら教えてやろう」
そんな訳でチェス勝負になった。
軍隊学校でもチェスの講義はあってレストも上位の成績だったが、軍幹部の参謀まで務めたコルエーゼに勝てる訳もなかった。
3回やって3回ともボロ負けだった。
相手がチェス盤を見てない隙に駒を有利に動かす反則をしてもボロ負けだった。
「またな」
「くそぉ~、覚えてろよ」
「言葉遣い」
「覚えてやがりませ」
「少し違うが、まあいいだろう」
こうしてレストは約束通り、娼館から退散したのだった。
第4大隊は、はっきり言って親衛隊に次ぐエリート部隊である。
それも親衛隊や他の大隊は実力主義で平民から一代騎士になった者や騎士公も多数混ざっていたが、第4大隊は貴族の子弟だらけなのが特徴だった。
なのに、騎士団合同入団試験を免除で採用テストは面接だけで済んだのだからレストが、何かある、と警戒するのは当たり前だった。
今年は10人が第4大隊に入団する事になった。
軍隊学校は何も王都カモントだけではない。
各地にあったが、10人全員が王都カモントの卒業生達だった。
つまりは全員見知った顔だった。
貴族の子弟ばかりで仲が良いとは言えず、平民だ、と見下して突っ掛かってきた側だが。
訓練場に第4大隊が集合する中、副隊長のギル・ネムルトが、
「よく来たな、新米ども。おまえ達は入隊したとはいえ、まだ従騎士だ。よって従者として先輩騎士に付いて半年間、仕事を覚えて貰う」
との説明をして、その場に居た騎士達をそれぞれ引き合わせた。
だが、レストの番になって、ネムルト副隊長が、
「レスト、おまえの上官だが少し問題があってな、今、色街に居る。会ってくるといい」
そう言われた。
(これだけ騎士が居るのに不在の奴を指導係にあてがうってどんな嫌がらせだよ。やはりオレが平民だからか?)
入団初日なので少しはやる気があったが、一気にやる気が失せたレストはそんな事を思いながら、
「はっ。畏まりました。名前は何なのでしょうか?」
「ノルリアス・コルエーゼだ」
「――っ! 連れ戻せばよろしいのでしょうか?」
レストの質問に、
「そんな事出来る訳が・・・」
そう言い掛けたネムルト副隊長が面白がって、
「まあ、出来るならやってみろ」
と言ったので、
「では行って参ります。失礼します」
敬礼して、さっさと第4大隊が集まる広場から離れていったのだった。
◇
ノルリアス・コルエーゼ。
その名前をレストは知っていた。
推薦状を書いて軍隊学校にレストを叩き込んだ3人の軍幹部の内の1人だったのだから。
というか、余りにムカついて調べた。
コルエーゼ子爵家の当主だった。
年齢は28歳。
爵位は子爵で、所属は騎士団第4大隊でその幹部職だったが。
前歴に、
国王親衛隊。
第2王子親衛隊長。
参謀府参謀。
グフレール城城主。
があった。
20代でこれらの前歴があるのだ。
当然、国王陛下や軍事総長も眼を掛けている。
モルリント王国の軍部中枢の幹部中の幹部だった。
但し、現在は騎士団の第4大隊に左遷中だったが。
左遷の原因はコルエーゼ子爵を目の敵にする軍部の敵対派閥の工作による他国との内通疑惑。
なかなか手の込んだ工作で疑惑が完全に払拭出来ず、そのお陰で降格へと追いやられていたのだ。
その敵対派閥もアスレド平原でロルメ公国軍を相手に壊滅しているのだが。
そしてレストは当然、コルエーゼとは面識があった。
何せ、コルエーゼは貴族の癖に娼館に通う男で、レストがグレる前の手伝い時分から面識があったのだから。
そんな訳でレストは文句を言いに色街に出向いたのだった。
色街の娼館『百合の花』に出向くと、店番のエルのオババが、
「いらっしゃいませ、お若い騎士様。本日はどのような御用件で・・・って何だい、レストかい。本当に騎士様になったんだね? それを自慢しにきたのかい?」
そう軍服を着たレストを見て尋ねた。
従騎士と騎士では軍服が微妙に違うのだが、素人には分からない。
「違うよ。コルエーゼ様付きの従騎士になっちゃって。居る、コルエーゼ様?」
「生憎と本日は・・・」
「居る訳ね。上がるよ。公務だから」
「こら、お待ち、レストっ! コルエーゼ様はお得意様だから・・・」
「こっちは推薦された所為で2年も軍隊学校でしごかれたんだよ、オババ。文句の1つも言わないと気が済まないんだからさ」
こうして勝手知ったる娼館に入って、当たりを付けて部屋を開けると、
「ん? 従騎士が何かオレに用か? もしや緊急なのか?」
昼間っから娼婦のエマの膝枕で寝転んでるコルエーゼを発見した。
エマはレストの母親の妹分で顔馴染みだった。
「本日より第4大隊に赴任し、コルエーゼ様の従騎士になったレストと申します。以後よろしくお願いします」
「ああ、御苦労さん。もう帰っていいぞ。明日からは王宮の方に出仕するように」
膝枕に頭を置いたままコルエーゼは言ったが、
「何でオレを軍隊学校に推薦したんです?」
「推薦? 誰、おまえ?」
覚えてなかった。
「ここの娼婦キャレスの息子レストだよ」
「ああ、おまえはあの時のガキか。立派になって」
「本当よね、レストちゃんがこんなに立派な騎士様になるなんて。姐さんも喜んでるわよ、きっと」
膝枕をさせてるエマも感慨深げに頷いた。
「エマさん、あのですねぇ~」
レストは苦笑した。
レストはエマだけには頭が上がらなかったのだ。
何せ、グレてた時も遊ぶ金を渡して貰ってたから。
「ほら、もういいから。帰った帰った」
「オレ、コルエーゼ様を連れて帰るって言っちまったんですけど?」
「そんなの知るか」
「じゃあ、軍部の敵対派閥をどうやってハメたのか、教えてよ」
レストがそう追及すると、コルエーゼの眼が一瞬だけ知性を帯び、
「あの時の小間使いがこうも聡明に育つとは。チェスでオレに勝てたら教えてやろう」
そんな訳でチェス勝負になった。
軍隊学校でもチェスの講義はあってレストも上位の成績だったが、軍幹部の参謀まで務めたコルエーゼに勝てる訳もなかった。
3回やって3回ともボロ負けだった。
相手がチェス盤を見てない隙に駒を有利に動かす反則をしてもボロ負けだった。
「またな」
「くそぉ~、覚えてろよ」
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