モルリント王国戦記

竹井ゴールド

文字の大きさ
上 下
15 / 80
従騎士期間

指導係ノルリアス・コルエーゼ

しおりを挟む
 レストの仕官先は本当にモルリント王国騎士団の第4大隊だった。

 第4大隊は、はっきり言って親衛隊に次ぐエリート部隊である。

 それも親衛隊や他の大隊は実力主義で平民から一代騎士になった者や騎士公も多数混ざっていたが、第4大隊は貴族の子弟だらけなのが特徴だった。

 なのに、騎士団合同入団試験を免除で採用テストは面接だけで済んだのだからレストが、何かある、と警戒するのは当たり前だった。

 今年は10人が第4大隊に入団する事になった。

 軍隊学校は何も王都カモントだけではない。

 各地にあったが、10人全員が王都カモントの卒業生達だった。

 つまりは全員見知った顔だった。

 貴族の子弟ばかりで仲が良いとは言えず、平民だ、と見下して突っ掛かってきた側だが。

 訓練場に第4大隊が集合する中、副隊長のギル・ネムルトが、

「よく来たな、新米ども。おまえ達は入隊したとはいえ、まだ従騎士だ。よって従者として先輩騎士に付いて半年間、仕事を覚えて貰う」

 との説明をして、その場に居た騎士達をそれぞれ引き合わせた。

 だが、レストの番になって、ネムルト副隊長が、

「レスト、おまえの上官だが少し問題があってな、今、色街に居る。会ってくるといい」

 そう言われた。

(これだけ騎士が居るのに不在の奴を指導係にあてがうってどんな嫌がらせだよ。やはりオレが平民だからか?)

 入団初日なので少しはやる気があったが、一気にやる気が失せたレストはそんな事を思いながら、

「はっ。畏まりました。名前は何なのでしょうか?」

「ノルリアス・コルエーゼだ」

「――っ! 連れ戻せばよろしいのでしょうか?」

 レストの質問に、

「そんな事出来る訳が・・・」

 そう言い掛けたネムルト副隊長が面白がって、

「まあ、出来るならやってみろ」

 と言ったので、

「では行って参ります。失礼します」

 敬礼して、さっさと第4大隊が集まる広場から離れていったのだった。





 ◇





 ノルリアス・コルエーゼ。

 その名前をレストは知っていた。

 推薦状を書いて軍隊学校にレストを叩き込んだ3人の軍幹部の内の1人だったのだから。

 というか、余りにムカついて調べた。

 コルエーゼ子爵家の当主だった。

 年齢は28歳。

 爵位は子爵で、所属は騎士団第4大隊でその幹部職だったが。

 前歴に、





 国王親衛隊。

 第2王子親衛隊長。

 参謀府参謀。

 グフレール城城主。





 があった。

 20代でこれらの前歴があるのだ。

 当然、国王陛下や軍事総長も眼を掛けている。

 モルリント王国の軍部中枢の幹部中の幹部だった。

 但し、現在は騎士団の第4大隊に左遷中だったが。

 左遷の原因はコルエーゼ子爵を目の敵にする軍部の敵対派閥の工作による他国との内通疑惑。

 なかなか手の込んだ工作で疑惑が完全に払拭出来ず、そのお陰で降格へと追いやられていたのだ。

 その敵対派閥もアスレド平原でロルメ公国軍を相手に壊滅しているのだが。

 そしてレストは当然、コルエーゼとは面識があった。

 何せ、コルエーゼは貴族の癖に娼館に通う男で、レストがグレる前の手伝い時分から面識があったのだから。





 そんな訳でレストは文句を言いに色街に出向いたのだった。

 色街の娼館『百合の花』に出向くと、店番のエルのオババが、

「いらっしゃいませ、お若い騎士様。本日はどのような御用件で・・・って何だい、レストかい。本当に騎士様になったんだね? それを自慢しにきたのかい?」

 そう軍服を着たレストを見て尋ねた。

 従騎士と騎士では軍服が微妙に違うのだが、素人には分からない。

「違うよ。コルエーゼ様付きの従騎士になっちゃって。居る、コルエーゼ様?」

「生憎と本日は・・・」 

「居る訳ね。上がるよ。公務だから」

「こら、お待ち、レストっ! コルエーゼ様はお得意様だから・・・」

「こっちは推薦された所為で2年も軍隊学校でしごかれたんだよ、オババ。文句の1つも言わないと気が済まないんだからさ」

 こうして勝手知ったる娼館に入って、当たりを付けて部屋を開けると、

「ん? 従騎士が何かオレに用か? もしや緊急なのか?」

 昼間っから娼婦のエマの膝枕で寝転んでるコルエーゼを発見した。

 エマはレストの母親の妹分で顔馴染みだった。

「本日より第4大隊に赴任し、コルエーゼ様の従騎士になったレストと申します。以後よろしくお願いします」

「ああ、御苦労さん。もう帰っていいぞ。明日からは王宮の方に出仕するように」

 膝枕に頭を置いたままコルエーゼは言ったが、

「何でオレを軍隊学校に推薦したんです?」

「推薦? 誰、おまえ?」

 覚えてなかった。

「ここの娼婦キャレスの息子レストだよ」

「ああ、おまえはあの時のガキか。立派になって」

「本当よね、レストちゃんがこんなに立派な騎士様になるなんて。姐さんも喜んでるわよ、きっと」

 膝枕をさせてるエマも感慨深げに頷いた。

「エマさん、あのですねぇ~」

 レストは苦笑した。

 レストはエマだけには頭が上がらなかったのだ。

 何せ、グレてた時も遊ぶ金を渡して貰ってたから。

「ほら、もういいから。帰った帰った」

「オレ、コルエーゼ様を連れて帰るって言っちまったんですけど?」

「そんなの知るか」

「じゃあ、軍部の敵対派閥をどうやってハメたのか、教えてよ」

 レストがそう追及すると、コルエーゼの眼が一瞬だけ知性を帯び、

「あの時の小間使いがこうも聡明に育つとは。チェスでオレに勝てたら教えてやろう」

 そんな訳でチェス勝負になった。

 軍隊学校でもチェスの講義はあってレストも上位の成績だったが、軍幹部の参謀まで務めたコルエーゼに勝てる訳もなかった。

 3回やって3回ともボロ負けだった。

 相手がチェス盤を見てない隙に駒を有利に動かす反則をしてもボロ負けだった。

「またな」

「くそぉ~、覚えてろよ」

「言葉遣い」

「覚えてやがりませ」

「少し違うが、まあいいだろう」

 こうしてレストは約束通り、娼館から退散したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

荒野で途方に暮れていたらドラゴンが嫁になりました

ゲンタ
ファンタジー
転生したら、荒れ地にポツンと1人で座っていました。食べ物、飲み物まったくなし、このまま荒野で死ぬしかないと、途方に暮れていたら、ドラゴンが助けてくれました。ドラゴンありがとう。人族からエルフや獣人たちを助けていくうちに、何だかだんだん強くなっていきます。神様……俺に何をさせたいの?

神聖国 ―竜の名を冠する者―

あらかわ
ファンタジー
アステラ公国、そこは貴族が治める竜の伝説が残る世界。 無作為に村や街を襲撃し、虐殺を繰り返す《アノニマス》と呼ばれる魔法を扱う集団に家族と左目を奪われた少年は、戦う道を選ぶ。 対抗組織《クエレブレ》の新リーダーを務めることとなった心優しい少年テイトは、自分と同じく魔法強化の刺青を入れた 《竜の子》であり記憶喪失の美しい少女、レンリ 元研究者であり強力な魔道士、シン 二人と出会い、《アノニマス》との戦いを終わらせるべく奔走する。 新たな出会いと別れを繰り返し、それぞれの想いは交錯して、成長していく。 これは、守るために戦うことを選んだ者達の物語。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

処理中です...