モルリント王国戦記

竹井ゴールド

文字の大きさ
上 下
11 / 80
ライオンの尻尾

レストの故郷

しおりを挟む
 レストは本当に色街に来ていた。

 死んだ母親が娼婦だったのだから、レストの生まれ育った故郷は王都カモントの色街だ。

 色街は王都カモントの都心部の南東側にあった。

 まずは娼館『百合の花』に顔を出した。

「いらっしゃいませ、お若い旦那様。今日は戦勝祭ですから、昼からでもいい子が店に・・・って何だい、レストかい。また逃げてきたのかい?」

 そう出迎えたのは店番でもあるエルという名のヨボヨボのオババだった

 まだ頭はシャッキリとしてるが。

「全然違うって。真面目にやってるから。今日は休みなんだよ。戦勝祭だから。服を取りに来ただけだよ。この恰好、見てくれよ、普通過ぎて笑えるだろ?」

 レストが今着てる恰好は平民服だ。

 平民服にしては洒落てる方だったが。

「ったく、ウチは服置き場所じゃないんだよ」

「いいじゃん。オレの故郷はここなんだから。そうだ、何か変わった事はあった?」

「メイが見受けされたくらいかね」

「あれ、そうなの? 良かったじゃん。誰なの、お相手は?」

「花屋の若旦那だよ、メイに入れ上げてね」

 なんて世間話をしてから、レストは衣裳部屋の奥に置いてある私物の服を纏った。

 レストが着たのは紫色に刺繍が施された遊び人の服だ。

 胸も開いてて男娼でも通る恰好だったが。

 貴金属類もやたらと指や腕や首に付けてた。

「じゃあ、いってきまぁ~す」

「はいはい、いっておいで」

 こうしてレストは外へ繰り出したのだった。





 貴重な休みだ。

 レストはまずは賭場で過ごした。

 無論、違法だ。

 そして、レストは小遣い稼ぎで雇われサクラをしていた。

 賭場の店員に渡された金をジャンジャン賭ける。

「2回連続で赤なら、今度こそ黒だろ、黒、来いっ! ふざけんな、3回連続で赤だとぉぉっ!」

 馬鹿騒ぎだ。

「今度こそ黒だっ!」

 レストが銀貨を賭ける。

 違法の賭場なのでチップなんてまどろっこしいシステムはない。

「いや、また赤だと思うぞ、兄ちゃん」

「オレは黒」

 熱気に釣られて他の客も賭けた。

 例え、勝ってテーブルに銀貨が山のように積まれようとその分、大きく賭けて、最終的に全部を無くした。

 それが仕事だ。

「戦勝祭だってのに、ついてねえぜ」

 そう言って店を出て、出る際に、

「御苦労さん、レスト。おまえ、ウチに来ないのか?」

 サクラ代の銀貨50枚が入った布袋を隠すように渡された。

 渡したのは賭場を仕切る20代のベックだ。

「ベックさん。オレ、今、軍隊学校に入れられてるんだぜ。知ってるでしょ? 4回脱走して4回とも連れ戻されたの?」

「まあな。おまえの父親が軍の偉いさんだって噂が立ってたのもな」

「んな訳ないでしょ。だったらとっくにお袋は身請けされてたって。もしくは産まれたオレを引き取るか。何もなかったんだから違うって事だよ」

「違いない」

「そうだ。脱走といったら軍隊学校で脱走した馬鹿が出てさ。探してるんだけど、何か聞かない?」

「何だ。おまえが追う側か?」

 一瞬ベックは警戒したが、

「だって連れ戻したら銀貨2000枚貰えるんだもん」

 レストが言うと、警戒を解いた。

「それはオイシイな」

「それがそうでもなくて、ライオンの尻尾って知ってる?」

「いや。何の隠語だ?」

「他国のスパイ」

「軍隊学校にスパイ?」

「うん」

「かなりヤバくないか」

「そこがまた面白そうでさ」

 レストがニヤリと笑ったのを見て、ベックが呆れながら、

「おまえ、そういうところあるよな。どの国だ?」

「それが全く分かんなくて」

「何の情報もないのに部外者のオレが分かるか」

「何か噂だけでもないの?」

「この前のいくさの時、ロルメ公国が兵を引いた直後に色街に居た胡散臭い連中が騎士団に大々的に狩られたって情報くらいだな」

「それだけ?」

「ああ」

「何だ、つまらないの。じゃあ、オレは貴重な休みを満喫してきますね」

「ああ、祭りを楽しんできな」

 そう言って賭場から出て行ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

荒野で途方に暮れていたらドラゴンが嫁になりました

ゲンタ
ファンタジー
転生したら、荒れ地にポツンと1人で座っていました。食べ物、飲み物まったくなし、このまま荒野で死ぬしかないと、途方に暮れていたら、ドラゴンが助けてくれました。ドラゴンありがとう。人族からエルフや獣人たちを助けていくうちに、何だかだんだん強くなっていきます。神様……俺に何をさせたいの?

神聖国 ―竜の名を冠する者―

あらかわ
ファンタジー
アステラ公国、そこは貴族が治める竜の伝説が残る世界。 無作為に村や街を襲撃し、虐殺を繰り返す《アノニマス》と呼ばれる魔法を扱う集団に家族と左目を奪われた少年は、戦う道を選ぶ。 対抗組織《クエレブレ》の新リーダーを務めることとなった心優しい少年テイトは、自分と同じく魔法強化の刺青を入れた 《竜の子》であり記憶喪失の美しい少女、レンリ 元研究者であり強力な魔道士、シン 二人と出会い、《アノニマス》との戦いを終わらせるべく奔走する。 新たな出会いと別れを繰り返し、それぞれの想いは交錯して、成長していく。 これは、守るために戦うことを選んだ者達の物語。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

処理中です...