モルリント王国戦記

竹井ゴールド

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王都カモント防衛戦

絶好の土産

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 その夜、レストはテントの中で後ろ手で縛られて寝転んでいた。

 それで眠れるレストは度胸がある以上に営倉入り等々で縛られるのに慣れてた訳だが。

 同時に縄抜けも得意だった。

 今回は靴底に隠し持ってた小さな金棒のヤスリを没収されなかったので余裕だった。

 だが、レストは脱走はせずに、大人しく眠ったのだった。





 翌日から開戦となったらしい。

 ワーワーと歓声が聞こえてくる。

 だが、このモンカル子爵陣営は静かだった。

 攻めてないのだろう。

 朝食同様、昼食も兵士に食べさせて貰った。

「どうなってるの?」

「一進一退だな。ウチの部隊は攻めてないけど」

「それがいいさ。何日攻めないって?」

「3日さ」

「つまり、3日以内には何かが起こるって事だな」

「そうなのか?」

「そりゃ、そうだろう。密偵を周囲に放った方がいいって子爵に進言した方がいいぞ」

「密偵? どうして?」

「各地の貴族の動きの確認さ。援軍が間に合って見ろ。ヤバイだろ」

「確かに」

 そんな事を喋ってたのだが、





 レストが大人しく縛られてたのは初日だけだ。

 2日目には地が出て、囚人用のテント内で、

「くそったらぁ~っ! 持ってけ、ドロボウっ!」

 手札のカードを叩き付けたレストはベストを脱いで看守の1人にそれを投げた。

「いらねえよ、服なんてっ!」

「なら、貸しなっ! 困った時は助けてやるから」

「へいへい。それで勘弁してやるよ」

「次だ、カードを配りな。今度こそ、オレが勝つからなぁ~」

 見ての通り、言葉巧みに縄を解かせて、看守4人とカードに興じていた。

 勝負は一進一退だが、最終的にはレストが酒をせしめて、独り占めする事なく看守4人と酒盛りをやっていた。

 そこに幹部のエルオスがやってきて、

「おまえら、何をやってる?」

「まあまあ、隊長さんも一杯」

 レストが酒の入ったコップを進める。

「これ、酒ではないか?」

「これくらいでは酔いませんって」

「おまえ、何歳だ?」

「16ですが?」

「モルリント王国の飲酒は18歳からだろうが」

「おや、真面目なんですね。さすがはモンカル子爵1の武人、エルオス隊長、拍手ぅ~」

 酔っ払い特有の変なノリでレストが音頭を取ると看守達が拍手をしたので、

「おまえらなぁ~」

 30代の武人で、先代からモンカル子爵家に仕えているエルオスは頭痛を覚えながら、

「ついて来い」

 レストが呼ばれて、仕方なくレストは囚われてたテントから出たのだった。





 子爵の就寝用の天幕には何とベッドまで運びこまれていた。

(さすがは貴族様だな)

 そうレストは内心で苦笑する中、ベッドの中で寝てたカールが上半身を起こして、

「連れて来たか」

「はっ」

「今夜、公爵が見舞いに来ると言ってる。どうすればいいとおまえは思う?」

「モルリント王国に戻るおつもりなら絶好の土産ですが・・・まだ決めてないのですよね?」

 レストの言葉にカール子爵は不思議そうに、

「絶好の土産とは?」

「公爵の首ですよ」

 レストの言葉で、テント内に空気が一瞬で冷え切った。

 カールが天幕内を見渡す。

 天幕内はカール子爵の就寝用なだけに、

 モンカル子爵のカール。

 モンカル子爵軍隊長エルオス。

 モンカル子爵軍副隊長クラーゼ。

 子爵親衛隊ムラムード。

 それに密使レスト。

 この5人だけだったが。

 気配でも感じたのか、ムラムードが不意に奥側の天幕の布地を捲って外の様子を確かめた。

 別に誰も居ない。

 全員が息を飲む中、カールが、

「おまえ、自分が何を言ってるのか・・・」

「わかってますし、子爵の為に進言しています。帰参するなら手柄は多いに越した方がいいですから。まあ、殺さずとも『生け捕り&子爵軍王都入り』でもいいですが。慎重を期して『見逃す』のもありですが。ご自由にされて下さい」

「・・・おまえは戻れ。少し他の者達と協議するから」

 こうして、レストはまた囚われ人としてテントに戻ったのだった。
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