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第6章 冬の乙女祭

この手を離したくない【マルチールside】

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 御前対校戦が終わると、それはもう大変だったわ。

 御前対校戦でヴァンパイアを倒したエニスさんの活躍が王都発売の新聞紙に掲載された事もあり・・・

 エニスさんの活躍を実際に目撃した、または新聞で知ったエニスさんのにわかファンが急増して。

 お姉さまであるパリナさまと一緒に腕を組んで歩かれてる時はそうでもないけど、エニスさんが1人になった途端、にわかファンに囲まれて。

「こらこら、アナタ達、エニスさんが困ってるでしょ」

 それらファンの整理をするのがエニスさんの親衛隊長の私の役目になったのだから。





 私がエニスさんに惹かれたのは自己紹介代わりのあのドロップキックだった。

 どうやって教壇からニナさんの顔面まで移動したかは知らないけど、気付いた時にはエニスさんがニナさんの顔面を蹴っていた。

 スカートが捲れてパンツが丸見えだったけど・・・・・・





 かっこいい。





 素直にそう思った。

 その後はニナさんがヴァンパイアで(正確にはニナさんを殺したヴァンパイアが入れ替わっていたのだけど)ミリアリリー女学園は休校になり······

 休校明けにエニスさんと授業を受けたけど、強くて、美しくて、頭が良くて、最高で。

 エニスさんとお近付きになりたかったけど、休み時間は姉妹の申し込みが殺到して3年生と1年生が頻繁にやってくるからエニスさんと喋る機会なんて殆ど無くて。

 そして、そうこうしている内に、エニスさんが風紀委員長のパリナさまと腕を組んで毎日のように登校するようになって・・・

 さすがに見ていられず、闘技場での授業前に戦闘服の着替え中にエニスさんに声を掛けたわ。

 遠くから着替えを覗いてたので知ってるけど、やっぱりエニスさんってサラシタイプなんだ。

 剣を振るのに邪魔なくらい胸があるのね。
 
 うずめてみたいわ、その胸に。

 ・・・じゃなくて、

「ちょっとエニスさん、園内をパリナさまと腕を組んで歩くのはどうかと思うわよ?」

「ああ、お姉さまの信奉者の方ね。ごめんなさいね、パリナさまを取ってしまって」

 そう心外にも誤解されてしまい、

「違うわ。パリナさまじゃなくて、私はエニスさんに他の人とベタベタして欲しくないから・・・」

 途中で口を滑らせた事に気付き、語尾が続かなくなった。

 もう顔から火が出る程、真っ赤だったと思う。

「ち、違うの。今のは・・・」

 と否定する私を少しキョトンとしてから少し勝ち誇ったような顔をしたエニスさんが、

「わかってるわ。でも、お姉さまとの腕組みは止めないから」

 そうエニスさんはきっぱりと否定されたけど、エニスさんは心優しくて、ちゃんとフォロー出来る人だから、

「だから見逃してね」

 そう微笑して私の手を握って、

「ほら、授業が始まるわ。行きましょう」

 ちょっと、どうして私の手を握ってるのよ。

 でも振り解く勇気もなくて、ドキドキと意識しながら、手を繋がれた私はうつむいて、そのまま屋外闘技場まで連れて行かれてしまった。

 ・・・ダメ。もうこの気持ちを抑えられない。

 大好き、エニスさん。

 この手を離したくない。





 その日はそれだけでは終わらず、お昼休みに食堂までエニスさんに連れて行かれて、

「あれ、イザベラはまだなのね? まあ、いいわ。お姉さま、紹介するわね。私のクラスメイトのマルチールさん」

 エニスさんのお姉さまに紹介までされてしまったわ。

「手を繋いで仲が良さそうね?」

 冷めきったパリナさまの視線が怖い。

 その態度だけで、





 やっぱりパリナさまもエニスさんの事が好きなのね。





 と確信したわ。

 だってエニスさんに姉妹を申し込んで「ごめんなさい」されて泣いたのはこのパリナさまだけだったから。

 つまり、泣くくらいエニスさんへの想いは本物だったって事よ。

 家の都合で、3年生の10月まで妹を作らなかったのに、エニスさんのお姉さまに収まってるんだから。

 要注意よ、このパリナさまは。

「だって、手を握ってないと逃げるんだもん、マルチールさんって」

 でもエニスさんは全然、私やパリナさまの気持ちに気付いてなくて。

「ともかく紹介したくて。覚えてて下さいね、お姉さま」

「私は風紀委員長なんだから、妹として姉に恥じないきよい交際をするのよ」

 パリナさまは妹のエニスさんを見てたけど、釘を刺されたのは私の方だった。





 その日から私はエニスさんと一緒に居る事が多くなった。
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