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第八章~男、信孝~

師弟の絆3

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「父上政略結婚を望んでいないからだろうな。」

「直虎様。」

「私たちの時もそうだっただろ?私たち二人の気持ちを確かめ、互いに好いていることを確認してから婚儀が行われた。父上は義姉上にもそれをしているのだろうよ。」

「でも、姉上は織田家のご当主様を好いておりますよ?」

「では信孝様はどうなのであろうな。義姉上、信孝様より何かそのようなことは言われてないのですか?」

「えっ、えぇ。その、言葉で好いているなどと言うことは聞いておりません。」

「ふむ。」

「でっ、でも、姉上にこうして文を送ってきているではないですか!!」

「そうだね。義姉上。」

「はい。」

「信孝様に好きだと文でもなんでも伝えておりますか?」

直虎がそう聞くと菊は顔を赤くして、

「いっ、いえっ・・・・・。」

そう下を向きながら答えた。

それを見た直虎と松は顔を合わせてやれやれといった感じで菊を見た。

「姉上、そのようなことではいつまでたってもご当主様の妻にはなれませんよ。義父上は互いに好き合っていないとけして婚姻はなされません。」

「そっ、そうなのですね。」

菊は寂しそうな顔で下を向いた。

「では。では、松と直虎殿は好きと言い合ったのですか?」

菊のその問に直虎は、

「はい。父上に松を嫁にしたいと伝えました。もちろん、その前に松にも嫁に来て欲しいと伝えておりましたから。」

「はい。義父上にお話なさる前夜に直虎様よりそのように言っていただいております。」

それを聞いた菊は「そうなのですね。」と一言話した後少し黙った。

「とりあえず私のほうから父上に義姉上のことを伝えておきましょうか?」

「はい。直虎殿、お手数ですがどうぞよろしくお願いいたします。」

「承知致しました。では、松、私たちはそろそろ失礼しようか。」

直虎はそう言うと松を連れて部屋を後にした。

「良かったですね、菊様。」

「おみつ。」

直虎が菊と話してから2週間ほどが経過したある日、おみつが慌てた様子で菊の前に現れた。

「お菊様、大変でございます。」

「どっ、どうしたのですかおみつ。」

「そっ、それが。それが。」

「落ち着きなさい。そうでないと言いたいことが伝わりませんよ。」

「しっ、失礼致しました。きっ、清洲より殿と信孝様がいらっしゃいました。」

「せっ、刹那様と信孝様がっ!!」

「菊、失礼するよ。」

菊が驚いているとおみつの後ろに刹那の姿を見た。

「せっ、刹那様。お帰りなさいませ。」

「うん、ただいま。急にごめんね。今大丈夫だったかな?」

「はっ、はい。大丈夫でございます。」

「そうか。んじゃ、話に入らせてもらうね。率直に聞くよ。信孝のことをどう思っている?」

「すっ。」

菊はそう言うと下を向いてしまう。

「す?」

しかし、顔を上げ、刹那の顔を見ながら、

「信孝様を好いております。」

そう顔を赤らめながら伝えた。

「そうか。菊が私の顔や海玄の顔を気にしているのではないかと少し心配したがそれは必要なかったようだね。」

「ほっほっほ、だから言ったではないですか、殿。」

海玄が部屋の外から顔を出して笑っていた。

「父上。」

「菊のそのような女子の顔は初めて見たのぉ。相当信孝殿に惚れていると見える。」

「あっ・・・・・。」

「よかった。菊、信孝が別の部屋にいます。心の準備は出来ていますか?」

菊は1拍間を開けてから、

「はいっ。」

そう笑顔で返事を返した。

それから菊は刹那と海玄と共に信孝の待つ部屋へと移動するとそこには信孝だけでなく、直虎と松、刹那の正室であるおとわの姿まであった。

「信孝様。」

「菊殿。」

刹那に促され菊は信孝の隣に座った。

「菊殿、お久しぶりですね。」

「はいっ。清洲での見合い以来にございます。」

「本日は、どうしても菊殿に話したいことがあり、師匠に頼んでこちらへ参りました。」

信孝はそう言うと深呼吸をしてから、

「菊殿、清洲で見合いをした時からあなたのことが忘れられません。あなたのあの笑顔が清洲での忙しい日々で思い出されるたびに私は元気をもらった。あなたからの文が来るのを今か今かと心待ちにしてしまうほどに。」

信孝は顔を若干赤らめながらも言葉を続けた。

「菊殿、私の妻になってくださらんかっ。」

信孝はそう言うと頭を下げた。

「のっ、信孝様っ。」

あまりのことに菊は驚いた。
織田家の当主たる人物は徳川家の陪臣の娘である自分に頭を下げたのだから無理もない。

「のっ、信孝様、頭をお上げください。」
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