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ヒリスの最後の願い㉖
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目の前に白い砂浜と青い海が広がっている。
この場所を俺は知っている。毎年夏になると家族で訪れていた海岸の別荘だ。
波打ち際から少し離れた場所で俺は一人、小さな手で砂山を作っていた。
……いや、違う。もう一人居る。
俺の向かいに彼女がいた。
赤茶色の髪に藍色のドレスを着た彼女と二人で砂山を作っていた。
「これはぼくのおしろです。それから……これがおとうさま、これがおかあさま、これがふぃふぃ、そしてこれがぼく」
俺は足元に置いていた小枝を折って、彼女に説明しながら砂山の上に一本ずつ挿していった。
「あとこれは……」
もう一本挿そうとした時、遠くから母さんの声が聞こえた。振り返ると母さんが俺に向かって手を振っていた。
「おかあさまがよんでる! ねぇ!いっしょ………あれ?」
彼女の方を振り返ると彼女の姿が忽然と消えていた。
******************
目の前に白い砂浜と青い海が広がっている。
この場所を俺は知っている。毎年夏になると家族で訪れていた海岸の別荘だ。
波打ち際から少し離れた場所で俺は一人、小さな手で砂山を作っていた。
……いや、違う。もう一人居る。
俺の向かいに彼女がいた。
赤茶色の髪に藍色のドレスを着た彼女と二人で砂山を作っていた。
「これはぼくのおしろです。それから……これがおとうさま、これがおかあさま、これがふぃふぃ、そしてこれがぼく」
俺は足元に置いていた小枝を折って、彼女に説明しながら砂山の上に一本ずつ挿していった。
「あとこれは……」
もう一本挿そうとした時、遠くから母さんの声が聞こえた。振り返ると母さんが俺に向かって手を振っていた。
「おかあさまがよんでる! ねぇ!いっしょ………あれ?」
彼女の方を振り返ると彼女の姿が忽然と消えていた。
******************
目の前に白い砂浜と青い海が広がっている。
この場所を俺は知っている。毎年夏になると家族で訪れていた海岸の別荘だ。
波打ち際から少し離れた場所で俺は一人、小さな手で砂山を作っていた。
……いや、違う。もう一人居る。
俺の向かいに彼女がいた。
赤茶色の髪に藍色のドレスを着た彼女と二人で砂山を作っていた。
「これはぼくのおしろです。それから……これがおとうさま、これがおかあさま、これがふぃふぃ、そしてこれがぼく」
俺は足元に置いていた小枝を折って、彼女に説明しながら砂山の上に一本ずつ挿していった。
「あとこれは……」
もう一本挿そうとした時、遠くから母さんの声が聞こえた。振り返ると母さんが俺に向かって手を振っていた。
「おかあさまがよんでる! ねぇ!いっしょ………あれ?」
彼女の方を振り返ると彼女の姿が忽然と消えていた。
******************
目の前に白い砂浜と青い海が広がっている。
この場所を俺は知っている。毎年夏になると家族で訪れていた海岸の別荘だ。
波打ち際から少し離れた場所で俺は一人、小さな手で砂山を作っていた。
……いや、違う。もう一人居る。
俺の向かいに彼女がいた。
赤茶色の髪に藍色のドレスを着た彼女と二人で砂山を作っていた。
「これはぼくのおしろです。それから……これがおとうさま、これがおかあさま、これがふぃふぃ、そしてこれがぼく」
俺は足元に置いていた小枝を折って、彼女に説明しながら砂山の上に一本ずつ挿していった。
「あとこれは……」
もう一本挿そうとした時、遠くから母さんの声が聞こえた。振り返ると母さんが俺に向かって手を振っている。
「おかあさまがよんでる! ねぇ!いっしょ………あれ?」
彼女の方を振り返ると彼女の姿が忽然と消えていた。
辺りを見渡しても彼女の姿はどこにもなかった。
「ねぇ、どこ? どこにいったの? でてきてよ。でてきてよっ! ねぇってば‼」
俺は叫んだが彼女が答えることはなかった。
******************
目の前に白い砂浜と青い海が広がっている。
この場所を俺は知っている。毎年夏になると家族で訪れていた海岸の別荘だ。
波打ち際から少し離れた場所で俺は一人、小さな手で砂山を作っていた。
……いや、違う。もう一人居る。
俺の向かいに彼女がいた。
赤茶色の髪に藍色のドレスを着た彼女と二人で砂山を作っていた。
「これはぼくのおしろです。それから……これがおとうさま、これがおかあさま、これがふぃふぃ、そしてこれがぼく」
俺は足元に置いていた小枝を折って、彼女に説明しながら砂山の上に一本ずつ挿していった。
「あとこれは……」
もう一本挿そうとした時、遠くから母さんに呼ばれ振り返った。母さんが俺に向かって手を振っている。
「おかあさまがよんでる! ねぇ!いっしょ………あれ?」
彼女の方を振り返ると彼女の姿が忽然と消えていた。辺りを見渡しても彼女の姿はどこにもなかった。
「ねぇ、どこ? どこにいったの? でてきてよ。でてきてよっ! ねぇってば‼」
俺は叫んだが彼女が答えることはなかった。
俺は苦しくなった胸を押さえその場に蹲った。
「いやだ……」
******************
目の前に白い砂浜と青い海が広がっている。
この場所を俺は知っている。毎年夏になると家族で訪れていた海岸の別荘だ。
波打ち際から少し離れた場所で俺は一人、小さな手で砂山を作っていた。
……いや、違う。もう一人居る。
俺の向かいに彼女がいた。
赤茶色の髪に藍色のドレスを着た彼女と二人で砂山を作っていた。
「これはぼくのおしろです。それから……これがおとうさま、これがおかあさま、これがふぃふぃ、そしてこれが……」
足元に置いていた小枝を折って、彼女に説明しながら砂山の上に一本ずつ挿していった俺の手が止まる。
俺は彼女を見上げた。彼女の顔は逆光で見えなかった。
遠くで母さんの声が聞こえた。でも俺は振り返らなかった。
彼女から目を離してはいけない気がしたからだ。
じっと彼女のことを見た。
遠くでは母さんが何度も俺のことを呼んでいる。
不意に彼女が立ち上がった。
「……なんで?」
俺は彼女を唖然と見上げた。
彼女ハ自分ノ足デ立ツコトハデキナイハズナノニ。
彼女はおぼつかない足取りで海へと向かった。
「……っ! まってっ!」
俺は後を追って彼女の腕を掴もうとした。が、彼女は俺の手をすり抜けて沖へ向かっていった。
「いかなでっ!」
彼女の身体が海に飲み込まれていく。
「行くなっ!待ってくれ!」
俺は海に飲み込まれそうになりながらも必死に彼女に手を伸ばした。
行くなっ! 行くなっ! 行くなっ!
だが、俺の必死な叫びも空しく彼女は海の中へと消えていった。
気付けば俺は一人砂浜に立っていた。
俺は崩れ落ちるようにその場に膝をつき、涙を流しながら目の前に広がる海を見た。
「嫌だ……」
******************
目の前に白い砂浜と青い海が広がっている。
この場所を俺は知っている。毎年夏になると家族で訪れていた海岸の別荘だ。
俺は一人砂浜に立って海を見ていた。
……いや、違う。もう一人いる。
俺の隣に彼女がいた。
(どうして……)
彼女ハ自分ノ足デ立ツコトハデキナイハズナノニ……。
俺は彼女の左手に触れた。彼女の手は酷く冷たく、薬指には飾り気のない銀色の指輪が嵌められていた。
(どうして……)
どうして彼女の薬指にしかないのだろうか……。
「行かないでくれ……」
俺は懇願するように彼女に言った。なぜそう言ったのか俺には分からなかった。
何も思い出せないのだ。彼女の名前も……。
不意に彼女が俺を見上げてきた。こんなに近くにいるといのに彼女の顔は逆光で見えなかった。
「ヴァルトス国の希望の光……」
俺は目を開いた。
俺はこの言葉を、この声を聞いたことがある。
「お前が……」
俺が口を開きかけた時、背後で爆発が起きた。
驚いて後ろを振り返るとそこには燃え上がる炎と黒い煙、そして逃げ戸惑う民の姿があった。
あちこちから悲鳴と金属音が聞こえる。
「殿下!王城が攻め落とされたとっ!」
「………ッッ!!」
俺は王城へ駆け出した。
王城の中は地獄絵図だった。血に染まった床に避難した民と城で働いていた者たち、そして城を守っていた兵士たちが無惨な姿で横たわっていた。
「父さん!母さん!」
俺は両親の姿を探した。破壊された扉の向こう……王の間に飛び込むと、そこには血の海に横たわる母の姿と、父の首を持った男の姿があった。
男が振り返り、感情のない紅い目が俺を捉える。
「実につまらない男だった……」
男は父の首を床に落とした。床に転がった父の両目が黒く塗りつぶされていた。
「あああああああああああああ!!!」
俺は男に切り掛かったが、男の圧倒的過ぎる力に俺は敗北した。
気付けば捕虜として牢の中にいた。
そこからは地獄だった。
暴力的な痛みと、吐き気がするおぞましい行為。
甘ったるい香水に混じる汗と性の匂い。俺の身体を這い回る女たちの手。甲高い喘ぎ声。
気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。
固く目を閉じ、ただひたすらこの行為が早く終わるのを願った。
再び目を開けると、あたりは静寂に包まれていた。甘ったるい匂いも、女の声も聞こえない。
横たわる俺の隣に彼女がいた。
彼女は俺と向き合うように静かに眠っていた。あんなに見えなかった彼女の顔がはっきりと見えた。
彼女の顔は少年のようだった。
俺は眠っている彼女の頬にそっと触れた。彼女の頬は酷く冷たかった。
俺の目から涙がこぼれ落ちた。
彼女はもう二度と目を覚まさない気がした。
******************
「ヴァルトス国の希望の光」
******************
ハッと我に返ると、いつの間にか俺は軍服に身を包み血塗られた剣を握り絞めていた。辺りを見回すとそこには一面に広がる赤と無数の死体。
(……そうだ、探さないと)
俺はふらりと歩きだした。…………が、その足が止まる。
(俺は一体何を探そうとした?)
……思い出せない。
(ああ、でも探さないと……早く……)
ふと横を見るといつの間にそこに扉があった。扉を開くとそこは誰かの部屋のようだった。中は薄暗く唯一の明かりはガラス窓から差し込む月明かりだけだった。
キィ…キィ…。
バルコニーへと続くガラスの扉が中途半端に開いていて、カーテンが風でなびいていた。
不意にカーテンの向こう側……バルコニーに置かれた無人の車椅子が目にはいった。
どくりと心臓が嫌な音を立てた。
目の前の景色など俺は知らない。
(知らないはずなのに……)
どうしてこんなにも嫌な気持ちになるんだ?
(見なければ……)
いやだ、見たくない。
そう思うのに、俺の足は意思とは反対にバルコニーのほうに向かっていく。
「?」
不意に小さな丸テーブルの上に置かれた一枚の紙が目に入った。紙は風に飛ばされないようにインク壺で押さえられ、その側には羽根ペンが置かれていた。
俺はその紙を手に取った。
"ありがとう。ヴァルトス国の希望の光"
そうヴァルトス国語で綴られていた。
俺はバルコニーに飛び出し、手すりから見下ろした。
見下ろした先にあったのは………。
******************
私は廊下で待機していた二人の部下に指示があるまで皇女殿下の側にいろと伝え、殿下がいらっしゃる寝室へと駆け出した。
(あれは間違いなく、殿下の魔力っ!)
あの黄金の光と共に感じた殿下の膨大な魔力。
それほど遠くはない殿下の部屋の前に着くと、部屋の扉は吹き飛び、護衛の二人のうち、一人は床に膝をつき、もう一人は唖然とした顔で部屋の中を見ていた。
そして、部屋の中から殿下がふらつきながらお姿を表した。
「殿……下……」
殿下を呼ぶ私の声は震えていた。私の声が届いたのか殿下の足が止まった。
「何事かっ!!」
爆発音で城の兵士たちが駆けつけてきた。が、殿下の姿に……いや、殿下の魔力に後退り、中にはその場に膝を付いた者もいた。
誰一人、殿下に近付くことはできなかった。
それほどまでに殿下から発せられる魔力は圧倒的だった。
(訓練された者でなければ、気を失っていただろう……)
こめかみに冷や汗が流れた。
不意に殿下の両手が動き、ご自身の目元に触れたかと思うと、掻きむしるかのように包帯を剥ぎ取り始めた。
「……っ! 殿下!! お止めください!」
包帯の下は未だ色濃く残る火傷の後がある。だが、殿下は私の制しの声を無視し、包帯をすべて取り払った。
「…………っ!」
その場にいた誰もが息を飲んだ。
包帯の下から現れたのは目元に爛れた後が残っているお顔…………ではなく、傷ひとつない美しいお顔だった。
そして閉じられていた目蓋がゆっくりと持ち上げられていく。
「まさか……そんな……」
私は唖然とした。
そこには銀色のまつ毛に縁取られた美しいサファイアの瞳を持った殿下のお姿があった。
この場所を俺は知っている。毎年夏になると家族で訪れていた海岸の別荘だ。
波打ち際から少し離れた場所で俺は一人、小さな手で砂山を作っていた。
……いや、違う。もう一人居る。
俺の向かいに彼女がいた。
赤茶色の髪に藍色のドレスを着た彼女と二人で砂山を作っていた。
「これはぼくのおしろです。それから……これがおとうさま、これがおかあさま、これがふぃふぃ、そしてこれがぼく」
俺は足元に置いていた小枝を折って、彼女に説明しながら砂山の上に一本ずつ挿していった。
「あとこれは……」
もう一本挿そうとした時、遠くから母さんの声が聞こえた。振り返ると母さんが俺に向かって手を振っていた。
「おかあさまがよんでる! ねぇ!いっしょ………あれ?」
彼女の方を振り返ると彼女の姿が忽然と消えていた。
******************
目の前に白い砂浜と青い海が広がっている。
この場所を俺は知っている。毎年夏になると家族で訪れていた海岸の別荘だ。
波打ち際から少し離れた場所で俺は一人、小さな手で砂山を作っていた。
……いや、違う。もう一人居る。
俺の向かいに彼女がいた。
赤茶色の髪に藍色のドレスを着た彼女と二人で砂山を作っていた。
「これはぼくのおしろです。それから……これがおとうさま、これがおかあさま、これがふぃふぃ、そしてこれがぼく」
俺は足元に置いていた小枝を折って、彼女に説明しながら砂山の上に一本ずつ挿していった。
「あとこれは……」
もう一本挿そうとした時、遠くから母さんの声が聞こえた。振り返ると母さんが俺に向かって手を振っていた。
「おかあさまがよんでる! ねぇ!いっしょ………あれ?」
彼女の方を振り返ると彼女の姿が忽然と消えていた。
******************
目の前に白い砂浜と青い海が広がっている。
この場所を俺は知っている。毎年夏になると家族で訪れていた海岸の別荘だ。
波打ち際から少し離れた場所で俺は一人、小さな手で砂山を作っていた。
……いや、違う。もう一人居る。
俺の向かいに彼女がいた。
赤茶色の髪に藍色のドレスを着た彼女と二人で砂山を作っていた。
「これはぼくのおしろです。それから……これがおとうさま、これがおかあさま、これがふぃふぃ、そしてこれがぼく」
俺は足元に置いていた小枝を折って、彼女に説明しながら砂山の上に一本ずつ挿していった。
「あとこれは……」
もう一本挿そうとした時、遠くから母さんの声が聞こえた。振り返ると母さんが俺に向かって手を振っていた。
「おかあさまがよんでる! ねぇ!いっしょ………あれ?」
彼女の方を振り返ると彼女の姿が忽然と消えていた。
******************
目の前に白い砂浜と青い海が広がっている。
この場所を俺は知っている。毎年夏になると家族で訪れていた海岸の別荘だ。
波打ち際から少し離れた場所で俺は一人、小さな手で砂山を作っていた。
……いや、違う。もう一人居る。
俺の向かいに彼女がいた。
赤茶色の髪に藍色のドレスを着た彼女と二人で砂山を作っていた。
「これはぼくのおしろです。それから……これがおとうさま、これがおかあさま、これがふぃふぃ、そしてこれがぼく」
俺は足元に置いていた小枝を折って、彼女に説明しながら砂山の上に一本ずつ挿していった。
「あとこれは……」
もう一本挿そうとした時、遠くから母さんの声が聞こえた。振り返ると母さんが俺に向かって手を振っている。
「おかあさまがよんでる! ねぇ!いっしょ………あれ?」
彼女の方を振り返ると彼女の姿が忽然と消えていた。
辺りを見渡しても彼女の姿はどこにもなかった。
「ねぇ、どこ? どこにいったの? でてきてよ。でてきてよっ! ねぇってば‼」
俺は叫んだが彼女が答えることはなかった。
******************
目の前に白い砂浜と青い海が広がっている。
この場所を俺は知っている。毎年夏になると家族で訪れていた海岸の別荘だ。
波打ち際から少し離れた場所で俺は一人、小さな手で砂山を作っていた。
……いや、違う。もう一人居る。
俺の向かいに彼女がいた。
赤茶色の髪に藍色のドレスを着た彼女と二人で砂山を作っていた。
「これはぼくのおしろです。それから……これがおとうさま、これがおかあさま、これがふぃふぃ、そしてこれがぼく」
俺は足元に置いていた小枝を折って、彼女に説明しながら砂山の上に一本ずつ挿していった。
「あとこれは……」
もう一本挿そうとした時、遠くから母さんに呼ばれ振り返った。母さんが俺に向かって手を振っている。
「おかあさまがよんでる! ねぇ!いっしょ………あれ?」
彼女の方を振り返ると彼女の姿が忽然と消えていた。辺りを見渡しても彼女の姿はどこにもなかった。
「ねぇ、どこ? どこにいったの? でてきてよ。でてきてよっ! ねぇってば‼」
俺は叫んだが彼女が答えることはなかった。
俺は苦しくなった胸を押さえその場に蹲った。
「いやだ……」
******************
目の前に白い砂浜と青い海が広がっている。
この場所を俺は知っている。毎年夏になると家族で訪れていた海岸の別荘だ。
波打ち際から少し離れた場所で俺は一人、小さな手で砂山を作っていた。
……いや、違う。もう一人居る。
俺の向かいに彼女がいた。
赤茶色の髪に藍色のドレスを着た彼女と二人で砂山を作っていた。
「これはぼくのおしろです。それから……これがおとうさま、これがおかあさま、これがふぃふぃ、そしてこれが……」
足元に置いていた小枝を折って、彼女に説明しながら砂山の上に一本ずつ挿していった俺の手が止まる。
俺は彼女を見上げた。彼女の顔は逆光で見えなかった。
遠くで母さんの声が聞こえた。でも俺は振り返らなかった。
彼女から目を離してはいけない気がしたからだ。
じっと彼女のことを見た。
遠くでは母さんが何度も俺のことを呼んでいる。
不意に彼女が立ち上がった。
「……なんで?」
俺は彼女を唖然と見上げた。
彼女ハ自分ノ足デ立ツコトハデキナイハズナノニ。
彼女はおぼつかない足取りで海へと向かった。
「……っ! まってっ!」
俺は後を追って彼女の腕を掴もうとした。が、彼女は俺の手をすり抜けて沖へ向かっていった。
「いかなでっ!」
彼女の身体が海に飲み込まれていく。
「行くなっ!待ってくれ!」
俺は海に飲み込まれそうになりながらも必死に彼女に手を伸ばした。
行くなっ! 行くなっ! 行くなっ!
だが、俺の必死な叫びも空しく彼女は海の中へと消えていった。
気付けば俺は一人砂浜に立っていた。
俺は崩れ落ちるようにその場に膝をつき、涙を流しながら目の前に広がる海を見た。
「嫌だ……」
******************
目の前に白い砂浜と青い海が広がっている。
この場所を俺は知っている。毎年夏になると家族で訪れていた海岸の別荘だ。
俺は一人砂浜に立って海を見ていた。
……いや、違う。もう一人いる。
俺の隣に彼女がいた。
(どうして……)
彼女ハ自分ノ足デ立ツコトハデキナイハズナノニ……。
俺は彼女の左手に触れた。彼女の手は酷く冷たく、薬指には飾り気のない銀色の指輪が嵌められていた。
(どうして……)
どうして彼女の薬指にしかないのだろうか……。
「行かないでくれ……」
俺は懇願するように彼女に言った。なぜそう言ったのか俺には分からなかった。
何も思い出せないのだ。彼女の名前も……。
不意に彼女が俺を見上げてきた。こんなに近くにいるといのに彼女の顔は逆光で見えなかった。
「ヴァルトス国の希望の光……」
俺は目を開いた。
俺はこの言葉を、この声を聞いたことがある。
「お前が……」
俺が口を開きかけた時、背後で爆発が起きた。
驚いて後ろを振り返るとそこには燃え上がる炎と黒い煙、そして逃げ戸惑う民の姿があった。
あちこちから悲鳴と金属音が聞こえる。
「殿下!王城が攻め落とされたとっ!」
「………ッッ!!」
俺は王城へ駆け出した。
王城の中は地獄絵図だった。血に染まった床に避難した民と城で働いていた者たち、そして城を守っていた兵士たちが無惨な姿で横たわっていた。
「父さん!母さん!」
俺は両親の姿を探した。破壊された扉の向こう……王の間に飛び込むと、そこには血の海に横たわる母の姿と、父の首を持った男の姿があった。
男が振り返り、感情のない紅い目が俺を捉える。
「実につまらない男だった……」
男は父の首を床に落とした。床に転がった父の両目が黒く塗りつぶされていた。
「あああああああああああああ!!!」
俺は男に切り掛かったが、男の圧倒的過ぎる力に俺は敗北した。
気付けば捕虜として牢の中にいた。
そこからは地獄だった。
暴力的な痛みと、吐き気がするおぞましい行為。
甘ったるい香水に混じる汗と性の匂い。俺の身体を這い回る女たちの手。甲高い喘ぎ声。
気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。
固く目を閉じ、ただひたすらこの行為が早く終わるのを願った。
再び目を開けると、あたりは静寂に包まれていた。甘ったるい匂いも、女の声も聞こえない。
横たわる俺の隣に彼女がいた。
彼女は俺と向き合うように静かに眠っていた。あんなに見えなかった彼女の顔がはっきりと見えた。
彼女の顔は少年のようだった。
俺は眠っている彼女の頬にそっと触れた。彼女の頬は酷く冷たかった。
俺の目から涙がこぼれ落ちた。
彼女はもう二度と目を覚まさない気がした。
******************
「ヴァルトス国の希望の光」
******************
ハッと我に返ると、いつの間にか俺は軍服に身を包み血塗られた剣を握り絞めていた。辺りを見回すとそこには一面に広がる赤と無数の死体。
(……そうだ、探さないと)
俺はふらりと歩きだした。…………が、その足が止まる。
(俺は一体何を探そうとした?)
……思い出せない。
(ああ、でも探さないと……早く……)
ふと横を見るといつの間にそこに扉があった。扉を開くとそこは誰かの部屋のようだった。中は薄暗く唯一の明かりはガラス窓から差し込む月明かりだけだった。
キィ…キィ…。
バルコニーへと続くガラスの扉が中途半端に開いていて、カーテンが風でなびいていた。
不意にカーテンの向こう側……バルコニーに置かれた無人の車椅子が目にはいった。
どくりと心臓が嫌な音を立てた。
目の前の景色など俺は知らない。
(知らないはずなのに……)
どうしてこんなにも嫌な気持ちになるんだ?
(見なければ……)
いやだ、見たくない。
そう思うのに、俺の足は意思とは反対にバルコニーのほうに向かっていく。
「?」
不意に小さな丸テーブルの上に置かれた一枚の紙が目に入った。紙は風に飛ばされないようにインク壺で押さえられ、その側には羽根ペンが置かれていた。
俺はその紙を手に取った。
"ありがとう。ヴァルトス国の希望の光"
そうヴァルトス国語で綴られていた。
俺はバルコニーに飛び出し、手すりから見下ろした。
見下ろした先にあったのは………。
******************
私は廊下で待機していた二人の部下に指示があるまで皇女殿下の側にいろと伝え、殿下がいらっしゃる寝室へと駆け出した。
(あれは間違いなく、殿下の魔力っ!)
あの黄金の光と共に感じた殿下の膨大な魔力。
それほど遠くはない殿下の部屋の前に着くと、部屋の扉は吹き飛び、護衛の二人のうち、一人は床に膝をつき、もう一人は唖然とした顔で部屋の中を見ていた。
そして、部屋の中から殿下がふらつきながらお姿を表した。
「殿……下……」
殿下を呼ぶ私の声は震えていた。私の声が届いたのか殿下の足が止まった。
「何事かっ!!」
爆発音で城の兵士たちが駆けつけてきた。が、殿下の姿に……いや、殿下の魔力に後退り、中にはその場に膝を付いた者もいた。
誰一人、殿下に近付くことはできなかった。
それほどまでに殿下から発せられる魔力は圧倒的だった。
(訓練された者でなければ、気を失っていただろう……)
こめかみに冷や汗が流れた。
不意に殿下の両手が動き、ご自身の目元に触れたかと思うと、掻きむしるかのように包帯を剥ぎ取り始めた。
「……っ! 殿下!! お止めください!」
包帯の下は未だ色濃く残る火傷の後がある。だが、殿下は私の制しの声を無視し、包帯をすべて取り払った。
「…………っ!」
その場にいた誰もが息を飲んだ。
包帯の下から現れたのは目元に爛れた後が残っているお顔…………ではなく、傷ひとつない美しいお顔だった。
そして閉じられていた目蓋がゆっくりと持ち上げられていく。
「まさか……そんな……」
私は唖然とした。
そこには銀色のまつ毛に縁取られた美しいサファイアの瞳を持った殿下のお姿があった。
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