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ヒリスの最後の願い⑧
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ガラス張りの温室でお茶を嗜んでいたルシウス兄さんが不意に控えていた侍女に末の異母兄弟を連れてくるよう告げた。俺を含め周りの人間が「誰だ?」と困惑したが、ルシウス兄さんに聞けるわけもなく、侍女は戸惑いながら温室を後にした。
(兄さんが誰かを呼ぶなんて初めてだ)
政においても、戦地においてもそんなことは決してなかった。ルシウス兄さんはただ父に言われた通りに動くだけだった。
暫くして侍女が一人の少年を連れて戻ってきた。
背格好からしてシルビィより年下に見えた。一瞬庭師の子どもか?と思ったが身に着けているものがシンプルながらも上物だった。
なら貴族の子どもだろうか?
しかし、ここに居る誰もがその少年に見覚えがなかった。
ただ一人を除いて……。
「葬儀は恙無く執り行われたか?」
席に着いた少年にルシウス兄さんがそう言った。
(葬儀?)
内心首を傾げた俺は一月ほど前に四番目の妃の葬儀があったことを思い出した。
(確か病死だと……)
そう聞いている。四番目の妃の死は公表されず、参列者もなくひっそりと執り行われたと聞いた。四番目の妃とは関わりが無かったため気にも止めず、その時も末の異母兄弟の存在を思い出すこともなかった。
(なら……)
あれが末の異母兄弟なのか?
初めて会った末の異母兄弟を俺は不躾に見てしまった。
赤茶色の髪と目をした末の異母兄弟はルシウス兄さんの言葉に一瞬怪訝な表情を浮かべたが、すぐに表情を消し「はい」と答えた。
その後、二人が言葉を交わすことはなかった。
末の異母兄弟は出されたお茶を口にしながら、しきりにルシウス兄さんの様子を窺っていた。
自分を呼んだ意図と……警戒。
その視線にルシウス兄さんも気づいているだろうが、ルシウス兄さんはいつもと変わらない様子で静かにお茶を嗜んでいた。
程なくして末の異母兄弟は離宮へと戻っていた。
その日を境にルシウス兄さんはたびたび末の異母兄弟を自分のお茶の席に呼んだ。
だが二人の間に会話らしい会話はなく、いつも静寂に満ちていた。
(……兄さんはどういった意図で末の異母兄弟を呼んでいるのだろうか?)
ルシウス兄さんは四番目の妃の葬儀で初めて末の異母兄弟の存在を認識したのだろうか?
それともずっと前から?
ルシウス兄さんに問いたくても、問う勇気など……俺にはなかった。
なぜなら。
(兄さんは自分の行動に干渉されるのを酷く嫌っている……)
はっきりとその場面を見たわけではないが、傍に仕え続けててそれが分かった。
そしてその認識は間違っていなかった。
(兄さんが誰かを呼ぶなんて初めてだ)
政においても、戦地においてもそんなことは決してなかった。ルシウス兄さんはただ父に言われた通りに動くだけだった。
暫くして侍女が一人の少年を連れて戻ってきた。
背格好からしてシルビィより年下に見えた。一瞬庭師の子どもか?と思ったが身に着けているものがシンプルながらも上物だった。
なら貴族の子どもだろうか?
しかし、ここに居る誰もがその少年に見覚えがなかった。
ただ一人を除いて……。
「葬儀は恙無く執り行われたか?」
席に着いた少年にルシウス兄さんがそう言った。
(葬儀?)
内心首を傾げた俺は一月ほど前に四番目の妃の葬儀があったことを思い出した。
(確か病死だと……)
そう聞いている。四番目の妃の死は公表されず、参列者もなくひっそりと執り行われたと聞いた。四番目の妃とは関わりが無かったため気にも止めず、その時も末の異母兄弟の存在を思い出すこともなかった。
(なら……)
あれが末の異母兄弟なのか?
初めて会った末の異母兄弟を俺は不躾に見てしまった。
赤茶色の髪と目をした末の異母兄弟はルシウス兄さんの言葉に一瞬怪訝な表情を浮かべたが、すぐに表情を消し「はい」と答えた。
その後、二人が言葉を交わすことはなかった。
末の異母兄弟は出されたお茶を口にしながら、しきりにルシウス兄さんの様子を窺っていた。
自分を呼んだ意図と……警戒。
その視線にルシウス兄さんも気づいているだろうが、ルシウス兄さんはいつもと変わらない様子で静かにお茶を嗜んでいた。
程なくして末の異母兄弟は離宮へと戻っていた。
その日を境にルシウス兄さんはたびたび末の異母兄弟を自分のお茶の席に呼んだ。
だが二人の間に会話らしい会話はなく、いつも静寂に満ちていた。
(……兄さんはどういった意図で末の異母兄弟を呼んでいるのだろうか?)
ルシウス兄さんは四番目の妃の葬儀で初めて末の異母兄弟の存在を認識したのだろうか?
それともずっと前から?
ルシウス兄さんに問いたくても、問う勇気など……俺にはなかった。
なぜなら。
(兄さんは自分の行動に干渉されるのを酷く嫌っている……)
はっきりとその場面を見たわけではないが、傍に仕え続けててそれが分かった。
そしてその認識は間違っていなかった。
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