ヒリスの最後の願い

志子

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ヒリスの最後の願い②

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  大広間では盛大な宴が行われていた。
 オルディウス帝国が隣国のヴァルトス国を制した祝いだ。
 
 煌びやかな宴が行われている中、俺は照明用の魔石が入ったランタンを片手に一人薄暗い図書館である本を探してた。

(本来は王族全員出席するべきなんだろうけど……)

 俺はそういった宴や式典に参加したことは一度もない。
 理由は簡単。俺の容姿だ。
 王族の証をまったく受け継いでいない俺は汚点でしかない。周りの連中は俺が帝王の実子かどうか疑っている。
 
 ランタンを頭上に持ち上げるとそこに目当ての本があった。
 俺はランタンを床に置いてその本に手を伸ばす。……が、案の定ぎりぎりの所で届かない。

(はぁ、やっぱ脚立が必要かー……)

 離れた場所にあるから取りに行くのがめんどくさいんだよなぁ、と思いながら手を引っ込めた。
 その時。
 
 すぐ背後に気配を感じ、ドッと心臓が跳ね上がった。
 
 ………誰か居る。
 
 硬直し動けない俺の頭上に一本の腕が現れ俺が取ろうとした本を棚から取り出すと、そのまま俺の背後へと消えていった。

「ヴァルトス国の歴史か」

 背筋が凍るほどゾッとする声音に俺はそっと深く息を吐き出し、ゆっくりと後ろを振り返った。

 そこに居たのは二番目の兄、ルシウスだった。
 
 大きな窓から差し込む月明かりが彼を照らし出す。
 死人のような青白い肌に、漆黒の髪と凍てついた赤い目。そしてゾッとするほど美しい顔立ちは、先々代の帝王の肖像画と瓜二つだった。黒を基調とした衣装を身に纏ったルシウスは何も言わず本の中身を見てる。

(なんでここに居るんだ……)

 目の前の男は今大広間で開かれてる宴の主役のはずだ。
 静寂が辺りに漂う。

 「……下らないな」

 ルシウスはそう零すと本を閉じ俺に渡し、その場を立ち去って行った。遠のいていく足音はやがて扉の開閉と共に消え、再び辺りに静寂が訪れた。

「……はぁあ!心臓に悪ッ!」
 
 俺は肺の底から息を吐き出しながらその場にしゃがみ込んだ。

 ルシウス・バスチアン・セルヴォス。
 次期帝王と呼ばれている男。

(……そしてベルナルドの国を滅ぼした男)
 
 俺は手元の本を見下ろした。脳裏に先ほどルシウスに言われた言葉が浮かぶ。

「下らない……か」
 
 彼にとって滅んだ国などもはやどうでもいいことなんだろう。
 俺は本とランタンを持って立ち上がり図書館を後にした。

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