幽子さんの謎解きレポート~しんいち君と霊感少女幽子さんの実話を元にした本格心霊ミステリー~

しんいち

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Epiphone3 不幸が棲まう家編

Epiphone3 不幸が棲まう家 「二十二軒目 拒絶」

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火の手が迫る中、幽子の掛け声が響く。「じゃあ行くぞ!」その瞬間、意識を失った美奈子さんを幽子と共に引きずり、リビングの外へと急いだ。焦げ臭い煙が鼻をつき、心臓が高鳴る。時間がない。自分の手が美奈子さんの体に触れるたび、胸が締め付けられる思いだった。

外に出ると、少しだけ安堵の息をついた。「あとは大丈夫だから、早く日向ちゃんのところに行って!」と二人を送り出した。彼女たちの背中が遠ざかるのを見送りながら、心の中で祈るように願った。

傷の痛みでふらついている陽介に向かって、幽子は力強く声をかけた。「頑張れ!あとは彼女だけだ!」その言葉は陽介に取って一つ道しるべになったであろう、2人は一緒に二階へと向かって行く。果たして無事に彼女を助けられるのか、運命の歯車がどう回るのか、全てはこの幽子と陽介にかかっていた。

バタバタと音を立てながら、陽介と幽子は階段を駆け上がり、日向ちゃんの部屋の前に辿り着いた。幸いなことに、陽介が普段からしっかりと換気をしていたおかげか、二階の廊下には煙があまり立ち込めていなかった。

「日向ぁ!」陽介は勢いよくドアを開けた。部屋に入ると、彼女は部屋の隅で力なく座り込んでいた。焦げ臭い匂いや、外から聞こえる悲鳴や怒号が、この家で何が起こっているのかを物語っている。にもかかわらず、彼女はその場に留まり、まるでふて腐れた子供のように、ただじっとしていた。

陽介はふらつく身体を押し進め、彼女に近づいて、「日向……、家が大変なことになっているから、早く逃げよう」と、彼は手を差し伸べ、優しく声を掛けた。しかし、日向ちゃんはその優しい手を払いのけ、突然立ち上がった。彼女の目は苛立ちと絶望で揺れていた。「もう良いんだよ! みんな面倒くさいんだ、私ここで死ぬんだから、邪魔するんじゃねぇーよ!」と、髪を振り乱しながら叫び、陽介を両手で突き飛ばした。

「ドンッ」と音を立てて、陽介は倒れ込んだ。彼の身体はすでに満身創痍で、日向ちゃんの細い手の力でも簡単に倒れてしまうほど、フラフラだった。彼は地面に倒れたまま、彼女の背中を見つめた。彼女の姿は、まるで全ての事に嫌気がさし、諦めた人のように見えた。

陽介の心は痛んだ。彼女を救いたい、でもどうすればいいのか分からない。彼は、彼女の心の中にある闇を少しでも照らすために、再び立ち上がろうとした。

そんな時だった、幽子は、まるで静かな湖面に投げ込まれた石のように、陽介と日向ちゃんの間にスッと割って入った。ゆっくりと日向ちゃんに近づくにつれ、周囲の空気が張り詰めていくのを感じた。

日向ちゃんの心の悲鳴が上がった。「おめーぇ。さっきからいったい何なんだよ、気持ち悪いんだよ。むこー行けよ!」その言葉は、まるで彼女の心の奥底から湧き上がった怒りのようでもあり、あらゆる物を拒絶する波のようでもあった。
その大波が幽子に向き、陽介のように突き飛ばそうとした瞬間、日向ちゃんは宙を舞っていた。

幽子は合気道の達人である。

その技はまるで流れる水のように滑らかだった。日向ちゃんの手を瞬時に掴み、隅落としの要領で彼女を美しく投げ飛ばした。日向ちゃんは、何が起こったのか理解できず、ただ空中で困惑した表情を浮かべていた。

「痛ッ!」

その声は、彼女の驚きと痛みが交錯した瞬間の叫びだった。幽子の力強さに圧倒され、日向ちゃんは自分と同じ体格の女性に投げ飛ばされたことに、ただ呆然とするしかなかった。

そんな日向ちゃんに幽子は、彼女の胸ぐらをガッシリと掴み、

「いい加減しろーぉ!」

と怒声を響かせた。その声は、まるで雷鳴のように周囲に響き渡り、日向ちゃんの心に直接突き刺さった。

「お兄さんを見てみろ!彼はあんな状態になっているのに、お前のことを心配して助けに来たんだ、なんとも思わないのか!」幽子の言葉は、日向ちゃんの心の奥深くに響き、彼女を追い詰めるようにさらに怒声を浴びせかけた。

日向ちゃんは震えていた。

幽子の気迫に圧倒されているのか、それとも陽介の血だらけの姿を見て我に返ったのか、彼女の目は怯え、涙目になりながら視線を落としていた。

その時、陽介が立ち上がり、幽子に向かって「ありがとうございます」と声をかけた。幽子は「あっ!」と驚きの声を上げ、陽介をゆっくりと見つめた。「ゴメン……、やり過ぎた」と、焦った表情が彼女の顔に浮かんだ。

陽介は微笑みを浮かべ、「良いんです。本当は自分がやらなければならなかったことですから……。優しいだけじゃダメですね」と、感謝の気持ちを込めて答えた。その言葉には、彼の内に秘めた強い意志が感じられた。

陽介は二人に近づき、「日向!早く行くよ」と、力強い手を差し伸べた。その手は、先ほどの優しいものとは異なり、決意が漲る力強さを持っていた。日向ちゃんはその手を取り、立ち上がった。「うん……」と、彼女の声は小さく消えてしまいそうな声だったが、陽介の手を取ったその手は力強く、彼の手を掴んでいた。

そんな事が起きている中、自分は美奈子さんを外へと連れ出すことに成功していた。日向ちゃんの部屋で何が起こっているのか全く知らない自分は、なかなか出て来ない三人のことを心配していた。心の中で不安が膨らむにつれ、悪い予感が募っていく。

「自分も向かった方が良いのではないのか?」と、ソワソワしながら思っていると、突然、幽子の大きな声が玄関付近から響いてきた。「頑張れ!もう少しだ!」その声は、まるで自分の心に火を灯すようだった。たまらず、玄関に三人を助けに行っていた。

幽子が先頭で玄関から飛び出し、続いて陽介と日向ちゃんが姿を現した。自分はボロボロの陽介に手を貸し、彼を家の外へと連れ出した。彼の体は疲れ切っていて、まるで重い荷物を背負っているかのようだった。

「3人とも無事で良かった!」思わず口から出た言葉は、安堵の感情が溢れ出た瞬間だった。自分は腰が抜けたかのように、道路に座り込んでしまった。幽子もまた、疲れ果てた様子で道路に仰向けに寝転がり、空を見上げていた。彼女の表情には、戦いの後の安堵と疲労が混ざり合っていた。

陽介は「はぁ!はぁ!」と息を切らしながら立ち尽くしていた。その姿は、まるで全ての力を使い果たしたかのようだった。日向ちゃんはそんな彼の側でへたり込んでいた。

陽介は回りをキョロキョロさせ、自分に向かって「母さんは?」と不安そうに尋ねてきた。
自分は指を指して「美奈子さんはあっちにいるよ」と告げた。「自分が家から出てきた時に近くにいた人が手を貸してくれて、今、安全なところに連れて行ってもらったんだ。」その言葉を聞いた陽介の顔に、安堵の色が広がった。「ありがとう」と彼は小さく返した。

「ふぅ!」と一声、陽介が深呼吸した瞬間、彼の表情が変わった。何かに気づいたかのように、深刻な顔に変わり、燃え広がっていく家をじっと見つめていた。

「どうした?」と自分は陽介に尋ねると、彼は小さく呟いた。

「まだ一人助けなきゃ……」
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