上 下
15 / 54
Epiphone2 学園祭編

Epiphone2 学園祭 (第四幕 学園祭)

しおりを挟む
学園祭の朝、太陽が高く昇り、空は澄み渡っていた。

自分は、昨日の出来事を思い返しながら、幽子から贈られた数珠に手を合わせていた。
あの幽子からの贈り物だからこそ、「タダでは助けてはくれまい」と心の中で呟き、昨夜コンビニで買ったシュークリームを数珠にお供えした。


「今日は無事に終わりますように」、「自分を守ってください」と、何度も願いを込めて数珠に触れ、心を落ち着ける。
最後に「さぁ行くか!」と気合いを入れ、数珠を腕に巻きつけて学校へと向かった。

外に出ると、天気は快晴。まさに文化祭日和で、心が躍る。
学校の敷地内では、すでに学園祭の準備が始まっており、朝から大勢の生徒たちが忙しそうに動き回っていた。自分はまず、荷物を置くために教室へと足を運ぶことにした。

教室に入ると、隣の幽子の席はまだ空っぽだった。
彼女は星野さんと一緒に回ると言っていたから、きっと星野さんと待ち合わせをしているのだろう。
そんなことを考えながら、荷物を置き、早速怪談会の会場である旧校舎へ向かうことにした。

旧校舎は、外から見る限りは何の変わりもない。昨日と同じように、不気味な姿に少しの不安を覚えつつ、入り口から中を覗くと、すでに数人の生徒が学園祭の準備に追われていた。自分は意を決して、その中へと足を踏み入れることにした。

中に入ると、やはり昨日と同様に嫌な気配が漂っていた。
しかし、数珠のおかげなのか、昨日ほどの恐怖は感じられなかった。
少し安心しながら、腕に巻かれた数珠を反対の手でぎゅっと握りしめ、旧校舎の奥にある会場へと向かっていった。

「おはようございます!」と元気よく挨拶をしながら会場を覗くと、部長の関口さんや副部長の木村さん、そして他の部員たちが和気あいあいと雑談を交わしていた。
「おはよう!」、「早いね。」と返ってくる挨拶に、自分もその輪の中に加わる。

今いるメンバーと話をしながら、ボチボチと準備を進めていると、次第に残りのメンバーも集まり始めた。
今日は怪談会に関係のないメンバーは自由参加となっており、最後の片付けだけ手伝ってもらう予定だ。

学園祭の流れは、11時から開場し、15時まで続く。その後、約2時間かけて片付けを行い、夕方過ぎから後夜祭が始まるというスケジュールだ。怪談会は13時から開演予定で、出演者は12時頃から衣装を着たり、お客さんの誘導、撮影機材の最終確認を行うことになっている。
つまり、学園祭が始まってからの1時間ほどは全員が自由時間となる。

怪談会に関係する部員が全員集まったところで、副部長の木村さんと部長の関口さんから意気込みの言葉や1日の流れについて説明を受ける。「今日1日頑張っていこう!」という掛け声と共に、学園祭の幕が開けた。

初めての学園祭ということもあり、自分は軽く学校内を回ってみることにした。
開場してからまだ間もないが、外部からの見学者も多く、賑わいを見せているのが分かる。
うちの高校の学園祭は、この地域のお祭り的な位置付けにもなっているほど有名で、大人から子供まで多くの人々が訪れるイベントだ。自分も過去に何度か足を運んだことがある。

しかし、今日の学園祭はいつもとは違う。
今回は自分たちが主催側なのだ。
しかも、自分はお客さんの前で司会をしなければならない大役がある。
学校内を見て回っても、何か落ち着かず、すぐに旧校舎の方へと戻ってきてしまった。
旧校舎は、昨日から続く不気味な雰囲気が漂っているが、今は緊張からかそれを気にする余裕もなかった。

会場に戻ると、ソワソワしながら司会の手順を確認し始めたその時、突然会場のドアが開き、副部長の木村さんが顔を出した。「おーぉ!しんちゃん、緊張してるじゃん!」と、いつもの軽やかな口調で声をかけてきた。

副部長の木村さんは、まるで親しい友達のように接してくれる存在だ。
彼の細身の姿と天パの髪型は、どこか北海道出身の有名俳優を思わせる。口が達者で、ちょっとした冗談を交えながら話す彼の姿は、皆の心を和ませる。
ノリが軽く、周囲からは適当に見られることもあるが、オカルトに関する知識は部長の関口さんに負けず劣らず豊富だ。後輩たちとも親しく会話し、自然と慕われる存在なのだ。

   怖さと期待が入り混じる中、私は木村さんに言葉を投げかけた。「あぁ!木村さんかぁ、もちろん緊張してますよぉ。
司会なんて生まれて始めての経験ですもん。外に出たらお客さんがいっぱい来ていて、それが余計に緊張しちゃいますよぉ。」 すると、木村さんは大声で「アハハハ!」と笑い飛ばした。

「木村さんこそ何やっていたんですか?学園祭は見に行かないんですか?」と、緊張を和らげるように自分は尋ねた。

木村さんは少し苦笑しながら、「俺もしんちゃんと同じだよぉ。けっこう練習したけど、それでも何か心配になっちゃってさ、また怪談の原稿読み直してたんだよ。」と、心配そうに答えた。

   普段はふざけた一面が目立つ木村さんも、意外な一面を見せる。私の心の中では、少しほっとした気持ちが広がる。そんな時、木村さんが、「しんちゃんだけじゃないよぉ!控え室見てみなよ。しんちゃんと同じ一年の椿ちゃんも緊張してずっと原稿読んでるよ。」と言った。

   えっ、と驚きつつ隣の控え室を覗くと、椿ちゃんが真剣な表情で怪談の原稿を読み込んでいた。彼女は、昨日の一年生3人組の一員だ。
   
木村さんはその様子を見ながら、「椿ちゃんも可哀想だねぇ、紅一点とか言われて決められちゃってさぁ。
何でもしんちゃんと一緒で、人前が苦手って言ってたしねぇ。でもほら!何事も経験だから。」と、ケラケラと笑いながら話してきた。

相変わらず軽い男だなと思いつつ、私も少し安心した。
緊張するのは自分だけではないのだと、心のどこかでほっとした気持ちが広がっていった。学園祭の幕が開くその瞬間まで、心は不安と期待で揺れ動いていた。

木村さんに「そういえば、木村さんの話す怪談って、この旧校舎にまつわるものですよね?何かこの旧校舎には昔からの曰くがあるんですか?」と、何気なく尋ねてみた。
すると、木村さんは腕を組み、少し考え込むような仕草を見せた。

「曰くねぇ?」と呟きながら、彼の目はどこか遠くを見つめている。
やがて、彼は「噂程度ならいろいろあるんだよなぁ、この旧校舎。」と、まるで何かを知っているかのように答えた。

「噂ですか?」と自分が返すと、木村さんは「よくあるような内容の噂だよ。」と前置きをし、次の言葉を紡ぎ始めた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合系サキュバス達に一目惚れされた

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

黄昏は悲しき堕天使達のシュプール

Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・  黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に  儚くも露と消えていく』 ある朝、 目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。 小学校六年生に戻った俺を取り巻く 懐かしい顔ぶれ。 優しい先生。 いじめっ子のグループ。 クラスで一番美しい少女。 そして。 密かに想い続けていた初恋の少女。 この世界は嘘と欺瞞に満ちている。 愛を語るには幼過ぎる少女達と 愛を語るには汚れ過ぎた大人。 少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、 大人は平然と他人を騙す。 ある時、 俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。 そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。 夕日に少女の涙が落ちる時、 俺は彼女達の笑顔と 失われた真実を 取り戻すことができるのだろうか。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

デリバリー・デイジー

SoftCareer
キャラ文芸
ワケ有りデリヘル嬢デイジーさんの奮闘記。 これを読むと君もデリヘルに行きたくなるかも。いや、行くんじゃなくて呼ぶんだったわ……あっ、本作品はR-15ですが、デリヘル嬢は18歳にならないと呼んじゃだめだからね。 ※もちろん、内容は百%フィクションですよ!

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...