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Epiphone3 不幸が棲まう家編
Epiphone3 不幸が棲まう家 (十七軒目 変化)
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陽介の家を訪れてから一週間が経った休日。連日の残暑もようやく緩み、今日は秋の始まりを感じさせる穏やかな日差しが降り注いでいた。空は高く澄み渡り、どこか心が和むような青さを湛えている。
自分と幽子は、最寄りのバス停で降り立ち、陽介の家へと足を進めていた。周囲の景色は、まだ緑が色濃く残る中に、少しずつ秋の気配が混じり始めていた。道の途中には少し早いコスモスが揺れていて、秋の始まりを歓迎しているようだった。
陽介とはあの後、一度連絡を取った。彼の声は少し緊張していたが、元気そうだった。彼の話では日向ちゃんはあの訪問のあとから、かなり良くなり、会話も出来るようには回復しているようだった。ただ、やはり引っ越しの件はあまり進んでおらず、少し悩んでいるようではあった。
幽子からの伝言を伝えた後も彼の様子が気になり、心のどこかで不安がくすぶっていた。彼の家に近づくにつれ、その思いはますます強くなっていった。
そんな中、幽子の足取りは軽やかで、どこか気迫が込められた雰囲気を漂わせながら、中秋の町並みを歩いていた。彼女の瞳は、まるで秋の空のように澄み渡り、心の中に秘めた思いを映し出しているかのようだった。
それも無理はない。前回、陽介の家を訪れた帰りに立ち寄った老舗洋菓子店「SAKURAI」での出来事が、彼女の心に深く刻まれていた。あの日、彼女が楽しみにしていたケーキは、残念ながらすでに売り切れ。
彼女の落胆ぶりは、おかし…、いや!悲惨で、子供のように涙目になっていた際は、笑って…、いや!同情して涙が溢れてしまった。
「どうして、こんなに楽しみにしていたのに…」と、彼女の小さな声が耳に残る。あの瞬間、幽子の心の中に広がった失望感は、まるで秋の冷たい風のように、彼女を包み込んでいた。だが、今日は違った。彼女は再びそのケーキを手に入れるために、陽介の家へと向かっているのだ。心の中に燃えるような決意を抱き、彼女は一歩一歩、確かな足取りで進んでいく。
陽介の家に辿り着くと、自分は呼び鈴を鳴らし、自分たちが到着したことを告げた。玄関の前に立つと、いつもと変わらぬ普通の一軒家の佇まいが目に入る。だが、残暑の暑さなのか、それとも緊張感からなのか、じわじわと汗が滲んでいるのを自分は感じていた。
しばらくの静寂の後、玄関が開き、陽介の姿が現れた。「いらっしゃい!」と元気な声が響く。彼の笑顔は、以前見たときよりも幾分明るく、活力に満ちているように見えた。その姿を見た瞬間、自分の心に安堵の波が押し寄せた。陽介が元気でいることが、何よりも嬉しかった。
「久しぶりだね!」と、陽介は自分たちを迎え入れながら、明るい表情を崩さなかった。自分と幽子はその言葉に微笑み返し、心の中の緊張が少しずつ和らいでいくのを感じた。
玄関を一歩踏み入れると、自分は家の雰囲気が以前とはまるで違うことに気づいた。かつて感じた不気味さは薄れ、埃っぽさも感じられなかった。まるで新たな息吹が吹き込まれたかのように、空気が清々しく感じられた。
「換気ちゃんとしているみたいだね」と、幽子は陽介に告げた。彼はその言葉に応えるように、少し照れくさそうに笑いながら言った。「はい!この前、しんいちから伝言を聞いて、できるだけ窓は開けて換気するようにしています。母は寒いから閉めてと相変わらず言っていますが……」
その言葉を聞いた自分は、陽介の苦笑いに少し安心しつつも、彼の言葉に一抹の不安を抱えていた。自分たちは陽介の案内でリビングに入る美奈子さんに挨拶をしに行った。
リビングに足を踏み入れると、美奈子さんはソファに腰を下ろし、静かに本を読んでくつろいでいた。テーブルの上には、温かいコーヒーカップが一つと、彼女の趣味である手芸に関する雑誌が広げられている。穏やかな光が差し込む中、彼女はそのページをめくりながら、どこか心地よい時間を過ごしているようだった。
「こんにちは!」と声をかけると、美奈子さんは驚いたように顔を上げ、柔らかな笑顔を浮かべた。「あら!しんいち君いらっしゃい、また来たのね。」その言葉には温かさがあったが、同時にどこか虚ろな瞳が印象に残った。
自分はその笑顔の裏に潜む何かを感じ取っり、「まだ具合悪いのかなぁ?」という思いが、心の中にひっかかる。
美奈子さんの笑顔は、彼女の心の奥にある不安や痛みを隠すためのものであるかのように思えた。彼女の存在は、明るい光の中にあっても、どこか影を落としているように感じられた。自分はその微妙な空気に戸惑いながらも、彼女との会話を続けることにした。
「母さんからこれをまた頼まれて…」自分は、美奈子さんに近づき、手に持っていた紙袋を差し出した。美奈子さんはその袋を受け取り、優しく微笑みながら中身を確認する。彼女の目が輝き、心からの感謝の気持ちが溢れ出す。「いつもありがとう。お母さんにもお礼を言っておいてくれるかしら?」その言葉には、彼女の温かさが込められていた。
自分は「はい!」と元気よく返事をし、挨拶を交わして陽介たちの方へ振り向いた。その瞬間、幽子は美奈子さんをじっと観察していた。彼女の目はまるで何かを見透かすように鋭く、まさに霊視をしているのだろうか。自分は少しそわそわと緊張しながら、二人の元に戻り、リビングを後にした。
心の中で美奈子さんのことが気になり、幽子に「どうだった?」と呟いたが、彼女は「う~ん?」と一声上げて、何かを考え込んでいる様子だった。しばらくの沈黙の後、幽子は陽介に向かって話しかけた。「まぁ!後で話すよ。一先ず妹さんに会わせてくれ。しんいちの話では、けっこう良くなったそうじゃないか。」
陽介は嬉しそうに頷き、「ええ!まだ家に引きこもっていますが、食事もしっかり取ってますし、部屋からも少しずつ出るようになってて、お風呂にもちゃんと入ってますよ」と笑顔で答えた。
その言葉に、幽子は目を輝かせて「おっ!良かったなぁ。お風呂にも入れるようになったそうだぞ、しんいち」と言った。彼女の言葉は、先週受けたトラウマをえぐるように心の傷に響いた。自分は「アハハハ」と乾いた笑いで返すのが精一杯だった。
そんな会話をしながら自分たちが日向ちゃんの部屋の前に立つと、心の中に緊張が広がっていくのを感じた。
先週、彼女の姿を目にしたときのことが頭をよぎる。陽介からは「だいぶ良くなった」と聞いていたが、果たして本当にそうなのだろうか。帰るときの彼女は少し落ち着いているように見えたが、心の奥には不安が残っていた。
陽介がドアをノックし、「日向!しんいちと幽子さん来たよ。」と声をかける。しかし、返事はない。自分の心の中で疑念が渦巻き、緊張感はますます高まっていく。
「日向、開けるよ」と陽介が言い、ドアをそっと開けた。自分は思わず「ふーう」息を吐き出し、静かに中を覗き込む。そこには、先週の混沌とした光景はなく、驚くほど普通の光景が広がっていた。
窓は開け放たれ、秋の心地よい風が部屋の中を吹き抜けている。カーテンはしっかりと止められ、棚にあった物も整然と並べられていた。異様な臭いに包まれていた部屋は、今や自分たちが頑張って綺麗にしたままの姿を保っていた。日向ちゃんの部屋は、まるで彼女自身が少しずつ元気を取り戻しているかのように、明るく整っていた。
その光景に、少しだけ安堵の気持ちが広がった。日向ちゃんは、ベッドに座っていた。体育座りのように膝を抱え、顔を伏せている姿は、まるで何かから身を守るように見えた。あまりの反応のなさに、自分は「寝てるのか?」と疑問が浮かぶ。
その時、陽介が「日向!」と声をかけると、彼女はゆっくりと顔を上げた。その瞬間、部屋の空気が一変した。彼女の瞳は、まるで鋭い刃物のように光り、敵意に満ちた視線が自分たちに向けられた。
その視線に、思わず息を呑む。日向ちゃんの表情は、どこか冷たく、心の奥に潜む苦しみを感じさせる。安堵の気持ちは一瞬で消え去り、代わりに緊張が再び胸を締め付ける。
自分と幽子は、最寄りのバス停で降り立ち、陽介の家へと足を進めていた。周囲の景色は、まだ緑が色濃く残る中に、少しずつ秋の気配が混じり始めていた。道の途中には少し早いコスモスが揺れていて、秋の始まりを歓迎しているようだった。
陽介とはあの後、一度連絡を取った。彼の声は少し緊張していたが、元気そうだった。彼の話では日向ちゃんはあの訪問のあとから、かなり良くなり、会話も出来るようには回復しているようだった。ただ、やはり引っ越しの件はあまり進んでおらず、少し悩んでいるようではあった。
幽子からの伝言を伝えた後も彼の様子が気になり、心のどこかで不安がくすぶっていた。彼の家に近づくにつれ、その思いはますます強くなっていった。
そんな中、幽子の足取りは軽やかで、どこか気迫が込められた雰囲気を漂わせながら、中秋の町並みを歩いていた。彼女の瞳は、まるで秋の空のように澄み渡り、心の中に秘めた思いを映し出しているかのようだった。
それも無理はない。前回、陽介の家を訪れた帰りに立ち寄った老舗洋菓子店「SAKURAI」での出来事が、彼女の心に深く刻まれていた。あの日、彼女が楽しみにしていたケーキは、残念ながらすでに売り切れ。
彼女の落胆ぶりは、おかし…、いや!悲惨で、子供のように涙目になっていた際は、笑って…、いや!同情して涙が溢れてしまった。
「どうして、こんなに楽しみにしていたのに…」と、彼女の小さな声が耳に残る。あの瞬間、幽子の心の中に広がった失望感は、まるで秋の冷たい風のように、彼女を包み込んでいた。だが、今日は違った。彼女は再びそのケーキを手に入れるために、陽介の家へと向かっているのだ。心の中に燃えるような決意を抱き、彼女は一歩一歩、確かな足取りで進んでいく。
陽介の家に辿り着くと、自分は呼び鈴を鳴らし、自分たちが到着したことを告げた。玄関の前に立つと、いつもと変わらぬ普通の一軒家の佇まいが目に入る。だが、残暑の暑さなのか、それとも緊張感からなのか、じわじわと汗が滲んでいるのを自分は感じていた。
しばらくの静寂の後、玄関が開き、陽介の姿が現れた。「いらっしゃい!」と元気な声が響く。彼の笑顔は、以前見たときよりも幾分明るく、活力に満ちているように見えた。その姿を見た瞬間、自分の心に安堵の波が押し寄せた。陽介が元気でいることが、何よりも嬉しかった。
「久しぶりだね!」と、陽介は自分たちを迎え入れながら、明るい表情を崩さなかった。自分と幽子はその言葉に微笑み返し、心の中の緊張が少しずつ和らいでいくのを感じた。
玄関を一歩踏み入れると、自分は家の雰囲気が以前とはまるで違うことに気づいた。かつて感じた不気味さは薄れ、埃っぽさも感じられなかった。まるで新たな息吹が吹き込まれたかのように、空気が清々しく感じられた。
「換気ちゃんとしているみたいだね」と、幽子は陽介に告げた。彼はその言葉に応えるように、少し照れくさそうに笑いながら言った。「はい!この前、しんいちから伝言を聞いて、できるだけ窓は開けて換気するようにしています。母は寒いから閉めてと相変わらず言っていますが……」
その言葉を聞いた自分は、陽介の苦笑いに少し安心しつつも、彼の言葉に一抹の不安を抱えていた。自分たちは陽介の案内でリビングに入る美奈子さんに挨拶をしに行った。
リビングに足を踏み入れると、美奈子さんはソファに腰を下ろし、静かに本を読んでくつろいでいた。テーブルの上には、温かいコーヒーカップが一つと、彼女の趣味である手芸に関する雑誌が広げられている。穏やかな光が差し込む中、彼女はそのページをめくりながら、どこか心地よい時間を過ごしているようだった。
「こんにちは!」と声をかけると、美奈子さんは驚いたように顔を上げ、柔らかな笑顔を浮かべた。「あら!しんいち君いらっしゃい、また来たのね。」その言葉には温かさがあったが、同時にどこか虚ろな瞳が印象に残った。
自分はその笑顔の裏に潜む何かを感じ取っり、「まだ具合悪いのかなぁ?」という思いが、心の中にひっかかる。
美奈子さんの笑顔は、彼女の心の奥にある不安や痛みを隠すためのものであるかのように思えた。彼女の存在は、明るい光の中にあっても、どこか影を落としているように感じられた。自分はその微妙な空気に戸惑いながらも、彼女との会話を続けることにした。
「母さんからこれをまた頼まれて…」自分は、美奈子さんに近づき、手に持っていた紙袋を差し出した。美奈子さんはその袋を受け取り、優しく微笑みながら中身を確認する。彼女の目が輝き、心からの感謝の気持ちが溢れ出す。「いつもありがとう。お母さんにもお礼を言っておいてくれるかしら?」その言葉には、彼女の温かさが込められていた。
自分は「はい!」と元気よく返事をし、挨拶を交わして陽介たちの方へ振り向いた。その瞬間、幽子は美奈子さんをじっと観察していた。彼女の目はまるで何かを見透かすように鋭く、まさに霊視をしているのだろうか。自分は少しそわそわと緊張しながら、二人の元に戻り、リビングを後にした。
心の中で美奈子さんのことが気になり、幽子に「どうだった?」と呟いたが、彼女は「う~ん?」と一声上げて、何かを考え込んでいる様子だった。しばらくの沈黙の後、幽子は陽介に向かって話しかけた。「まぁ!後で話すよ。一先ず妹さんに会わせてくれ。しんいちの話では、けっこう良くなったそうじゃないか。」
陽介は嬉しそうに頷き、「ええ!まだ家に引きこもっていますが、食事もしっかり取ってますし、部屋からも少しずつ出るようになってて、お風呂にもちゃんと入ってますよ」と笑顔で答えた。
その言葉に、幽子は目を輝かせて「おっ!良かったなぁ。お風呂にも入れるようになったそうだぞ、しんいち」と言った。彼女の言葉は、先週受けたトラウマをえぐるように心の傷に響いた。自分は「アハハハ」と乾いた笑いで返すのが精一杯だった。
そんな会話をしながら自分たちが日向ちゃんの部屋の前に立つと、心の中に緊張が広がっていくのを感じた。
先週、彼女の姿を目にしたときのことが頭をよぎる。陽介からは「だいぶ良くなった」と聞いていたが、果たして本当にそうなのだろうか。帰るときの彼女は少し落ち着いているように見えたが、心の奥には不安が残っていた。
陽介がドアをノックし、「日向!しんいちと幽子さん来たよ。」と声をかける。しかし、返事はない。自分の心の中で疑念が渦巻き、緊張感はますます高まっていく。
「日向、開けるよ」と陽介が言い、ドアをそっと開けた。自分は思わず「ふーう」息を吐き出し、静かに中を覗き込む。そこには、先週の混沌とした光景はなく、驚くほど普通の光景が広がっていた。
窓は開け放たれ、秋の心地よい風が部屋の中を吹き抜けている。カーテンはしっかりと止められ、棚にあった物も整然と並べられていた。異様な臭いに包まれていた部屋は、今や自分たちが頑張って綺麗にしたままの姿を保っていた。日向ちゃんの部屋は、まるで彼女自身が少しずつ元気を取り戻しているかのように、明るく整っていた。
その光景に、少しだけ安堵の気持ちが広がった。日向ちゃんは、ベッドに座っていた。体育座りのように膝を抱え、顔を伏せている姿は、まるで何かから身を守るように見えた。あまりの反応のなさに、自分は「寝てるのか?」と疑問が浮かぶ。
その時、陽介が「日向!」と声をかけると、彼女はゆっくりと顔を上げた。その瞬間、部屋の空気が一変した。彼女の瞳は、まるで鋭い刃物のように光り、敵意に満ちた視線が自分たちに向けられた。
その視線に、思わず息を呑む。日向ちゃんの表情は、どこか冷たく、心の奥に潜む苦しみを感じさせる。安堵の気持ちは一瞬で消え去り、代わりに緊張が再び胸を締め付ける。
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