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Epiphone3 不幸が棲まう家編
Epiphone3 不幸が棲まう家 (五軒目 攻防)
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最悪の状況だった。幽子は明らかに不機嫌な顔をして、鋭い視線をこちらに向けている。
こんな状況で彼女との交渉がうまくいった試しはない。
まるで野球の試合で、7回裏に10点以上の差をつけられているようなものだ。高校野球なら、コールド負けが確定した絶望的な状況だ。
奇跡でも起きない限り、どうにもならないだろう。
何とか逆転の一手を考えようと必死になっていると、幽子から先制のパンチが飛んできた。
「何故、君がここにいるんだ。変な依頼ならぜっっっったいにやらないからな。私は今はとっっっっても機嫌が悪いんだ。」その言葉は、まるでノックダウン寸前の一撃のようだった。
冷や汗が背中を流れ、思考が一瞬止まる。どうにかしてこの状況を打破しなければならない。
幽子の目は、まるで鋭い刃物のようにこちらを刺し貫いてくる。彼女の機嫌を損ねることは、まさに自ら地雷を踏むようなものだ。
そんなことを思いながら、まずは状況の確認をしなければならない。陽介のことは話さず、様子を伺うことにした。
「うーん!まぁ……、ところで幽子さんは、何故にご機嫌を損なわれていらっしゃるんでしょうか?」
慎重になりすぎて変な言葉使いで問いかけてしまった。
その言葉を聞いた幽子は、ジッと自分を見つめてきた。
背中に冷や汗が流れ落ちていくのを感じ、思わず息を飲む。
彼女の視線は、まるで犯人の心の中を見抜こうとする探偵のようだった。
「まぁ、良い……、ちょっと聞いてくれ。おばあちゃんが、私が楽しみにしていたデザートを食べてしまったんだ。酷くないか?」幽子は、まるで子供のように訴えてきた。
あまりに意外な言葉に、「はぁーーーァ!」と呆れた声が咄嗟に出てしまった。
「あっ!しまった」と思った瞬間、幽子の鋭い視線がさらに鋭さを増していく。自分の背中には、滝のような冷や汗が流れ落ちていった。
「はぁー、とはなんだ!はぁー、とは。私にはとても重要な事なんだぞ!」彼女の声は、ますますヒートアップしていく。まるで小さな火が、瞬く間に大きな炎へと変わっていくようだった。
このままではまずい。幽子の機嫌を損ねたら、交渉どころではなくなる。心の中で冷静さを取り戻し、何とか彼女の気持ちを理解しようと彼女を落ち着かせる。
「ちょっと!ちょっと!落ち着いてよ。何のデザート食べられちゃったの?」自分は、幽子の心の扉を開くために、意を決して問いかけた。
幽子は恥じらいを隠せず、視線を下に落としながら小さな声で呟いた。「夏季限定の……だ。」
「えっ!何?後半、全然聞こえなかったよ。」自分は思わず耳を傾けた。
その瞬間、幽子はまるで決意を固めたかのように、声を張り上げた。「夏季限定の抹茶雪見だいふく、きな粉マシマシ黒蜜ソース添えだ!」
その言葉が耳に届いた瞬間、驚きと共に甘い香りが脳裏に浮かんだ。
なんだ、その甘い響きは。
甘いものが嫌いな人なら、即死してしまいそうな、まさにコッテリとしたデザートだ。
でも……、どこかで聞き覚えが……。
幽子は、まるで自分に考える余地を与えないかのように、そのデザートにかける思いを捲し立てる。
「私はこれを今度の中秋の名月の日に、お月見しながら食べる予定で、大事に一つとっておいたのに、それをおばあちゃんが要らないと思って食べてしまったんだ。もう私はこれを食べるまで、ぜっっっったいに何もしないからな!」
彼女の言葉には、強い決意と少しの悲しみが滲んでいた。
すっかり意固地になっている彼女の姿を見て、自分は心の中でため息をついていた。
こんな状態では陽介の料理の話を振っても、彼女は見向きもしないだろう。
失意の中でポケットからスマホを取り出し、幽子が言っていたデザートを調べることにした。
画面をスクロールしながら、彼女の言葉が横から反響する。「あるわけないだろ。夏季限定なんだ!私も急いで探し回ったけど、どこにもなかったんだ。探せるものなら探してみたまえ」と、彼女の声はまるで八つ当たりのように響いている。
自分は完全に心が折れ、心の中でぼやく。「全くなんだよ、抹茶雪見だいふく、きな粉マシマシ黒蜜ソース添えって!」。その瞬間、画面にそのデザートの画像が現れた。心臓が止まるほど驚いて、思わず目を見開いてしまった。
「あれ!これ、家にあるぞ!」と、思わず声を上げそうになった。
自分は幽子に悟られないよう、静かに部屋を出ていった。
彼女が何か言っているのは感じたが、その言葉はもう耳に入らなかった。
心臓の鼓動が「ドックン、ドックン」と静かに響く中、幽子の部屋から少し離れた場所で、家に電話をかけてみる。
「どうしたのしんいち!ようちゃん部屋に待たせて」と、母さんの声が電話越しに聞こえてきた。
焦る気持ちを押さえつつ、「ちょっと母さん……」と口を開き、幽子が言っていた「抹茶雪見だいふく きな粉マシマシ黒蜜ソース添え」の所在を尋ねた。
母さんは「なに…、いきなり?」と驚きながらも、冷凍庫を調べてくれている様子だった。心臓がさらに高鳴り、「頼む、あってくれ」と願う気持ちが募る。
その瞬間、母さんの声が響いた。
「あるわよ!」
その言葉に、思わず笑みがこぼれた。
「勝てる…」
と心の中で呟く。しかも、母さんの話ではどうやら2個も余っているらしい。
「全く……、あんたも父さんもせっかく買ってきたのに食べないんだもん。けっこう人気のデザートだったんだから」と、母さんは続けた。その言葉に、自分は勝利を確信した。
母さんとの会話の中で、過去の記憶が鮮明に蘇ってきた。
あの時、母さんが買ってきた「抹茶雪見だいふく」を見た瞬間、「なんだこの甘そうな食べ物は…」と敬遠してしまったのだ。甘いものは好きな方だが、生クリームはあっさり目、チョコレートはビター系が好みの自分にとって、その見た目は少し抵抗があった。
父さんも自分と味覚が似ていて、二人してそのデザートを手を付けずに冷凍庫の奥にしまい込んでいた。
母さんにその事情を話すと、彼女は笑いながら、「幽子ちゃん!もちろん良いわよ、やっぱりあの娘とは食べ物の相性合うわねぇ」と、まるで幽子と共感しているかのようだった。
電話を切り、再び幽子の部屋へ向かう。
勝利の予感が胸に広がり、思わずスキップしたい気持ちを抑えながら、足取り軽く彼女の待つ部屋へと進んだ。
自分は幽子の部屋の前に立ち、勝利の笑いを堪えるのに必死だった。
先ほどとはまるで違う、形勢は逆転している。まるで、100万の軍勢が陥落寸前の小さな城を取り囲んでいるかのような楽勝の気分だった。
こちらには「抹茶雪見だいふく きな粉マシマシ黒蜜ソース添え」という切り札があるのだ。
それも、なんと二枚も!
高鳴る気持ちを抑えながら、幽子の部屋に足を踏み入れた。
幽子は、先ほどと同じように自分を睨みつけている。しかし、今の自分にはその表情が滑稽に映り、笑いを堪えるのが一層難しくなっていた。
彼女の目には、まるで自分を挑発するかのような挑戦的な光が宿っている。
「どうだ!なかっただろ。あるわけないだろ、夏季限定なんだ、夏季限定!」と、幽子は吠えた。その声は、まるで負け犬の遠吠えのように聞こえ、自分はますます笑いを堪えるのに苦労した。
心の中では、まさに吹き出しそうなほどの笑いと高揚感が渦巻いていた。
そんな幽子に、自分は冷静に一言、言い放った。
「あったよ!」
その瞬間、幽子の表情は明らかに驚きに変わり、一瞬動きが止まった。
だが、彼女はすぐに最後の足掻きのように、疑いの視線を向けてきた。「そんな訳はない!散々探したんだぞ」と、まるで自分を信じられないかのように。
自分は、先ほどの電話のやり取りを彼女に話してあげた。すると、幽子の視線はみるみる変わっていき、今ではまるで神様を見上げるような崇拝の眼差しに変わっていた。
「じゃあ早くそれを私に渡したまえ」と、少し強気に言ってくる彼女の姿に、内心で「きた!きた!」とほくそ笑んだ。
自分は、あえて驚いたように「えっ!」と惚けてみせる。
さらに続けて、「あれ、美味しそうだったよねぇ。名前なんだっけ?あっ!そうそう。『抹茶雪見だいふく きな粉マシマシ黒蜜ソース添え』。自分もお月見しながら食べたくなっちゃってさぁ」と、先ほどの仕返しのように幽子をからかってみた。
その瞬間、気分はまるで人質を取った誘拐犯のような感覚に包まれていた。彼女の反応を楽しむことが、まるでゲームのように感じられた。
幽子の表情がどう変わるのか、期待に胸が高鳴る。勝利の瞬間は、もうすぐそこに迫ってた。
そして、幽子は敗北を察した表情を浮かべ、肩を落として言った。「分かった……、何の頼み事だ」と、その声には諦めが滲んでいた。
勝利の瞬間だった
自分の心の中で歓喜が響き渡り、まるで長い戦いの果てに、ついに勝利の旗を掲げたような達成感に包まれていた。
「よし、これでいける」と内心でほくそ笑みながら、「あのさぁ……」と自分は幽子に向かって陽介の事を語り始めた。
こんな状況で彼女との交渉がうまくいった試しはない。
まるで野球の試合で、7回裏に10点以上の差をつけられているようなものだ。高校野球なら、コールド負けが確定した絶望的な状況だ。
奇跡でも起きない限り、どうにもならないだろう。
何とか逆転の一手を考えようと必死になっていると、幽子から先制のパンチが飛んできた。
「何故、君がここにいるんだ。変な依頼ならぜっっっったいにやらないからな。私は今はとっっっっても機嫌が悪いんだ。」その言葉は、まるでノックダウン寸前の一撃のようだった。
冷や汗が背中を流れ、思考が一瞬止まる。どうにかしてこの状況を打破しなければならない。
幽子の目は、まるで鋭い刃物のようにこちらを刺し貫いてくる。彼女の機嫌を損ねることは、まさに自ら地雷を踏むようなものだ。
そんなことを思いながら、まずは状況の確認をしなければならない。陽介のことは話さず、様子を伺うことにした。
「うーん!まぁ……、ところで幽子さんは、何故にご機嫌を損なわれていらっしゃるんでしょうか?」
慎重になりすぎて変な言葉使いで問いかけてしまった。
その言葉を聞いた幽子は、ジッと自分を見つめてきた。
背中に冷や汗が流れ落ちていくのを感じ、思わず息を飲む。
彼女の視線は、まるで犯人の心の中を見抜こうとする探偵のようだった。
「まぁ、良い……、ちょっと聞いてくれ。おばあちゃんが、私が楽しみにしていたデザートを食べてしまったんだ。酷くないか?」幽子は、まるで子供のように訴えてきた。
あまりに意外な言葉に、「はぁーーーァ!」と呆れた声が咄嗟に出てしまった。
「あっ!しまった」と思った瞬間、幽子の鋭い視線がさらに鋭さを増していく。自分の背中には、滝のような冷や汗が流れ落ちていった。
「はぁー、とはなんだ!はぁー、とは。私にはとても重要な事なんだぞ!」彼女の声は、ますますヒートアップしていく。まるで小さな火が、瞬く間に大きな炎へと変わっていくようだった。
このままではまずい。幽子の機嫌を損ねたら、交渉どころではなくなる。心の中で冷静さを取り戻し、何とか彼女の気持ちを理解しようと彼女を落ち着かせる。
「ちょっと!ちょっと!落ち着いてよ。何のデザート食べられちゃったの?」自分は、幽子の心の扉を開くために、意を決して問いかけた。
幽子は恥じらいを隠せず、視線を下に落としながら小さな声で呟いた。「夏季限定の……だ。」
「えっ!何?後半、全然聞こえなかったよ。」自分は思わず耳を傾けた。
その瞬間、幽子はまるで決意を固めたかのように、声を張り上げた。「夏季限定の抹茶雪見だいふく、きな粉マシマシ黒蜜ソース添えだ!」
その言葉が耳に届いた瞬間、驚きと共に甘い香りが脳裏に浮かんだ。
なんだ、その甘い響きは。
甘いものが嫌いな人なら、即死してしまいそうな、まさにコッテリとしたデザートだ。
でも……、どこかで聞き覚えが……。
幽子は、まるで自分に考える余地を与えないかのように、そのデザートにかける思いを捲し立てる。
「私はこれを今度の中秋の名月の日に、お月見しながら食べる予定で、大事に一つとっておいたのに、それをおばあちゃんが要らないと思って食べてしまったんだ。もう私はこれを食べるまで、ぜっっっったいに何もしないからな!」
彼女の言葉には、強い決意と少しの悲しみが滲んでいた。
すっかり意固地になっている彼女の姿を見て、自分は心の中でため息をついていた。
こんな状態では陽介の料理の話を振っても、彼女は見向きもしないだろう。
失意の中でポケットからスマホを取り出し、幽子が言っていたデザートを調べることにした。
画面をスクロールしながら、彼女の言葉が横から反響する。「あるわけないだろ。夏季限定なんだ!私も急いで探し回ったけど、どこにもなかったんだ。探せるものなら探してみたまえ」と、彼女の声はまるで八つ当たりのように響いている。
自分は完全に心が折れ、心の中でぼやく。「全くなんだよ、抹茶雪見だいふく、きな粉マシマシ黒蜜ソース添えって!」。その瞬間、画面にそのデザートの画像が現れた。心臓が止まるほど驚いて、思わず目を見開いてしまった。
「あれ!これ、家にあるぞ!」と、思わず声を上げそうになった。
自分は幽子に悟られないよう、静かに部屋を出ていった。
彼女が何か言っているのは感じたが、その言葉はもう耳に入らなかった。
心臓の鼓動が「ドックン、ドックン」と静かに響く中、幽子の部屋から少し離れた場所で、家に電話をかけてみる。
「どうしたのしんいち!ようちゃん部屋に待たせて」と、母さんの声が電話越しに聞こえてきた。
焦る気持ちを押さえつつ、「ちょっと母さん……」と口を開き、幽子が言っていた「抹茶雪見だいふく きな粉マシマシ黒蜜ソース添え」の所在を尋ねた。
母さんは「なに…、いきなり?」と驚きながらも、冷凍庫を調べてくれている様子だった。心臓がさらに高鳴り、「頼む、あってくれ」と願う気持ちが募る。
その瞬間、母さんの声が響いた。
「あるわよ!」
その言葉に、思わず笑みがこぼれた。
「勝てる…」
と心の中で呟く。しかも、母さんの話ではどうやら2個も余っているらしい。
「全く……、あんたも父さんもせっかく買ってきたのに食べないんだもん。けっこう人気のデザートだったんだから」と、母さんは続けた。その言葉に、自分は勝利を確信した。
母さんとの会話の中で、過去の記憶が鮮明に蘇ってきた。
あの時、母さんが買ってきた「抹茶雪見だいふく」を見た瞬間、「なんだこの甘そうな食べ物は…」と敬遠してしまったのだ。甘いものは好きな方だが、生クリームはあっさり目、チョコレートはビター系が好みの自分にとって、その見た目は少し抵抗があった。
父さんも自分と味覚が似ていて、二人してそのデザートを手を付けずに冷凍庫の奥にしまい込んでいた。
母さんにその事情を話すと、彼女は笑いながら、「幽子ちゃん!もちろん良いわよ、やっぱりあの娘とは食べ物の相性合うわねぇ」と、まるで幽子と共感しているかのようだった。
電話を切り、再び幽子の部屋へ向かう。
勝利の予感が胸に広がり、思わずスキップしたい気持ちを抑えながら、足取り軽く彼女の待つ部屋へと進んだ。
自分は幽子の部屋の前に立ち、勝利の笑いを堪えるのに必死だった。
先ほどとはまるで違う、形勢は逆転している。まるで、100万の軍勢が陥落寸前の小さな城を取り囲んでいるかのような楽勝の気分だった。
こちらには「抹茶雪見だいふく きな粉マシマシ黒蜜ソース添え」という切り札があるのだ。
それも、なんと二枚も!
高鳴る気持ちを抑えながら、幽子の部屋に足を踏み入れた。
幽子は、先ほどと同じように自分を睨みつけている。しかし、今の自分にはその表情が滑稽に映り、笑いを堪えるのが一層難しくなっていた。
彼女の目には、まるで自分を挑発するかのような挑戦的な光が宿っている。
「どうだ!なかっただろ。あるわけないだろ、夏季限定なんだ、夏季限定!」と、幽子は吠えた。その声は、まるで負け犬の遠吠えのように聞こえ、自分はますます笑いを堪えるのに苦労した。
心の中では、まさに吹き出しそうなほどの笑いと高揚感が渦巻いていた。
そんな幽子に、自分は冷静に一言、言い放った。
「あったよ!」
その瞬間、幽子の表情は明らかに驚きに変わり、一瞬動きが止まった。
だが、彼女はすぐに最後の足掻きのように、疑いの視線を向けてきた。「そんな訳はない!散々探したんだぞ」と、まるで自分を信じられないかのように。
自分は、先ほどの電話のやり取りを彼女に話してあげた。すると、幽子の視線はみるみる変わっていき、今ではまるで神様を見上げるような崇拝の眼差しに変わっていた。
「じゃあ早くそれを私に渡したまえ」と、少し強気に言ってくる彼女の姿に、内心で「きた!きた!」とほくそ笑んだ。
自分は、あえて驚いたように「えっ!」と惚けてみせる。
さらに続けて、「あれ、美味しそうだったよねぇ。名前なんだっけ?あっ!そうそう。『抹茶雪見だいふく きな粉マシマシ黒蜜ソース添え』。自分もお月見しながら食べたくなっちゃってさぁ」と、先ほどの仕返しのように幽子をからかってみた。
その瞬間、気分はまるで人質を取った誘拐犯のような感覚に包まれていた。彼女の反応を楽しむことが、まるでゲームのように感じられた。
幽子の表情がどう変わるのか、期待に胸が高鳴る。勝利の瞬間は、もうすぐそこに迫ってた。
そして、幽子は敗北を察した表情を浮かべ、肩を落として言った。「分かった……、何の頼み事だ」と、その声には諦めが滲んでいた。
勝利の瞬間だった
自分の心の中で歓喜が響き渡り、まるで長い戦いの果てに、ついに勝利の旗を掲げたような達成感に包まれていた。
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工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
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兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
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