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Epiphone3 不幸が棲まう家編

Epiphone3 不幸が棲まう家 (二軒目 相談)

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夏の終わりが近づき、秋の気配が漂い始めた頃、自分は待ち合わせをしていた。
待ち合わせの相手は、自分の従兄弟。
彼の名前は「夕城 陽介ゆうき ようすけ」。自分たちは同い年で、父方の親戚ということもあり、幼い頃から親しい関係を築いてきた。

親戚の集まりでは、いつも陽介や彼の兄妹と一緒に遊び、自分の親友の一人として特別な存在だった。
そんな陽介から数日前、相談したいことがあると連絡があったのだ。
話が長くなるから、電話ではなく直接会って話したいという。
今日はそのために、彼と待ち合わせをしていた。

天気は快晴で、青空が広がっている。自分は散歩がてら、バス停まで陽介を迎えに行くことにした。
心地よい風が頬を撫で、足取りも軽やかだ。待ち合わせの時間が近づくにつれ、少しの緊張感が胸に広がる。
陽介が何を相談したいのか、気になって仕方がなかった。


バス停に着くと、いつもと変わらぬ景色が見える。陽介との再会を心待ちにしながら、彼の到着を待っていた。。

スマホをいじりながら陽介の到着を待っていると、遠くの方から一台のバスが見えてきた。「あれだな!」と思い、スマホをポケットに突っ込み、バスの到着を待つ。

バスが止まり、ドアが開く。陽介の姿が見える。彼がバスから降りると、思わず「おう!久しぶり」と声をかけた。
陽介は少し驚いたように目を大きくし、すぐに笑顔を浮かべた。「わざわざ迎えになんて良かったのにぃ」と、恐縮した様子で言った。

「久しぶりに陽介に会えるし、天気も良かったからさぁ」と、自然と口から出た言葉。
そんな軽い挨拶を交わしながら、心の中では再会の喜びが膨らんでいく。
「どうする?家で話す?それともどっか行こうか?」と、提案をしてみた。

陽介は少し考えた後、「おばさんにも挨拶しておきたいから、しんいちの家で大丈夫だよ」と答えた。その言葉に、安心感が広がる。

「了解!」とサインを出し、陽介と世間話をしながら、自分の家へと向かう道すがら、心の中には期待と懐かしさが交錯していた。

自分の家に着くと、陽介を中に招き入れた。
ドアを開けると、母が顔を出し、「お客さん?」と不思議そうに尋ねる。
陽介の顔を見た母は、すぐに笑顔を浮かべ、「ようちゃん、久しぶりねぇ!」と温かい挨拶を交わした。
陽介も少し照れくさそうに「お久しぶりです」と返す。

二階にある自分の部屋へと案内し、陽介が恐縮している様子を見て、「どうぞ!どうぞ!、ゆっくりして」と声をかける。
陽介は部屋の隅にある小さなソファに腰を下ろし、自分はいつもの机の椅子に腰かけた。

そして帰り道に買った飲み物を取り出し、缶を開けて一口飲む。
冷たい飲み物が喉を潤し、少しリラックスした気分に浸った。

ただ、陽介は、世間話に終始し、相談事をなかなか口にしないでいた。
その微妙な空気を感じ取った自分は、軽く陽介にジャブを繰り出してみる。

「そういえば、日向ちゃんは元気にしてるの?」

その瞬間、陽介の顔色がわずかに曇るのを見逃さなかった。

日向ひなたちゃん」とは、陽介の一つ下の妹のことだで、昔からお兄ちゃんっ子で、いつも陽介の後ろにくっついていた可愛らしい子だった。

しかし、ここ数年で彼女は変わってしまった。
情緒が不安定になり、感情の起伏も激しくなってしまったそうで、怒り出すと手がつけられないこともあったと聞いている。
さらに少し前に父さんが「日向ちゃん、引きこもってるみたいよ」と母さんに話しているのを耳にしていた。

だが、その話題には触れず、陽介の様子を探ることにしてみていた。
陽介は、少し考え込むようにしてから口を開いた。「日向……?あぁ…、日向は最近…、あんまり元気ではないかなぁ……」その言葉は、どこか歯切れが悪く、何かを隠しているように感じられた。
自分は、てっきり日向ちゃんのことを相談しに来たのだと思っていたが、どうやら違うようだ。

業を煮やした自分は、思い切って尋ねることにした。「それで、陽介ぇ、相談って何なの?」陽介は少し間を置き、深刻な表情を浮かべながら彼は語った。

「日向の件もそうなんだけど…、先週、母さんが階段から落ちて怪我したんだ。」

その言葉に、自分は驚きのあまり声を上げた。

「えっ!美奈子さん、大丈夫なの?」

陽介は少しだけ笑顔を見せ、「うん!怪我自体はたいしたことなくて、軽く足を捻挫したくらいなんだけど……」と答えた。
その瞬間、胸の内にあった不安が少し和らいだ。

しかし、陽介の次の言葉が、空気を一変させる。
「ただ、階段から落ちた原因が……、母さん、幽霊を見たって言ってるんだ。」

その瞬間、周囲の空気が重く感じられた。陽介の言葉は、まるで暗雲が立ち込めるように、心の奥に不安を呼び起こしていた。
自分は思わず息を飲み、言葉を失ってしまった。

少しの間が空いて、自分が「幽霊って…?」と静かに陽介に聞くと、陽介は次のように言って話を始めてきた。

「母さんから聞いたんだけど……」

陽介が学校に行っている間、家の中はもちろん、お母さん(美奈子さん)と妹の日向ちゃんだけだったそうだ。

しかし、ふと二階の廊下から「ギシ!ギシ!」という音が聞こえてきた。
最初は、日向ちゃんが部屋から出てきたのかと思い、お母さんは特に気に留めてなかったとの事。

しかし、その音は次第に頻繁になり、「ギシ!ギシ!ギシ!ギシ!」と、まるで誰かが廊下を行ったり来たりしているかのようだった。
その瞬間、彼女の心に不安が広がり、

「何かおかしい。」

そう感じた彼女は、そっと階段を上がり、二階の廊下を覗くことにした。
階段を上がり、廊下が見える位置に来たとき、彼女は息を呑んだ。そこには……、

身体のない膝から下だけの白い足が、自分の方に向かって歩いてきていた。まるで、彼女の存在に気づいて近づいているかのように。


恐怖が彼女を襲った。慌てて後ずさりしようとした瞬間、足がもつれて階段から滑り落ちてしまったとの事だった。

幸い、彼女自身の怪我は足の捻挫と軽い擦り傷程度で済んだが、陽介が家に帰るなり怯えた様子で話してきたとの事だった。

その話を聞いて「足……?、じゃあそのあと、足の幽霊っていうか、足音はどうなったの?」と、自分は懸念を抱き尋ねてみた。

陽介は少し考え込み、やがて口を開いた。
「母さんが落ちてからも、しばらくは続いてたみたいなんだけど、自分が帰って来た時はそんな音はもう聞こえなかったんだ。もちろん足もみてないよ」

その言葉に、自分は不安を感じた。
陽介の表情は青ざめ、落ち着かない様子を見せている。

そして彼は話を続けて、本題の相談を語り始めた。「しんいちにも前に話したことがあるかもしれないけど、あの家、やっぱり変だよ……、昇太の件もあるし…」

陽介の声は震えていた。

彼の言葉の奥には、恐怖と不安が混在しているのが感じられた。

陽介の家は、確かにどこかおかしい。

彼から以前、話は聞いたが、その時は「偶然が重なっただけ」と軽く受け流していた。

しかし、幽霊まで出るようになり、もはや偶然とは思えなくなってしまった。

陽介の家族がその家に引っ越してきたのは、約二年前のことだ。
陽介は当時、隣町に住んでいて、5人家族で暮らすには狭いアパートで暮らしていた。

母親の美奈子さんは少し体が弱く、家族は彼女の健康を気遣っていた。
そこで、自分の家から車で十五分ほどの距離にある新築の分譲物件を購入し、引っ越すことに決めたのだ。

美奈子さんの体調が悪くなったとき、すぐに自分の両親が駆けつけられるようにとの配慮もあったと聞いている。

陽介が新しい家に引っ越す際、自分は両親と一緒にその家を見に行ってお祝いもした。
陽介は自分の部屋ができたことに心から喜び、目を輝かせていた。その姿は今でも鮮明に思い出せる。

しかし、引っ越しからしばらく経った頃、陽介の家では奇妙な出来事が次々と起こり始めた。

始まりは、あの家を契約した直後のことだった。陽介の父、和夫さんの海外転勤が突然決まったのだ。
美奈子さんのこともあり、最初はその話を断ろうとしたが、「たったの1年だけ」という約束に渋々了承したのだった。
しかし、和夫さんの転勤は、未だに終わりを見せていない。

そして、陽介たちがその新しい家に住み始めると、妹の日向ちゃんの様子が明らかにおかしくなっていった。

元々は兄の後ろにひっそりと隠れるような大人しい女の子だったはずなのに、引っ越してから彼女の言動は変わり始めた。

日向ちゃんの口調は次第に荒々しくなり、学校では同級生を殴り、怪我をさせてしまう事件も起きた。

中学生になった今、彼女の変化はさらに顕著で、情緒も不安定。
悪い友達との付き合いが目立つようになり、昨年会った時の日向ちゃんは、もう「不良」と呼ばれる姿になっていた。

そんな事が続美奈子さんの体調が悪くなる日が増えていく中、陽介も疲れていたと思う。

中学生の頃から、彼は美奈子さんの健康を気遣い、部活動には参加せず、学校が終わるとすぐに家に帰る生活を送っていた。
彼の目には、妹や弟の笑顔が何よりも大切に映っていたからだ。
陽介は、家事を手伝い、家族が笑顔になるように料理を作ることにも情熱を注いでいた。

余談だが、陽介の料理の腕前は驚くべきもので、ある日、自分の家に用事で訪れた際、陽介は「試作品」と言ってケーキを作ってきてくれた。
その出来栄えは、まるでプロの洋菓子店の作品のようで、思わず「えっ!試作品?」と声を上げてしまったほどだ。
味も素晴らしく、まさに天賦の才を感じさせるものだった。

そんな優しい陽介は、家族を支えるために懸命に頑張っていた。
しかし、彼の家族に決定的な悲劇が訪れる。

弟の昇太くんが、突然この世を去ってしまったのだ。

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