幽子さんの謎解きレポート～しんいち君と霊感少女幽子さんの実話を元にした本格心霊ミステリー～

Epiphone1 黒い影の生き霊編

Epiphone1 黒い影の生き霊2 (依頼)

次の日のお昼休み、星野さんは自分のクラスにやって来た。

彼女の姿を見た瞬間、何か不思議な緊張感が漂っているのを感じた。
最初は、不言不語の術と幽子が名付けた、まるで人を寄せ付けないかのような怪しい雰囲気に包まれていたからだろうか。
星野さんは、少し硬くなった表情で、教室の中を見回していた。

「まぁ、座りたまえ。」幽子は苦手な作り笑いを浮かべながら、星野さんに声をかけた。

彼女なりに、緊張を和らげようと努力しているのだが、周囲の人々にはその努力が全く伝わっていないらしい。

星野さんは、幽子の前の席に腰を下ろしたが、まだ少し緊張している様子だった。
その様子を見て、幽子は心配になり、「すまない！普段から私はこんな感じなんだ。決して怒っているわけではないから、気楽に話してほしい。」と、たどたどしく説明した。

そのフォローをするために、自分も口を挟む。「恐い顔をしているけど、良いヤツだから大丈夫だよ。」すると、幽子はすかさず反応した。
「しんいち！恐い顔とはなんだ！私はけっこうな美人だと自覚があるんだぞ。」彼女の言葉には、自画自賛を交えた激しい突っ込みが含まれていた。

そのやり取りに、星野さんは少し笑顔を見せ、「今日は時間をとってくれてありがとう。」と、幽子に感謝の言葉を述べた。
幽子はその言葉に少し照れたような、困惑したような複雑な表情を浮かべていた。

「さて、さっそく本題に入ろう。」幽子は真剣な表情に戻り、「しんいちから少し話は聞いたが、その彼氏のことを分かる範囲で教えてくれ。」と星野さんに尋ねた。

星野さんは、少し緊張をほぐしながら「あぁ！はい。」と答え、彼氏に起きていることを知っている範囲で語り始めた。
彼女の声には、少しの不安が、混ざっているようだった。

星野さんの心の中には、小林さんという特別な存在が静かに根を下ろしていた。
彼は一つ年上の先輩で、隣町の高校に通っている。
出会いは同じ中学のバドミントン部。先輩と後輩という関係の中で、星野さんは小林さんに憧れを抱いていた。

小林さんは、部活の中で頼りがいのある優しい先輩で、彼が三年生の時には部長を務め、その姿は星野さんにとってまるで光り輝く星のようだった。

練習の合間に、星野さんは小林さんに悩みを打ち明け、彼の的確なアドバイスに耳を傾けた。
その頃から彼女の心の中では、彼はただの好きな相手ではなく、憧れの存在だった。

中学を卒業した後も、二人の関係は続いていた。小林さんは忙しい部活の合間を縫って、星野さんの個人練習に付き合ってくれたりしていた。
彼の優しさは、星野さんの心に温かい光を灯していた。

そこまで話を聞いていた幽子が口を開いた。
「ほーぉ、しんいちとは全く真逆な素敵な人ではないか！なぁ？」
と自分に聞いてきた。

まるで剣山けんざんのようなトゲがある言い方である。

でも、そんな事は慣れたもので作り笑いを浮かべ、「アハハハ」と軽やかにかわした。
心の中では、彼女の言葉がどこか刺さるように感じていたが、表面上は平静を保つことができた。

星野さんが中学3年の夏、運命の瞬間が訪れた。小林さんからの連絡が、彼女の心を揺さぶった。告白の言葉は、彼女にとって憧れの先輩からのものであり、その響きはまるで夏の風のように心地よかった。

小林さんは、実は中学時代から星野さんに特別な想いを抱いていた。
卒業の時に告白するつもりだったが、勇気が出ずに言葉を飲み込んでしまっていた。
彼は、星野さんの中体連が終わるのを待ち望み、再び告白する決意を固めたのだ。

「好きだ」と告げられた瞬間、星野さんの心は高鳴った。
彼女はその言葉に迷わず「はい」と答えた。
しかし、彼女の心の奥には、受験という大きな壁が立ちはだかっていた。
二人は、正式に付き合うのは星野さんの受験が終わった後にしようと決めたとの事だ。

それでも、受験の間、二人の関係は完全に途絶えることはなかっそうだ。
勉強の合間に息抜きとして会ったり、メールでのやり取りを重ねたりして、心の距離は少しずつ縮まっていった。
星野さんは、受験勉強の合間に小林さんの存在を思い出し、彼の優しい言葉に励まされていた。

そして星野さんの受験が無事に終わり、二人はついに正式に付き合い始めた。
新たな関係の始まりに心躍らせる日々が続く中、少し経った頃、小林さんに不思議な出来事が起こった。

ある晩、小林さんは金縛りにあった。
彼の話によれば、その時、彼の目の前に黒い人影が現れたという。シルエットは髪の長い女性のようで、彼はその不気味な存在に恐怖を感じた。

星野さんはその話を聞き、彼に大変な事が起きているのではないかと感じたとの事だ。

「なるほど…」と幽子は呟き、思考を巡らせた。「しんいちから聞いた話では、生き霊が！とか言っていたのだが、彼には何か思い当たることでもあるのか？」と、星野さんに問いかけた。

その質問に、星野さんは少し考え込み、静かに答えた。
「自分は会ったことはないし、知らない人なんですが…」と、言葉を慎重に選びながら話を続けた。

受験が終わり、晴れて小林さんと付き合い始めた頃、思いもよらぬ出来事が彼の身に起こった。
別のクラスの女の子から告白を受けたのだ。
小林さんは、星野さんとの関係を大切に思っていたため、迷うことなくその申し出をきっぱりと断った。

しかし、その出来事が彼に何か影を落としたのかもしれない。
告白を断った後から、彼は夜になると金縛りにあうようになり、その際に黒い人影を目撃するようになったという。
その影は、まるで告白してきた女の子のシルエットに似ていると、小林さんは恐れを抱きながら語っていたと言う。

星野さんは、小林さんからこの告白の件をすぐに聞いていた。
彼は、変に隠しておいて後で揉め事になるのを避けたかったのだ。
小林さんの誠実さに、星野さんは少し安心したものの、心のどこかで不安がくすぶっていたそうだ。

幽子は、騒がしい教室の中で星野さんの話に耳を傾けていた。
彼女の心の中には、疑問がふつふつと湧き上がってきた。
「ちょっと聞きたいのだが、その小林さんって方は、この現象に遭う前から金縛りにはよくあっていたのかね？」と、思わず口を開いた。

星野さんは首をかしげながら、「どうなのかなぁ……？ただ……」と、言葉を続けた。彼女の目は、まるで何かを思い出そうとするかのように机の上を見つめながら語り出した。

「彼は、スポーツマンで、普段は怖いものなんて全然平気なイメージを持たれているみたいなんですが、どうもこの手のオカルト的なことには本当に弱いらしいんです。最近、頻繁に金縛りに遭ったり、人影を見たりして、彼とても怯えていました。」

星野さんの声には、少しの同情が混じっていた。
それで彼は、神社やお寺にお祓いに行こうと考えていたが、高校生のお小遣いではなかなか難しいことに気づいたらしく、誰かお祓いについて詳しい人を探していたとのことだった。

その話を聞いた星野さんは、小林さんのために友達に「霊感のある人、誰か知らない？」と尋ね回っていた。そんな時、幽子の噂を耳にし、彼女のもとへと訪ねてきたのだった。

星野さんの話を聞きながら、幽子に「どう？何とかなりそう？」と尋ねてみた。
幽子は少し考え込むように目を細め、「うーん、そうだなぁ、あとはその小林さんと直接会ってみないとなぁ……」と慎重な口調で答えた。
そして、彼女は星野さんに向かって「小林さんとはいつ会えそうなのかな？」と問いかけた。

星野さんの話によれば、小林さんは最近部活で怪我をしてしまい、現在は部活を休んでいるとのことで、放課後であればいつでも時間が取れるという。

幽子はその情報を聞いて、「それなら早い方が良いな。ただ、すまないが私は今日は少し用事があってな、明日以降ならいつでも良いのだが…」と少し残念そうに言った。

自分は心の中で「用事？いつも暇じゃん」と思いつつも、幽子に怒られそうでその言葉は飲み込んだ。
彼女の言葉を受けて、星野さんは「はい！じゃあ、彼に連絡してみます。」と携帯電話を取り出し、彼氏に連絡を始めた。

その間、自分は小声で幽子に「なに用事って？」と尋ねた。
すると、幽子は「いいだろ別に！私にだって用事くらいはあるんだ。」と素っ気なく返した。

その言葉に、ポツリと「どうせまた、どっかで買い食いでもするんだろ？」と毒を吐きかけてみたところ、幽子が「そんな訳ないだろう！」と怖い顔をして反論しようとしてきた。
その瞬間、星野さんが連絡を終え、こちらに向かって「彼と連絡がついて、明日なら大丈夫みたいなんですが。」と告げた。

一時休戦状態に入った幽子が、「なら、明日の放課後に駅前のマックで待ち合わせはどうだろう？」と提案してきた。
その提案に対して、自分は「そんなに限定マックが食べたいのか！」と休戦協定を破り、再び幽子に攻撃を仕掛けた。
すると、幽子は「ちっ！」と舌打ちして田舎のヤンキーみたいにこちらを睨んできた。

そのやり取りを見ていた星野さんは、クスクスと笑いながら「はい！分かりました。彼に伝えておきます。」と幽子に言った。

そして教室にお昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響き、星野さんはお礼を言って帰って行った。
明日の約束が、どんな展開をもたらすのか、期待と不安が入り混じる中、心の中で新しい事件の始まりを感じていた。