悪役転生した奴隷商人が奴隷を幸せにするのは間違っていますか?

桜空大佐

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<第三巻:闇商人 vs 奴隷商人>

第十一話:事前に漏れる手の内①

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(作者注)11話は6千文字あるため3つに分けて投稿します。


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 火事が起きた翌朝、焼け落ちた小屋の片付けが行われていた。
 あの後は、何事もなく終わって朝を迎えたが女たちの多くは眠ることができなかったようだ。

 昨夜、俺がヴィヴィの部屋を訪れるとライラが既に部屋の前に立っていた。
 ずっと部屋で寝息が聞こえていたと言う。
 ヴィヴィが魔法で風を起こさせたり火を付けたのかと疑った自分を恥じた。

「人的被害はないようで、良かったです」
「そうだな。しかし、不審火だとしたらどうやって火を付けたのか。外部からは誰も入れないし」
「すでに調査していますので、何かわかったら報告しますわ」

 ライラはそう言うと、俺はねぎらいの言葉をかけた。
 一晩中、ヴィヴィの部屋の前で監視していたのだろう。顔に疲労の色が浮かんでいる。



 奴隷商人の敷地の小屋が燃え盛っている頃、闇商人ジルダたちは闇夜にまぎれていた。

「親分、どうやら屋敷の中に忍び込めたようですな」
「ああ、やつら火事に気を取られてるんじゃねえか。まさか、その裏で忍び込んでいるとは思ってもいないだろうな」

 下品な笑いをする手下に、ジルダも笑いをこらえる。
 この距離ではヴィヴィを自由に動かすことができないため、新たな指令は出せなかったが事前に仕込んでいた命令は忠実に行われたようだ。

「うまく行くか心配だったが、さすが親分はすげぇや」
「ヴィヴィと諜報屋が接触する機会がなかったら、この策はうまくいかねえ。少々、綱渡りだったがうまく行ったな」

 ジルダは、事前に諜報屋にヴィヴィに接触しある言葉を伝えるように指示していた。
 蠱術に嵌まっているヴィヴィは、諜報屋の言葉がトリガーとなりジルダの命令を忠実にこなした。
 たとえ遠隔で操作できない距離でも、仲介するものがいればいいだけだ。

 あらゆる闇の魔道具を扱う闇商人は、魔道具を有効に使う術を身につけている。
 特にジルダは、もともと魔力が強い上に魔法の知識もあったため、他の闇商人たちよりも抜きん出ていた。
 この能力だけで、闇商人たちを束ねていたと行っても過言ではない。

「何人が潜り込んだ?」
「三人です。暗殺が得意なヤツらですから、このまま大将を狙うこともできますが」
「いや、ヤツとは一度話をしてみたい。大人しく俺の傘下に入るとは思えねえが、まぁ切れ者らしいからな。一度会ってやろうと思っている」
「そうですか……。では、三人には何をさせます?」

 ジルダは、酒を呷ると口端からこぼれ出た酒を手で拭うと、今夜襲撃するまで待てと伝えた。
 その命令は、ヴィヴィがニート・ソレの敷地に隠した魔道具を通じて、三人の暗殺者へと伝えられたのだった。


◇  ◇

「はあ、もうっ、また燃やされたの? もう、この小屋っていらんくない?」
「マリレーネ、そう言わないの。さぁ、男の人が片付けてくれているんだから、これを持って行ってちょうだい」

 パオリーアは、マリレーネに茶の入ったコップを箱に詰めて渡す。
 男奴隷たちが片付けをしているところへ、差し入れするためだ。

「はーい、じゃあ行って来ます」

 マリレーネは、パオリーアとライラが二人で持ち上げていた箱を一人で軽々と持ち上げると、肩に担いで小屋へと向かった。

「はいはーい。みなさん、お疲れ様ですぅ! お茶の時間ですよ」
「おっ、ありがてー。マリさん、ありがとうございます」
「手伝って上げられなくてごめんよー。ウチも手伝いたいけどさ、ちょっとまだやることあってさ」

 マリレーネが下ろした箱へ、男たちは次々と手を伸ばし、茶を飲む。
 既に燻っていた火も消えて真っ黒な骨組みだけとなった小屋をロープで引き倒していた男たちは真っ黒な顔になっていた。

「顔が真っ黒で誰が誰だかわからんねっ」
「はははっ、ほんとだ、お前ら真っ黒じゃないか!」
「そういうお前も真っ黒だ」

 男たちは明るくガハハハと笑うとマリレーネが、頑張ってねと声をかけた。
 その一言で、男たちはさらに頑張れると口々にマリレーネに言っていた。

 その姿を俺は見て、俺はパオリーアとライラに礼を言った。

「悪いな。お前たちまで巻き込んでしまって」
「いえいえ、こちらこそ、こんなことしかできません。また、いつ何が起こるのかわからないので気が抜けませんが、なぜか旦那様がいたらなんとかなるって思えるんです」
「そうね、パオリーアの言う通りです。私も旦那様がいるだけで、大丈夫だって思えるんですの」

 ライラとパオリーアは、笑顔で俺を見据える。
 なんて俺は幸せなんだ。この娘たちを幸せにしたいと思っている俺が、逆に幸せにしてもらっている。
 決して、ここの女たち、誰一人も傷つけさせたりしない。

「ところで、ヴィヴィの様子はどうだ?」
「はい、特に変わった様子はないですね。いちおう用心して、厨房には近づけさせていません」
「俺が連れて来たばかりに仕事を増やしてしまったな。悪かった」
「そんなこと……旦那様が優しい方だと知っているので、むしろ旦那様らしいって思いました」

 パオリーアの言葉に、ほっと胸をなでおろす。
 もう一度ヴィヴィと話をしてみるか。精霊石で本心を探れば、安心できるはず。

 
 午後になると、小屋の撤去作業は済み、解体されたゴミが敷地の裏手にある畑に一旦集められた。
 男奴隷たちも一通りの作業が終わると、川に入って水浴びをはじめる。

「あっ、ニート様!」

 一人の男奴隷が、川の水で髪を洗い流していたが俺に気づいて話しかけて来た。
 すると、他の奴隷たちも次々と挨拶してくれる。

「昨夜は災難だったな。人為的なものか、火の不始末かわからないが、小屋はなるべく早めに再建する。それまでは、狭苦しいかもしれないが、食堂の二階を使ってくれ」
「へい、そのように夫人に聞いております。ニート様は気を病む必要ないですぜ、俺たちニート様の奴隷ですから」
「ああ、そう言ってくれると気が休まる。だが、奴隷の身分というだけで、俺は奴隷とは思っちゃいない。お前たちも、ギルドの仲間だからな。何か困ったことがあったら言ってくれ」

 川の中なのに、膝をついて礼を取る男奴隷たち。

「おいおい、礼は取らなくていいって。顔が水に浸かってるぞ。ブクブク泡吹いてるし」

 思わず笑ってしまった俺に、男たちも笑い声をあげた。
 この国の民は明るくて友好的な性格な者が多いが、奴隷たちは暗い奴が多かった。
 それが今では明るく笑いあって仕事ができる仲間になっている。いい状況だ。

「旦那様! こちらにいたんですね」

 アルノルトが、後ろから声をかけて来たので振り返る。
 昨夜から、密かに俺の指示で敷地内を調査してくれていたのだ。

「何かわかったか?」
「はい。その件で、ご報告が……」
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