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<第二巻:温厚無慈悲な奴隷商人>
閑話:ニートが新年のご挨拶をする
しおりを挟む「おぉ、みんな揃ってるなぁ」
大広間に集められた奴隷たちに屋敷で働く者たちを一堂に集めて、俺は新年の挨拶をすることになった。
「はい、旦那様の代になってから大所帯になりました」
パオリーアが誇らしげに大きな胸を張った。
この世界に来て早くも三年が経って、俺も当時に比べたら一回り成長したはず。
専属奴隷の三人も、初めに比べたら少し大人びて見えた。
みんな成長してるんだなあ。
ライラが、前に出るとガヤガヤした会場がしーんと静まった。
さすが、鬼教官だ。オーラが違う!
「みなさん、お静かに! あけましておめでとうございます!」
「「おめでとうございまーす!」」
ライラの声に続き、みんなが声を張り上げた。
みんなニコニコと幸せそうな顔をしている。奴隷として売られたばかりの時は、みんな泣きべそかいていたのが嘘のようだ。
「それでは、ニート様から一言ご挨拶をいただきたく思います!」
新年仕様なのか、ライラはいつものボンテージ衣装ではなく、真っ青のサテン生地を使った衣装をつけていた。
他の女たちも、下ろしたての衣装身につけている。いつのまに用意したのやら……
金庫番のアルノルトが頭を抱えている姿を想像してしまう。
ライラたちも俺の正面に移動すると、みんなと同じように膝をつき礼を取るのを見届けると俺は話し始めた。
「新年おめでとう」
「「おめでとうございます!」」
「今まで俺のわがままに付き合ってもらったみんなに感謝する。そして、これからも全員が幸せになれるように精一杯頑張るつもりだ。みんなは風邪をひいたり怪我をしないように十分に注意してくれ。奴隷は体が資本だ。健康であったら働けるしお金も稼ぐことができる。お前たちの身体が一番大切だと言うことだ」
そこまで言うと、みんなうんうんと頷いている。
「昨年の実績だが、奴隷の出荷人数がグループ全体で五百人を突破した。労働奴隷が約三百名、性奴隷が約二百名だ。まだまだ闇市で人身売買がされているので、この国全体ではもっと多くの奴隷たちが売買されているだろう。これは悲しい現実だ。少しでも多くの奴隷たちの地位が向上するよう俺は今後も頑張っていく」
奴隷ギルド全体の収入は、奴隷売買だけでなく今は奴隷の派遣、劇場の売り上げもあり、日本円換算で十億円ほどだ。
この国の物価で考えても、かなりの金額が動いていることになる。
俺の奴隷たちは無給ではなく手当てを受け取っているわけで、この国の経済に少しは貢献できているはずだ。
「この屋敷にも男性陣が増えて来た。屋敷を警備する者たち、力仕事をしてくれる者、大工など職人業についている者など、よくやってくれている。ありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございます! ニート様!」
「仕事をくださって感謝しかないですよ! こちらこそありがとうございます!」
次々と男たちが声を上げる。負けじと女たちも、私も、私もと話だし大広間が一気に騒がしくなった。
みんないい顔をしている。この笑顔を俺は守っていきたい。
「ははは、みんなそう思ってくれているのなら嬉しいよ」
俺は、女たちに目を馳せた。皆、目を輝かせている。
「女たち。お前たちがこの奴隷ギルドを支えてくれている屋台骨だ。屋台骨ってわからなんか……担い手であり中心的存在ということだ。何か困ったことがあったら、ここにいる上官に相談してくれたらいい。悩みを一人で抱え込まなくていいからな。」
ニコリと笑った俺を見て、女たちがキャーキャー黄色い声を上げる。
なんだろ、なんか気分がいいぞこれは。もしかして、モテてる?
「この後、食事会をする。裏庭にハイルたち厨房係が腕によりをかけてバーベキューを準備してくれている。今日はしっかり食べてのんびり羽をのばしてくれ」
うぉーっと男たちの声が上がる。こいつらめちゃ食いそうだな。
「長くなったけど、今年もよろしくおねがいする!」
「「「よろしくおねがいしますっ!」」」
一同がもう一度深々と頭を下げる。
本当に大所帯になったな。親父の頃はアルノルト、デルト、コラウスの三人だけで屋敷を切り盛りしていたし、その頃は奴隷たちは奴隷小屋に押し込められて不潔な環境の中にいた。
今では、部屋も与えられベッドで寝ることもできるし、食事も毎日食べることができている。
給金だって手にして、故郷に仕送りしている者もいると聞く。
みんな少しずつだが、幸せに感じてくれているだろう。
解散し、ぞろぞろと裏庭に移動を始める者たちがいる中、声をかけて来たのはルイとミアだった。
ミアは大きな腹が目立ってきている。
出産を間近に控えて今は働きに出ず、家で手仕事をゆっくりしてもらっていた。
「ニート様、おめでとうございます。本当に、おせわになりました。奴隷になったことを忘れてしまうほど幸せなんです。私たち」
「そうですよ、奴隷にこんなによくしてくださる方がいたとは思いませんでした! ありがとうございます」
そんな改まって言われると少々照れる。元いた世界の常識をこっちに持ち込んでしまった俺だが、喜んでもらえているのなら嬉しい限りだ。
「お腹の子は順調に育ってるか?」
「はい、元気な子みたいで動き回っています」
手を腹に当てて、微笑むミアを見てすっかり母親の顔になったと思った。
ルイは少々頼りない男だが、きっと子供が生まれたらお父さんらしくたくましくなるだろう。
自活できるようになったら、街で住まわせるつもりだが、借金を返し終わるにはまだ数年かかりそうだった。
「素敵でしたわ、旦那様」
ライラが俺の腕に手を絡ませて擦り寄ってくる。
ふわっといい香りがして、思わず頬が緩む。いかんいかん、まだ奴隷たちが残っている。
「ライラも世話になったな。今年もよろしく頼むよ」
「お世話させていただくことが私の喜びですもの。下のお世話もぜひ……ひひひ」
その下品な笑いはなんだ、何を考えてるんだよ。
「ごめんなさい。つい想像してしまって。ぐふふふふ」
「いいから、いいから。 想像は一人でしてくれ」
「まぁ、一人でなんて……旦那さまのエッチ」
俺の頬をツンツン指先で押しながらライラは、嬉しそうに笑った。
思わず釣られて笑う。
「おふたり、仲がよろしくてうらやましいよ」
声の主は、マリレーネだった。
こいつ、また胸が大きくなったんじゃないか? 前にも横にも乳房がせり出して、ブラが小さく感じる。
大は小を兼ねるというが、この大きさだけで子供ひとり分くらいありそうだ。
肩が凝ったりしないのかな、と下世話な心配をよそにマリレーネは負けじと俺の腕にからみついた。
「ねぇ、旦那さま。またどこか遠征するときは連れて行ってくださいよぉ。ウチ、チョルル村に行ったときすごく楽しかったから、また行きたいんだよ」
「うーん、マリレーネばかりを連れていくのもなぁ。今のところ、遠征の予定もないし……」
「じゃあさ、旦那さまと王都にお買い物に行きたい! ウチ、お賃金けっこう貯めてるんですよ。何か旦那さまに贈り物したい。何か欲しいものある?」
自分のために使ってくれと返事しても、マリレーネがしつこく言うので冗談のつもりでエッチな下着をつけたマリがみたいと言うと、なぜかはしゃいで走って行った。
あいつ、どこに行ったんだよ。
マリレーネが、下着屋のフレイヤにエロ下着を発注したことを知ったのは、数日後のことだった。
◇ ◇
思い返せば、この世界に来たとき最初に見た奴隷がアルノルトとアーヴィアだった。
あまりの汚さに水浴びをさせたんだっけ? あのとき、パオリーアがしっかり者だと聞いてリーダーにしたんだよな。
あれからパオリーアもよくやってくれている。
そのあと、裸で炎天下に並ばされた奴隷たちを見て驚いたよな。あのとき、マリレーネがアルノルトに殴られたんだっけ。
ずいぶん生意気な口を聞く女だと思ったが、あの頃から考えると敬語も話せるようになってきているし色気も出てきたよな。
精霊石を手に入れた時、パオリーアたちが純粋に俺のことを慕ってくれているのを知って嬉しかったなあ。
アーヴィアだけは腹黒いところがあることを知って、ちょっと引いたけど、あの子も頑張ってるし。
そうそう、エルフと初めてエッチすることになった時、緊張しすぎてパンツを脱がせることができなかったな。
あんな美人がこの世にいるのかと驚いたが、貧乳ばかりっていうのがどうにも、イメージと違って驚いた。
たまたま貧乳揃いらしいけど、大きなおっぱいのエルフにいつか会いたいものだ。
この三年ほどでいろいろなことがあった。
初めは恐れられて、みんな俺と目を合わせることさえ嫌がっていたのにな。
怖いといえば、ライラがこの屋敷に来た日が強烈だった。
女王様にしか見えないんだから、あれはビックリしたなあ。しかもおっかない顔していたし。
それなのに、実は変態でマゾというギャップに二度驚いたし。
今では大切な人になったから、当時の自分が知ったら驚くだろうな。
この世界に来て、気ままに生きて行こうと思っていたけど、こんなに守るべきものができたのは幸せかもしれない。
今年も、この屋敷の主人として、そして奴隷ギルドマスターとして、頑張って行こうと思う。
「旦那さま、そろそろ私たちも裏庭に移動しましょう」
ライラに声をかけられた俺は、手を繋いでゆっくりと裏庭へと向かった。
読者の皆さま、今年もどうぞ奴隷商人ニートをよろしくお願いいたします。
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