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<第二巻:温厚無慈悲な奴隷商人>

第十話:奴隷商人は屋敷に戻る

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 チョルル村を出た俺たちは、約二日かけて屋敷へと戻った。
 カップル奴隷のミアとルイは荷車へ乗り、馬車には俺とマリレーネだけが乗った。
 はじめは、四人で乗ればいいかと思ったがマリレーネが奴隷は最初が肝心だと言うので、少々窮屈で乗り心地も悪いが、荷物と同じ荷車となったわけだ。

「あいつら、荷車で大丈夫かな? 馬車でもこれほど揺れるというのに」
「大丈夫ですよ。ああいう過酷な状況が二人の関係を、さらに親密にしてくれるもんです」
「マリもいっぱしのことを言うが、お前は今まで恋愛の経験はあるのか?」

 マリレーネが、ポカポカと恋人殴りして来る。

「なっ、ないですけどっ! それがなにかっ? 旦那様に、こ、恋しちゃダ、ダ、ダメですかっ!」

 マリレーネは、顔を真っ赤にして何を言ってるんだか。

「旦那様が、いきなり変なことを聞くから、耳まで真っ赤になっちゃったじゃないですかっ!」

 マリレーネの耳は毛で覆われているから、真っ赤かどうか見えませんけどね。
 やっぱり、獣人族でも耳って真っ赤になるだろうな。

「ダメじゃないけど、つらい恋になるんじゃないか? だって、好きになったら独り占めしたいとか思ったりしないか?」
「うーん、思うかも。でも、旦那様のおそばに一生いてもいいんですよね?」
「そうなるといいなって思う。お前だけでなく、パオリーアもアーヴィアもな」
「うっ、そ、そうなんですが……だ、旦那様は、好きな人がいるのですか? ライラ先生とか、下着屋の女将さんとか」

 なぜそこで下着屋の女将が出て来るのかわからないが、あの女将って独身だったっけ?
 愛想のいいお姉さんって感じではあるけど、恋愛対象には見えない。
 ライラは、そもそも恋愛に縁なさそうな感じだし……

「俺の恋人は、今は仕事かな」
「仕事ですか? うーん、仕事が恋人ってよくわかりません……」
「俺はずっと仕事がなかったんだよ。自分がやりたい仕事が見つからなくて、目的もなく生きてた。毎日、いつか俺だってやるときはやるんだぜって思っていたんだ。だけど、やりたいことがなくてな。だから、ゲームで奴隷を調教して楽しむ毎日だったんだ」

 俺は自分自身に言い聞かせるように言った。
 俺はこの世界に来て奴隷商人になり、自分がやりたかった仕事がこれだったんだと気付いた。
 他人に認められたい、女の子にモテたいという人並みの欲求と、理不尽な社会を変えたい、自分の力で何かを成し遂げたいという思いと。
 ただ、日本にいる間はとてもそんなの無理だと思って諦めていた。
 この世界に来て、それがもしかしたらできるんじゃないかと思ったのだ。この世界でニートという肉体を授かって、地位を得たのも、何か女神の思し召しかもしれない。
 残りの余生を生きるのなら精一杯やれることはやってみたい。

 俺はマリレーネを見ると、うつむいて聞いている。

「あの……げえむってわかりませんが、今は奴隷商人のお仕事が楽しいってことですか? だから、奴隷を叩いたりしなくなったんですね」
「正直、楽しいかどうかわからない。だが、毎日楽しいと思うぞ」

 本心からそう言える。

 ◆

 屋敷に戻ると、パオリーアが真っ先に現れるのが見えた。続いて、ライラ、そしてアーヴィアだ。
 マリレーネが先に馬車から降りると、パオリーアたちも駆け出して来た。

「「おかえりなさいませっ!」」

 みんなで出迎えてくれて、うれしい。みんな元気そうだ。

「ライラとパオリーア、留守の間ありがとう。変わったことはあったか?」
「いいえ、ありませんわ。ご無事でなによりです」

 俺は、パオリーアの頭を撫でてやる。
 その後ろに隠れるように、小さいのがチラッと顔を上げる。

「アーヴィア、どうした? なぜ隠れている?」
「あっ、あの……私には何も聞かれないのですね……」
「アーヴィアも変わったことはなかったか?」
「……ふんっ、ついで聞いたみたいに言わないでほしいです」

 相変わらず素直じゃないアーヴィアを抱き上げる。
 うわあっ、と声を上げて驚くアーヴィアに、みんなが笑った。
 久しぶりに戻った屋敷は、きれいに庭も整備されていた。マリレーネが不在の間、誰かが指示をして整備させたのだろう。

「それからみんなに、ひとつお知らせだ」

 俺はそう言うと、マリレーネは荷車の中からカップル奴隷を連れて来た。

理由わけあって、連れて来た。新しい奴隷だ。お前たちと同じように扱う。ライラ、悪いが教育を頼む」
「かしこまりました、旦那様」

 その日の夜は、食堂でライラと二人だけでなく、パオリーアとマリレーネ、アーヴィアの五人で食べた。

「あの、いいのですか? 私たち奴隷と一緒に食事なんてして」
「いいんだ、パオリーア。人数が多い方が楽しいだろう? それに、旅の間はマリは俺と一緒に食べていたから、何とも思わずに食ってるだろ?」

 俺は、マリレーネのほうに顎をしゃくる。パオリーアたちが見ると、マリレーネは鶏の足の肉を頬張っているところだった。

「ふぁっ? な、なんですかっ?」
「いいや。お前は、ブレないなって思ってな」

 キョトンとしてるマリレーネに、みんなが笑顔になった。

「ところで、旦那様。あの男女の奴隷はどうされるおつもりですか? 私たち四人の奴隷がいるのに、使用人を増やされるおつもりでしょうか?」

 ライラよ、さらっと言ったが、お前は奴隷じゃないだろ! なに、自分まで奴隷になろうとしてるんだよ。

「成り行きで買ったんだがな。しばらくこの屋敷で住まわせようと思っている。買った金は働きながら返してもらって、返し終わったら自由にさせてやるつもりだ。騙されて奴隷にされたようだからな」
「そうなんですか。ですが、男奴隷はこの屋敷に自由にされると何か間違いがあってはいけません。何か制限が必要では?」

 俺は、考えておくとライラに伝えると、夕食を終わらせた。
 食事中は、旅の話をマリレーネが面白おかしく語って、楽しく過ごした。


 カップル奴隷には、以前奴隷たちが住んでいた、奴隷小屋を掃除して住んでもらうことにした。

「ルイとミア。お前たちは、これからはここに住め。お前ら二人の家だ。二階部分は全てお前たちが使っていい。今は誰も使っていない建物だから、自由にしろ」
「あの……本当にいいのですか? いえ、あの……ありがとうございます」
「別に、お前たちのためではない。お前たちは、これから俺のために働くんだ、それぐらいの待遇は必要だろう」

 福利厚生というほどではないが、俺はこの二人に、街へ働きに出そう思っていた。
 この屋敷から毎日、街に通って仕事をして帰る。給料は当然取り上げるが、白金貨一枚分を稼いだ後は、自由にさせようと思っている。そのためには、家も与えた方が頑張れるだろう。

「お前たちの食事や服など必要なものは買い与える。この家も自由に使えばいい。その代わり、街に働きに出てもらう。賃金は半分は俺がもらう。もう半分はお前たちの借金に当てる。お前たちを買った金額以上になったら、あとはお前たちの自由だ。それまでは、奴隷として働いてもらうからな」

「「ありがとうございます」」
「それから、あれだ……あの、エッチするのなら、子供を作らないように気をつけろ。奴隷の子供に生まれたら可哀想だからな。お前たちが自由の身になってから産むんだ、いいな」

 二人は涙を流して、何度も土下座した。
 白金貨一枚分を稼ごうと思ったら、おそらく二、三年はかかるはずだ。
 街で一ヶ月働いて金貨一枚ってところだ。長く働いてもらうほど、俺は潤う。
 まあ、これは俺の計画の実験でもある。吉と出るか、凶と出るか……楽しみだ。


 ◆


 パオリーアは、自分の部屋にマリレーネとアーヴィアを誘って女子会をしていた。

「ねぇ、旅の間どうだったの? 何かいいことあったんじゃない?」

 パオリーアが、マリレーネを肘でツンツンとつく。

「うん、いいことはいっぱいあったよ。だって、ずっと一緒に馬車の中だったからさ」
「なになに? 夜のご奉仕はいつもの感じ?」
「えっ? そ、そんなこと姉さんに言うの恥ずかしいよ」

 アーヴィアが、「本当は聞いてほしいくせに」とボソッと呟く。

「あのさ。ウチもアーヴィアみたいにお尻でやりたいって言ったんだ」
「えっ! お尻に入れてもらったの?」
「い、ち、違うよ。まだ入れてもらってない。なんかウチのお尻の筋肉がすごく固いみたいで、穴がきつくて入らないって。でも、毎日少しずつ指で慣らして行って、昨日の夜は三本も入ったんだ」

 真っ赤な顔をして、指を三本立てるマリレーネ。
 それを羨ましそうに見るパオリーア。そして、鼻で笑うアーヴィア。

「あっ、笑ったな! アーヴィアは何本の指が入るんだよ!」
「うーん……し、知らないっ! やったことない……」
「それは嘘だよ。ウチみたことあるもん」
「ううっ……あんなの痛くて嫌なの。マリちゃんはいいよね、大切にしてもらって」

 マリレーネは、そ、そうかなと言うと、なんてまんざらでもなさそうな顔をしていた。

「ちょっと、アーヴィアのお尻見せてくれよ。ど、どんな具合なのか触ってもいいだろ?」
「ダメだよ。お風呂に入ってないのに……」
「そっか、じゃぁ、一緒に風呂に入ろうぜ!」

 その時、ドアがノックされたかと思うと、返事をする前にライラが入って来た。

「外まで聞こえていましたよ。お尻の穴の見せ合いっこはダメですよ。女の子がはしたないですよ。それはそうとして、みんなでお風呂に入りましょうか」
「えっ、またライラ先生も一緒かよ!」
「またとは何よっ! マリレーネさん、私とお風呂に入るのが嫌なの? 奴隷は一緒に入るもんですよ」
「あ、あんたは奴隷じゃないだろっ!」

 マリレーネはライラにつっかかるが、顔は笑顔だ。
 久しぶりにライラと会って、ひさしぶりにこのアットホームな感じが心地よかった。

「ところで、先生。そのほっぺの跡は何かしら? ドアの模様のようですが……」
「えっ、そ、そんな跡が付いてるの。しまったわ、ドアに耳を押し付けすぎたかしら……」

 みんなの視線を感じて、ライラはしまったって顔をした。

「何が外まで聞こえてました、だよ! 興味津々でドアに張り付いて聞いてたんじゃないかっ!」
「もぉー、そんなことはありませんっ!」

 この夜、ライラはさんざんマリレーネにいじられたのだった。
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