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<第二巻:温厚無慈悲な奴隷商人>
第二話:奴隷商人は鬼教師を招き入れる
しおりを挟む思わずマジマジと見てしまったが、威圧感がすごい。
やめてくれよ、その蔑みと哀れみの目で俺を見るのは。
これ、絶対に怖い人だわ。
「はじめまして旦那様。本日からお世話になります、ライラ・アル・ハリリと申します。よろしくお願いします」
「あっ、はい。こちらこそよろしく頼む。」
俺は、威圧感に圧倒されながらも、雇い主としての威厳を見せようとしたが、うまく言葉が出なかった。
高校生の頃、クラスにこんなヤツいたっけ。一軍で、おっかない女の子。
可愛いのに妙に貫禄のあるというか、迫力がある女子。まさに、そんな感じ、怖えぇ~!
ライラは、燃えるような赤い髪をピシッと一つ括りにしている。だがそれよりも俺は彼女の衣装に目を奪われた。
「あの……そのボンテージ衣装は……」
「ボンテージとは? あっ、この服のことですか。これは私の仕事着です」
女王様だ。ぜったい、女王様だ。
俺は、開いていた足を閉じて座り直す。態度がデカくてごめんなさい。
「あの、そろそろこちらの奴隷を下げてもらってよろしいでしょうか?」
ライラさんは、入口脇に立っている三人を振り返ると、顎をしゃくって出ていけとジェスチャーした。
アーヴィアがお辞儀をして出て行こうとするのを、パオリーアが引き止める。
その横で、マリレーネがキッと睨みつけていた。
「その娘たちは、俺の専属奴隷だ。俺の身の回りのことをするために、いつもそばにいてもらっている」
「そうですか。わかりました。出すぎたことを申しました」
丁寧に頭を下げるライラさん。とても美人さんです。メイクもバッチリで目ヂカラが半端ない。
両足を閉じて座っているが、超ハイレグの革パンツに目がいく。脚の付け根を凝視してみたが、アソコの毛ははみ出ていないようだ。
少しがっかりしたが、改めてお互いに自己紹介をした。
「ライラ先生と呼んでいいか? それとも他に呼び名があれば教えてくれないか」
「旦那様は雇い主ですから、呼び捨てでもかまいません。ただし、私を不機嫌にするようなことは謹んでいただければと!」
「わ、わかった。ライラ先生」
怖ぇ~な! 不機嫌にしたらどうなるわけ? ビンタが飛んでくるの?
「マリレーネ! ライラ先生の荷物を、部屋に運び込んでおけ。きれいに掃除しておけよ」
かしこまりましたと膝を折って挨拶したマリレーネは、大きなカバン二つを軽々と担ぐと部屋を出た。
「ライラ先生の部屋は、私の部屋の隣だ。以前は客間だったが今は使っていないので自由に使っていい」
「はい。ありがとうございます。ところで、この娘たちは旦那様と同じ部屋で?」
「まさか。彼女たちはそれぞれ個室を与えている」
なぜかライラさんがニヤッと笑った気がした。何か悪いことを考えてません?
「あの三人も、他の奴隷たちと同じように躾ればよろしいでしょうか?」
「ああ頼む。あの三人を外に出しても恥ずかしくないレディにしてくれ。他の奴隷たちも同様に、貴族に買われても恥ずかしくないようマナーと躾を頼む」
「はい、旦那様。ご期待に添えるように!」
革のブラの破壊力に、ついチラ見してしまう。大きさは、それほどでもないが谷間はしっかりと強調されていて、目が離せない。
「先ほどから私の胸を凝視されていますが、女性に対して失礼ではないでしょうか?」
俺の背中をヒューと冷たい風が吹き付けた。いやいやいや、見てない、見てないっす!
俺は、顔をブンブンと振って否定した。断じて見ていない。谷間をチラッと見ただけだ。
「ああ、そんなつもりはなかったんだ。ライラ先生の今までの経歴を下着屋の女将に聞いていたが、こんな美しい女性とは想像もしていなかった」
「あん? 美しいだとぉ?」
ああああっ! ごめんなさいっ! 女性の容姿を言うのはセクハラだって新聞で読んだ気がする。
異世界に来て、忘れていました。
「なんだ? 美しい者を、美しいと言って何が悪い。お前こそ、立場がわかっていないようだな」
ライラは、足をきつく組むと、腕組みをした。
こ、これは拒否したときに取るポーズだ。マズイ、怒らせてしまった?
「申し訳ございません、おっしゃる通りです。立場をわきまえます」
腕組みして、立場をわきまえますって、どういうこと? 大丈夫かマナーの先生!
「ああ、まぁ、堅苦しく考えずに一緒に奴隷たちを磨いてやろうではないか!」
俺は、あっはっはと高笑いしたが、クスとも笑わないライラ先生を見て、尻すぼみになった。
そんな俺に、ライラさんは尋ねた。
「奴隷たちの、一日のスケジュールを教えてください」
俺は、パオリーアを見ると、ライラの前に進みでた。頑張れ、リーアちゃん!
「奴隷たちは、日の出と共に起床し、庭掃除をします。その後、朝飯を作る係と洗濯する係に分かれます。それから全員で朝食。その後は、屋敷の掃除と水汲みです。昼になると、フィットネスの時間となっています。その後は自由にしてよい決まりです」
ライラさんがふと、顔を上げる。
「そ、その、フィットネスとは、セックスのことか? 私も参加するのか!?」
「いえ、肉体を美しく保つための運動です。走ったり、筋肉を付ける運動をします」
どこかガッカリしている様子だが、気のせいか?
「なるほど、そういうことね。あなたたちは奴隷にしては体のラインが美しいと思ったわ。この屋敷に来た時に庭にいた奴隷たちも、健康的に見えたから不思議に思っていたの」
パオリーアが胸を張った。大きなおっぱいが、グイッと上を向いた。
きっと、体のラインが美しいって褒められたのが嬉しかったんだね。
「躾は、仕事をしている奴隷たちを見ながら随時してくれ。マナーについては、夕食後に一刻半の時間をやる。そこで叩き込んでくれ」
「かしこまりました。ビシビシとさせていただきます」
うわー、おっかねえ。目が怖い。完全に、いじめっ子の目だ。大丈夫かな?
「これだけは言っておく。奴隷たちを殴ったり蹴ったりしてはいけない。また、鞭で打つことも禁止だ。顔と頭は絶対にダメだぞ」
「心得ています。奴隷たちに傷をつけると商品にならないですからね」
わかってくれたか。俺は安堵した。女王様は頭の回転も早いようだ。
「パオリーアとアーヴィア。今後は、ライラ先生の食事も準備しておいてくれ。俺と食堂で食べる」
「はい、かしこまりました。本日の食材を確認して来ます」
パオリーアと、アーヴィアが礼を取り、部屋から出て行った。
ライラと二人きりになった。この威圧的な空気……耐えられませんって。
それでも、力を振り絞り、話しかけた。
「ライラ先生、大切な奴隷たちだ。よろしく頼む」
俺は、立ち上がって手を出すと、ライラ先生も立ち上がった。
何故か、さっきまでの威圧感が消えている。
あれ? ライラさん、顔が赤くなってますけど……。息も荒いですが。
目までうるうるしてるし……
「ライラ先生……? よろしくお願いします」
俺は、先生に握手するつもりで手を出すと、ライラは両手で手を取り、鼻息も荒く言った。
「あはんっ、そんなまだ明るいうちから、いきなり私が欲しいのか……はぁはぁ」
身悶えするように、腰をくねらせて俺が差し出した手の上におっぱいを乗せた。
「ちょ、ちょっと! ライラさん、何してるんですかっ!」
慌てて、手を引っ込めようとするが、ガシッと掴まれた手首の力は強かった。
はぁ、ぼよんぼよんと弾力性がすばらしいぃですな……ちょっくら味見でも……って、そう言うわけにもいかん。
「ライラ先生っ!」
「いやんっ、ライラって呼び捨てにしてくださいませ、旦那さまぁ~」
「あっ、はいっ。ライラ」
「そんなのじゃ、ダメです。もっと、キツく叱るようにぃ」
「あ、はいっ。では……ライラっ!」
「はあんっ、旦那さまぁ、もっと罵って下さっていいのにぃー」
なんだ、この展開は? なぜ、先生は急に興奮してるんだよ!
何か変な物でも食べたのか?
「あんっ、私……旦那様にとても会いたくて会いたくてぇ」
「震えました?」
「はいっ、身震いしちゃいました。さっき、私のおっぱいを、視姦されたときなんて……悶え死ぬかと思いましたわ」
視姦? たしかに、谷間に目が奪われましたが……。
ていうか、俺に失礼です! ってさっき怒ってましたよね?
「あの、俺に会いかったって言いますが、さっき会ったばかりですけど……」
「旦那様のお噂を街で聞いてから、会いたかったのですぅ」
噂って、どんな噂だろう? 行商人のおっさんが、言いふらしたのかな?
「冷酷で無慈悲な奴隷商人のニート様の噂を聞いた時、思わず潮を吹くほど興奮しましたわ! そ、それに先ほど立場をわきまえろとお叱りくださった時、お股と乳首がキュンキュンしましたの!」
だから、足と腕を組んだのかいっ!
それに、さらっとスゴイこと言ったよね?
「いや、あれは俺じゃな……いや、それは昔のことだ」
「私も鞭で打たれたい……打たれたりするのでしょうか?」
今、打たれたいって言ったよね? この人見た目は女王様だけどマゾだわ。
壁に飾られた鞭を見て、目がとろけているし……。
「安心しろ。俺が先生を鞭で打ったりするわけがない」
「ああん、いやいやっ、いけない私を鞭打ってくださいませぇ」
ダメだこりゃ。無視しとこ、華麗にスルーしよ。
――――コンコンコン
「入れ!」
返事をすると、マリレーネが入って来た。
「旦那様。ライラ先生のお部屋が整いました」
「あい、わかった。さぁ、先生。とりあえず、今日はゆっくりと部屋でおくつろぎください」
俺が、ライラを見ると、いつのまにかソファにふんぞり返って座っていた。
さっき、胸を突き出して視姦してくださいませって迫ってきたのが嘘のようだ。
威圧的な雰囲気と高飛車な態度を纏った、恐ろしい女王様に戻っている。
「わかりました。旦那様に感謝いたします」
キリッとした表情で、カッコよく頭を下げたライラ先生は、出て行きがけにマリレーネたちに向かって言う。
「あなたたちも、とりあえず部屋について来てちょうだい。話があるの」
アーヴィアがチラッと俺に視線をよこす。
俺は頷いて、一緒に行けと合図した。
「では、旦那様。私は、部屋で荷物を整理しましたら、奴隷たちの仕事ぶりを拝見させていただきます」
「もっと、ゆっくりでいいんだぞ」
「いえ、私は仕事をしに来たのです。請け負った以上は、ご期待以上に働かせていただきます」
はいはい。どうぞ、お好きになさってください。
ライラが部屋から出て行くと、どっと疲れが出て来た。
俺は、とんでもない女を屋敷に迎えてしまったのかもしれない……。頭痛がしてきたわ。
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