10 / 97
<第一巻:冷酷無慈悲の奴隷商人>
第六話:奴隷商人の息子は親父に意見する
しおりを挟む奴隷たちに水浴びをさせるように指示した俺は、親父の部屋に来た。
途中、下男のデルトとバッタリ出くわしたので、奴隷の部屋を閉鎖するように伝えておいた。
あんな汚いところに住まわせたら、せっかく風呂に入れても意味がない。
まずは、親父に奴隷の住まいを変えてもらう交渉をしよう。
「父さん、ちょっと教えて欲しいことがあるんですが……」
俺が部屋に入ってそう声をかけると、椅子から転げ落ちそうになりながら親父は立ち上がった。
あの……座っててくれていいんですけど。
「突然すみません。あの、奴隷について教えて欲しいことがあって」
「な、なんだい、そんな改まって。というか、ドアを叩いたりして驚くじゃないか!」
そっか、ノックする習慣はこちらの世界にはなかったんだっけ。
「どうした、ニート。奴隷が何かやらかしたのかな?」
「いいえ、そうではなくて……」
親父の部屋は、さすが社長室という感じで高級そうな調度品が置かれ、床には豪華そうな敷物が敷かれている。
「もしかして仕事中でしたか……お邪魔ですか?」
目の前の男性が、自分の親父という気がしない。しかし、今後は父親として接していくことになるので、つい腰が低くなる。かえって、それが親父に不気味に思われることなど思いもしなかったが……
親父は慌てて立ち上がると俺の元に駆け寄り、ソファに座るように手招きしてくれた。
「こっちに座りなさい。仕事ではないから大丈夫だ。それにしても私に用事があるって珍しいな。困ったことがあるのなら遠慮せず言うんだぞ」
「はい、ありがとうございます」
俺が丁寧に頭を下げると、親父はギョッとした顔をしたあと、引きつり笑いをした。
「あ、ありがとうって……お前からそんな言葉が出るとは。どうも今朝から様子がおかしいが、いったいどうしたんだ?」
親父は、後退して広くなった額に玉のような汗を浮き上がらせて言った。
手ぬぐいを出し、額の汗を拭き取る。
その一連の動作を見て、やっぱり親父っていうのはどの世界も同じなんだと、少し安心した。俺の日本の父もよくハンカチで汗を拭いていたっけ。やたら汗かきで、ちょっと動くだけで汗をかいてふうふうと息を切らせていたのを思い出す。
「汗をかいたりして、熱でもあるんじゃないですか?」
俺の問いに、親父は慌てて手を振り、違うんだ、違うんだ、と二度続けて言った。なぜそんなに慌ててるの?
「聞きたいことっていうのは、奴隷の住まいのことなのですが、あんな狭いところに閉じ込めていて大丈夫なのですか?」
「どういうことだね? あそこで何か不満でも?」
俺は不満ではないが、奴隷たちが可哀想に思ったのだ。狭い所に十人単位で小部屋に押し込んでいる状況は、牢屋と同じだ。ここの従順な奴隷を見る限り、奴隷を檻に入れて置く必要性を感じないのだ。
しかも、奴隷たちは全員が女の子たちなのに不潔な場所になっている。
「奴隷は商品ですよね? それなのに、大切に扱っていないように思えるのですが……」
「……はぁ、なぜお前がそれを言うのだ? 私が五年前に奴隷は商品だから大切に扱えとお前に言った時、どうせ売り払われるのに、なぜそんな経費をかけてまで養う必要があるのかと、えらい剣幕だったじゃないか」
ふっ、やっぱりな……奴隷の劣悪な環境って前の俺のせいなんだ。
「そんな昔のことは忘れました。俺は、今のことを話しているんです」
「そうか、やっとわかってくれたか……そうだ、その通りだよ。奴隷は商品だ。だから、大切にしてやることで高値で売れるんだ。お前だって知っているだろう。エルフが高値で売れるのは、美しいからだ」
そっか、エルフって高く売れるんだ。ああ、陵辱ゲームでエルフを次々に奴隷にしハーレムを築いた日々が懐かしい。
しかし、ゲームの世界と現実は違う。目の前の奴隷落ちしたエルフやケモミミの女の子を見ると、つい可哀想という気持ちが出てくる。こっちの世界では甘い考えかもしれないが……。
「お願いがあるのですが、この屋敷の空いた部屋を奴隷に使わせて良いでしょうか?」
「なんと? 奴隷をここに住まわせるのか? それはなぜだ」
「それは……この屋敷には空き部屋が多すぎです。使われていないのはもったいない。人が住めばそれだけ建物も長持ちします。部屋を閉め切っていると痛むので、毎日風を通しておくことで老朽化を防げます」
俺は一気にまくし立てた。いいぞ、話しやすいぞこの親父。俺は女の子の前ではしどろもどろになって何を話せばいいのかわからなくなるが、男の前では堂々と意見することができる。
しかも、以前の俺だった奴が横柄だったから、ちょっと丁寧に話すだけで印象が良くなるみたい。
うんうんと親父は子供の成長を目を細めて見ているようだった。聞いていますかね?
「ニートよ。家のことまで考えてくれてありがとう。どういう心境の変化があったのかわからんが、母さんのことが吹っ切れたのなら、私はもういつでもお前に商売を譲ってもいい」
「いや、そんな話ではなくて……奴隷たちに部屋を与えて欲しいのです。それと、風呂を使わせる許可をお願いします」
俺は、空き部屋に奴隷たちを住まわせ、使用人も別館からこちらに移してはどうかと親父に話した。
親父は初めは渋ったが、俺が有無を言わさず矢継ぎ早に、なぜダメなのかと食い下がると、あっさりと認めてくれた。
「だが、風呂は一つしかないぞ。奴隷たちが入った風呂に私たちも入るのかい?」
「私たちが最初に入り、後で使用人が入り、最後に奴隷が入ってから掃除をするようにすればいいのです」
「なるほど、風呂を使わせるかわりに、掃除をさせるわけか……」
親父は、膝をポンと叩くと「いいだろう」とニンマリして言った。
どうやら、俺の案に納得してくれたみたいだ。
「奴隷が清潔になれば、もっと高く売れると思うので、ありがとう……ところで、奴隷ってどうやって売るのですか?」
俺は、この世界に来たばかりだから、奴隷がどのように取引されているのか知らない。奴隷商の店の暗い檻に入れられた奴隷を、客が品定めして買っていくというスタイルならアニメか何かで見たことがある。
だが、この屋敷には客が来ている気配がなかった。
「前にも教えたと思うが……ダバオの街に奴隷商人の店が二つあるだろう。あそこに奴隷を卸している」
「あっ、はいはい、あの店ね。ダバオに二つありましたね……」
一ミリもそんなことは知らないが、俺は適当に話を合わせておいた。中身が入れ替わっていることは、まだ知らさないほうがいいだろう。我が子が別人になったと知ったら、この温厚そうな親父も奴隷商というアウトローな仕事をしているのだ。どうなるかわからんし。
奴隷たちは、街にある奴隷の店に置いて、そこに客が来て奴隷を品定めして買うということか。
「奴隷の値段は、その店が決めているんですか?」
「値段は、店で決めて売る場合と、エルフなど人気の奴隷になると競りで決めている。もちろん、競りも、最低金額は決めてあるがな」
オークション方式か。ということは、俺たちがいた世界でいう人身売買みたいな感じかな。もちろん、実際にそんな場面があるのか知らない。テレビで女の子をずらっと並べてオークション方式で売られている映像を見たことがあるけど、そんな感じかな。
「売れ筋の奴隷は、やはりエルフですか?」
俺は、次々に質問をし始めると親父は当初は怪訝な顔をしていたが、徐々に身を乗り出して俺に親切に教えてくれた。どうやら、後継ぎをする気になったと勘違いしたようだ。
まぁ、奴隷商人になるのは願ったり叶ったりなんだけど、俺って働いたことないからなぁ。
とりあえず、売れ筋はエルフで間違いないらしい。しかも、夜の奉仕もできる召使いということだ。
憑依前のニートが奴隷を女だけに絞ったことで、女奴隷を買うならダバオに行けと言われるくらいには有名になっているらしい。俺は知らんけど、まぁ鬼畜な息子にも先見の明があったのだろう。
「我が息子よ。もし商売について知りたいことがあったら、いつでも聞いておくれ。今までそんなこと一度もなかったから面食らったが、やっと後継の自覚ができてきたようだな。父親として、そして経営者としてお前を立派に育てたいのだ。だから、わからないことがあったらいつでも聞いておくれ」
「わ、わかったよ。わかったわかった」
俺は、そういうのウザいので、適当に手を振って親父の部屋を出た。
ちょうど、廊下に出て自分の部屋に戻っている時、アルノルトがやってきた。
「ちょうどよかった。アルノルトにやってほしいことがある」
「はっ、なんでしょうか?」
片膝をつき、手を胸に当てて礼を取るアルノルトを立たせると、俺は二つの指示を出した。
「奴隷を全員中庭に集めろ。その時、汚い服を着て来るんじゃないぞ!それと、全員で館の掃除をさせるから掃除用具を準備しておいてくれ」
アルノルトは、小さく頷くと足早に奴隷の館の方に向かって行った。
せっかく綺麗に体を洗ったんだから、汚れた服をまた着たら意味ないもんな。
0
お気に入りに追加
898
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
劣等生のハイランカー
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す!
無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。
カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。
唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。
学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。
クラスメイトは全員ライバル!
卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである!
そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。
それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。
難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。
かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。
「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」
学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。
「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」
時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。
制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。
そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。
(各20話編成)
1章:ダンジョン学園【完結】
2章:ダンジョンチルドレン【完結】
3章:大罪の権能【完結】
4章:暴食の力【完結】
5章:暗躍する嫉妬【完結】
6章:奇妙な共闘【完結】
7章:最弱種族の下剋上【完結】
転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです
狼蝶
恋愛
転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?
学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる